【歴史的名盤CD選集】
~グレン・グールドのモーツアルト:ピアノソナタ全集~
<DISK1>
モーツアルト:ピアノソナタ第1番~第6番
<DISC2>
モーツアルト:ピアノソナタ第7番~第11番
<DISK3>
モーツアルト:ピアノソナタ第12番~第14番
幻想曲ニ短調K.397
<DISK4>
モーツアルト:ピアノソナタ第15番~第17番
幻想曲ハ短調K.475
ソナタへ長調ロンド付きK.533/K.494
ピアノ:グレン・グールド
CD:CBS・ソニー OODC 269‐272(4枚組)
このCDは大分以前に購入したが、ほとんど聴くことなしに封印してきた。その理由は、モーツアルトのピアノソナタは、クラシック音楽の中でもとりわけ純粋で、正統的で、限りなく美しい音楽であるという信念みたいなものが私の中にあったからである。クラウスやヘブラーの演奏は、これらを現実の音として再現している。ところが、グールドの弾くモーツアルトのピアノソナタは、古典的美意識なぞ何処吹く風とばかり、突如テンポを速くしたり、突然のスタッカート、従来のやり方とは逆の強弱の付け方など、およそモーツアルトのピアノソナタとは思えないような演奏を繰り広げるのである。当時私にはこれは反逆児の演奏としか思えなかった。ところがである、最近になりこのCDを引っ張り出して聴いてみると、昔聴いた“異様さ”が影を潜め、逆にそれまで隠されていたモーツアルトのピアノソナタの新しい側面が表面に顔を覗かせたような衝撃を受けたのである。モーツァルトのピアノソナタはこう弾かねばならぬという固定概念に捕らわれ、モーツァルトのピアノソナタの持つ奥行きの深さに気が付かなった。グールドは、いち早くことに気づき、“わざと”異様な演奏スタイルで録音したのだと思う。私は今では、グールドの弾くモーツアルトのピアノソナタの方が現代の感覚に合うと感じるようになった。(蔵 志津久)