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◇クラシック音楽◇NHK‐FM 「ベストオブクラシック」 レビュー

2013-11-12 10:27:46 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK-FM「ベストオブクラシック」レビュー>

 

~2人の名人 ツィンマーマンとアックスによるブラームス:ヴァイオリンソナタ全曲演奏会~

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第2番/第1番/第3番
        F.A.E.ソナタから 第3楽章

シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番から第2楽章(アンコール)

ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン

ピアノ:エマニュエル・アックス

収録:2013年5月17日、ドイツ・シュヴェチンゲン宮殿モーツァルト・ザール(シュヴェチンゲン音楽祭)

提供:南西ドイツ放送協会

放送:NHK‐FM 2013年10月16日(水)   午後7:30~9:10

 今夜の「ベストオブクラシック」は、2013年5月17日、ドイツ・シュヴェチンゲン宮殿モーツァルト・ザールで行われたシュヴェチンゲン音楽祭の模様を収録した放送。ブラームスのヴァイオリンソナタ第1番~第3番を、フランク・ペーター・ツィンマーマンのヴァイオリン、エマニュエル・アックスのピアノで演奏された。ヴァイオリンのフランク・ペーター・ツィンマーマン(1965年生まれ)は、ドイツのデュイスブル出身。5歳からヴァイオリンを始め、1975年、10歳でモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番を弾いてデビュー。エッセンのフォルクヴァング音楽院で学ぶ。1976年に全国青少年音楽家コンクールで優勝。その後、ベルリン芸術大学で学ぶ。1981年にソビエト、1984年にはアメリカデビューを果たすなど、10代から国際的な演奏活動を行う。現在、アンネ=ゾフィー・ムターとともに、ドイツを代表する中堅のヴァイオリニストとして演奏活動を行っている。ピアノのエマニュエル・アックス(1949年生まれ)は、ウクライナのリヴィウ出身。1961年にニューヨークに移住し、ジュリアード音楽院およびコロンビア大学で学ぶ。1974年、テルアヴィヴ国際アルトゥール・ルービンシュタインコンクールで優勝。1979年、ニューヨーク・エイヴリー・フィッシャー賞を獲得。

  ヴァイオリンソナタ第2番は、ヴァイオリンソナタ第1番の完成から7年を経た1886年の夏に、避暑地であるスイスのトゥーン湖畔で作曲された全3楽章からなる作品。続く第3番が暗い印象の曲であるのに対し、この第2番は、明るい生き生きとした響きが特徴となっている曲。これは、この時期、ブラームスは、多くの友人に囲まれ人生を楽しんでいた結果だという。 第1楽章の出だしからアックスの明るく、輝かしいピアノ伴奏によって、リスニングルームに、明るい陽射しがパァーと差し込んだように感じられるような演奏だ。ツィンマーマンのヴァイオリン演奏も、屈託なくごく自然に弾き進んで行く。ヴァイオリンソナタというと、ヴァイオリンが主役で、ピアノは脇役という印象が強いが、ここでの二人の演奏は、全くの対等な関係を構成していて、それがリスナーにとって誠に聴き心地がいい。それにしても二人の相性は格段にいいようだ。明るい曲想の作品だが、真の価値を引き出すには、名人の腕が必要かもしれない。その点、この二人の演奏は申し分ない。

 ヴァイオリンソナタ第1番「雨の歌」は、1879年の夏、オーストリア南部のヴェルダー湖畔の避暑地ペルチャハで作曲された。これは、交響曲第2番やヴァイオリン協奏曲などの作曲の直後に当る。「雨の歌」という名称は、第3楽章冒頭の主題が、ブラームス自身による歌曲「雨の歌」などから取られているため。 この第2番のヴァイオリンソナタになると、2人の演奏は、第1番と少々異なることが聴き取れる。第2番の演奏が明るさと軽快さを強調した演奏だとすると、第1番の演奏は、自分の心の内を覗きこむような、適度な内省的な雰囲気を漂わせる。そして、第2番での対等な2人の関係が、ツィンマーマンのヴァイオリンが主役を演じ、アックスのピアノがサポート役となり、微妙に絡み合いながら演奏を進める。さらに、ツィンマーマンのヴァイオリンの音色が、この第1番になると艶やかさを帯び、如何にもブラームスの曲であることを、リスナーは実感できるのである。演奏家として2人が円熟期にあることがよく分かる演奏内容ではある。

 ヴァイオリンソナタ第3番は、ブラームス最後のヴァイオリンソナタ。この第3番は、第2番を完成させた直後の1886年から1888年にかけて作曲された作品。当時ブラームスは避暑地のトゥーン湖畔に滞在中であったが、友人で音楽学者のカール・フェルディナント・ポール(1819-1887)の死を知らされ、孤独感の中で作曲した。このためか、第3番は第2番とは異なり、晩年のブラームスの作品の多くに見られる重厚で内省的な作品となっている。 第3番の2人の演奏内容は、第1番の演奏内容を一段と深化させ、ブラームス独特の孤独感や静寂感、さらには、諦観のような雰囲気を前面に据え、力の入った演奏を聴かせる。ツィンマーマンのヴァイオリンの音色も、第1番の時の音色に一層の深みと渋さを持たせ、この曲の持つ奥深さを巧みに再現して聴き応えのある演奏内容となっている。一方、アックスのピアノ伴奏も力のある、重々しさが滲み出ていて申し分がない。今回のブラームスの3曲のヴァイオリンソナタの2人の演奏は、それぞれの曲が持つ特徴を、はっきりと弾き分けて提示したところが凄い。今後この2人の演奏家が、どこまで昇り詰めるのかが楽しみだ。
(蔵 志津久)

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