シネマ見どころ

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「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」(2020年 中国映画)

2022年06月01日 | 映画の感想・批評
 文化大革命時に、強制労働所に送られた男(チャン・イー)が脱走し、砂漠の中を歩くシーンから始まる。脱走した目的は、離婚して会えなくなった娘が一秒だけ映っているというニュース映画を観る為(その理由は後々に分かる)だ。ただ、そのフィルムを別の理由(その理由も後々に分かる)で盗み出そうとする少女(リウ・ハオツン)と出会うことで、物語が二転三転と進んでいく。
 もう少し前半部分で経緯説明があると良かった。私の理解が足りなかったのか。何故、一人で砂漠を歩いているのか。何故、二人共、生きるか死ぬかの炎天下で、フィルムに固執するのか、最初は理解出来なかった。もちろん、そのフィルムに固執する理由が、観客にも、登場人物お互いに分かり、いがみ合いつつも、理解し合える関係になっていく。特に、チャン・イーが再収監されるシーンはお互いの気持ちが通じ合うのが分かって良かった。また、映画興行する田舎村の男(ファン・ウェイ)が、脱走犯がいることを警察に密告後、その事を謝りながらも、娘が映った部分のフィルムを渡すシーンも良かった。ちゃっかり、お役人にも媚を売ることも忘れていないが・・・。愚直に生きていく強さを3人の登場人物から感じることが出来た。これは、チャン・イーモウ監督の映画に共通する部分かと思う。上映時間は短いが、中身がギュッと詰まって、暖かみが感じられる監督である。
 ラストに登場した少し大人になった少女は、「初恋のきた道」のチャン・ツィイーにとても似ていた。ネット情報だが、コン・リーやチャン・ツィイーといった後々の大女優を、若手の時に起用することで、“ボンドガール“に合わせて”イーモウガール“と呼ばれているようだ。女優の力なのか、監督の力なのか、あるいは、二人合わせての力なのか。次のスターはどんな人だろうか。次作品はどんな作品だろうか。チャン・イーモウ監督には毎回、期待をしてしまう。ただ、本作品は、前半に乗り切れず、少し肩透かし感が残った。これから観る予定の方は、事前情報を入れておいた方が良いかもしれませんね。
 ただ、この邦題で観に行こうという人は少ないのではないかと心配する。“永遠の24フレーム”はとても良いと思うが、チャン・イーモウ監督と分かるものがあれば更に良いと思う。私は、監督作と偶然気付いた。見逃していたかもしれない。コロナもあり、ネットの台頭もあるが、映画は映画館で観られるのを想定して作られることが多いと考えると、やはり、映画館で観たいものだ。ご承知の通り、映画は“商売”なので、観客があって完成する。いくら素晴らしい映画を撮っても、利益が出なければ成り立たない。また、継続出来ない。公開2日目に観たが、館内はガラガラ。「是非、行きたい」と思える宣伝活動にも力を入れる必要性は高いと思う。
 本作品では、泥まみれで絡まってしまったフィルムを村民皆で洗って乾かすシーンや、焼けた部分のフィルムを繋ぎ合わせるシーンがある。その時に、懐かしいことを思い出していた。学生時代の最後の思い出と思って、メジャー系ではない映画館の映写室の突然ドアを叩き、「学生時代の思い出に、現物のフィルムを見せてほしい」とお願いしたところ、快く迎えてくれ、実際のフィルムの繋ぎ(本作品と同じだった)を実演して頂いたのだ。勝手な話で急にも関わらず、招き入れて頂き、親切にして頂いたことに感謝して映画館を出た。そんな暖かさを感じる映画だった。
(kenya)

原題:一秒钟
監督:チャン・イーモウ
脚本:チャン・イーモウ、ヅォウ・ジンジー
撮影:チャオ・シャオティン
出演:チャン・イー、リウ・ハオツン、ファン・ウェイ