●三次元化 普及進む
インテル、サムスン電子、テキサス・インスツルメンツ、東芝、TSMC、IBM。
大手の半導体メーカ各社が、先端的なLSIの製造にMEMS(微小電子機械システム)向けの加工技術を取り込むことに躍起になっている。
LSIメーカが微細化によらずにコストパフォーマンスを向上させる技術を求め始めたことによる。このようなMEMS加工技術の具体例がシリコンチップを何層にも重ねる三次元化である。
メモリーの大容量化やロジックLSIの高性能化が可能になる。
これまでは、チップを数十nmへと微細加工する微細化で進展してきた。しかし、微細化の効果はここにきて薄れている。微細化に伴い露光装置が高価になる、消費電流が大きくなるといった問題がでてきたためだ。
しかし、三次元化によって、こうした微細化の課題を避けられる。
LSI各社が取り組む三次元化は、シリコン貫通配線を使う手法である。数十μm厚に薄くしたシリコンチップに直径が数十μmの穴を貫通させ、ここに銅などを埋め込んで垂直方向の配線を作る。
このシリコン貫通配線で、積層したチップ間を電気的に接続する。加工では、シリコンに細く深い穴を開けるエッチング、チップ同士を張り合わせる接合の技術がカギとなる。
いずれも、加速度センサーなどMEMSデバイスの加工向けに急進展している技術だ。このため、MEMS技術はLSI分野へ取り込まれ、二つの業界は競争と協調を進めながら融合していくことになる。
MEMS製造装置メーカは、このような動向を踏まえ、製造装置をLSI向けに改造し始めている。
MEMS向けでは、200mmまでが一般的で300mmなどあり得ないといわれきたが、対応するウェハー径を300mmにまで拡大するようになってきた。
MEMS加工技術の取り込みによって、三次元LSIの量産化は2010年まで一気に進む見通しである。
量産化はイメージセンサー、メモリー、ロジックLSI、異種プロセスチップを融合したデバイスの順に進むと見る技術者が多い。
このうち、イメージセンサーは技術的なハードルが比較的低く、ここで三次元LSIの量産実績を積むメーカーが多いようだ。その上で出荷数量が多いメモリー分野に展開していく。
特にフラッシュメモリーの需要が大きいと見込まれている。実際、10年に8億個になるとの予測がある。これは大容量品を低コストに実現できるからだ。
調査会社の仏ヨール・ディベロップメントによると、32nmプロセスの64Gbit品より大容量で微細なデバイスでは、三次元化の方が低コストになる。
これは、年間100万枚の300mmウェハーを量産するメーカが銅の貫通配線を使った場合の計算である。
ここに来て、シリコン貫通電極による三次元化による三次元化の低コストに向けた動きも活発化してきた。
2006年10月に欧米を中心としたデバイスメーカや製造装置メーカなどが立ち上げた業界団体の「EMC-3D」が先導している。シリコン貫通配線による三次元化にかかるウェハー1枚当たりのコストを200ドル以下にする目標を掲げている。
そのためのロードマップを参加企業各社の意見を取りまとめて作成した。それによると、2007年には400ドルを超えていたコストを2009年162ドルにするという。
こうした動きは、LSIの三次元化の普及を促し、MEMSとLSIの融合をいっそう深めることになりそうだ。
【記事引用】 「日経産業新聞/2007年8月3日(金)/10面」