シネマ見どころ

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「THE GUILTY/ギルティ」(2018年デンマーク映画)

2019年03月06日 | 映画の感想、批評
 映画のあり方を変えるような画期的な作品だ。むかし、チャップリンは映画が音を持つことに抵抗し、サイレント映画の才人フリッツ・ラングは初のトーキー作品で口笛が重要な役割を担うスリラーを撮った。そうして、映画が音声を伴うことが当たり前となると、その惰性の上に映像をおざなりにした堕落した作品が量産されることとなるのだが、格別音声というものを意識した作品がこの映画だ。
 驚くべきことに、物語はコペンハーゲンにある緊急通報センターの一室とその隣室に限定された空間で終始する。
 主人公の警官アスガーはあと少しで交替時間が来る。どうみても気乗りのしない様子で、緊急通報の受電を受けては適当に対応しているのだが、そこへ女性から追いつめられたような涙声の通報が入るのだ。女性は何者かに拉致され、車に乗せられている。隣りに男がいる様子で立ち入った話ができない。そこで、アスガーは自宅の子どもに電話している振りをするように女性に指示し時間を稼ぐ。本来緊急通報を受けた者はそれ以上介入してはいけないのだが、アスガーという警官の本性、現場向きの本能がそうさせるのである。
 通報センターのパソコンの画面には通報者の携帯電話番号と登録者の名前、住所が表示される。一旦電話を切ったアスガーは女性の自宅に電話してみると、そこには6歳の少女が赤ん坊の弟とふたりっきりで残されていて、ついさきほど怒り狂った父親が包丁を持って母親を連れ出したというのだ。ここから事件は深刻さを増す。警官を向かわせるので弟とふたりで待ちなさいと女の子をなだめ、緊急司令室に事情を話し警官の派遣を要請する。さらに、女の子から聞き出した父親の携帯電話番号をもとに、その車のナンバーを割り出し、緊急司令室に連絡して追跡を指示する。
 つまりは、電話でのやりとりによって、緊迫した車内の状況、パトカーと該当車両のカーチェイスなどを音だけで再現するわけだ。しかも、その電話のやりとりのうちに被害女性の複雑な家庭環境が徐々に明らかになるだけでなく、アスガーと上司、同僚との電話を介して、かれ自身が置かれている状況、通報センターに一時的に身を置く事情がわかってくるのである。だが、アスガーは交替時間が過ぎても結局最後までこの事件に寄り添うこととなる。
 終盤で、思い込みと先入観によってアスガー及び観客はとんでもない勘違いをしていたことに気づかされる。ドンデン返しが鮮やかに決まった秀作である。原題は「犯人」を意味するらしい。 (健)

原題:Den skyldige
監督:グスタフ・モーラー
脚本:グスタフ・モーラー、エミール・ニゴー・アルバートセン
撮影:ヤスパー・J・スパンニング
出演:ヤコブ・セーダーグレン、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン