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★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇クライスラーのベートーベン/メンデルスゾーンバイオリン協奏曲

2009-02-05 15:22:15 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ベートーベン;バイオリン協奏曲
メンデルスゾーン:バイオリン協奏曲

ヴァイオリン:フリッツ・クライスラー

指揮:ジョン・バルビノーニ/レオ・ブレッヒ

管弦楽:ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団/Berlin State
      Opera Orchestra

CD:伊CEDAR&WEISS(SiRiO)  SO 5300-9

 フリッツ・クライスラー(1875年-1962年)は、ウィーンに生まれ、1943年に米国籍を取得した名バイオにスト・作曲家である。7歳で特例としてウィーン高等音楽院に入学し、10歳で首席で卒業、さらに12歳でパリ高等音楽院を首席で卒業したという神童ぶりを発揮した。しかし、ウィーンフィルの入団試験には落ちたというから分からない。アインシュタインが大学受験に失敗したのと同じことなのかとも思うが、天才は皆との協調という点では欠けているということか、あるいは楽団員がクライスラーの能力に恐れを抱き落としたのか、多分いずれかなのであろう。イザイがクライスラーの演奏聴き激賞したという。イザイはフランコ・ベルギー楽派の大御所であり、細かなニュアンスおよび美しい音色を重んじる演奏スタイルをとっていた。クライスラーの演奏は、このようなスタイルが基本になっていたからこそイザイに評価されたのであろう。ただ、クライスラーの演奏は、優美であることに加え、あくまで自己のスタイルを拘り、内に秘めた激しさも持ち合わせていたように思う。

 このCDはクライスラーが残した貴重な歴史的録音をCD化したものであるが、いわゆる歴史的名盤とは違い、豊かな音量を保っており、十分とはいえないまでも、現在でも鑑賞に堪え得るレベルを維持している。ベートーベンの協奏曲が1936年、メンデスゾーンが1927年の録音と70-80年前の録音にもかかわらず、ノイズがほとんど除去されており聴きやすいのがまことに嬉しい。ベートーベンの協奏曲は、バルビノーニの伴奏が実に威厳に満ちた正統派であるのに対し、クライスラーのバイオリンは、これには一向にお構えなく、優美で、美しい独自のベートーベン像を描いてみせる。ある意味では今まで聴いたことのないような、まろやかなベートーベンのバイオリン協奏曲が演じられている。これを聴くとクライスラーの自信といおうか、自分が肌で感じたベートーベンを弾き切るのだという並々ならぬ信念みたいなものを感じ取れる。ベートーベンのバイオリン協奏曲を論じるなら一度は聴いておかねばならない録音ではある。

 一方、メンデルスゾーンの協奏曲は、ベートーベンの協奏曲の録音より古く、少々ノイズの音がするのが欠点ではあるが、それらを除けば鑑賞にそう支障はない。演奏内容はというと、メンデルスゾーンの曲の方がベートーベンの曲よりクライスラーの持つ資質にそのまま合うといった感じで、例えようもない優美なメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲に仕上がっている。我々が日頃抱いているメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲の質感と、これも我々が抱いているクライスラーのバイオリン演奏の端正で優美で愛らしいイメージとが、正に幸福な出会いを果たといっても過言なかろう。クライスラーの作曲したバイオリンの小品は今でも聴くものの心を奪うが、このバイオリン演奏の方も、これぞメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲だと誰もが納得できる出来栄えなのだ。永久保存版的CDではある。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇デ・ヴィトーのブラームス、プリホダのドボルザーク:バイオリン協奏曲

2009-01-08 11:27:50 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ブラームス:バイオリン協奏曲
ドボルザーク:バイオリン協奏曲

ヴァイオリン:ジョコンダ・デ・ヴィトー(ブラームス)
        ヴァーサ・プリホダ(ドボルザーク)

指揮:パウル・ヴァン・ケンペン

管弦楽:Deutches Opernhauses Berlin(ブラームス)
    Berline Staatskapelle Orchestra(ドボルザーク)

CD:米クラシカル・レコード ACR 38(MADE IN CANADA)

 ブラームスのバイオリン協奏曲には数多くのCDが存在する。演奏家にとって挑戦しがいのある曲であるし、リスナーにとっても聴いた後の満足感は例えようがないほどだ。それだけに世には名盤の誉れ高いCDがたくさん存在する。この中にあってジョコンダ・デ・ヴィトーの弾くこのCDは、1941年録音で今から60年以上前の録音にもかかわらず、今でもその存在意義はいささかなりとも衰えない。張りのある音色に彩られているその裏には、強靭とも思える音楽性が隠されている。メランコリックな演奏スタイルではあるが、華やかで伸びやかな情緒もたっぷりと表現し、聴くものを魅了する。何か聴いていてジネット・ヌヴーを思い出してしまった(ヌヴーもブラームスのバイオリン協奏曲の名盤がある)。何か二人の演奏には共通性が感じられる。デ・ヴィトーはブラームスのバイオリンソナタ3曲を録音しているが、未だこれを超える演奏は出現していない(と私は確信している)。今回のデ・ヴィトーのブラームスのバイオリン協奏曲も数ある録音の中でもトップクラスに位置づけらるものだ。

 ヴァーサ・プリホダの弾くドボルザークのバイオリン協奏曲も名演だ。ドボルザークのバイオリン協奏曲はあまり演奏効果が上がらないこともあってか、演奏会でそれほど取り上げられず、CDもそんなに多いとはいえない。しかし何回も聴いているうちになかなか味のある、親しみに溢れたバイオリン協奏曲だと思うようになる。勇壮な第1楽章、叙情味溢れた第2楽章、軽快な第3楽章と流れるように曲づくりがなされており、一度好きになるとなかなか離れられなくなる。ところでバイオリニストのプリホダ(1900年‐1960年、プシホダとも表記される)はチェコの名バイオリニストとして名高いが、日本ではそれほど知られていない。演奏スタイルがパガニーニの再来といわれるほどの技巧派で、このことが古いスタイルの演奏家という烙印を押されてしまったのかも知れない。このプリホダの名を今に残すのがリヒャルト・シュトラウスの歌劇「バラの騎士」の中の円舞曲を編曲したバイリンの小品だ。今でもコンサートで時々取り上げられている。このプリホダの弾くドボルザークのバイオリン協奏曲のこのCDは、同曲中これもトップに挙げられるほどの熱演となっている。

 このCDでは2曲ともパウル・ヴァン・ケンペン(1893年-1955年)が指揮をしている。ケンペンはオランダのライデンで生まれ、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスターを務め、1932年にドイツで指揮者に転じる。1934年-1942年ドレスデン・フィルハーモニーの指揮者、1942年-1944年アーヘン歌劇場音楽監督。晩年はオランダとドイツで活躍した。このCDの主役は二人の名バイオリニストであるが、それに負けず劣らずケンペンの名指揮ぶりが価値を一層高めている。誠に堂々としたスケールの大きい指揮ぶりには感服する。最近の指揮者はこのような雄大な演奏をすることはない。最近は時代の影響化もしれないが全体のスケールの大きさより、スピード感が優先される。ケンペンのような雄大な演奏をする指揮者はもう現れないのであろうか。残念なことではある。

 ところでこのCDはブラームスが1941年、ドボルザークが1943年といずれも今から60年前の録音にもかかわらず、ノイズが完全に除去され、音質がみずみずしいのに驚かされる。音質にあまりこだわらなければ、現役版のCDといっても通りそうなのには正にびっくりものだ。何故このような高音質な録音が可能だったのか、オーディオの観点からも注目の録音といえよう。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇ミッシャ・エルマンのハチャトゥリアン:バイオリン協奏曲

2008-12-09 09:14:30 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ハチャトゥリアン:バイオリン協奏曲
サンサーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ

ヴァイオリンミッシャ・エルマン

指揮:ウラジミール・ゴルシュマン

管弦楽:Viena State Opera Orchestra

CD:VANGUARD CLASSIC OVC 8035

 このCDの発売は1959年6月で、あの“エルマン・トーン”で一世を風靡した著名なバイオリニストであるミッシャ・エルマンが弾いている。スキンヘッドの独特な容貌がこれまたなんとなく親しみが持て、スター的な要素にこと欠かないバイオリニストではあった。バイオリンの音そのものが聴くものにはっきりとアピールし、少しもあいまいなところがない。それでいて、独特の甘い香りが漂ってきそうな弓使いが、魅力をたっぷり含んでいた。

 エルマンが「どうだ、いい音だろう」とでも言っているような音づくりは、ショウマンシップたっぷりで、聴いていると精神が自然に高揚してくる。クラシック音楽なのに、何故かロックコンサートで会場が盛り上がったような感覚すら受ける。これからのクラシック音楽が発展を考えると、今後いい意味でのショウマンシップを持ったエルマンみたいな演奏家がたくさん出てきてほしいものだ。

 ところで、このハチャトゥリアンのバイオリン協奏曲を改めて聴いてみると、なかなかいい曲であることに気づく。親しみやすいメロディー、リズムが織りなす第一楽章、ロマンティックな香りが魅力的な第二楽章、そして軽快なバイオリンの音色が印象的な第三楽章。どれをとっても魅力たっぷりだ。バイオリン協奏曲というとモーツアルト、ベートーベン、ブラームス、メンデルスゾーン、チャイコフスキーばかりが繰り返し演奏されるが、このハチャトゥリアンのバイオリン協奏曲はもっと演奏会で取り上げられてもいいのではと思う。バイオリンの音そのものを楽しもうとするなら、一番に挙げてもいいバイオリン協奏曲でなかろうかとさえ思えてくる。

 このCDには、サンサーンスの序奏とロンド・カプリチオーソがカップリングされているが、これはまさに“エルマン節”全開といった趣で、甘いバイオリンの音色に全曲が覆われ、しばし、現実の生活を忘れ、音楽の夢の世界に迷い込んでしまう感覚が堪らない。それに、このCDは50年ほど昔の録音であるにもかかわらず、音質が素晴らしく良く、現役盤としても十分に通用しそうだ。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇フリッツ・クライスラーのバイオリン協奏曲集

2008-12-02 11:21:42 | 協奏曲(ヴァイオリン)

メンデルスゾーン:バイオリン協奏曲
ブラームス:バイオリン協奏曲
ベートーベン:バイオリン協奏曲
パガニーニ:バイオリン協奏曲第1番

バイオリン:フリッツ・クライスラー

指揮:サー・ランドン・ロナルド(メンデルスゾーン)
   ジョン・バルビノーニ(ブラームス/ベートーベン)
   ユージン・オーマンディ(パガニーニ)

CD:英PAVILION RECORD LTD.,

 このCDはメンデルスゾーンが1953年、ブラームス、ベートーベンが1936年、パガニーニが1938年とまことに古い録音なのであるが、メンデルスゾーンとパガニーニは奇跡的にノイズが除去され、しかも音の響きに豊かさが残されており、現在のCDコンサートで再生されてもそんなに違和感なく聴くことができる(ブラームスとベートーベンは残念ながらノイズが酷く、現役盤とはいえない)。オーディオ技術が発達し、生の演奏と見まごうばかりのCDが発売されている現在でも、SP盤の愛好家は存在する。これは何故かというと、最新のオーディオよりSP盤のほうがなまなましく聴ける場合があるからだ。

 人間の耳は不思議なもので、自分が聴きたい音だけが大きく聴こえ、聴きたくない音は小さくなる。このことは補聴器を付けてみればすぐ分かる。補聴器はすべての音を拾うので、長時間使用すると苦痛になる。これと今のオーディオは同じことで、正確にすべての音を拾って再現はしているのだが、これが必ずしも心地よいかというとそうでもない。コンサート会場でバイオリン協奏曲を聴く場合、聴衆はバイオリンの演奏に集中し、オーケストラの音は背景にして聴く。SP盤は録音技術が低かったので、バイオリンの音の再現に集中して、オーケストラの音は背景の音として処理されている。これが逆に聴いていて心地よさにつながることがある。このCDのメンデルスゾーンとパガニーニはまさにこの典型的事例といってよい。

 ここでのクライスラーのメンデルスゾーンとパガニーニの演奏は、まさに神業ともいえる名演を聴かせる。ポルタメントの香りがして、なんともチャーミングな演奏に終始している。こんな演奏をするバイオリニストはCDでも生でも聴いたことがない。普通バイオリニストは弦を叩きつけるようにして演奏を行う。多くの場合、弦との格闘といってもいいほどだ。ところが、クライスラーは一切格闘はしない。バイオリンの弦があたかも自然に鳴り出すがごとく演奏を行う。私はクライスラー作曲のバイオリンの小曲が大好きなのであるが、演奏スタイルもまさにこれと同じく、まことに愛らしく、スマートで、セクシーですらある。このような演奏スタイルのバイオリニストは今少なくなっている。ただ、一回だけ久保田巧のコンサートで、彼女がアンコールで弾いたクライスラーのバイオリンの小品を聴いて一瞬“あっ”と感じたことがある。いま思うとクライスラーの奏法とそっくりだ。クライスラーのバイオリン小品を弾かせたら久保田巧は今、世界のトップクラスにあるのではないかと思う。

 ところで現在、バイオリンの国際コンクールとして、1979年から4年ごとにフリッツ・クライスラー国際コンクールが開催されている。これまでの日本人の入賞者を挙げてみると、第1回石川静(第3位)、清水高師(第4位)、小西朝ヤンコフスカ(第5位)、第2回久保田巧(第2位)、第4回樫本大進(第1位)、第5回小野明子(第5位)、石橋幸子(第6位)、第6回米元響子(第3位)となかなか健闘していることが分かる。今後これらに続くバイオリニストが生まれてくることを切に期待したい。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇レオニード・コーガンのチャイコフスキー:バイオリン協奏曲

2008-09-12 10:50:11 | 協奏曲(ヴァイオリン)

チャイコフスキー:バイオリン協奏曲他

ヴァイオリン:レオニード・コーガン

指揮:アレクサンダー・ガウク
管弦楽:The USSR TV and Radio Large Symphony Orchestra

CD:ARL7

 レオニード・コーガン(1924-1982年)はダビッド・オイストラフと並び旧ソ連を代表する偉大なるバイオリニストで、58歳で生涯を終えた。オイストラフの名声の前に少々隠れ気味のところがあったが、実力からするとオイストラフを上回るものをコーガンは持っていた。我々の世代ではオイストラフとコーガンはバイオリンの神様的存在で、野球でいえば長島、王といったことになろうか。今は旧ソ連は崩壊したが、クラシック音楽に関していえばオイストラフ、コーガンの時代が一番レベルが高かったのではなかろうか。

 このCDはチャイコフスキーのバイオリンとオーケストラの曲を全曲収録してある。ここでのコーガンの演奏を聴くと、高音から低音まで、実に伸びやかに、滑らかに、まるでビロードの肌触りのような演奏内容となっている。全体にバランスがとれ、しかもみずみずしさを漂わせた演奏はめったに聴かれるものではない。数あるチャイコフスキーのバイオリン協奏曲のCDの中でも特質すべきCDといえるであろう。1950年の録音だからコーガンがまだ26歳の時の演奏となるが、バイオリンの録音状態は大変いいが、オーケストラの色音が多少くすんでおり聴き取りにくく、残念ながら全体を通して一押しのCDとまではいかない。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇オイストラフ親子が弾くバイオリン協奏曲集

2008-09-08 12:39:32 | 協奏曲(ヴァイオリン)

モーツアルト:バイオリン協奏曲KV219
ベートーベン:ロマンス第1番/第2番
ウイニアフスキー:バイオリン協奏曲第2番

ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ
ヴァイオリン:イーゴリ・オイストラフ

指揮:フランツ・コンヴィチュニー
管弦楽:ライプチヒ・ゲバントハウス管弦楽団

CD:独BERLIN Classics BC 2131-2

 ダヴィッド・オイストラフ(1908-1974年)は旧ソ連出身の名バイオリニストである。レコードの時代においては神様みたいな存在で、バイオリニストというと最初に名前が出てくるのがオイストラフであり、ラジオのクラシック音楽番組ではしょっちゅうオイストラフの演奏が流されていた。つまり、当時はオイストラフの演奏がどうのこうのではなく、バイオリン界のドンが弾いているいるということだけで、すべてを超越した存在といっても過言ではなかった。このCDには子息のバイオリニスト・イーゴリ・オイス
トラフが参加しており、モーツアルトのバイオリン協奏曲をダヴィッド、ベートーベンのロマンスとウイニアフスキーのバイオリン協奏曲をイーゴリがそれぞれ弾いている。

 このCDは1954年/1955年にドレスデン、1956年にライプチヒでそれぞれ録音されたと記されている。ダヴィッド・オイストラフがまだ40歳代で、演奏を聴くと実に堂々としており、やはりドンの演奏だと合点がいく。また、堂々としていると同時にバイオリンをいとも軽々と弾きこなしている様は、やはりただのバイオリニストとは格が違うなという印象を与えずにはおかない。一方、イーゴリ・オイストラフは20歳台で、初々しい演奏といおうか、父ダヴィッドに比べれば線が細いが、透明感のある演奏となっている。ベートーベンのロマンスは熱演だが、ウイニアフスキーの方は伴奏のコンヴィチュニー・ゲバントハウスに押され気味なのは、いたしかたないことなのか。

 このCDはオイストラフ親子が演奏したことが売りのCDではあるが、“伴奏”のはずのフランツ・コンヴィチュニー指揮ライプチヒ・ゲバントハウス管弦楽団が、主役は我々だとでも言いたいような演奏となっているのが実に面白い。ゲバントハウスの音は古色蒼然としていて普通のオーケストラの音色とは違う。それに加えてコンヴィチュニーの指揮は「俺の指揮はこうなんだ」とでも言っているみたいで、伴奏という感覚から遠い。いってみれば頑固親父的雰囲気を漂わす。今、日本から頑固親父がいなくなりつつあるが、コンヴィチュニーみたいな“頑固指揮者”がクラシック音楽界からいなくなるのは、さびしい気もする。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇ヌヴーのブラームス:バイオリン協奏曲ライブ録音

2008-08-27 12:11:26 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ブラームス:バイオリン協奏曲

バイオリン:ジネット・ヌヴー
指揮:ハンス・シュミット=イッセルシュミット
管弦楽:北ドイツ放送交響楽団

CD:PHILIPS 30CD-3026

 ジネット・ヌヴーは1949年10月26日、パリから演奏旅行のためアメリカに向かう旅客機が途中海へ墜落し、命を絶った。ポルトガル系フランス人として1919年8月生まれなので、わずか30年の短い生涯だったわけである。11歳でパリ音楽院に入ったが、わずか8カ月でバイオリン科の首席になったほどの天才振りを発揮したという。1939年、16歳のときヴィニアフスキー・コンクールで優勝し、世界的に知られるバイオリニストとなり、以後第2次世界大戦の時期を除き、世界各国へ演奏旅行を行い絶賛を博した。この間録音も行い、それが“伝説の天才”の残された遺産として我々は今聴くことができる。

 スタジオ録音がほとんどだが、数少ないライブ録音の一つがこのブラームスのバイオリン協奏曲である。ヌヴーはブラームスのバイオリン協奏曲のスタジオ録音を1946年8月に行っている。一方、このCDのライブ録音が行われたのは1948年5月3日、ハンブルク・ムジータハレと記されているので、不慮の死の1年前ということになる。普通この時代のライブ録音というと、音質が極端に悪いのが普通で、演奏内容を云々することは不可能な場合がほとんどだ。ところが、このCDだけは例外で、現在でも十分に鑑賞に堪える音質で録音されており、奇跡的ライブ録音CDとでもいっても過言でないほどである。個人的趣味からいえば、最新のCDの鮮明で分離の良い録音より、やわらかいベールに包まれたようなこのような古い録音のCDの方が、曲の全体像は掴みやすいといえるほどである。

 演奏内容はあらゆるブラームスのバイオリン協奏曲の録音の中でナンバーワンに挙げたいほどの名演中の名演だ。第1楽章の出だしから堂々としており、巨匠風の構成力は他の追随を許さない。第2楽章はがらりと変わって、豊かな感情が心の奥底から沸き起こってくるような優美な世界を描き出す。そして、第3楽章は第1楽章と同様に、巨大な建築物を下から見上げるような雄大な世界を弾きだしている。ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮北ドイツ放送交響楽団も熱演している。“ヌヴーのライブ録音聴かずしてブラームスのバイオリン協奏曲を論ずるなかれ”とでも言いたくなるほどだ。ライナーノートで濱田滋郎氏も「飛びっきりの一級品」と賞賛している。何故こんな奇跡的録音が残されたのであろうか。きっと神がヌヴーの無念の死を思い、この録音を残してくれたのだろうとしか考えようがない。(蔵 志津久)

 

 

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◇クラシック音楽館◇カントロフのシューマン:バイオリン協奏曲

2008-07-28 09:26:54 | 協奏曲(ヴァイオリン)

シューマン:バイオリン協奏曲他

バイオリン:ジャン=ジャック・カントロフ
エマニュエル・クルヴィヌ指揮/オランダ・フィルハーモニー管弦楽団

CD:日本コロムビア 33CO-1666

 シューマンのバイオリン協奏曲は地味存在ながら、内容のしっかりとした情緒に富んだ名曲で、私の好みの協奏曲である。CDの種類も意外に多く、昔から有名バイオリニストが競って録音してきている。しかし、数あるシューマンのバイオリン協奏曲のCDの中でも、このCDが私にとっては最高の1枚となっている。カントロフがシューマン独特の世界を存分に表現する一方、指揮のクリヴィヌが、カントロフに一歩も引ず、堂々とシューマンの重厚な世界を描ききる。つまり、二人がもつれ合うようにしてシューマンの音楽を醸し出し、陰影に富んだ独特の世界を展開して、リスナーを引き付けて離さない。

 このCDは日本コロムビアの独自企画のようで、録音も日本人スタッフが手掛けている。ライナーノートには、録音:1986年6月19日~22日、アムステルダム・ドウプスゲツィンデ教会、制作担当:川口義晴、録音&リミックス担当:岡田則男、技術:山本薫、テープ編集:北見弦一とある。この録音はなかなか優れており、聴いていて疲れないし、シューマンの世界を存分に楽しむことができる。日本人スタッフによってこのように優れたCDがあることは、うれしい限りだ。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇アルテュール・グリュミオーのモーツアルト:バイオリン協奏曲集

2008-07-15 10:58:45 | 協奏曲(ヴァイオリン)

モーツアルト:バイオリン協奏曲第3/4/5/7番

バイオリン:アルテュール・グリュミオー
ルドルフ・モラルト/ベルンハルト・パウムガルトナー指揮ウィーン交響楽団

CD:フィリップス(日本フォノグラフ) PHCP 1296~7

 このCDはモーツアルト生誕200年を記念して録音されたもので、1953~1955年にかけてウィーンで録音されたLPをCDに復刻したモノラル盤である。第7番はグリュミオー唯一の録音であり、第3、4番は1954年のフランス・ディスク大賞の受賞盤。グリュミオーは1960年代にステレオでLPのモーツアルトのバイオリン協奏曲を録音しており、これら1960年代のLP録音の方が一般的だ。

 それなら何故古い1950年代の録音盤が復刻されたかというと、グリュミオーの若々しく、モーツアルトへの思いのたけを存分に弾き込んだそのものがストーレートに聴く者に伝わってくるからだろう。数あるモーツアルトのバイオリン協奏曲の録音の中で、こんなにリスナーが面白く聴ける録音も珍しい。第3~7番が2枚のCDに収められているが、一気に聴いてしまっても長いと感じられない。そういえばこのCDが発売されたときに「レコード芸術」などが絶賛していたのを思い出す。

 ところで、なぜか6番が抜けているのが気にかかる。私の敬愛する“盤鬼”西条卓夫氏によると「モーツアルトのバイオリン協奏曲を最も多く録音しているグリュミオーですら、第6番は素通りしているのだから呆れる。聞くところによれば『モーツアルトの作品として疑わしい』とか『好かぬ』のがその理由だという。もし、ほんとうなら笑止な話だ」(「名曲この一枚」1964年文芸春秋新社刊=クラシック音楽リスナーの私にとってこの本は聖書みたいな存在)という。西条卓夫氏は第6番を、霊感豊かな内容といい、絢爛たる巨匠型の外形といい絶品級の名作と、同書の中で述べている。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇ムローヴァのチャイコフスキーとシベリウスのバイオリン協奏曲

2008-07-06 00:42:17 | 協奏曲(ヴァイオリン)

チャイコフスキー:バイオリン協奏曲
シベリウス:バイオリン協奏曲

バイオリン:ヴィクトリア・ムローヴァ
小沢征爾指揮ボストン交響楽団

CD:フィリップス(日本フォノグラフ)35CD-525

 ムローヴァの演奏は女流バイオリニストそのものの、まろやかで柔軟な演奏を聴かせる。バイオリンの音色が豊穣な響きを伴って、しかも一本筋の通った心地よい演奏である。そして、我らがマエストロ・小沢征爾指揮ボストン交響楽団も、伸びやかで豊かな響きで聴くものを圧倒する。さらに、録音は1985年10月と20年以上前に録音されたにもかかわらず、なんと瑞々しい音に捕らえられていることか。チャイコフスキーやシベリウスのバイオリン協奏曲は男性のバイオリニストが演奏すると、スケールは大きいが、何か力が入りすぎることが多い。それに対し、ムローヴァの演奏はまろやかな曲線を描くように進んでいく。

 ムローヴァは1981年シベリウスコンクールで優勝、1982年チャイコフスキーコンクールでも優勝するなど、輝かしいコンクールの経歴を持っている。このCDにおいては、チャイコフスキーとシベリウスの協奏曲を演奏しているが、チャイコフスキーの方がより説得力のある演奏を聴かせる。これはロシア出身だからというわけでなく、チャイコフスキーの持つやわらかしさが、ムローヴァのバイオリンにより相性がいいということを意味しよう。このムローヴァのバイオリンを聴いていると、同じロシア出身の女流ピアニスト、レオンスカヤを思い出してしまう。両者とも豊穣な響きが聴くものをやわらかく包み込む。
(蔵 志津久)

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