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「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2021年 イギリス映画) 

2021年10月13日 | 映画の感想・批評


 新型コロナウィルスの脅威も落ち着きを取り戻し、公開が延期されていた作品が徐々に封切られてきた。007シリーズの最新作もその一つ。3度も公開が延び、待ちに待っていたファンは嬉しくてたまらないだろうが、6代目ジェームズ・ボンドに扮するダニエル・クレイグにとっては、この作品が最後の登板となる。
 ここで007についてちょっと復習。手元の資料によると、イアン・フレミングが初めて書いた作品は「カジノ・ロワイヤル」で、1953年に発表されたというから、今から68年も前のこと。映画化されたのは1962年の「007は殺しの番号」(のちに「007/ドクター・ノオ」と改題)が最初で、なんと半世紀以上も前からジェームズ・ボンドは活躍していたことになる。そういえば自分が中学生の頃、「My name is Bond, James Bond!」というフレーズをTVなどで何度も耳にし、習いたての英語で友達と言い合った記憶がある。その時からすでに007はかっこいい男の代名詞だったような気がする。初代ボンドを演じたのはショーン・コネリーで、日本が舞台となった「007は二度死ぬ」では浜美枝がボンドガールを演じ、「日本人でもボンドガールになれるんだ!!」と驚いたことが懐かしい。その後ボンド役はジョージ・レーゼンビー、ロジャー・ムーア、ティモシー・ダルトン、ピアース・ブロスナンとバトンタッチされていくが、この中ではイアン・フレミングが最初からボンド役として望んでいたというロジャー・ムーアが8作品に登場し、垢抜けた都会的なイメージのボンドとして強く印象に残っている。
 そしていよいよ登場するのが6代目となるダニエル・クレイグ。自分的にはダニエルが一番ボンドにピッタリのような気がするのだが・・・。ダニエル・ボンドの1作目は原作1作目の「カジノ・ロワイヤル」で、2006年製作なので今から15年前、ダニエル38歳の時だった。「原点に戻って、すべてを最初から作り直す」という製作者の思いも重なり、今までとは全く違うイメージの、若くてクールなボンドが誕生した。さらに第2作「007/慰めの報酬」は前作のラストから始まるという続編のような展開に。この形は今作でも引き継がれていて、なんと5作品が一貫したストーリーで繋がれている。この間ボンドの幼少時代も紹介され、ボンドの内面を深く描くことで、より人間的な魅力あふれるキャラクター作りに成功したような気がする。15年にわたりボンドを演じてきたダニエル・クレイグ、完結編ともいえる今作にかける思いは相当なものだったに違いない。サム・メンデス監督から引き継いだ日系のキャリー・ジョージ・フクナガ監督もその点を知ってか、ダニエルの活躍シーンを2本分くらいたっぷり用意し、ダニエルも体当たりで期待に応えた。どんな活躍をしているのかは、見てのお楽しみ。ただ、謎解きを楽しむために、少なくとも前2作「スカイフォール」と「スペクター」を見てからの観賞をお勧めする。
 最後の相手となったラミ・マレックの悪役ぶりも見物だが、それ以上に脅威を感じたのが進化したミサイル攻撃。あんな風に行われるんですね。あの海が日本海の若狭湾に、そして毒液が放射能に汚染された廃液に思え、近くにある原子力発電所でも攻撃されたらどうなるんだろうと、現実に存在する恐怖をあらためて実感した瞬間だった。
 18歳のグラミー賞受賞者ビリー・アイリシュが歌う主題歌「ノー・タイム・トゥ・ダイ」がまるでレクイエムのように劇場内に響き渡る。ダニエル、お疲れ様でした。
(HIRO)

原題:NO TIME TO DIE
監督:キャリー・ジョージ・フクナガ
脚本:ニール・パーヴィス&ロバート・ウェイド、キャリー・ジョージ・フクナガ、フィービー・ウォーラー=ブリッジ
撮影:リヌス・サンドグレン
出演:ダニエル・クレイグ、ラミ・マレック、レア・セドゥ、ラシャーナ・リンチ、ベン・ウィショー、アナ・デ・アルマス、ナオミ・ハリス、ロリー・キニア、レイフ・ファインズ