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◇クラシック音楽◇<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>~ヴァイオリンのルノー・カプソン とピアノのマルタ・アルゲリッチによる演奏会~

2021-05-25 09:39:01 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー



<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>



~ヴァイオリンのルノー・カプソン とピアノのマルタ・アルゲリッチによる演奏会~



ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ 第8番 ト長調 作品30第3
プロコフィエフ:ヴァイオリンソナタ 第2番 ニ長調 作品94bis
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調
ベートーベン:ヴァイオリンソナタ 第9番「クロイツェル」から第3楽章(アンコール)

ヴァイオリン:ルノー・カプソン

ピアノ:マルタ・アルゲリッチ

会場:2020年7月13日、スペイン、グラナダ、カルロス5世宮殿

録音:スペイン放送協会

放送:2021年5月11日 午後7:30 ~ 午後9:10

 今夜のNHK‐FM「ベストオブクラシック」は、2020年7月13日、スペイン、グラナダのカルロス5世宮殿で行われた、ヴァイオリンのルノー・カプソンとピアノのマルタ・アルゲリッチによるベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番、プロコフィエフ:ヴァオリンソナタ第2番、フランク:ヴァイオリンソナタの演奏会の放送である。

 ヴァイオリンのルノー・カピュソン(1976年生れ)は、フランス、シャンベリ出身。14歳でパリ国立高等音楽院に入学し、室内楽とヴァイオリンのプルミエ・プリを獲得。その後ベルリンでトマス・ブランディスに、続いてアイザック・スターン、シュロモ・ミンツに師事。1998年から2000年までは、クラウディオ・アバードの指名によってマーラー・ユーゲント・オーケストラのコンサートマスターを務めた。モダン楽器のヴァイオリニストではあるが、バロック奏法の影響を受け、さらにフランコ・ベルギー派の伝統も受け継いでいると言われる。指揮者のダニエル・ハーディングとは2人で長年温めていたプロジェクトであるミヨーによる超現実主義バレエ「屋根の上の牛」や、シューマンとメンデルスゾーンの協奏曲の録音がある。自身が創設したイースター音楽祭の音楽監督、およびグシュタード冬音楽祭の音楽監督を務める。弟はチェリストのゴーティエ・カピュソン。

 ピアノのマルタ・アルゲリッチ(1941年生まれ)は、アルゼンチン出身。1955年家族とともにオーストリアに移住し、ウィーン、ザルツブルク、ジュネーヴ、イタリアなどでピアノを学ぶ。1957年「ブゾーニ国際ピアノコンクール」優勝。また、「ジュネーブ国際音楽コンクール」の女性ピアニストの部門においても優勝。1965年「ショパン国際ピアノコンクール」で優勝。その後、徐々に活動の中心をソロ演奏から室内楽に移していく。1990年代に入ると、今度は自身の名を冠した音楽祭やコンクールを開催し、若手の育成に力を入れる。日本においての「別府アルゲリッチ音楽祭」の取り組みなどが高く評価され、第17回「高松宮殿下記念世界文化賞」(音楽部門)、「旭日小綬章」を受賞(章)するなど、日本とのかかわりは深い。2007年別府アルゲリッチ音楽祭の主催団体であるアルゲリッチ芸術振興財団の総裁に自ら就任し、1998年以降は別府アルゲリッチ音楽祭のため毎年来日している。

 今夜の最初の曲は、ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番。ベートーヴェンはヴァイオリンソナタを全部で10曲を作曲している。中でも有名な曲は1803年につくられた第9番「クロイツェル」であるが、この曲までが交響曲第3番が書かれる前につくられた作品。つまり、ベートーヴェンはヴァイオリンソナタのほとんどが初期の作品ということになる。作品30の3つのヴァイオリンソナタは、ロシア皇帝アレクサンドル1世に献呈されたため”アレキサンダー・ソナタ”という名前が付けられている。第8番は作品30の3番目の曲で、明るく簡潔な曲想を持ち、室内楽の華やかさが特徴。この曲でのルノー・カプソン&マルタ・アルゲリッチの演奏は、誠に自由闊達で生き生きとしたものであった。二人の強い信頼感が、安定した演奏内容を生み出し、十二分にその演奏を楽しむことが出来た。特に、新人演奏家にも負けないような情熱溢れるその演奏内容に、感心させられることしきり。

 次の曲は、プロコフィエフ:ヴァイオリンソナタ第2番。この曲は、1942年から1943年にかけて作曲されたフルートソナタ ニ長調 作品94を、プロコフィエフ自らが1944年に改作した作品。フルートソナタは、1943年12月7日にハリコフスキーのフルート、リヒテルのピアノでモスクワにおいて初演された。このフルートソナタの初演を聴いたヴァイオリン奏者ダヴィッド・オイストラフは、プロコフィエフにヴァイオリンソナタへの改作を熱心に勧めた。その結果、1944年にオイストラフの助言を受けながら、戦時下のモスクワで改作を行った。その際、ピアノのパートは原曲のままとし、元のフルートのパートには音形や音域の変更を加えてヴァイオリンのパートとした。この曲でのルノー・カプソン&マルタ・アルゲリッチの演奏は、その技巧の冴えを存分に堪能させてくれたことと同時に、ヴァイオリンとピアノが縺れあいながら進行する微妙なニュアンスをたっぷりと堪能させてくれた。この曲は、原曲がフルートソナタなので、通常のヴァイオリンソナタの雰囲気とどことなく異なる作品なのだが、二人の名人技はそんなこと抜きに、この曲の根源的な魅力を存分にリスナーに届けてくれた。

 今夜の最後の曲は、フランク:ヴァイオリンソナタ。この曲は、1886年に作曲された作品で、フランス系のヴァイオリンソナタの最高傑作といわれる。初演は、1886年12月16日に、この作品の献呈者であるウジェーヌ・イザイによって、ブリュッセルで行われた。4つの楽章からなり、いくつかの動機を基にして全曲を統一する循環形式で作曲されている。このソナタはピアノとヴァイオリンの音楽的内容が対等に書かれており、ピアノはヴァイオリンの伴奏ではなく、ヴァイオリンも単なる独奏楽器ではなく、ピアノとヴァイオリンの二重奏曲と呼ぶべき曲となっている。同郷の後輩の当たるヴァイオリニスト、ウジェーヌ・イザイに結婚祝いとして作曲され献呈された。この曲でのルノー・カプソン&マルタ・アルゲリッチは、2人の持てる力を発揮し、ベテラン奏者でなければ表わせないような陰影を付けた深みのある演奏内容に終始した。特に、二人だけの自己満足に陥らず、この曲の姿をリスナーの前にくっきりと提示したところを聴いて、さすが現代を代表する演奏家だけのことはあると、心から納得させられた演奏内容ではあった。(蔵 志津久)
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