
ブラームス:交響曲第2番
指揮:カルロス・クライバー
管弦楽:ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
CD:EXCLUSIVE EX92T10
このCDは、カルロス・クライバーがウィーンフィルを指揮したライブ録音のCD。1992年Pと記載されている。カルロス・クライバーは1930年のベルリンで生まれ、2004年にスロベニアで74歳の生涯を閉じているので、62歳の時のライブ録音ということになろうか。演奏は細部まで緻密な計算が行き届いた名演だ。細部まで計算尽くされたというと、何か機械的に聞こえるが、実際の印象は全くその逆で、ブラームスの“田園”交響楽といわれる交響曲第2番に相応しく牧歌的で、伸びやかな雰囲気づくりにものの見事に成功している。ライブ録音なのでスタジオ録音では得られない独特な緊張感が誠にいいのだ。そして、ウィーンフィルの美しい音質が余すことなく録音されているところも、このCDの魅力であろう。
カルロス・クライバーは、ウィーンフィルを意のままに操るのではなしに、あくまでもオケの自発性を促すような指揮ぶりに徹している。しかし、細部の点では、小粋な演出をちりばめるという、プロも思わず唸らずにはいられないような心配りに、まずは脱帽してしまう。1~3楽章はこのスタイルで押し通し、最後の第4楽章では、それまでの行き方をがらりと変え、今度は独裁者のごとく圧倒的な迫力でオケを最後まで引っ張っていく。
ブラームスの第2番の交響曲の第4楽章の最後は、ベートーベンの第九の終楽章と終わり方とそっくりといわれるが、カルロス・クライバーは、正にベートーベンのごとく堂々と男性的にブラームスの交響曲第2番の最後を締めくくる。小粋さとド迫力とが一塊となり、一つの交響曲を演出するという心憎いばかりの演奏に、コンサート会場の聴衆が“ブラボー”の嵐で応えて、このCDは終わっている。
カルロス・クライバーを「ウィキペディア」で見てみると、「カラヤンは彼を正真正銘の天才と評しており(ヨアヒム・カイザーの談話)、またバーンスタインはクライバーの指揮したプッチーニの『ラ・ボエーム』を『最も美しい聴体験の一つ』だと語っている」という文章を見つけ出すことができる。このことを見てもカルロス・クライバーは、並みの指揮者でなかったことがよくわかる。カルロス・クライバーの父は、世界的な名指揮者エーリッヒ・クライバーである。エーリッヒ・クライバーの録音も残っており、聴いてみると、その小粋さは父親譲りであることを窺い知ることができる。親子2代にわたって名指揮者の例はあまり聞いたことがない。日本でいえば、さしずめ尾高尚忠・尾高忠明の親子指揮者ということになろうか。指揮者の素質は経営者と同じように元来天性的なもので、二代にわたって続くことそれ自体が難しいことなのだろう。(蔵 志津久)