売れない作家 高村裕樹の部屋

まだ駆け出しの作家ですが、作品の情報や、内容に関連する写真(作品の舞台)など、掲載していきたいと思います

セミ

2012-07-23 19:41:58 | 小説
 今年の夏は、セミが鳴き出すのが遅れているようです。

 例年なら、7月下旬になれば、うるさいほどの鳴き声が聞こえてくるのに、今年はあまり聞こえません。

 今日も午前中に、クマゼミが1匹鳴いていただけで、それもすぐに鳴き止みました。

 温暖化とか、大雨が降りやすくなったとか、最近は気候がおかしくなっていますが、そういうことも関係するのでしょうか?

 以前、何年かに1度、セミの発生が少なくなるようなことを聞いたことがあります。

 19日に南木曽岳に行ったときは、ずっとヒグラシの鳴き声が聞こえていました。


 今回は幻影の6章を掲載します。



            

 一〇月一六日の美奈の誕生日がやってきた。まもなく、初めてへその下にバラと蝶の絵を彫ってから、一年になる。
 二〇歳(はたち)となり、これで大人の仲間入りである。美奈は二〇歳になる記念として、背中に騎龍観音を彫ってみたい、と再度玲奈に申し出た。今度は玲奈も渋々ながら了承してくれた。入店から半年以上経ち、ミクには指名客も増えてきた。オアシスでは中位から上位を窺おうという売れっ子になっていた。上位一〇位までの人気ランキングにもしばしば顔を出していた。その人気は落としたくないが、どうしてもトップクラスに食い込みきれない現状を打開するために、タトゥーを増やしてみるのもわるくないかな、と玲奈も考えるようになった。それにミクを指名する客はタトゥー、いれずみが好きな人が多いから、タトゥーが増えたからといって、人気が急に下がることもないだろうと思った。
 美奈はすでに卑美子に予約を入れていた。最近卑美子はタトゥーアーティストとして人気が高く、予約を取りにくくなっていた。しかし九月の初めのうちに予約の連絡をしておいたので、幸い誕生日は空いていた。もし玲奈にだめだと言われても、既成事実を作ってしまうつもりだった。控えめな美奈としては思い切った決意だった。
 この日は初めて背中に彫るので、筋彫りはその日のうちに完成させたいと、二回分、六時間の枠を取ってもらった。会社は有給休暇が余っているので、午後から休暇を取った。どうせ閑職であり、どうしても出勤しなければならないこともない。
 図柄はもう決まっていた。見本帳にある騎龍観音の絵を、そのまま彫ってもらうつもりだ。卑美子は「変更したいところがあれば、遠慮なく言って。どれだけでも描き直すから」と言ってくれた。しかし、美奈としては、その絵を非常に気に入っていたので、改めて描き直す必要はなかった。
 未完成だが、同じ騎龍観音を彫っている女性の写真をまた見せてもらった。同じ図柄を彫った人がこの世にもう一人いる、と思うと、その女性に対して親近感を抱いた。龍の色はその人とは違えて、原画の通り、青にしようと思った。
 今日は前回見なかった、その女性の顔が写っている写真を見せてもらった。とてもきれいな人だった。彼女の左の胸には、大きな赤いバラの花とつぼみが入っていた。
「この人、まだ続きを彫りに来ないのですか?」と美奈は尋ねた。
「まだ赤ちゃんも小さいだろうし、彫りに来るのはとても無理じゃないですかね」
「もし会えたら、いろいろお話してみたいです」
「本来なら、お客さんのプライバシーは一切話せないし、お客さんを他のお客さんに紹介する、ということはできませんが、千尋さん、というのだけど、連絡あったら、美奈ちゃんのことを話しておきますね。彼女がいいと言えば、会えるように段取りしてあげます」
 卑美子はいちおう、千尋に話してくれると、請け合ってくれた。
 いよいよ施術となり、美奈は全裸になった。卑美子は美奈が希望した騎龍観音の絵を基に、新しい下絵を描き下ろしていた。龍の胴体のうねりが少し変えてあるが、それ以外はほぼ同じだった。
 美奈が風俗で働いていることはまだ聞いていないが、ときどきスタジオに遊びに来る美奈を見て、卑美子は女性だけに、美奈の変化に気づいていた。
 同僚のルミから「タトゥーを増やしたいから、ミクが入れたお店を紹介して」と依頼されたので、美奈はルミと一緒に卑美子のスタジオを訪れたことがある。まだ美奈がオアシスに入店して間もないころだった。
 そのときのルミは、何となく風俗で働いている、ということが伝わってくるような雰囲気だった。美奈がルミのことを職場の先輩です、と紹介したので、卑美子には美奈が風俗で働いていることは、それとなく察することができた。ルミが美奈のことをミクと呼ぶので、それが店での源氏名だと卑美子は推測した。
 ルミはその日に打ち合わせをして、おおよその図柄を決め、予約を入れた。後日また美奈と一緒に来て、右の腰に大きな赤と青の蘭の花を入れたのだった。
 ルミは新しいタトゥーについて、「お客さんからとっても好評よ。私の新しいチャームポイントだわ。前のアーティストに入れてもらった蝶より、ずっと気に入っている。すてきなアーティストさん紹介してくれて、ありがとう」と喜んだ。
 このことが契機となり、ルミは美奈のいちばんの親友といえる間柄になった。

 以前はたとえ女同士でも、裸になることに恥じらいを示していた美奈だが、全裸になっても、堂々としている姿に、わずかな間なのに美奈は変わったな、と卑美子は思った。ただ、変わったことが必ずしも悪いことではない、とも思い直した。
 卑美子は美奈に直立不動の姿勢をとらせた。まず、用意しておいた大きな転写シートを美奈の背中に当て、慎重に位置を合わせた。転写用のシートは、新しい絵をトレースしたものだった。彫る位置、角度を決定して、印をつけた。
 背中から臀部にかけ、石けん水をスプレーした後、石けん分をよく拭い、アルコールを噴霧した。その後、濡れたキッチンタオルで背中を拭き、適度な湿り気を与えた。
 それから、観音菩薩の大きな転写用シートを、先ほどつけた印に合わせて、慎重に背中に押しつけた。
 細心の注意を払い、濡れたティッシュペーパーでシートの上をはたき、しばらくしてから注意深く転写用シートをはがした。
 美奈の首の少し下から、お尻の割れ目の上あたりまで、背中一面に見事な観音菩薩の座像が転写された。
 卑美子は美奈の真後ろに立ったり、左右のサイドから眺めたり、立ったり腰をかがめたりして、いろいろな角度から転写された絵を見つめた。そして、納得したように、「いいでしょう。ばっちりいい位置に転写できました。少し休憩して、完全に乾いたら、始めましょう」と満足げに言った。
 卑美子は転写された絵を手描きで修正することも多い。平面に描いた絵を立体である肌に転写するのだから、そのままでは歪んでしまうこともあるからだ。しかし、今回の観音菩薩は、あえて手直しする必要は感じられなかった。
「転写がうまくいけば、八割方成功したようなものですよ」
 卑美子はたばこを一本吸った。その間、美奈は大きな姿見に自分の背中を映し、いろいろなポーズをとっていた。女性しかいないとはいえ、前をまったく隠そうとしない美奈に、本当にこの子は一年足らずの間に変わったな、と思った。へそ下に彫ったバラと蝶が、この子の人生を変えてしまったのかもしれない、と思うと、タトゥーを彫ったことはこの子に対して、果たしてよかったのかな、と疑問を生じてしまう。
 しかし、悪い方にばかり変わるというわけではない。この子の場合は、おどおどした引っ込み思案な性格から、かなり積極的になっている。その割に純朴さは失われていない。
 タトゥーを彫ったことにより、この子の人生がよい方に変わってくれれば、それでよい。私はきっかけを与えただけで、あとはこの子の努力次第だ。そう卑美子は考えた。
 また、タトゥーを入れることに関しては、お客さん自身が全責任を負っている。入れる前に、本当に一生消せない絵を肌に刻み込んでいいものかどうか、よく考えなさい、とくどいほどに助言はするが、彫ってしまった後のことは、お客さんの責任だ。だから私がとやかく心配する必要はない。もう十数年この仕事をやっているというのに、私はまだ青いな、と卑美子は苦笑した。卑美子にそう思わせてしまうほど、美奈は純真だった。

 たばこを吸い終えた卑美子は、「さあ、始めましょうか」と立ち上がった。
 卑美子はタトゥーを施術する部屋でたばこを吸うのは、衛生上好ましくないので、やめたいと思っている。だが、長い時間緊張を強いられるタトゥーの施術の前後には、どうしても気持ちをリラックスさせるために、吸わずにはいられなかった。卑美子は喫煙は必ず換気扇のすぐ下でするようにしている。たばこを吸う客にも、吸うときは換気扇の下で、とお願いしている。
 卑美子はベッドにうつ伏せになった美奈の上にかがみ込み、マシンのスイッチを入れた。
 ビーンというマシンの音がした直後に、美奈は右肩のあたりに激しい痛みを感じた。
 今まで彫ってもらった太股や腕に比べ、痛みはずっと厳しかった。背中、特に皮膚が薄い背骨の上などは、太股のような肉が豊富な部分に比べて苦痛が大きいと、事前に卑美子から聞いていた。だから、美奈もそれなりの心構えでいたのだが、想像以上に痛みは激しかった。久しぶりに彫ったので、痛みに対する忍耐力も弱くなっているのかもしれない、と美奈は考えた。
 美奈は歯を食いしばり、じっと激痛に耐えていた。
 右利きの卑美子は、彫るときには下絵の右側から彫り始める。これは彫るときに手が擦れて、転写した下絵が消えないようにするための配慮でもある。完璧といっていいほどうまく転写ができたのだから、あとはこの下絵を信じ、下絵の通り彫ればよい。
 卑美子はときどき彫っているとき、下絵の線とは変えて彫ることがある。そのときは、筆ペンで絵を描き直し、十分検討の上、そのほうがよければ、新たに描き直した線に沿って彫る。
 しかし、今回は下絵通りに、変更しないで彫ることに決めていた。先ほども述べたように、人間の身体は、平面ではなく、凹凸があるので、場合によっては転写した絵を肌の曲面に合わせて描き直さなければならないことがある。今回の場合は、いろいろな角度から転写された絵を見直してみたが、修正しなければならない必要はなかった。
 休憩をはさんで、三時間ほどで観音像の筋彫りが完成した。痛みには我慢強い美奈も、さすがに背中の筋彫りはこたえた。腕や太股より格段に痛かった。
 特に、背骨の上がきつかった。尾てい骨のあたりも痛かった。
 しばらく休憩ということで、ほっとした。
 次は左の臀部に大きな龍の頭を転写した。龍の右前足は転写ではなく、直接筆ペンで描き、その上を肌用のペンでなぞった。お尻の右の方は、宝珠を持った龍の左前足だった。そこまで転写すると、またベッドに横になった。横になる前に、美奈は姿見で転写された龍を見た。お尻の左側にある龍の頭は、座るとき、お尻の下になってしまう。お尻に敷くなんて、龍に対して申し訳がない気持ちだった。
 今度はお尻の肉が豊かなところなので、背中ほどの痛みはなかった。
 龍の頭と前足は一時間足らずで彫り終わった。
 これまでは転写だったが、龍の胴体は直接筆ペンで肌に描いた。卑美子は美奈に気をつけの姿勢を続けるように命じた。龍をどのように観音菩薩の周りに巻こうか、卑美子は描いては消し、消しては描いた。結局はほぼ原図の通りにした。
 筆ペンのままではすぐ消えてしまうので、筆ペンで描いた上を、肌用の紫のペンでなぞった。そのペンは、手術でマーキングするときに使うもので、肌への刺激が少ない安全なインクを使用してあるそうだ。ときには筆ペンの輪郭を何度も描き直し、その上で肌用のペンを使った。その線が一生消えずに肌に刻み込まれるので、卑美子は真剣そのものだった。
 手描きのラインに沿って、卑美子は細心の注意を払い、美奈の肌に龍の輪郭を刻みつけた。
「はい、今日はここまでにしておきましょう」という卑美子の言葉に、美奈はほっと一息ついた。さすがにタトゥーが大好きな美奈でも、背中に筋彫り六時間、というのは、我慢の限界だった。

 その後、美奈は隔週の月曜日の夜に、時間をとってもらった。時間はレギュラーの三時間ではなく、四時間、五時間と延長することもあった。卑美子のスタジオは、ラストは六時から九時までで、九時以降はあまり予約を受け付けない。だから、そのときの都合に合わせ、一〇時、一一時と延長することも可能だった。
 オアシスでの仕事は、金土日なので、間に三日あれば、背中の傷は、ある程度回復する。美奈はその三日間で、できるだけ傷が癒えるよう、可能な限りの努力をした。
 それでも、四日めに出勤するときは、まだ肌にかさぶたがついたままだ。美奈は客にお願いし、なるべくかさぶたに影響を与えないように仕事をした。美奈には、タトゥーファンの指名客が多いので、たいていは美奈を思いやってくれた。それに一回の施術で彫れる面積は小さいので、あまり大きな負担にはならなかった。

初回には彫れなかった龍の鱗の筋彫りを、二回めで終えた。右の臀部には宝珠を持った龍の前足と胴の一部が彫られているだけで、絵のない部分が多く残っているので、牡丹の花を彫り足した。左側の龍の頭の周りにも牡丹を彫り足し、結局左右とも大腿部の牡丹を上に向かって増やす格好となった。お尻から腰の側面、太股までほぼ全面が多彩な牡丹の花で埋まってしまった。
 背中もまだ絵が描かれていないところに、何輪もの牡丹の花を散らした。美奈の背面は、色が入れば、生まれついての白い肌の色は、ほとんど残っていない状態になりそうだった。
 左肩には、牡丹の花弁の中に、小さく「卑美子」と、彫り師の名前が刻まれた。
 筋彫りが終わると、いよいよ色を入れることになった。
 まず、観音菩薩の髪などの、黒い部分を先に入れてから、他の色を入れる。色は龍から入れることになった。最初は原画通り青い龍にするつもりだったが、結局千尋と同じ、緑色にした。緑色といっても、濃淡がある何種類かの緑を、巧みなグラデーションをつけて入れたのだった。龍の蛇腹には、濃淡をつけた赤を入れた。

 年が明けた。兄から正月は帰るのだろう、と問われたが、タトゥーが見つかるとまずいので、また会社の人たちと旅行に行くと嘘をついてしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、タトゥーが見つかることは避けたかった。兄には「あまり帰らないと、勝利がおまえのことを忘れてしまうぞ」と文句を言われた。
 また、成人式は会社で行うので、そちらに参加すると断った。晴れ着など着たら、首筋のタトゥーが丸見えになってしまう。マルニシ商会で成人式を行うというのは、嘘ではなかった。資料室の閑職に追いやられたとはいえ、同僚たちと完全に交際を絶ってしまったわけではない。美奈の美しいタトゥーは、同僚の女の子たちには、けっこう人気があった。だから、今年成人を迎える同僚たちと会社の成人式には参加することにした。式にはスーツ姿で参加した。多くが出身地の成人式に出席したので、会社の成人式に参加した社員は少なかった。会社も地元の成人式を優先することを咎めなかった。

 ルミがタトゥーの施術を見たいというので、卑美子の許可を取り、ときどき一緒に見学に来たこともあった。
 ルミは高校時代はよく漫画を描いていて、何度か漫画雑誌の新人賞に投稿したことがある。少女雑誌だけではなく、少年雑誌にも投稿した。絵は光るものを持っており、高校生のレベルを大きく超えているが、ストーリーの工夫が今一つで、読者を引きつける魅力に欠けると評価された。ストーリーに工夫が加われば、非常に完成度の高い作品になるから、頑張ってほしい、と選者に励まされた。ルミは物語の構成力をもっと身につけなくては、と反省した。
 親からは漫画を描く情熱のせめて半分でも勉強に注いでくれれば、としょっちゅう叱られていたそうだ。
 今は漫画は描いていないが、オアシスを辞めたらもう一度漫画家にチャレンジしてみたい、という夢を持っていた。
「でも、タトゥーアーティスト、という仕事にも憧れます。もともと絵を描くことが大好きだし、タトゥーも大好きだから、最近は漫画家よりタトゥーアーティストになってみたいという気持ちもあります」
 マシンの針で肌にインクを刺し入れられ、どんどんきれいに染まっていく美奈の背中を見ながら、ルミが卑美子に語った。
 ルミはタトゥーの下絵をいくつもデザインし、卑美子に見てもらったこともある。
「さすがに漫画を描いていただけあって、いい線行ってますね。今すぐには弟子を取るつもりはないけれど、そのうちアシスタントをお願いするかもしれませんよ」と卑美子はルミの絵を評価した。
 ルミは当分は今の仕事を辞める気はないけれども、いずれチャンスがあれば、タトゥーアーティストにチャレンジしてみたい、という意志を卑美子に伝えた。

 ある日、彫ってもらっている間に、美奈は尿意を催してトイレに行きたくなった。休憩となり、美奈は上着を羽織らず、慌てて下着姿のまま施術室を出た。ちょうどそのとき、トイレから出てきた、次の予約の女性客と鉢合わせになった。その日は卑美子は夜の九時から予約を入れていた。
その女性は、「こんばんは」と美奈に挨拶をした。美奈は全裸に近い格好をしていたので、相手が女性とはいえ、少しはにかんで、「こんばんは」と挨拶を返した。
「きれいな観音様ですね」とその女性が声をかけた。
「ちょっと見せてください」
 その女性はじっと美奈の背中を見つめた。
「さすがに卑美子先生、素晴らしいです。私も今、背中に天女を彫ってもらっていますけど、卑美子先生の絵は本当にきれいですね。私、先生に憧れちゃいます」
 美奈はしばらく彼女に背中を見せていたが、「ごめんなさい、ちょっとトイレに行かせてください。おしっこ、漏れちゃいそうで」と訴えた。実際もう我慢できなくなっていた。それに、裸に近い格好だったので、寒くなってきた。
「あ、ごめんなさい」
 彼女はお詫びと礼を言って、待合室に戻っていった。
 美奈がその日の施術を終え、施術室から出て行くとき、さっきの女性が待合室から出てきて、「さっきはありがとうございました。トイレに行きたいところ、引き留めちゃって、すみません。またお会いできるといいですね」とわざわざ挨拶をしてくれた。
 美奈は丁重な挨拶に恐縮して、「どうもご丁寧に。今度会ったときは、私に天女、見せてくださいね」と返礼した。
 その女性とは騎龍観音が完成するまで、会うことはなかった。しかし、後に再会することになる。

 背中の騎龍観音は半年かかり、翌年四月に完成した。
 美奈はマルニシ商会を三月末で退職した。資料室の長田が定年で退職し、資料室が廃止されたためだった。もう美奈の行き場がなくなり、これ見よがしに退職を迫られた。言われるままに退職するのもしゃくだとも思ったが、さりとて闘争してまで残るほど魅力がある職場でもない。それで年度末で美奈も退職した。退職金は、出るには出たが、わずかなものだった。

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