この10月から、東京の職場にタイ人男性が入社しました。高校卒業後、来日し、日本語学校に通ったあと、東京外大で学部、大学院まで出た優秀な経歴です。
「新しいタイ料理屋を見つけたんだけど、行かない?」
前の週に発見したばかりのタイ料理屋に誘いました。
話してみると、都内のタイ料理はあらかた行ったことがあるようでした。
「池袋のビラウ・カーオがいいよね」
「市ヶ谷のティーヌンもまあまあですよ」
「でもあそこ、タイ人を連れて行ったら、『これはタイ料理とは認められない』と言ってたらしいよ。ぼくは好きなんだけど」
「ああ、それはずいぶん前の話じゃないですか。あそこがオープンしたときは、日本人が作っていて、味も日本人向けでした。でも、評判が悪かったらしくて、タイ人が作るようになったんですよ。今はいろんな所にあります」
「どうりで」
前回、店名は確認しませんでしたが、この高田馬場の新しい店の名前は「バーン・リムタイ」。
「ああ、知ってます。チェーン店ですよ」
「そうだったんだ」
店は、料理人と若い女性アルバイトの二人のタイ人がやっている。女性のほうは、3か月前に日本に来たばかりの留学生だということで、日本語がほとんどできません。
生ビール390円、おかずは590円均一というのはオープン特価なのでしょうか。
店に入ってから、タイ人社員はしきりにスマホをいじっている。
「実はちょっと気になることがあって…。プミポン国王が亡くなったという噂が流れてるんですよ」
「そういえば、入院してると言ってたね」
「数日前も亡くなったというニュースが流れて株が暴落したんです。でも、デマだということがわかって翌日は回復したんですけどね」
彼の話では、数時間前に新華社が速報を流したらしい。それを友達がSNSで送ってきたんだそうです。でも、タイ政府からの発表はないとのこと。
ラープ・ムー(豚のラープ)、ヤム・ウンセン(春雨サラダ)などのタイ料理の定番に、生春巻きなどを頼んで、生ビールを3杯飲んだところで、もう一人の日本人社員が「明日、午前中に重要な会議があるから」と言い出したので、店を出ました。その日本人を駅で見送った後、
「もう一軒行く?」
「いいですよ」
やはりこの前見つけたばかりのミャンマー料理店、ミャ・ミィンモに行きました。
すると、この前も会ったタイ人家族がいました。
「この人、タイ人ですよ。わが社の新入社員です」
「へー。チャン・コー・ペン・コン・タイ(私もタイ人です)」
と奥さん。
二人はしばらくタイ語でしゃべっていましたが、突然、奥さんの声が高くなりました。
「また、デマでしょう」
「いえ、新華社だけでなくて、BBCも報じたらしいです」
そこへ、私のラインに妻からメッセージが。
「タイの王様が亡くなったって。今、テレビで速報が流れた」
「どうも本当らしいね」
ミャンマー人の客たちがカラオケを歌う中、タイ人の二人は深刻な面持ち。やがて奥さんが涙を流し始めました。
周囲のミャンマー人に事情を説明すると、ミャンマー人たちはかわるがわる奥さんを慰めました。
わが社の新入社員もうっすら涙ぐんでいる。
(昭和天皇が亡くなったとき、泣かなかったよなあ)
もう、30年近く前のことなのでよく覚えていませんが。ともかく、国民から敬愛されている度合いは、日本の天皇とは比較にならないほど強いようです。
その後、二人のタイ人は長いこと話していましたが、その結果、驚くべき事実が判明。二人は、出身地が同じであるだけでなく、遠縁の親戚なんだそうです。
「そんなことが……」
「名前でだいたいわかるんです」
酩酊状態で聞いたので、よく覚えていないのですが、どちらかのおじいさんだかに何人も奥さんがいて、そのうちの一人の奥さんがつながっているというような。
終電までまだ時間があったのですが、私はかなり酔いが回ってきたので、先に失礼することに。
タイ国王崩御の夜は、こうして更けてゆきました。
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