
写真:きむん家のタクポックムタンとチーズスントゥブ
最近よく行く池袋の韓国料理店、きむん家(ち)で、タクポックムタンというメニューを見かけました。
「鶏炒めスープ? こんな料理、あったっけ?」
タクはにわとり、ポックムは炒め、タンはスープ(漢字で湯)
「ああ、これタクトリタンの言い換えです。けっこう前から使われていますよ」
さすが在韓26年のK氏。
「タクトリタンの「トリ」が日本語の「鶏」から来ているから、けしからん、ということなんでしょう」
店長のキムあずまさんに確かめました。
「はい、昔のタクトリタンです。でも、今は使っちゃいけないとこになっているらしくて…」
「この前、浅草のかぼちゃで食べましたね」
「タクトリタンは家庭料理だから、お店のメニューにはあまりないよね」
調べてみると、韓国語の正書法を取り仕切っている国立国語院が、「タクトリタン」の「トリ」は日本語起源だとして、「タクポックムタン(鶏炒めスープ)」という醇化用語を「標準国語大辞典」に載せたのは1992年だそうです。
ただ、「タクトリタン」の「トリ」は日本語ではなく、固有語の「トリチダ」「トリョチダ」(包丁や棒で大雑把にえぐりとるという意味)からきていると反論する学者がいたりして、なかなか定着しませんでした。
店のメニューとして「タクポックムタン」が使われ始めたのが2010年以降のこと。2007年に帰国した私が知らないのは当然かもしれません。
日本の植民地期には、日本語の料理名がたくさんつかわれていましたが、それを「日帝残滓」として排斥する動きが活発化して、多くの料理名が言い換えられました。
てんぷらはティキム、やきとりはコチクイ、そばはメミルククス、たくあんはタンムジ…。
「うどんもカラクククスという醇化語が定められたけど、定着しませんでしたね」
「あと、せごしも」
「ああ、セゴシね。あれ、日本語起源だって韓国で知った。そういう食べ方、あまりしないから」
せごし(背越し)とは、鮎(あゆ)や鮒(ふな)などの頭・ひれ・はらわたを取り、中骨のあるままぶつ切りにする魚の切り方の名前。
私は釜山でアナゴのせごしを初めて食べました。口に骨が残って食べにくかったことを覚えています。
タクトリタンに話を戻すと、一般に韓国家庭料理のタクトリタンは、鶏肉以外ににんじん、じゃがいも、大根などの野菜を、ピリ辛で煮込んだ「ごった煮」。
きむん家のタクポックムタンは、お上品な煮物に仕上がっていて、とても美味でした。
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