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クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇スメタナ弦楽四重奏団のベートーベン弦楽四重奏曲全曲

2007-10-16 21:07:17 | 室内楽曲(弦楽四重奏曲)

ベートーベン:弦楽四重奏曲全曲

演奏:スメタナ弦楽四重奏団

CD:日本コロムビア COCO‐7267‐70

 ベートーベン(1770-1827)の弦楽四重奏曲は交響曲、ピアノソナタと並んで、重要な位置を占めている。その存在価値は今後とも不滅であり続けるに違いない。それは人類の普遍的な心情の吐露であり、そして、すべての人にまとわり付く葛藤の解答が示されているからである。人はもっと良くなりたいと常に考えているが、現実は厳しい。時には人を死に追いやるほど残酷なものだ。しかし、人はそれに耐え、前に、前に進もうとする。そんな時ふと、ベートーベンの弦楽四重奏曲に耳をやると、その過程から、変遷、焦燥、怒り、そして安らぎまで音楽となって提示されているのが理解できる。あたかも心の中のオペラのように。ベートーベンの交響曲そしてピアノソナタは共感しやすいが、この弦楽四重奏曲はとっつきにくい。ところが一度心の中に入り込めば、あたかも自分の曲のように全身で共感できるようになる。ある意味では歳をとるほど親しみの涌く音楽かもしれない。

 スメタナ弦楽四重奏団のベートーベン弦楽四重奏曲の全曲演奏は、柔軟の中にベートーベンでしかありえない意思の強固な表現が込められている。この結果、聴きやすさと同時に一つ筋の通った流れが、聴くもの万人に圧倒的な説得力を持って迫る。よく人は人生について考える。これでいいのか、間違っていたのではないか、もっとよい選択があった筈だと。考える時はゆっくりと、そして明るい希望が持てるときは、軽快に軽々とした足並みで・・・。その反対に絶望した時は、回りが見えなくなり気持ちも滅入る。また、これをバネにして前に前にと進んで行く。

 ベートーベンの弦楽四重奏をスメタナ弦楽四重奏団は、あたかも人生の春秋を万華鏡のように表現して、聴くものを決して飽きさせない。ベートーベンの弦楽四重奏曲は人生の縮図であり、同時に慰めの音楽でもある。ここに人々は引き付けられる。そして、ベートーベンが偉人なのはどんな状況に置かれようと、人は絶望で終わることはないと常に訴え続ける強靭な意志があることだ。今後人類が生存する限り、ベートーベンの弦楽四重奏曲は生き続けるに違いない。スメタナ弦楽四重奏団の演奏は、今考えられる最善の表現力で聴くものを魅了して止まない。
(蔵 志津久)


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