犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

大谷翔平と一角獣

2023-08-08 23:08:43 | 日々の暮らし(2021.2~)
 「二刀流」の大谷翔平の活躍を、アメリカのマスコミは最大級の表現で賛辞しています。

曰く、

talented 才能ある
brilliant 輝かしい
amazing 驚くべき
incredible 信じられない
spectacular 壮観
never the same 比類ない
totally unique 完全にユニーク
completely not ever been done before 空前絶後
show stopping 拍手喝采でショーが一時中断されるほどすばらしい
insane 正気の沙汰ではない
not human 人間じゃない
absurd 馬鹿げている
martian 火星人
alien 異界人


 最近では、ヤギ(GOAT)とかユニコーン(unicorn、一角獣)なんていう動物も持ち出されます。

 たとえば、「スポーツ報知」6月18日付

大谷翔平は「本物のユニコーン」「正気とは思えない」投打でリーグトップの数字に米メディアも困惑

「日刊スポーツ」3月23日付

【WBC】「究極のGoat」世界が絶賛

 GOATというのはヤギじゃなくてGreatest OAll Timeの頭文字をとったもので、「史上最高」という意味。

 ユニコーン(Unicorn)のほうは、「一角獣」。

 一角獣といわれても、ニュアンスがよくわかりません。

 むしろ思い浮かぶのは村上春樹の小説のほうです。

村上春樹、二つの「自伝」③

 1985年に出た『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、そして今年出た『街とその不確かな壁』という小説の中で、一角獣(『街と…』では単角獣と呼ばれるが実質的に同じもの)が重要な役割を果たします。

 一角獣は、「街」に住んでいる獣で、頭部に一本の角を持ち、金色の毛に包まれています。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の中で展開される二つの物語のうちの一つ、「ハードボイルド・ワンダーランド」の中には、一角獣に関する詳しい説明が出てきます。主人公が図書館で借りた二冊の本に載っていた内容の紹介です。

 二冊のうちの一冊(ホルヘ・ルイス・ボルヘス著、柳瀬尚紀訳『幻獣辞典』)によれば、「一角獣」は東洋(中国)と西洋で違っていて、東洋では麒麟(キリンビールの瓶の図柄になっているやつ)。鹿の体に牛の尾と馬の蹄、額に一本の短い角がある。背中は五色の色、腹は褐色か黄色。龍、鳳凰、亀とならぶ「聖なる動物」で、性格は穏やか。これが現れると「聖王」が誕生すると言われている。

 西洋の一角獣は、胴体は馬に似、頭は雄鹿、足は象、尾は猪。額から1メートルぐらいの黒い角が突き出している。性格は獰猛で攻撃的。太いうなり声をあげる。

 どちらも架空の動物です。

 ところが、もう一冊(バートランド・クーパー『動物たちの考古学』牧村拓訳)によると、約2000万年前のアメリカ大陸に、三つの角を持つ獣がいて、絶滅したと思われていたが、1917年、第一次世界大戦中にウクライナのヴルタフィル台地で、一角獣と思われる頭骨が発見された。発見者はペテルブルク大学に持っていこうとしたが、ロシア革命の混乱の中で死亡。頭骨を預かっていた義兄は、ペテルブルク大学の後身のレニングラード大学に照会する。ペロフ教授は鑑定の末、現存のいかなる種類の動物とも違う一角獣であることがわかる。それが発見されたヴルタフィル台地は、火山の外輪山で、周囲を険しい壁で囲まれた円形の台地。一角獣は、その隔離された台地で、ひっそりと棲息していた。

 しかし、1940年に独ソ戦が始まり、レニングラードの攻防戦の間に、レニングラード大学は砲撃、爆撃で跡形もなくなり、一角獣の頭骨も失われてしまった…

 ヴルタフィル台地は、「世界の終り」という物語の中の、「街」そのものです。「街」に住む一角獣の性格は穏やかで、金色の毛におおわれていますから、どちらかというと中国の麒麟に近い。

 一角獣は、人々の夢やあらゆる感情を吸収し、頭骨に貯め込みます。主人公である「僕」は「夢読み」として、頭骨の中の夢を解放する役割を果たします。

 ところで、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読み進めると、「世界の終り」という街は、「ハードボイルド・ワンダーランド」の主人公である「私」が脳内で作り出した幻想の街であることが明らかになります。

 付け加えると、小説の中に出てくる バートランド・クーパー著、 牧村拓訳 『動物たちの考古学』(三友書房)という本は、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、柳瀬尚紀訳『幻獣辞典』(晶文社)と並んで、単行本の最後のページに「参考文献」として挙げられています。

 『幻獣辞典』は実在しますが、『動物たちの考古学』は架空の本、バートランド・クーパーという著者も架空なら、牧村拓という訳者も架空、三友書房という出版社も架空。「ヴルタフィル台地で見つかった一角獣の頭骨」の逸話も、小説を書くために村上春樹が考え出した創作です。

 さて、話は大谷翔平に戻りますが、西洋に伝わるユニコーンという架空の動物は、性格は獰猛で攻撃的とのこと。その獰猛さゆえに、「ノアの箱舟」に乗せてもらえなかったという話も伝わっているそうです。

 まあ、怪物の一種ですね。

 日本では、怪物といえば巨人の江川卓投手、西武からMLBに移った松坂大輔投手がかつて「昭和の怪物」、「平成の怪物」と呼ばれ、今ではロッテの佐々木朗希投手が「令和の怪物」などと呼ばれています。

 巨人からヤンキースに行った松井秀喜選手のニックネームはゴジラですが、これも怪物の一種。

 でも、大谷選手が「怪物」と呼ばれることはないような。

 ユニコーンは、現代のアメリカでは、「怪物」というより、「ユニコーン企業」のイメージが強いのかもしれません。

「ユニコーン企業」とは、10年ほど前に造語されたもので、「創業10年以内、評価額10億ドル以上、未上場のテクノロジー企業」のこと、要するに成功したベンチャー企業を指します。

 このような企業は、星の数ほどある新興企業の中できわめて稀なので、「ユニコーン」の名がついたとのこと。

 大谷選手をユニコーンと呼ぶのは、「二刀流」という希少性を高く評価したことによるのだと思います。

 野茂英雄投手はアメリカでは「トルネード(tornado、竜巻)」、イチロー選手は「魔法使い(Wizard)」というニックネームがつきました。

 大谷選手のユニコーンも、スマートでよいニックネームだと思います。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 鳥害防止工事 | トップ | 去る者は日々に疎し »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日々の暮らし(2021.2~)」カテゴリの最新記事