半導体産業で中国がじわじわと存在感を高めている。
大手半導体メーカーが相次いで進出するほか、地場の受託製造企業も台頭。家電などと同じく「世界の工場」の地位を確立しつつある。開発型企業も躍進しており、半導体の世界でも一部で「中国脅威論」がささやかれている。
●生産拠点の新設
中国の半導体産業でここ数年目立つのは、海外企業の生産拠点の新設。
米インテルは、2010年に大連に約2000億円を投じて新工場を稼働。韓国サムスン電子は、13年内にも「NAND型」と呼ばれるフラッシュメモリーの新工場を中国に初めて建設する方針を決めた。
韓国ハイニツクス半導体も、江藤省のDRAMと呼ばれるメモリー工場の一部ラインでNANDフラッシュの生産を検討する。
半導体製造装置メーカー首脳は「家電の工場となった中国は半導体の需要も今後世界一になることは確実。各社が進出するのは当然」と語る。こうした背景もあり、地場の半導体関連企業も育っている。
受託製造で存在感を増すのが上海市に本拠地を置くSMIC(中芯国際集成電路製造)。00年代初頭、新興企業としては規格外の5年で100億ドル(約8300億円)もの投資を断行、世界の受託製造大手の仲間に入った。
11年からの5年も最大で約120億ドル(約1兆円)の投資を計画し、15年に5億ドル(4170億円)の売上高を目指す。「エルピーダメモリの広島工場の買収候補としてSMICの名前が出たことも存在感を示している」との声もある。
●近づく中国企業の足音
「目を疑ったよ」。日本の半導体企業関係者はこう語る。
2月末にスペインで開かれた展示会で、中国・広東省にある携帯電話大手の華為技術(ファーウエイ・テクノロジーズ)が自社開発した「クアッドコアプロセッサー」内蔵のスマートフォンを披露した。
クアッドコアは、中央演算処理装置(CPU)に頭脳の役割を果たすコア(中枢回路)を四つ搭載した半導体。現時点では処理性能が最高水準にある。
携帯電話端末メーカーは、サムスンを除いてプロセッサーの自社開発を手がけていない。プロセッサーの自社開発は異例の試み。
中国の半導体産業は「3分の2が組み立てなどの後工程で、回路を形成する前工程は3分の1」(装置幹部)ともいわれる。前工程が3分の2を占める台湾とは技術面での差を指摘する声は少なくない。
実際、SMICは内紛もあり、ここ数年成長が鈍化。最大手の半導体受託製造の台湾TSMCとの売上高の差は7倍程度ある。
華為技術のクアッドコアプロセッサーが果たして米エヌビディアや米クアルコムのクアッドコアに匹敵するかも未知数。ただ、遠くに聞こえていた中国企業の足音が近づいていることだけは間違いなさそう。
【記事引用】 「日本経済新聞/2012年3月19日(月)/8面」