MONOGATARI  by CAZZ

世紀末までの漫画、アニメ、音楽で育った女性向け
オリジナル小説です。 大人少女妄想童話

スパイラルワン6-2

2009-09-05 | オリジナル小説
「おまえら、ここで何してる?」
突然、後ろで太い声がした。6人は思わず、飛び上がった。渡は慌てて振り向いて、目の前に現れた日焼けした顔から目が離せなくなる。
そこには、権現山の仙人と呼ばれる男が立っていた。
パンパンと乾いた音が下から響き渡った。その音の近さに5人は再び心臓が止まりそうになる。思わず、端から飛び降りた。何人か尻餅をつく。
男はわずかに眉が少し動いただけだった。と、石が転がる音が小さく聞こえた。
ユリが落ち着き払って男の前に降り立つ。そして、恐れる様子もなく男をじっと見つめた。眉も口も堅く引き結んで。
権現山の仙人はモジャモジャの髪からするどい眼光をしばらく、ユリに注いだ。
「す、す、すいません!」親分の香奈恵がどもりながらもユリを庇うように、よろめきながらも気丈に進み出る。「あの、あの・・あ、あたし達、迷ってしまって。」
男は初めて気がついたかのように、目の前の香奈恵を見下ろした。
「迷ったって、これか?」男が差し出した手には命綱が握られていた。
それは木の枝に巻きとられて太い束になっている。
「あ!」香奈恵は絶句する。「何すんだよ!おっさん!」あっちょが思わず叫ぶ。綱は沢の入り口から巻き取られていたのだ。「それをされたら、戻れないじゃんか!。」
「しっ!」男は声を潜めた。ギョロ目がきょろきょろと辺りを動いた。
「いいから。こっちへこい!」
「どこへですかの?」虎さんが落ち着き払って尋ねる。
「命が惜しければ、付いてこい。」
男は体を返した。6人は顔を見合わせる。
ユリが歩を進めた。「ユリちゃん!」香奈恵が思わず手を出す。
ユリはその手をそっと外した。微笑んでいる。みんなと順番に視線を合わせる。
虎さんがすぐに立ち上がる。
「付いて行くのが利口なようじゃ。」「でも・・」
渡も立ち上がる。
「香奈ねえ、行こう。どっちみち僕たちだけじゃ帰り道がわからないし。」
「だって、さっきのあれ・・?」
「そうだよ、付いて行って大丈夫なのか。」
「わかりません。でも、渡の言う通りです。取りあえず、行きましょう。」
シンタニが香奈恵をそっと押した。

男に導かれて6人は沢を下った。
来た道を引き返してることがわかって香奈恵とあっちょは少し安心する。
しかしまだ、男を全面的に信用できなかった。当然、男との間に距離ができる。
するとユリが戻って遅れたみんなを導く。男はそんな時、遠くで足を止め待っているようだった。
渡は彼を怖がらないことにした。何より、ユリが怖がる素振りを見せないからだ。
ユリは男のすぐ後ろを歩いても平気のようだった。
渡はユリに遅れないように付いて行った。体力のない虎さんは一番後ろを香奈恵に手を引かれて歩いてくる。でも歩き出す事前に「ユリを守るのじゃ。」と渡に囁いていた。言われるまでもない。
渡は男を細かく観察する。今は後ろ姿しか、よくわからない。男はそんなに背は高くなかったが、がっちりした体をしている。着ているものはもとは白かったのだろうが、今は薄汚れた作務衣だった。裾はボロボロに破れて泥で汚れている。腰にグルグル巻きにした荒縄から色々な・・例えば薬草?のような草とか皮の袋といった意味不明の物が下がっている。髪は腰の近くまであり、途中で紐で縛っている。
確かに、まさに仙人に間違いなかった。
先ほど、正面から初めて仙人の顔を見た訳だが渡には正直、彼が狂った男には見えなかった。子供しか脅せない弱い男にも見えない。
顔は日に焼けて黒かった。切れ長の目だけが白く光っている。若いのか年を取ってるのかは渡には判断がつかなかった。顔には無数に細かい皺が寄っていたが、髪ほとんど白髪が交じっていなかったからだ。
やがて、昼過ぎに入って来た沢の入り口にたどり着いた。
男はそのまま、歩み去ろうとするかのように足を速めた。ユリが振り返り、渡を見た。
その目を見た渡は勇気を振り絞った。
「ありがとうございました!助かりました!」渡は仙人の後ろ姿に向かって大声で叫んだ。男がくるりと振り返った。
「おまえ・・・竹本の子か。」男はユリを見ていた。渡は警戒し、逡巡した。しかし、ユリがうなづくと男は「そうか。2度とここには来るなよ。」そう言って又歩き出した。
「なんだって?」追いついたあっちょが尋ねる。
「悪い人じゃなかったみたいですね。」
「新谷君、そんなことないわよ。」香奈恵が虎さんと一緒に追いついてきた。
「もとはと言えば、あいつが私達の命綱をダメにしたんだもん。」
「でも、あの人・・」渡は言葉を捜す。
「わしらをあの場所から遠ざけようとしていたみたいだと言いたいのじゃろ。」虎さんが痛んだ足をさすりながら続けた。
「そう、その通り。そんな気がした。」「あれ、絶対、銃声でしたよね。」
シンタニの声が最大限に小さくなった。「それにあの声・・」
「やめて。」香奈恵が身震いした。「思い出すだけでぞっとする。」
「あれ、人が殺されたんじゃねえ?」あっちょの顔も蒼白だった。
「断末魔の声じゃの。」虎さんの目が細くなる。
「帰ろう。」渡も身震いした。そのなんとかの声は人が死ぬときの声だってことはなんとなくわかる。
「もう、5時だわ!」香奈恵の声が甲高くなる。町のサイレンが山向こうから聞こえてくる。「急いで権現山を超えないと、怒られちゃうわよ!」
みんな、我先に歩き出す。と、ユリの姿が見えない。
渡はあわてて後ろを振り返る。そして、唖然とした。ユリが御堂山の空を見上げている。
「UFOだ!」あっちょの声は怯えていた。
夕日を前にして黒々と鈍く輝く物体が山の遥か頂上に浮かんでいた。と、丸い光りが山の頂きからフワフワと上がって来た。ひとつ、ふたつと声もなく渡は数えていた。
光は7つだった。「編隊だ・・・UFOの編隊・・・」シンタニの声もうわずっている。
光は吸い込まれるように黒い影と一つになる。
「親玉だよ、あれがUFOの親玉なんだ。」「偵察UFOの・・・母船なんじゃないの。」
長い時間に思えたけど、実際はそんなに長くはなかったかもしれない。
黒い物体の表面に変化が現れる。まるで鼓動するように表面で鈍い光が波打つ。と、つつつとそれは滑るように山の後方へと動いて行き、次の瞬間かき消すようにその姿はこつ然と消えてしまった。

うわっと叫んで盲滅法に駈けて、舗装道路を駈け上がっていた渡達はその後、ちょうど迎えに来た祖父の軽トラに発見されることとなる。途中で息切れして動けなくなっていた虎さんも無事に収容された。みんなあまりに疲労困憊していたので、不審に思った祖父に色々聞かれたが渡が話せたのはUFOを目撃したってことだけだった。
香奈恵の機転で、UFOを目撃した子供達がそれを追って御堂山の麓まで足を伸ばしたということに落ちついた。それでも、渡は祖父から帰り道こんこんと説教をくらった。
危険な沢の入り口に来ていたからだ。
「最近、山道で怪しい奴らを村のもんが頻繁に見かけておるよって。昨日、駐在さんがな職質しようと追いかけたらしいが見失ったって話や。車を捨てて逃げよったらしい。盗難車やって言うやんか。なんや中にぎょうさん麻薬もあったらしいし。麻薬やて、この神月になもう。まったく、恐ろしいもんや。今日だって知ってたらな、おまえらだけで山になんか絶対行かさなかったわ。まったく、今日、おまいらが出よった後で回って来たんやから。どんくさい駐在や。まあ、田舎のお巡りだから仕方ないがな、最近物騒な世の中なんやから、もっとしっかりしてもらわんとな。そいでもう、綾子と寿美恵がやんやとうるさくてかなわんもんで、畑の後こっちに回って来たってわけや。ほんま、良かったわ。」祖父は深い安堵の息をついた。
神妙に聞いていた渡は、先ほど自宅前で降ろされたあっちょとシンタニや荷台にいる香奈恵と虎さんがうらやましくなってくる。
(香奈恵が荷台にいの一番に乗り込んだ訳が今ならわかる)
「でもさ、それはそうとしてさ。なんで、あの沢はそんなに危険なの?」
孤軍奮闘の渡は健気にみんなを代表して不平を述べる。応援団はユリの視線だけだ。
「だって、鮎だっているし。みんなと釣りだってしたいんだけど。」
「なんや、まったくしょーもない!」祖父は車を竹本の駐車場に入れながら答える。祖父は若い頃はずっと、西で働いていたせいかいんちき関西弁を好んで口にする。
「あのな、あそこは危険な場所なんや。地形だけやない、昔はな御堂山は自殺したもんとか流行病で死んだもんとかな、罪人を埋葬したとこなんや。あそこはあの世との入り口なんぞ。今度は麻薬がらみのギャングと来た!まったく、あそこは汚れとる。わしらだって子供の頃から近づかなかったもんや。それにの・・」
祖父は言いさしてから、エンジンを切る。窓から荷台に叫ぶ。
「さあ、母さんが心配してる。早く飯を食って来るとええ!」
香奈恵は「お腹減った!」と、虎を連れて軽々と飛び降りる。
「ユリちゃん、いこ!」ドアを開いたユリの手を取って虎も走り出す。
気になった渡はまだ車の座席でもぞもぞしていた。
「それでさ、どうしたの?」祖父は荷台に敷いていたシートを畳んでいる。
「渡か。続きが聞きたいのか?」「うん。気になるから。」
やけに丁寧に祖父は軽トラを施錠する。ため息を付いた。
「うむ・・わしの伯母さんがな。あそこは不吉な場所だといつも言っておったからの。」
「伯母さん?」
「昔、あの山に神社があったんじゃ。うちの親戚の・・竹本の本家がそこの神社の禰宜も兼ねていての・・おまえの曾祖父さんの母親、曾曾祖母さんじゃの・・・その人がその神社の1人娘じゃやったわけで・・・まあ、いまはもう、廃れとるがの。伯母さんもそこの巫女だったんや。」
渡は驚く。沢で朽ちかけた鳥居を見たことは言えなかった。神代神社という名前が思わず口を付いてでかかる。
「あ・・じゃあ、本家って神主だったんだ?初めて聞いたよ。」
「戦争の後、なくなってしまったからの。今じゃ、本家も他所に移っとるやろ?」
「うん。それは知ってる。神月の土地も売ったんだよね」後ろに誰かが来た。振り向くと、ユリだ。渡が遅いので、様子を見に来たのだろう。渡はユリを見ながら言う。
「えっと・・確か、ユリちゃんのお父さんに土地を売ったんだよね。」
祖父は二人にうなづいて見せる。ユリは目を丸くする。自分に関係する話とは思わなかったのだろう。
「そうじゃ、本家はあの土地と御堂山の社を捨てたんじゃ。色々、あったけの。」
祖父は言葉を濁す。
「もう、早く行って食べて来い。」
「ねえ、じいちゃん、伯母さんは御堂山は不吉だって言ってたんでしょ?。でも、伯母さんは本家の人でそこの巫女だったんでしょ?なんでなのかな?」
渡が聞きたいのはまさにその色々である。ユリも渡をせかす素振りを見せず、興味深く
静かに渡の祖父を見つめている。祖父は困った顔をした。
「不吉だったからこそ、祀らなければならなかったんじゃろ。もう、ええやろ。この話は。母さんに怒られるぞ。」
「教えてよ。」渡はしつこく食い下がる。「教えてったら。」
「ああ、うるさい!」祖父は癇癪を起こす。ユリがビクリとした。
「ああ、ユリちゃん、すまんの。まったくこの孫がしつこいから。誰に似たんだか。」
「だって、そこまで聞いてさ。知りたいもの。」
渡はここぞと連呼する。祖父が結局、自分達に甘いのは知っている。
「僕らは何も知らないじゃないの。なのに遊びに行くのはダメだなんて言われたって。なんで行っちゃいけないのか、教えてくれないとさ、僕らだって、納得できないよ、ねぇ?。」
視線を受けて、ユリもコクンとうなづく。絶妙のコンビである。
「わかった、わかった、ひとまず、飯を食って来い!」
「食ったら教えてくれる?」祖父は根負けしたように、ぐらぐらと力なくうなづく。無言で旅館の調理場の方へ逃げるように遠ざかって行く。
「約束だからね!」渡はその後姿に念を押すように、さけんだ。
「さ、行こう。」ユリがニッと笑って手を取った。
二人は自分たちの住んでる母屋の方へ走り出した。
気がついたら、渡もお腹がぺこぺこだった。




スパイラルワン6-1

2009-09-05 | オリジナル小説
       2.夏のUFOは上がったり下がったり


「UFOが出るんだってよ。」
渡はフーンと言った。聞いた瞬間、ちょっと何かが頭の隅に引っかかったがすぐ忘れる。
「なんだ!。信じてないのかよ?」幼なじみのアッチョがむきになる。
「本当なんだぜ!6年の奴等が昨日、体育の時間グランドで見たんだから。」
「田川君のお兄さん達が肝試しで目撃した話は有名ですよね。」
シンタニは目を輝かせた。
「でもさあ。」渡は冷静に受け答える。持っている部品のネジがもう少しで外れそうだった。「権現山にUFO基地があるっていうのは確証ないじゃん?」
「渡は覚めてるのう。」甲高い声がした。
「普通、小学生がこのような話題で盛り上がらないわけがない。」
「そうだよ。そうだろってトラキチ、じじむせぇ!」アッチョが隣の子供の膝を突いた。
「すまんのう。」トラキチと呼ばれてる子供は太った猫のような人の良い顔をニコニコさせている。渡を除く全員、笑いが止まらなくなる。
「それでのう、トラさんや~おめえは信じるかの~?」息も絶え絶えにアッチョ。
「目で見ないことにはなんともの。」又、大笑い。
「わしはじじいに育てられたからの。じじい言葉が写ったんじゃ。」虎さんは臆する様子もない。渡はそんな虎さん・・田辺正虎と言うのが本名だった・・を少し羨ましく感じる。転校生だったのに、ひょうひょうとクラスに溶け込み、彼が一言口を利くだけで教室が笑いの渦に包まれる。自分はいるかいないかわからないと言われることが多い(それは主に男子にだったが)・・たいがい、頭の中で分解した機械の設計図を組み立てている時が大半だからだ。担任の久美子先生はそんな時はすかさず自分を当ててくる。それも愛情だろうと渡は思う。18人しかいない3年生クラスでは最低でも平均2回は必ず当てられる。自分の回数が多いのは、それだけボーッとしているって証拠だろう。
「あ!」ネジが外れた瞬間、渡は突然思い当たる。「それ、僕見たかも。」
「それってなんだよ。」「そのUFO」渡は数日前の夜、屋根での出来事を話す。
「そうだろう!だから、言ったじゃんよ!」「それみ、権現山に飛んでったんだろ?」
「まあ、方向はそうだけどさ・・」
「すぐに思い出さんところが渡はすごいのう、あっちょ。」
「本当だよ、まったく。目撃例もまた渡らしくて地味だしな。」アッチョの興奮した声。
「昨日のは派手に隊列を組んでたんだぜ。」
「先生も目撃したんだから。」シンタニが重々しく引き継ぐ。
「和田Benか?僕あいつ苦手。」「俺も!あいつチョーうぜえ!」
「和田先生はなんて言ったのかの?」正虎が口を挟む。
「みんなが騒ぎだしたら飛行機だって。でも後で職員室で久美子先生にUFO見たって報告してたんだぜ。」「あいつ、久美子先生を狙ってるンだ?」「無理無理!」
「どう思う?」虎さんは渡に向き直った。正虎も人の良さそうな顔に似合わず、妙に大人びた口を聞くことがあった。そのせいか、渡とは話が合う。時々、小学生とは思えない会話をしていることもある。
「僕も・・わかんないよ。僕が見たの、ただの白い光りだったし。飛び方は変だったけど・・でも、裏の山で目撃されてるってのは本当みたいだね。」
渡は配線を保護する蓋を丁寧に取り外した。これで中の魅力的な基盤が露になった。
「古いゲーム機だの。」「壊れたからばらしていいって。」渡はついそっちに釘付けになる。
「山の頂きに降りて行くんだよ。」アッチョが熱っぽく話し続けている。
「3年の女子とか、他にも色々見てるみたいですよ。」と、シンタニ。
「ほんとに権現山に降りて行くんかのう」虎さんがつぶやく。猫のような目が細くなった。「そんな話は聞いた事ないわ。」
「これはもう、見に行くしかないって!」アッチョが立ち上がる。
「権現山なら何度も登ってるじゃん!」
「庭みたいなもんですよね。」
「庭ならなおさらどうにかしなきゃ、だろ?」
「僕達の庭を犯すものがいるならば、許せませんよね。」
「UFO基地なんか、なかったって絶対。」渡は手元から視線を放すのが惜しそうだ。
「ということは実際に怪しいのは権現山の裏手の御堂山のほうかもの。」
「いつ、行くの?これから?」渡は出来れば解体をこのまま続けたかった。
「今日はもう3時を過ぎたからの。すぐ暗くなってしまうわ。」
「暗くなったら、権現山の仙人に捕まるぞ。」
「権現山の仙人?」「なんだよ、お前、仙人も知らないのかよ。」
「渡はほんとに世事にうといの。」虎さんが笑う。「山に住んでる、ホームレスじゃ。」
「仙人なんだって!」あっちょの話ではヒゲ茫茫の見かけは仙人そのまんまらしい。
「そいつもUFOの手先じゃないのか?」「宇宙人だったりして。」
「へー、山に住んでる人がいるんだ。冬はどうしてんだろう。雪すごいじゃん。」
初耳だった渡は興味を巡らせる。基盤を膝に置いた。
「見かけ出したのはここ最近、らしいの。お役所の人が話をしに行くと逃げてしまうそうじゃ。」
「そうそう、そいつ子供の前にしか姿を表さないの。」
「子供を見つけると大声で追いかけて来るんだって。」
「なんだよ、それ。怖いな。」
「なに、子供しか相手にできない弱虫であろうよ。」
「そっか。でもな・・やっぱ、これからはやめた方がいいかも。」
「そうだな。」「今度の土曜日はどうだろ?」
「仙人がでるんじゃね。」渡はこっそりと呟いた。「仙人の方が見てみたいな。」


「何?あんた達どこ行くの?」
離れの入り口に影が差した。
「かなねえ!」渡はあわてて散らかった部品をかき集めた。
「悪巧み?」ニヤニヤと笑いながら香奈恵が入ってくる。
「おかえり、ユリ嬢。」虎さんが座布団を譲る。年上の少女に肩を押されて入ってきたユリは黙ってそこに座った。いつもながら、行儀が良い。渡と目が合う。渡はニヤッと笑って手に持った基盤を振る。
「違うって、かなぶん。」アッチョが言い訳する。
「あ、今、かなぶんって言った、ぶっとばす。」かなぶんとは親分をもじったものだ。
香奈恵の子供らの中での地位が自ずと知れよう。
「UFOですよ。権現山の。」年下の少年たちは動じない。
香奈恵も特に本気で怒ってる風ではない。ユリの隣に座った。
渡の座布団が当然のように差し出される。
「土曜日にUFO基地を探しに行くことになっての。」
「トラじい、お茶飲んでるの?まさか、その湯飲みで?」
「ガンタのだよ。」「かなぶんも飲むかの?」「ご隠居だねえ。」香奈恵は実は祖父によって誰よりも笑点を見せられている。ユリが立ち上がりかける。
「あ、いいよ。私はコーラ飲む。」テキパキと冷蔵庫に向かう。「ユリちゃんは何飲む?」
「あー!」ユリが渡の前を指し示した。渡は慌てて顔を上げる。「あ、いいよ。ユリちゃん。」「なんだ、渡、あんた何も飲んでないじゃん。コーラね!。」
ユリも立ち上がり後を追う。やれやれと渡は思う。
離れはユリの父親に社員寮として貸し出されている。そこにある備え付けの冷蔵庫は誰でも中身を自由に飲んでいいことになっていた。子供らが散々荒らし回っても毎日、たくさんの飲み物が補充されている。住人には一度も怒られたことはない。それはつまり、ユリの父の厚意であると言うことなのだ。釣り客のリピーターが来る以外、オフシーズンは閑古鳥が鳴く地方旅館だ。何年も離れを借りてくれる信頼できる客の存在は経済的にとてもありがたい。いくら預かりっ子のユリや虎がいたとしても、子供達が住人の留守に勝手に離れで遊ぶことを大人達はあまりよく思っていなかった。
しかし、母親からは『親しき仲にも礼儀有り』と常に言い聞かされていることはいいわけだった。渡はユリの父親に対する自分だけのわだかまりの為に、その行為に甘えないように、離れのものはなるべく飲まないようにしていたのだ。


「神月から帰って来たんだ。」気を取り直し、渡はユリの背中に聞く。
「ガンタ達はまだ当分そっちだって。」代わりに香奈恵が答える。「会議中なんだってさ。」
「そうかあ。」今日もユリの父に会わなくて済みそうだ。
いい遊び相手である、社員のガンタがいないのは痛かったが。
「あんた達、UFO基地ってほんとにあるの?」香奈恵が廊下から怒鳴った。
「確証はないって!」すかさず渡が叫ぶ。
「あるって絶対!」「探して見ないとわかんないじゃん。」
ユリは片手にカルピスを、もう片方にコーラ入れて戻って来る。コーラを渡の前に置いた。渡は小さく礼を言うとコーラを口に含んだ。やはり、我慢はつらい。
虎さんが長いお膳の上に乗ってるみんなの飲みかけの缶を寄せる。虎さんももともとは離れの住人の一人である。両親がユリの父親の会社の社員であり長期海外出張中につき2ヶ月前から転校してきた。それからずっと、渡達と同じ学校に通っている。身元はユリの父である社長が引き受け人である。社長自身も海外を行ったり来たり。事務をこなす居残り社員のガンタにユリと正虎は任されることとなった。しかしこの若い独身の社員は自分の世話さえ思うようできなかったのだ・・・故に寮は賄い付きとなり、ガンタ自身も竹本で飯を食うこととなり、結局は子供2人の食事や身の回りの細かい世話は必然的に渡の母がまとめて何くれとなくみることになってしまった。母に言わせると3人を超えると子供の世話はもうみんな一緒くたの方が楽なのだそうだ。
しかしそれにしても、正虎の両親は買い付けとか現地コーディネイトとやらで忙しいらしく、社長よりもめったに帰国することがないらしい。いったい親と離れてて寂しくないのかと思うが、当人はいたってお気楽に暮らしている。
「土曜日だと旅館の手伝いが忙しくないかの?」お気楽小学生がのほほんと口を開く。
「お昼過ぎたら邪魔だと思うよ。お客さん来るから。」そう早口に答えると急いで脇を向く。「今日も夜はあっちに戻るの?」ユリにおそるおそる聞く為だ。
「でも、昼は遊べるよね。」笑顔がうなづくと渡はほっとする。
「UFO基地かぁ、あったらどうする?」香奈恵がドスドスと戻って来ると足を組む。コーラの瓶を音高くちゃぶ台に置いた。
ユリが不安そうに香奈恵のスカートの裾に触れる。渡は部品を下に置く。軽い緊張感。
「あら、大丈夫だってユリちゃん。あるわけないじゃん。」
「あるよ!」シンタニがアッチョを制してメガネを持ち上げる。
「じゃあ、みんなで行きましょうよ。確かめに。」
「いいよ。暇だし。」
香奈恵が即答するのをみて渡はすべてが面倒くさくなる予感を覚える。
「わしも行くかの。」虎さんが大福のような白い頬を揺らして答えたのがまだ救いだった。

香奈恵が弁当を作るだの、言い出してことがすっかり大きくなった。
表向きは権現山ピクニック計画である。御堂山の沢に踏み込むことは大人に話せない、絶対の秘密だった。沢は深くて迷い易いと小さい頃から繰り返し耳に叩き込まれている。たくさんの支流が寄り集まり、どの川を渡ったかわからなくなるのだ。その為に、シンタニが秘密兵器の紐を各自持って来ることを提案していた。
命綱は長ければ長い方がいい。
「パン屑とかも落としとけばいいじゃん。」香奈恵は危機感ゼロだった。
「チルチルミチルかよ。」「それを言うならヘンゼルとグレーテルです。」とシンタニ。
パン屑どころか飯粒ひとつだって絶対、残るものかと渡は思った。食べ盛りの食欲は絶対なのだ。一番食うのは香奈恵だと言うコメントは控える。
香奈恵のお握りは特大が4つだ。
ユリも前日から泊まり込み、虎さんと一緒に客室の掃除を手伝った。
渡も布団を干場に上げる。日差しは上場。布団が今日は良い匂いになるだろう。
母も手伝って、渡とユリと虎さんの分のお握りが握られた。ついでだと言って、母は電話を手早くかけるとアッチョとシンタニの分も握り始める。ことがどんどん大きくなっていく。
車を出すと言う祖父を断るのがやっとだった。祖父は勘がいい。みんなの会話から何を勘ずくかわかったものじゃない。
どうにか、9時前には出発することができた。
権現山に向かう道の分岐点で二人と落ち合った。

「これが噂の砲丸握りですか。」
「おおっ、3つもある~ありがてえ!」
それぞれの昼飯が入った重い包みを配る。あっちょは早く食べたそうである。
「昆布と梅とおかかチーズが入ってるのよ。」香奈恵が説明する。
「一つに全部ね。」渡が付け足す。
「お茶は各自、持って来たわね?」「OK、かなぶん!」
引率を自認する香奈恵を先頭に6人は山道に向かった。
帽子に長袖、長ズボン。シンタニは裾をバッシュの中に入れている。虎さんはゴム長靴を履いている。タオルを首に巻いて、麦わらと農作業みたいだ。
女の子達はタイトなパンツに登山ブーツを履いて、カラフルなジャケットを羽織っている。渡は香奈恵のリュックを背負い、ユリのは虎さんが持っていた。お菓子しか入ってないから軽い。渡達男子のリュックには均等に水が入っている。携帯は役に立たない。
途中、林が開けた時、遠くに人影が見えた。
岩の上に誰か座っている。
「仙人だ。」あっちょが興奮する。「見つかるとまずいぞ。」
渡は最大の興味を秘めて遠くの人影を食い入るように見つめた。確かに髪とヒゲが長い。服は白っぽく見える。しかしいかんせん距離があり過ぎた。顔はよくわからなかった。仙人は山から突き出た岩の上に微動だにしない。
こちらにはまったく関心を払ってないみたいだった。
「寝てるんじゃないの?」あっちょが安心したように小声で言う。
開けたところを一塊になって、逃げるように走り抜けた。
木陰に入るとみんなで振り返った。仙人の姿は視界から消えていた。
「本当に仙人みたいだね。」渡はつぶやいた。「でも、よく見えなかった。」
「何してるんだろう?」
「瞑想じゃないのかのう?」
「そうそう、そういうの。」香奈恵が前進をうながす。「ああいう人って色んな事するんでしょ?修行とかって?じいちゃんも言ってたじゃない。昔、やったって。」
「じいちゃんが?」
「この辺、行者さんっての?山で修行してる人が多かったんだって。じいちゃんも山伏を目指してたって言ってたわよ。」
「渡のじいちゃん、坊さんだったの?」「渡のじいさんも、あなどれんのう。」
「さあ~?。」渡は困る。
「お坊さんとは違うと思うけど。山を駆け回ったり、岩の上で3年とか言うじゃない、きっと瞑想とかしたのよ。本当の仙人みたいに。」
香奈恵が背中越しに話す。ユリはその後からピッタリ付いて登る。
「ふーん。」渡を含め男子は気の抜けるような音を出す。相変わらず、いいかげんだなぁと渡はこっそりあっちょと目で会話する。
6人は黙々と進んだ。ふざけると香奈恵親分に怒られるからだ。気温が上がってくる。森の中は風がない。全員、汗だくになる。取りあえず、権現山の頂上でお昼の予定だ。子供の足でも1時間も歩けば到達のはずだった。

お握りは一つを残して、あっと言う間に腹に消える。
「非常食料を残すように」とのカナブンの命令だ。あっちょは残念そうにアルミホイルにくるみ直す。それは渡も同じだ。外で食べるご飯はなんでこんなにうまいのか。
小食なユリも割当のお握り2つをぺろりと食べた。
「いい?ここからが大変なんだからね。」香奈恵が点呼を取る。
頂上の眺めはなかなかで、車でも来れるので展望台は夜の密かなデートコースでもある。東屋にもなっていて水もあり、空になったペットボトルに新たに水が補給された。
権現山を下るとさらに高い山が続いて行く。山の裏麓までは行ったことがあった。次の御堂山へと更に登って行く登山道を横に下り川沿いを進むコースが問題の沢に至る。その沢を奥へ奥へと進むと800メートル級の山が続く裏丹沢だ。
「UFO目撃談が一番多いのは権現山を超えた辺りからです。」シンタニが説明する。
「沢に降りて行ったと言う話もあります。」
「ひとまず、沢沿いに進んで行きましょう。」
「暗くなるでに行けるとこまでいこうぜ。」
「引き返すことを考えれば、2時ぐらいまでが上等かの。」
「そうね。深入りしたら危ないし、怒られるからそれぐらいね。」
「そんな程度で基地が見つかるかな~」渡は懐疑的だ。
ユリはニコニコと頼もしそうにみんなを見つめている。
「鮎とかいるかもしれないし。」あっちょはお父さんと釣りもやっている。
6人は荷物を背負うと出発する。

踏み込んだ沢は、思ったより歩く場所が限られていた。
濡れた岩と石の上を水が走っている。
苔に覆われた岸辺は狭く、折れた枝や落ち葉が堆積していた。歩きにくい。
独特の匂いが鼻から抜けて、体の奥まで清涼にして行く。その代わり、虫が多いのが問題だった。正規の登山道ではない。あまり、人が通らないのだろう。クモの巣も多い。
香奈恵はヒッと声を上げたり、毒づいたり騒がしい。その度に虫に耐性のあるシンタニと正虎が虫除けスプレーを片手に活躍している。
ユリと渡は滑らないようにお互いに支えあって進んだ。
あっちょはUFOそっちのけで、深みを覗いてばかりだ。釣り場としてはなかなか有効らしい。「でも父ちゃんには話せないなー怒られそうだし。」
「でもさ。」渡は思いつきを口にする。「なんで、この沢って人が来ないんだろう。」
「そうじゃの。そんないい釣り場なら、あっちょのお父さんや渡のじいさんがとっくに開拓しているだろうに。」
「なんか、いわくがあるみたいよ。」物知りの香奈恵がのたまう。「ここいらの言い伝えとか調べたんだけど、大昔誰か逃げ込んだとか。」
「なんか、香奈恵親分の話は毎回、雲をつかむような話じゃのう。」
「全然、わかんねえよ。」「しっかり時代考証してくださいよ。」
「戦国武将だったかな?落ち武者?あれ?」香奈恵は1人でくるくるしている。
「いい加減だな。香奈ねえは。」
「小学校の自由研究で調べたんだけどな。ま、昔のことだし。忘れたわ。」
行けども行けども同じような感じで沢は続いていた。幾つもの小さな流れを6人は渡った。付け足し付けたし繋いだ命綱も次第に残り少なくなる。
靴も濡れたシミが広がって行く。あっちょは石に滑って転んで下半身がびしょ濡れになってからは、愚痴ってばかりで進みが悪い。
「見て、鳥居がある。」香奈恵が立ち止まった。
こけ蒸した大岩が行く手を塞ぐように立っている。流れはその岩を迂回するように回り込んでいるようだ。その岩の上に崩れかけた鳥居が見えた。
「へー、人が来ないところなのにね。神社があるのかな。」
「あったってことだろ。あれって廃墟じゃん。」
「なんか気持ち悪いですね。」
「昔はなんらかの信仰の対象だったんじゃろうの。」虎さんが難しいことを言う。
「上に行く石段の跡のようじゃ。」確かにあぶなっかしいが、石の並びは石段のように上に続いていた。
「あっ!思い出した!」香奈恵が突然、声を上げた。
「何を~?」 
「武将じゃないけど、この辺って古代文明があったんだよ。あまり資料がなかったけどそのことも書いたんだ。」
「古代文明?」「好きでしょ、渡。」
「ちょっと興味ありますね。」シンタニも目を輝かせる。「UFOの目撃談は古代遺跡付近でもよく見られるんですよ。」「そうなんだ。」「ナスカの地上絵とかさ。」
「確か、平安時代にはここって山岳信仰とかが盛んだったのよ。」
「かなぶん・・平安時代は古代じゃないよ。」「あら、そうなの。」渡は知らなかったが残念ながら学術的には平安時代は一応古代というカテゴリーになっている。しかし、なんだか渡は力が抜けてしまう。ユリがペットボトルを口にする。それを見た虎さんが言う。
「この上なら、開けて乾いてるんじゃないかの。上がってみてはどうだろう?」

登るのはちょっとした騒ぎだったが岩の上は平たく、思ったよりも広かった。覆い尽くすように木が生い茂っていたが巨大な岩だったので半分は日だまりになっているし、むき出しで虫も少なかった。沢と反対のこんもりと木が茂る岩の片端の方には草が生い茂っているかなり広い窪みがあった。「見て。」香奈恵がそちらをうながす。茂みに埋もれるように下にあったのと同じような鳥居の残骸があった。あっちょが草むらの石に飛び上がる。「土台じゃの。」虎がその石組みを指差す。「でしょ?」香奈恵が得意そうにあとに続く。「ここにきっと神社が立ってたのよ。」全員がそこここから草を吹く石の土台に登って辺りを見渡す。土台の大きさから見るとそんなに小さくはない。お堂のあったらしい裏手に様々な石塔や石仏が草に見え隠れしている。日陰を好む草の花があちこちに咲いていてむき出しの石に風情を添えていると大人なら一句ひねるところであろうか。ひんやりしているが後ろには崖が迫っている為に風が凪いで草いきれがむっとしている。蜂の羽音が絶えずするのはどこかに巣でもあるのかもしれない。「ちょっと不気味~」香奈恵がそう叫ぶとそそくさと土台から飛び降りた。「あっちの明るい方に行きましょうよ。そこなんだか暗いし陰気だし、虫が多いからさ。」賛成とあっちょとシンタニも飛び降りる。「なんで取り壊したんだろう。」渡はつぶやく。「なんでじゃろうの。」虎もつぶやく。「この沢が立ち入り禁止なのと関係するのではないかのう。」「ユリちゃん、お握り食べようよ!」香奈恵が呼んでいる。ユリも名残惜しそうに土台から降りた。虎と渡も後に続こうとする。「おや、あそこに何か書いてあるようだの?」虎の言葉に渡もそれを見る。その石は土台から離れた所に沢から上がる階段の方を向いてぽつんと立っていた。やはり半ば草に覆われているが確かに刻まれた文字のようなものが蔓に覆われた下にかいま見えた。渡が歩みより草を分けようとして手を不意に放した。
「どうかしたかの?。」「いや、別に。」虎が背を伸ばし草を持ち上げる。
「ふむ・・・神代神社・・・と読むのかの?」虎がゆっくりと読み上げた。
渡は黙ってポケットの中に手を入れていた。手の中に入れっぱなしにしていたコネクターが熱を持つ。「なんでもない・・・」渡はつぶやく。「気のせいだ。」
6人は沢に入って初めてのじっくりとした休憩を取った。非常食料もとうとうお腹に消えることとなる。
「この辺は岩山なんだね。」渡は上に続く崖を見上げる。かなり高さがあるようだ。
香奈恵は絡んだ紐をほぐしていた。
「なんだ~ちょっと足りないかもな。みんなもっと紐持ってきてくれればいいのに。」
「親になんて言うんだよ。」なけなしの凧糸が一玉、ほどかれて行く。「怪しまれるだろ。」
「そろそろ引き返し時、じゃない?」
その時、ユリがビクリと体を動かす。真剣な顔で口の前に指を立てた。
全員、緊張して耳をすます。
「なんだよ。なんにも聞こえねえよ・・」「しっ!」
わずかな声だった。虫の羽音のような。
「あっちだ。」渡は注意深く立ち上がる。大きな一枚岩の上を端まで伝って歩く。音がはっきりして人の声だとわかってくる。数珠つなぎに移動する全員が岩の端に集結する。更に下って行く沢が一望でき、眺めがいい。沢の下流に誰かがいるようだ。
「なんだろう?はっきり見えないなあ。」「何を話してるんですかね?」
何か叫び声が起こる。途端に下で騒ぎが起こった。誰かが走る音、小枝が折れ、枯れ葉が草がガサガサ言う音。怒号、争うような気配。
しかし、姿は見えない。
その直後、聞くも恐ろしいような悲鳴が遠くから響き渡った。全員が凍り付いた。渡も体が硬直し動かせなくなる。悲鳴は長く長く尾を引き、やがてゴボゴボと不鮮明になって消えて行く。

眠り

2009-09-01 | Weblog
       眠り



暗い、深い夜に私は落ちて行く...
どこへ...それはからっぽの箱...それは満ち足りた墓...

風に舞う段ボール
きっと、さぞや...埃が目に痛いだろう

そんな...強烈な昼を鮮烈に焼き付けた、夜
それは黒いコートの裏地...凶暴な風にかいま見せる...はためく太陽の色
それは大切な秘密...唯一の紅...静謐な底辺

そんな
そんな、あてどない夜
落ちて行く私はジェット・コースターに乗る
巡る螺旋が永遠に....宵闇のスクリュー・コースター
イルミネーションは私と共に

悲鳴はかき消されはしないか?
笑いは見透かされはしないか?
体の奥で...脳の中で、魚が...身を翻す

その痛みを感じているのか...いないのか
誰も聞かない

稲妻のように腹部に青い縞の入った魚
魚は孕んでいる
低い気圧の中で卵が張り裂けている

血肉を食う魚...脳に巣食う秘密...その奥底を
誰も知らない

暗い、深い夜...それは深い、暗い水
CRY、CRY、again
再び、魚が鳴いている...耳をすませば
聞こえる。星が落ちる音、時が燃える音
生きてる証の昼と夜
強烈な赤
鮮烈な青





。。。。。。。。。。。。

ついつい久しぶりになってしまいます。

小説にあったイラストを自分で
なるべく描いてきたんですが。
もうあきらめました。
これからはイラスト&カットは
本文とはまったく関係のないものに
なってしまうけど開きなおることにしました。
これ以上、グダグダしてるのも
もう疲れました。
描けないものは描けない。
そのうちまた
描けるようになるかもしれないし。

この詩は
夢見がわるかった頃のものです。
なんだかな~ってときの。
うるうる悩んでるのって
冷静に見るととっても
ナルシスチック。。。。。。
そう思うことってありませんか?