2月も今日で終わり、明日からはいよいよ3月です。
最近は暖かくなりました
。
昨日、国道19号線で春日井市の郊外を走っていたら![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0033.gif)
、道の脇にある表示板の気温表示が12℃となっていました。少し前は0℃とか-2℃でしたが。
ところで、昨日、このブログの閲覧数が、100,000PVを超えました![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0140.gif)
。訪問者数も55,000IPです。多くの方に見ていただけ、嬉しいですが、さらに楽しいページ作りをしたいと思っています。よろしくお願いします
。
今回は『幻影2 荒原の墓標』7回目の掲載です。
6
夜遅く、美奈は 「これから行ってもいいですか?」 と三浦から電話を受けた。美奈にとっては、断る理由など、全くなかった。
アイリと別れてから、恵は美奈と同じように、へその下に牡丹と蝶を入れた。左肩の蝶、左の太股のマーガレットに続く、三つめのタトゥーだった。さくらは恵の肌に、フリーハンドで下絵を描いた。牡丹の花は何百枚と描いていて、描き慣れているものの、さくらは真剣にペンを運んだ。
下絵が完成し、いよいよ施術に取りかかった。途中から、仕事を終えたトヨがさくらの施術を見に来た。
四時間程度で、赤い牡丹と青っぽい蝶は完成した。和彫りのような様式化した牡丹ではなく、実物を写し取ったような、美しい花だった。恵も美奈の腕や太股に彫られている、写実的な牡丹を希望していた。
「うまいわ。それに彫るのが少し早くなったし。夏ごろには、さくらもプロとしての許しが出ると思うよ。これは、私もうかうかしていられないな」
トヨは弟弟子のさくらを褒めた。卑美子は来年には子供を産むつもりで、年内にトヨ、さくらの二人でもスタジオを運営できる体制を作ろうとしている。だから、早くさくらを一人前のタトゥーアーティストに育て上げたいと思っている。さくらなら、その期待に十分応えてくれそうだ。
恵をマンションまで送っていったので、美奈は少し前に自宅に戻ったところだった。三浦は今篠木署にいるとのことだ。篠木署からなら、三〇分とかからない。美奈は大急ぎでシャワーを浴び、着替えをした。
しばらくしてチャイムが鳴った。三浦だった。美奈は三浦を部屋の中に招じ入れた。
「またタトゥーに絡む事件が起きたのですか?」
美奈はコーヒーを淹れながら三浦に尋ねた。
「ああ。今日の早朝、犬を散歩させていた人が、浅宮公園で、女性の遺体を見つけましてね。死因は絞殺。背中に大きな鳳凰のタトゥーがあったので、その写真をさくらさんに見てもらったんですよ」
「そうだったんですか。それでまた鳥居さんと一緒に捜査をすることになったんですね」
「ええ。鳥居さんとは前回、コンビを組んで、人柄はわかっていますからね。僕も最初はでーれーおそぎゃあ(とても恐ろしい)人と組まされたもんだと思いましたが、今では鳥居さんの良さをよくわかっています」
三浦は鳥居がよく使う名古屋弁を真似た。その言い方に、美奈も笑ってしまった。美奈も初めて鳥居に会ったときは、この人、刑事というよりやくざじゃないのかな、というような怖さを感じた。しかし、何度も会ううちに、鳥居は気むずかしそうに見えても、実は気さくな、優しい人だということがわかってきた。かつて、手がつけられない不良だった卑美子や彼女の夫を更生させたのも、鳥居だった。だから卑美子は鳥居には恩義を感じている。
「さくらさんがその被害者のタトゥーが、岐阜の冥さんの手によるものだと教えてくれたので、被害者の身元がわかりました。徳山久美という人でした」
三浦は美奈が淹れてくれたコーヒーをすすりながら言った。
「相変わらず、美奈さんが淹れてくれたコーヒーはうまいですね」
三浦がコーヒーを褒めたとき、美奈は別のことを考えていた。背中に鳳凰のタトゥーをした徳山久美が絞殺された。どこかで聞いたことがある。どこでだったかな。そう心の中で呟いたときに思い出した。
「そうだ。北村弘樹の『鳳凰殺人事件』だわ」
美奈が突然叫んだので、三浦は驚いた。
「三浦さん、その被害者の名前、北村弘樹さんが書いた小説と同じなのよ。背中に鳳凰のタトゥーがあるということも」
「え? それ、どういうことですか?」
美奈は一瞬、なじみ客である北村のことを告げるのをためらった。しかし、北村の『鳳凰殺人事件』はけっこう売れており、どのみち他の読者から指摘されるだろうと思った。だから、美奈も類似性に気づいた一読者として、三浦に話すことにした。もちろん、北村がミクの常連であることは話さなかった。少し三浦に申し訳ない気もしたが。
美奈は『鳳凰殺人事件』の本を三浦に示し、作中に登場する“徳山久美”のことを話した。
「なるほど。作品の中では東京都内の公園の近くで絞殺されたことになっていますが、よく似ていますね。作中の久美は美奈さんと同じく、お寺の娘となってますが、美奈さんがモデルみたいですね。実際には父親はサラリーマンです」
何となく三浦は北村が美奈の客であることに、気づいたようだった。しかし、そのことについては、お互い、それ以上触れなかった。
「明日の捜査会議で、このことも提案してみます。この本、しばらく貸してもらえますか?」
「はい、どうぞ。でも、この作品が書かれたのは、今年の初めごろだったので、たぶん、偶然が重なったのだと思います。それとも、誰かがこの作品を真似て事件を起こしたのかもしれません」
美奈は北村が事件に無関係ならよいが、と祈った。もうこれ以上自分の客が事件とかかわってほしくないと思った。
「いちおう北村さんには、アリバイを確認してみます。一読者から類似性の指摘があったということにして、美奈さんの名前は出しませんから、安心してください」
そこまで言うと、三浦は捜査本部に戻ろうとした。
「でも、もう捜査本部には誰もいないんでしょう。今日はもう遅いから、よかったら今夜はうちでゆっくりしていきませんか? 間もなく日付も変わりますし」
美奈ははにかみながら、三浦に尋ねた。三浦はこれまで事件の関係で一度、プライベートで一度美奈の家を訪れたことがある。しかし、泊まっていったことはなかった。
「しかし、女性の家に突然来て泊まるというわけにも。それに、着替えも持ってきてないので……」
「そんなこと、気になさらないで。自宅だと思って、ゆっくりくつろいでください。明日も捜査で多忙になると思いますから、あまり迷惑はかけませんわ。警察署の仮眠室よりは、よく休めますよ。でも、やはり全身いれずみのソープレディーのところに泊まるのは、いけないかしら」
最後に美奈は少し寂しそうな顔をした。それは演技でも何でもなかったが、三浦はその寂しそうな顔を見て、泊まっていくことにした。
その夜、初めて二人は交わった。以前、三浦がオアシスに客として来たことがあった。しかしそのときは美奈は三浦の胸の中で泣くばかりで、コンパニオンとしての仕事が果たせなかった。その日は、結局時間まで、二人はベッドに腰掛けたまま、話をしていた。
今は美奈の守護霊となっている千尋の遺体が発見された現場で、初めて三浦に出会って以来、片時も忘れることがなかった三浦と、とうとう身体を交え、美奈は感激で涙が止めどなく流れた。
美奈はオアシスに勤める前は、性的に潔癖すぎるぐらいだった。それがソープランドのコンパニオンとして働いているうちに、性に対する潔癖性やストイックさは失われていった。しかし、性に対してだらしがなくなったわけではない。コンパニオンとしての対応は、あくまで仕事として割り切り、心まで性奴と化すことはなかった。
もちろんコンパニオンとしては、真心でもって客に尽くしていた。だからこそ、ミクはオアシスのナンバーワンに登り詰めることができたのだ。それでもコンパニオンとしての対応と、心から愛する人に対する姿勢は、全く違っていた。その夜、美奈は今までにないほどに燃えていた。仕事を離れたときの、清楚な美奈のイメージからは考えられないほどの乱れようだった。しかしそれは淫らなものではなく、崇高な愛の表現だった。
ただ、三浦は殺人事件の捜査で、多忙な身なので、あまり夜遅くまで無理をさせなかった。
三浦は翌朝早く美奈の家を出て、着替えのために名古屋市北区の自分のアパートに帰っていった。
最近は暖かくなりました
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昨日、国道19号線で春日井市の郊外を走っていたら
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ところで、昨日、このブログの閲覧数が、100,000PVを超えました
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今回は『幻影2 荒原の墓標』7回目の掲載です。
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夜遅く、美奈は 「これから行ってもいいですか?」 と三浦から電話を受けた。美奈にとっては、断る理由など、全くなかった。
アイリと別れてから、恵は美奈と同じように、へその下に牡丹と蝶を入れた。左肩の蝶、左の太股のマーガレットに続く、三つめのタトゥーだった。さくらは恵の肌に、フリーハンドで下絵を描いた。牡丹の花は何百枚と描いていて、描き慣れているものの、さくらは真剣にペンを運んだ。
下絵が完成し、いよいよ施術に取りかかった。途中から、仕事を終えたトヨがさくらの施術を見に来た。
四時間程度で、赤い牡丹と青っぽい蝶は完成した。和彫りのような様式化した牡丹ではなく、実物を写し取ったような、美しい花だった。恵も美奈の腕や太股に彫られている、写実的な牡丹を希望していた。
「うまいわ。それに彫るのが少し早くなったし。夏ごろには、さくらもプロとしての許しが出ると思うよ。これは、私もうかうかしていられないな」
トヨは弟弟子のさくらを褒めた。卑美子は来年には子供を産むつもりで、年内にトヨ、さくらの二人でもスタジオを運営できる体制を作ろうとしている。だから、早くさくらを一人前のタトゥーアーティストに育て上げたいと思っている。さくらなら、その期待に十分応えてくれそうだ。
恵をマンションまで送っていったので、美奈は少し前に自宅に戻ったところだった。三浦は今篠木署にいるとのことだ。篠木署からなら、三〇分とかからない。美奈は大急ぎでシャワーを浴び、着替えをした。
しばらくしてチャイムが鳴った。三浦だった。美奈は三浦を部屋の中に招じ入れた。
「またタトゥーに絡む事件が起きたのですか?」
美奈はコーヒーを淹れながら三浦に尋ねた。
「ああ。今日の早朝、犬を散歩させていた人が、浅宮公園で、女性の遺体を見つけましてね。死因は絞殺。背中に大きな鳳凰のタトゥーがあったので、その写真をさくらさんに見てもらったんですよ」
「そうだったんですか。それでまた鳥居さんと一緒に捜査をすることになったんですね」
「ええ。鳥居さんとは前回、コンビを組んで、人柄はわかっていますからね。僕も最初はでーれーおそぎゃあ(とても恐ろしい)人と組まされたもんだと思いましたが、今では鳥居さんの良さをよくわかっています」
三浦は鳥居がよく使う名古屋弁を真似た。その言い方に、美奈も笑ってしまった。美奈も初めて鳥居に会ったときは、この人、刑事というよりやくざじゃないのかな、というような怖さを感じた。しかし、何度も会ううちに、鳥居は気むずかしそうに見えても、実は気さくな、優しい人だということがわかってきた。かつて、手がつけられない不良だった卑美子や彼女の夫を更生させたのも、鳥居だった。だから卑美子は鳥居には恩義を感じている。
「さくらさんがその被害者のタトゥーが、岐阜の冥さんの手によるものだと教えてくれたので、被害者の身元がわかりました。徳山久美という人でした」
三浦は美奈が淹れてくれたコーヒーをすすりながら言った。
「相変わらず、美奈さんが淹れてくれたコーヒーはうまいですね」
三浦がコーヒーを褒めたとき、美奈は別のことを考えていた。背中に鳳凰のタトゥーをした徳山久美が絞殺された。どこかで聞いたことがある。どこでだったかな。そう心の中で呟いたときに思い出した。
「そうだ。北村弘樹の『鳳凰殺人事件』だわ」
美奈が突然叫んだので、三浦は驚いた。
「三浦さん、その被害者の名前、北村弘樹さんが書いた小説と同じなのよ。背中に鳳凰のタトゥーがあるということも」
「え? それ、どういうことですか?」
美奈は一瞬、なじみ客である北村のことを告げるのをためらった。しかし、北村の『鳳凰殺人事件』はけっこう売れており、どのみち他の読者から指摘されるだろうと思った。だから、美奈も類似性に気づいた一読者として、三浦に話すことにした。もちろん、北村がミクの常連であることは話さなかった。少し三浦に申し訳ない気もしたが。
美奈は『鳳凰殺人事件』の本を三浦に示し、作中に登場する“徳山久美”のことを話した。
「なるほど。作品の中では東京都内の公園の近くで絞殺されたことになっていますが、よく似ていますね。作中の久美は美奈さんと同じく、お寺の娘となってますが、美奈さんがモデルみたいですね。実際には父親はサラリーマンです」
何となく三浦は北村が美奈の客であることに、気づいたようだった。しかし、そのことについては、お互い、それ以上触れなかった。
「明日の捜査会議で、このことも提案してみます。この本、しばらく貸してもらえますか?」
「はい、どうぞ。でも、この作品が書かれたのは、今年の初めごろだったので、たぶん、偶然が重なったのだと思います。それとも、誰かがこの作品を真似て事件を起こしたのかもしれません」
美奈は北村が事件に無関係ならよいが、と祈った。もうこれ以上自分の客が事件とかかわってほしくないと思った。
「いちおう北村さんには、アリバイを確認してみます。一読者から類似性の指摘があったということにして、美奈さんの名前は出しませんから、安心してください」
そこまで言うと、三浦は捜査本部に戻ろうとした。
「でも、もう捜査本部には誰もいないんでしょう。今日はもう遅いから、よかったら今夜はうちでゆっくりしていきませんか? 間もなく日付も変わりますし」
美奈ははにかみながら、三浦に尋ねた。三浦はこれまで事件の関係で一度、プライベートで一度美奈の家を訪れたことがある。しかし、泊まっていったことはなかった。
「しかし、女性の家に突然来て泊まるというわけにも。それに、着替えも持ってきてないので……」
「そんなこと、気になさらないで。自宅だと思って、ゆっくりくつろいでください。明日も捜査で多忙になると思いますから、あまり迷惑はかけませんわ。警察署の仮眠室よりは、よく休めますよ。でも、やはり全身いれずみのソープレディーのところに泊まるのは、いけないかしら」
最後に美奈は少し寂しそうな顔をした。それは演技でも何でもなかったが、三浦はその寂しそうな顔を見て、泊まっていくことにした。
その夜、初めて二人は交わった。以前、三浦がオアシスに客として来たことがあった。しかしそのときは美奈は三浦の胸の中で泣くばかりで、コンパニオンとしての仕事が果たせなかった。その日は、結局時間まで、二人はベッドに腰掛けたまま、話をしていた。
今は美奈の守護霊となっている千尋の遺体が発見された現場で、初めて三浦に出会って以来、片時も忘れることがなかった三浦と、とうとう身体を交え、美奈は感激で涙が止めどなく流れた。
美奈はオアシスに勤める前は、性的に潔癖すぎるぐらいだった。それがソープランドのコンパニオンとして働いているうちに、性に対する潔癖性やストイックさは失われていった。しかし、性に対してだらしがなくなったわけではない。コンパニオンとしての対応は、あくまで仕事として割り切り、心まで性奴と化すことはなかった。
もちろんコンパニオンとしては、真心でもって客に尽くしていた。だからこそ、ミクはオアシスのナンバーワンに登り詰めることができたのだ。それでもコンパニオンとしての対応と、心から愛する人に対する姿勢は、全く違っていた。その夜、美奈は今までにないほどに燃えていた。仕事を離れたときの、清楚な美奈のイメージからは考えられないほどの乱れようだった。しかしそれは淫らなものではなく、崇高な愛の表現だった。
ただ、三浦は殺人事件の捜査で、多忙な身なので、あまり夜遅くまで無理をさせなかった。
三浦は翌朝早く美奈の家を出て、着替えのために名古屋市北区の自分のアパートに帰っていった。