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「グリーンブック」 (2018年 アメリカ映画)

2019年03月20日 | 映画の感想・批評


 本年度アカデミー賞3部門(作品、助演男優、脚本)受賞をはじめ、世界の映画賞を58も受賞したという注目の作品が、満を持しての日本公開だ。まさにグッド・タイミング!!主人公は偉人でもヒーローでもない二人のおじさんなのだが、本人の息子(ニック・バレロンガ)が父から聞いた話を元に製作を決定、コメディ映画を中心に活躍してきたピーター・ファレリー監督、旧知の俳優ブライアン・カリーらと共同脚本を手がけ、こんな粋なバディ・ムービーを作り上げた。
 時は1962年。ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナに勤めるイタリア系の用心棒トニー・リップ・バレロンガは、がさつで無学だが、腕っぷしが強く、はったりも得意で、周りからは頼りになる存在だった。店が改装のため閉まる2ヶ月間、黒人ピアニストのドクター・ドナルド・シャーリーにコンサートツアーの運転手として雇われる。ドクターが住んでいるのは何とカーネギーホールの階上にある高級マンション。黒人とはいえ巨匠ストラヴィンスキーから絶賛され、ケネディ大統領のためにホワイトハウスで演奏するほどの天才ピアニストだ。しかし今回のツアーはなぜか黒人差別が色濃く残る“ディープサウス”と呼ばれる地域だった。レコード会社が用意してくれた南部を旅する黒人にとって頼りになるガイドブック「グリーンブック」を持ち、でっかい緑色のキャデラックに乗って、二人の旅が始まる。
 トニーに扮するのはヴィゴ・モーテンセン。大ヒット作「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルンといえばこの人なのだが、あのりりしき騎士姿はどこへやら。何と役作りのために20㎏も太ったそうで、ムキムキのデンマーク系からムチムチのイタリア系への変身が見事。ドクターに扮するのは、あの名作「ムーンライト」に続き本作でもアカデミー賞助演男優賞を獲得したマハーシャラ・アリ。上流階級の中で暮らしながらもどこか孤独感が漂うアーティスト役を繊細に演じている。
 生まれ育った環境が全く違う二人がツアーの道中で交わすやりとりが何とも面白い。元々黒人に対する差別感情を持っていたトニーだが、ツアーの本当の目的を知り、様々なトラブルを乗り越えながら、本気でドクターを守ってやりたいと思いが変わっていく姿に胸を打たれる。また、人種やセクシュアリティなど、様々な面でマイノリティが抱える問題についてはどうしても大仰になってしまいがちなのだが、ピーター・ファレリー監督は得意のユーモアのセンスを活かし、笑いとともに、決して押しつけがましくなくも印象的に語っていて、見る者の共感を呼び、爽やかな感動を与えてくれる。物語が実話に基づいているという事実を実証する最後のエピソードの描き方も見事。
 (HIRO)

原題:GREEN BOOK
監督:ピーター・ファレリー
脚本:ニック・バレロンガ&ブライアン・カリー&ピーター・ファレリー
撮影:ショーン・ポーター
出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ、デェイテル・マリノフ、マイク・ハットン