今朝、うちから最も近いガソリンスタンドの前を通ったら、レギュラーガソリン166円になっていました
。消費税アップ、環境税導入で、ますます値上がりしています。
もう徹底したエコ運転をするしかない、と思いましたが、他の車に迷惑をかけてまでのエコ運転は、エゴ運転になりそうです。
今朝も、制限時速50km、片道1車線、追い越し禁止の道で、前のトラック
が時速30kmでのんびり走っていた![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/car2_truck.gif)
ので、さすがにいらつきました
。渋滞で前が詰まっている![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0033.gif)
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のなら仕方ないですが、そうでもありませんでした。
今回は『幻影2 荒原の墓標』第15回目です。今回から第3章に入りました。今回は餅分総本店さんのことが書いてありますが、文中で名前を出すことは事前に了承をいただいています。餅分さんのういろは、私の彼女も大好物です![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/m_0140.gif)
。
第三章 兄の失踪
1
矢田川での事件が起こり、しばらくしてから、北村がオアシスにやってきた。
「いや、ひどい目に遭いましたよ。アリバイがあっても、何となく話しづらかったので、じきに真犯人が見つかり、無罪放免になるだろうと思っていましたが、まだ真犯人は捕まらないようですね。まあ、貴重な留置場体験ができたから、ぜひとも作品に活かしたいですよ」
「あのときは私も余計なことをして、すみませんでした。高村さんのプライバシーを暴いたみたいで。でも、新聞に、高村さんが重要参考人と出ていたので、びっくりして警察に電話したのです。新聞では匿名になっていましたが、高村さんだということがすぐわかりましたので」
「でも、結果的にミクさんが証言してくれて、助かりましたよ。約束通り、警察もプライバシーは守ってくれたようで、あれからマスコミの取材はあっても、変な噂は立ちませんでした」
「私は二月にあることないこと、派手に書き立てられてますし、そんな私が高村さんと一緒にいたことを嗅ぎつけられると、また何を書かれるかわかったもんじゃないですから。私は気にしませんが、高村さんには迷惑がかかります。だから、刑事さんには、秘密にしてくれるよう、よくお願いしておきました」
「ミクさんのその配慮、非常に嬉しかったですよ。しかし、こうまで僕の小説通りに殺人が起きるだなんて、どういうことでしょうね。書いた僕自身が気持ち悪いですよ。まさか、また事件が起こるんじゃないでしょうかね? あの作品にはあと二つ殺人がありますから」
「まさか、いくら何でも、そんなことは」
美奈はそう言いながらも、しきりといやな予感がした。作品通りの殺人事件が起こりそうな予感だ。
『荒原の墓標』は、東京と奈良県橿原(かしはら)市、明日香村などの史跡を舞台とした、古代伝説にまつわる猟奇的な連続殺人事件を、北村が創作した名探偵榛名敏彦(はるなとしひこ)が鮮やかに解決する物語だ。恋人と古都の旅行を楽しんでいた榛名が、連続殺人事件に巻き込まれる、という設定である。
「以前、南木曽岳で守護霊の声を聞いたという話をしましたが、ひょっとしたら、それが関係しているのじゃないでしょうか? あれは守護霊ではなく、とんでもない悪霊の声だったんじゃないかという……」
北村は恐ろしくて、最後まで言えなかった。そして美奈もそれに同感だった。美奈は心の中で、 「千尋さん、どうなんでしょうか? やはりあれは悪霊による事件なんでしょうか?」 と尋ねてみた。しかし、千尋からの反応はなかった。
仕事を終えてから、美奈は恵、美貴、裕子のいつものメンバーで、なじみのファミレスで歓談の時間を持った。
恵はさくらが描いた龍と牡丹の絵がとても気に入ったので、さっそく来週から背中に彫ってもらうことにした、と報告した。
「右肩のあたりに龍の頭を入れて、背中を龍の胴体がくねり、お尻の左側に尻尾が来るの。龍にはいくつも牡丹の花を重ねるわ。左肩の卑美子先生の蝶とも、ばっちりバランスを取ってもらうよ」
恵はおおよその構図を説明した。
「わぁ、かっこいいですね。あたしはあと一つだけ、さくらに入れてもらって、それで終わりにするつもり。でも、今度は蓮より少し大きめの、きれいな絵を入れたいな」
「私はどうしようかな。最初に目立つ手首にやっちゃったんだから、もっと入れたってかまわないかな、なんて思ってますけど。どうせ手首は長袖着ても見えちゃって、私がタトゥーしたこと、友達にばれちゃったんだから。今度入れるとしたら、太股に少し大きめのにしようと思っています。またさくらさんと相談してみます。この前見せてもらった、鯉に牡丹を散らした絵、とてもきれいでした」
美貴と裕子も自分たちの思いを口にした。無口でおとなしい裕子が手首まで入れることはどうかな、と美奈は最初心配していた。しかし、リストカットの忌まわしい呪縛から解放されたためか、タトゥーを入れてから明るく積極的になった裕子を見て、美奈はよかったと安心した。性格が積極的になったためか、それまで成績下位に甘んじていた裕子の指名客が、だんだん増えてきた。
そのことを最も喜んだのは、彫った本人であるさくらだった。さくらも相談を受けたとき、美奈と同じ心配を抱いたが、 「リスカのいやな思い出を吹っ切って、自分自身を変えていきたい」 という裕子の強い決意を受け入れて、施術したのだった。
裕子が明るくなったのは、もちろん本人の努力によるものであり、単にタトゥーを入れたおかげではない。ただ、大きな苦痛に耐えてタトゥーを入れたことが、裕子に自分の引っ込み思案の性格を変えるのだ、という強い決意をさせたことはいえるかもしれない。
美奈は新しい友との歓談を楽しんだ。この時間も、あと半年と続かない。でも、たとえ私がオアシスを辞めても、この交友はずっと続けたいと思った。
美奈が辞めるという決心は、恵のほか、アドバイザーの玲奈には伝えてあった。店のナンバーワンコンパニオンであるミクが辞めることは大きな痛手だが、玲奈は三浦との結婚を決意した美奈を祝福してくれた。たとえそれが内縁関係であって、正式な婚姻ではないとしても。玲奈は繁藤の事件を通じて、三浦のことを知っている。その上で、年内はよろしくお願いします、と玲奈は改めて美奈に依頼した。店長の田川には、玲奈を通して、美奈の意向は伝わっている。
三人と別れ、美奈は自宅でベッドに入った。眠りに入る前、うとうとしていると、千尋が現れた。
「美奈さん、さっきは北村先生本人がみえたので、返事をしなくてごめんなさい。最近北村先生は、霊的な感覚が鋭敏になっているので、私の声が聞こえてしまう恐れがあったのです。
事件については、美奈さんが考えている通りです。北村先生には、よくない霊が憑いています。ただ、いつも憑いているわけではなく、ときどき作品を書いているときに、北村先生に影響を与え、登場人物の名前を使わせているようなんです」
「すると、まだこの先も物語の通りの殺人事件が起こるのですね?」
「はい、必ず起こります。しかし、強力な悪想念を持った霊が介在しているので、それを防ぐのは不可能です。たとえ私の力をもってしても。その霊は巧妙に自分の力をコントロールしているので、私にもいつ、どこで何をするのか、予想もつきません。今はこうして警告するのが精一杯です」
美奈はこのことを三浦に報告しようと思ったが、やめておいた。今後、どういう展開になるか、守護霊の千尋にさえ、予想ができないのだ。
作品にある佐藤義男、大岩康之が危ないので、今のうちから保護するように、といっても、警察は取り合ってくれないだろう。三浦は捜査本部でそのことに危惧を抱いている、と発言しているが、そんな雲をつかむような話で警察が動くわけにはいかないと、一蹴されたそうだ。その佐藤義男、大岩康之がどこの誰なのか、それを調べるのも大変だ。いらぬことを言って、捜査を混乱させることはできない。だが、予告通りの殺人が起こることだけは確かなのだ。わかっていて、それを防ぐ手立てがないことが、美奈は歯がゆかった。
美奈は久しぶりに名古屋市天白区(てんぱくく)に住む姉を訪ねた。真美は天白区役所の近くの、同じ宗派の寺に嫁いでいる。美奈は姉の寺に行く前に、餅文(もちぶん)総本店という和菓子屋の元八事(もとやごと)店に寄った。美奈はここのういろが大好きで、姉のところに行くときは必ず立ち寄っていく。一六五九年創業という老舗だ。名古屋名物の外郎(ういろう)といえば、大手の青柳総本家、大須ういろなどがすぐに思い出されるが、美奈は餅文のういろが好きだった。姪の愛もういろには目がない。まだ幼く、喉に詰まらせるといけないので、真美は小さく切って与えているが、もっと大きいものを食べたがる。葵も餅文のういろが好きなので、静岡に発送を依頼した。ちょうどお中元のセール中で、送料を無料にしてくれた。
美奈は以前、殺人事件に巻き込まれたため、実家の寺の住職をしている兄に、タトゥーをしていることや、ソープランドで働いていることを知られてしまった。烈火のごとく怒った兄の勝政は、 「おまえの汚らわしい顔など見たくはない。もう二度と帰ってくるな!!」 と美奈を罵倒し、勘当した。
それでも真美は美奈のことをかばってくれた。真美は何か困ったことがあれば、いつでも連絡してほしい、と美奈に言ってくれた。
先月下旬に、真美が二番目の子供を懐妊したという連絡を受け、美奈は真美に会いに行くことにした。電話ではよく話をするものの、兄に勘当されてから、真美に会うのは初めてだった。今妊娠一一週めだ。
「お姉ちゃん、こんにちは」
美奈は姉の嫁ぎ先の清蓮寺(せいれんじ)の庭先にいた姉に声をかけた。二歳の愛も一緒だ。この前会ったときより、少し大きくなっている。
「あら、美奈、いらっしゃい。あんなことがあって心配してたけど、元気そうでよかった。髪、少し伸ばしたの。メガネも変えたのね。どちらも似合ってるよ」
これまで美奈はシルバーのメタルフレームだったが、最近細身の、ピンクがかったパープルのセルフレームのメガネに変えた。服とのコーディネートにより、メガネも使い分けている。ショートカットだった髪も、肩の近くまで伸ばしている。髪は染めていない。
「愛ちゃん、これ、お土産よ。餅文さんのういろ」
「まあ、いつもわるいわね。あとで切ってあげるから、ちょっと待ってなさい」
真美はういろを見つけて食べたがる愛に言い聞かせた。
真美と美奈は寺の居住区のキッチンに入った。広い本堂では落ち着かない。愛は最近よくしゃべるようになり、新しく買ってもらった絵本を見ては、盛んに 「これ、なにい?」 と美奈に尋ねた。知識欲が旺盛のようだ。美奈は 「これはおうち、これは自動車、ブーブよ。これは犬、わんわんだよ。愛ちゃんのとこにも、わんわんいるでしょう」 などと愛に答えてやった。清蓮寺では茶色の雑種を飼っている。寺に迷い込んだ野良の子犬が居着いて、家族になついてしまったので、追い出すのも忍びないと、飼うことにしたのだった。ゴロという名前だ。ごろごろ寝てばかりいるからゴロなのだそうだ。
愛の相手をしている間に、真美が冷たいお茶と一緒に、美奈の土産のういろを切って持ってきてくれた。愛には小さく切ってある。愛が手づかみで食べようとしたので、真美が 「そんな、手で。フォークで食べなさい」 と制した。ういろには黒文字や爪楊枝のほうが合っているが、愛には幼児用の安全なフォークを手渡し、真美が手を添えて食べさせた。
「お姉ちゃん、また赤ちゃんできたんだって」
「うん。今度は男の子がいいな」
「まだ性別はわからないんだね?」
「はっきり確定できるのはもう少し先になるそうだけど。旦那は次は男の子を欲しがっているけど、私はどっちでもいい。でも、どっちかといわれると、今度は男の子かな。生まれるのは、来年の二月ごろの予定よ」
真美の夫は住職であると同時に、宗派が運営している私立高校の教師でもあった。教壇に立つので、真美の夫は蓄髪をしている。教師の仕事が多忙なため、寺の行事は近くに住んでいる弟に任せることが多い。
しばらく姉の懐妊のことや体調の話をしていたが、切りがいいところで、美奈は話題を変えた。
「お姉ちゃん、実は私、今結婚を考えているの」
「え、美奈、そうなの? 全身にいれずみしててもいいと言ってくれる男(ひと)がいるの? 前みたいに、だまされたりしない?」
真美は気のいい美奈が、またおかしな男にだまされるんじゃないかと心配だった。
「大丈夫よ。今度の人は、絶対間違いないから。だって、この前の事件のとき、お世話になった刑事さんなんだから。お姉ちゃんも会ったことあるでしょう、三浦さん」
相手が刑事と聞いて、真美はまた別の面で心配になった。警察官は、結婚相手にも非常にやかましいということを、真美も知っていた。今では合法であり、何の問題もない政党である共産党関係者が相手である、というだけでも、なかなか認められない。本人が共産党員ではなく、家族に党員がいても難しいという。ましてや親族に過激な左翼や暴力団関係者がいれば、絶対無理である。真美はそう聞いていた。
もちろん美奈は左翼でも暴力団関係者でもない、真面目な女性だ。しかし、全身にタトゥーを入れてしまい、今はソープランドで働いている。
真美は、タトゥーはもう消せないとしても、風俗の店で働くことだけはやめてほしいと思っている。しかし、これだけ大きくタトゥーをしてしまったので、なかなか他の仕事に就けないと美奈が言うので、やむを得ないかと諦めていた。美奈はハローワークや就職情報誌などで職探しをしたことを話していた。
「三浦さんはタトゥーをしていても、一緒になってくれると言っているわ。もちろん私、結婚する前に、風俗の仕事は辞めます」
「でも、いくら本人がいいと言っても、周りが許さないでしょう? 警察の上司とか、家族の人が」
「三浦さんには反対する家族はいないし、たとえそのために昇進の望みが絶たれても、一生ヒラの刑事として、地道に犯罪を追いかけていくと言っているわ」
美奈も家族が反対しないかを三浦に問い質していた。
そのとき三浦が話したことは、三浦には今家族といえる人はいないとのことだった。
父親は交番勤務の巡査だったが、三浦が中学生のころ、大勢のチンピラに絡まれていた人を助けようとして、殉職した。相手は殺意まではなかったとはいえ、殴られて転倒したとき、後頭部を地面に強打した。それが死につながった。父親のそんな生き様を見て、三浦は自分も父に負けない、立派な警察官になろうと決意したという。
母親は三浦が高校卒業後、他の男と再婚して東京に行き、あまり会うことはない。父親が悲惨な最期を迎えたため、母親は一人息子が警察官になることには、猛反対だった。弁護士が巧妙で、あれは不幸な事故だったという主張が通ってしまった。そのとき襲われた被害者や目撃者が怖くなって逃げてしまい、加害者が暴力を揮っていたという証人がいなくなってしまったのだ。相手には殺人罪ではなく、過失致死罪が適用され、執行猶予までついた。相手が軽い処分ですんだため、母親の無念が大きく、なおさら反対が強かった。三浦はそれを無理やり押し切って、警察官となったので、母子の仲はこじれてしまった。だから今は三浦が誰と結婚しようが、母親が文句を言うこともない。
「そうなの? 三浦さんは本当に美奈でいいと言ってくれるの?」
「はい。タトゥーをしていても、全然卑下することはない、と言ってくれます。三浦さんは籍を入れようと言うけど、私はしばらくは籍を入れないで、内縁関係でいようと思うの。やっぱり、正式な結婚だと、三浦さん、警察で肩身が狭い思いをするといけないから」
「そう。三浦さんがそこまで言ってくれるのなら、私も嬉しいわ。美奈、世間様がどう言おうと、絶対負けないでがんばってね。私との約束だからね」
真美はそう言って、涙を流した。美奈も目頭を熱くした。それを見ていた愛が、 「お母たん、泣かないで」 とべそをかいた。
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今回は『幻影2 荒原の墓標』第15回目です。今回から第3章に入りました。今回は餅分総本店さんのことが書いてありますが、文中で名前を出すことは事前に了承をいただいています。餅分さんのういろは、私の彼女も大好物です
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第三章 兄の失踪
1
矢田川での事件が起こり、しばらくしてから、北村がオアシスにやってきた。
「いや、ひどい目に遭いましたよ。アリバイがあっても、何となく話しづらかったので、じきに真犯人が見つかり、無罪放免になるだろうと思っていましたが、まだ真犯人は捕まらないようですね。まあ、貴重な留置場体験ができたから、ぜひとも作品に活かしたいですよ」
「あのときは私も余計なことをして、すみませんでした。高村さんのプライバシーを暴いたみたいで。でも、新聞に、高村さんが重要参考人と出ていたので、びっくりして警察に電話したのです。新聞では匿名になっていましたが、高村さんだということがすぐわかりましたので」
「でも、結果的にミクさんが証言してくれて、助かりましたよ。約束通り、警察もプライバシーは守ってくれたようで、あれからマスコミの取材はあっても、変な噂は立ちませんでした」
「私は二月にあることないこと、派手に書き立てられてますし、そんな私が高村さんと一緒にいたことを嗅ぎつけられると、また何を書かれるかわかったもんじゃないですから。私は気にしませんが、高村さんには迷惑がかかります。だから、刑事さんには、秘密にしてくれるよう、よくお願いしておきました」
「ミクさんのその配慮、非常に嬉しかったですよ。しかし、こうまで僕の小説通りに殺人が起きるだなんて、どういうことでしょうね。書いた僕自身が気持ち悪いですよ。まさか、また事件が起こるんじゃないでしょうかね? あの作品にはあと二つ殺人がありますから」
「まさか、いくら何でも、そんなことは」
美奈はそう言いながらも、しきりといやな予感がした。作品通りの殺人事件が起こりそうな予感だ。
『荒原の墓標』は、東京と奈良県橿原(かしはら)市、明日香村などの史跡を舞台とした、古代伝説にまつわる猟奇的な連続殺人事件を、北村が創作した名探偵榛名敏彦(はるなとしひこ)が鮮やかに解決する物語だ。恋人と古都の旅行を楽しんでいた榛名が、連続殺人事件に巻き込まれる、という設定である。
「以前、南木曽岳で守護霊の声を聞いたという話をしましたが、ひょっとしたら、それが関係しているのじゃないでしょうか? あれは守護霊ではなく、とんでもない悪霊の声だったんじゃないかという……」
北村は恐ろしくて、最後まで言えなかった。そして美奈もそれに同感だった。美奈は心の中で、 「千尋さん、どうなんでしょうか? やはりあれは悪霊による事件なんでしょうか?」 と尋ねてみた。しかし、千尋からの反応はなかった。
仕事を終えてから、美奈は恵、美貴、裕子のいつものメンバーで、なじみのファミレスで歓談の時間を持った。
恵はさくらが描いた龍と牡丹の絵がとても気に入ったので、さっそく来週から背中に彫ってもらうことにした、と報告した。
「右肩のあたりに龍の頭を入れて、背中を龍の胴体がくねり、お尻の左側に尻尾が来るの。龍にはいくつも牡丹の花を重ねるわ。左肩の卑美子先生の蝶とも、ばっちりバランスを取ってもらうよ」
恵はおおよその構図を説明した。
「わぁ、かっこいいですね。あたしはあと一つだけ、さくらに入れてもらって、それで終わりにするつもり。でも、今度は蓮より少し大きめの、きれいな絵を入れたいな」
「私はどうしようかな。最初に目立つ手首にやっちゃったんだから、もっと入れたってかまわないかな、なんて思ってますけど。どうせ手首は長袖着ても見えちゃって、私がタトゥーしたこと、友達にばれちゃったんだから。今度入れるとしたら、太股に少し大きめのにしようと思っています。またさくらさんと相談してみます。この前見せてもらった、鯉に牡丹を散らした絵、とてもきれいでした」
美貴と裕子も自分たちの思いを口にした。無口でおとなしい裕子が手首まで入れることはどうかな、と美奈は最初心配していた。しかし、リストカットの忌まわしい呪縛から解放されたためか、タトゥーを入れてから明るく積極的になった裕子を見て、美奈はよかったと安心した。性格が積極的になったためか、それまで成績下位に甘んじていた裕子の指名客が、だんだん増えてきた。
そのことを最も喜んだのは、彫った本人であるさくらだった。さくらも相談を受けたとき、美奈と同じ心配を抱いたが、 「リスカのいやな思い出を吹っ切って、自分自身を変えていきたい」 という裕子の強い決意を受け入れて、施術したのだった。
裕子が明るくなったのは、もちろん本人の努力によるものであり、単にタトゥーを入れたおかげではない。ただ、大きな苦痛に耐えてタトゥーを入れたことが、裕子に自分の引っ込み思案の性格を変えるのだ、という強い決意をさせたことはいえるかもしれない。
美奈は新しい友との歓談を楽しんだ。この時間も、あと半年と続かない。でも、たとえ私がオアシスを辞めても、この交友はずっと続けたいと思った。
美奈が辞めるという決心は、恵のほか、アドバイザーの玲奈には伝えてあった。店のナンバーワンコンパニオンであるミクが辞めることは大きな痛手だが、玲奈は三浦との結婚を決意した美奈を祝福してくれた。たとえそれが内縁関係であって、正式な婚姻ではないとしても。玲奈は繁藤の事件を通じて、三浦のことを知っている。その上で、年内はよろしくお願いします、と玲奈は改めて美奈に依頼した。店長の田川には、玲奈を通して、美奈の意向は伝わっている。
三人と別れ、美奈は自宅でベッドに入った。眠りに入る前、うとうとしていると、千尋が現れた。
「美奈さん、さっきは北村先生本人がみえたので、返事をしなくてごめんなさい。最近北村先生は、霊的な感覚が鋭敏になっているので、私の声が聞こえてしまう恐れがあったのです。
事件については、美奈さんが考えている通りです。北村先生には、よくない霊が憑いています。ただ、いつも憑いているわけではなく、ときどき作品を書いているときに、北村先生に影響を与え、登場人物の名前を使わせているようなんです」
「すると、まだこの先も物語の通りの殺人事件が起こるのですね?」
「はい、必ず起こります。しかし、強力な悪想念を持った霊が介在しているので、それを防ぐのは不可能です。たとえ私の力をもってしても。その霊は巧妙に自分の力をコントロールしているので、私にもいつ、どこで何をするのか、予想もつきません。今はこうして警告するのが精一杯です」
美奈はこのことを三浦に報告しようと思ったが、やめておいた。今後、どういう展開になるか、守護霊の千尋にさえ、予想ができないのだ。
作品にある佐藤義男、大岩康之が危ないので、今のうちから保護するように、といっても、警察は取り合ってくれないだろう。三浦は捜査本部でそのことに危惧を抱いている、と発言しているが、そんな雲をつかむような話で警察が動くわけにはいかないと、一蹴されたそうだ。その佐藤義男、大岩康之がどこの誰なのか、それを調べるのも大変だ。いらぬことを言って、捜査を混乱させることはできない。だが、予告通りの殺人が起こることだけは確かなのだ。わかっていて、それを防ぐ手立てがないことが、美奈は歯がゆかった。
美奈は久しぶりに名古屋市天白区(てんぱくく)に住む姉を訪ねた。真美は天白区役所の近くの、同じ宗派の寺に嫁いでいる。美奈は姉の寺に行く前に、餅文(もちぶん)総本店という和菓子屋の元八事(もとやごと)店に寄った。美奈はここのういろが大好きで、姉のところに行くときは必ず立ち寄っていく。一六五九年創業という老舗だ。名古屋名物の外郎(ういろう)といえば、大手の青柳総本家、大須ういろなどがすぐに思い出されるが、美奈は餅文のういろが好きだった。姪の愛もういろには目がない。まだ幼く、喉に詰まらせるといけないので、真美は小さく切って与えているが、もっと大きいものを食べたがる。葵も餅文のういろが好きなので、静岡に発送を依頼した。ちょうどお中元のセール中で、送料を無料にしてくれた。
美奈は以前、殺人事件に巻き込まれたため、実家の寺の住職をしている兄に、タトゥーをしていることや、ソープランドで働いていることを知られてしまった。烈火のごとく怒った兄の勝政は、 「おまえの汚らわしい顔など見たくはない。もう二度と帰ってくるな!!」 と美奈を罵倒し、勘当した。
それでも真美は美奈のことをかばってくれた。真美は何か困ったことがあれば、いつでも連絡してほしい、と美奈に言ってくれた。
先月下旬に、真美が二番目の子供を懐妊したという連絡を受け、美奈は真美に会いに行くことにした。電話ではよく話をするものの、兄に勘当されてから、真美に会うのは初めてだった。今妊娠一一週めだ。
「お姉ちゃん、こんにちは」
美奈は姉の嫁ぎ先の清蓮寺(せいれんじ)の庭先にいた姉に声をかけた。二歳の愛も一緒だ。この前会ったときより、少し大きくなっている。
「あら、美奈、いらっしゃい。あんなことがあって心配してたけど、元気そうでよかった。髪、少し伸ばしたの。メガネも変えたのね。どちらも似合ってるよ」
これまで美奈はシルバーのメタルフレームだったが、最近細身の、ピンクがかったパープルのセルフレームのメガネに変えた。服とのコーディネートにより、メガネも使い分けている。ショートカットだった髪も、肩の近くまで伸ばしている。髪は染めていない。
「愛ちゃん、これ、お土産よ。餅文さんのういろ」
「まあ、いつもわるいわね。あとで切ってあげるから、ちょっと待ってなさい」
真美はういろを見つけて食べたがる愛に言い聞かせた。
真美と美奈は寺の居住区のキッチンに入った。広い本堂では落ち着かない。愛は最近よくしゃべるようになり、新しく買ってもらった絵本を見ては、盛んに 「これ、なにい?」 と美奈に尋ねた。知識欲が旺盛のようだ。美奈は 「これはおうち、これは自動車、ブーブよ。これは犬、わんわんだよ。愛ちゃんのとこにも、わんわんいるでしょう」 などと愛に答えてやった。清蓮寺では茶色の雑種を飼っている。寺に迷い込んだ野良の子犬が居着いて、家族になついてしまったので、追い出すのも忍びないと、飼うことにしたのだった。ゴロという名前だ。ごろごろ寝てばかりいるからゴロなのだそうだ。
愛の相手をしている間に、真美が冷たいお茶と一緒に、美奈の土産のういろを切って持ってきてくれた。愛には小さく切ってある。愛が手づかみで食べようとしたので、真美が 「そんな、手で。フォークで食べなさい」 と制した。ういろには黒文字や爪楊枝のほうが合っているが、愛には幼児用の安全なフォークを手渡し、真美が手を添えて食べさせた。
「お姉ちゃん、また赤ちゃんできたんだって」
「うん。今度は男の子がいいな」
「まだ性別はわからないんだね?」
「はっきり確定できるのはもう少し先になるそうだけど。旦那は次は男の子を欲しがっているけど、私はどっちでもいい。でも、どっちかといわれると、今度は男の子かな。生まれるのは、来年の二月ごろの予定よ」
真美の夫は住職であると同時に、宗派が運営している私立高校の教師でもあった。教壇に立つので、真美の夫は蓄髪をしている。教師の仕事が多忙なため、寺の行事は近くに住んでいる弟に任せることが多い。
しばらく姉の懐妊のことや体調の話をしていたが、切りがいいところで、美奈は話題を変えた。
「お姉ちゃん、実は私、今結婚を考えているの」
「え、美奈、そうなの? 全身にいれずみしててもいいと言ってくれる男(ひと)がいるの? 前みたいに、だまされたりしない?」
真美は気のいい美奈が、またおかしな男にだまされるんじゃないかと心配だった。
「大丈夫よ。今度の人は、絶対間違いないから。だって、この前の事件のとき、お世話になった刑事さんなんだから。お姉ちゃんも会ったことあるでしょう、三浦さん」
相手が刑事と聞いて、真美はまた別の面で心配になった。警察官は、結婚相手にも非常にやかましいということを、真美も知っていた。今では合法であり、何の問題もない政党である共産党関係者が相手である、というだけでも、なかなか認められない。本人が共産党員ではなく、家族に党員がいても難しいという。ましてや親族に過激な左翼や暴力団関係者がいれば、絶対無理である。真美はそう聞いていた。
もちろん美奈は左翼でも暴力団関係者でもない、真面目な女性だ。しかし、全身にタトゥーを入れてしまい、今はソープランドで働いている。
真美は、タトゥーはもう消せないとしても、風俗の店で働くことだけはやめてほしいと思っている。しかし、これだけ大きくタトゥーをしてしまったので、なかなか他の仕事に就けないと美奈が言うので、やむを得ないかと諦めていた。美奈はハローワークや就職情報誌などで職探しをしたことを話していた。
「三浦さんはタトゥーをしていても、一緒になってくれると言っているわ。もちろん私、結婚する前に、風俗の仕事は辞めます」
「でも、いくら本人がいいと言っても、周りが許さないでしょう? 警察の上司とか、家族の人が」
「三浦さんには反対する家族はいないし、たとえそのために昇進の望みが絶たれても、一生ヒラの刑事として、地道に犯罪を追いかけていくと言っているわ」
美奈も家族が反対しないかを三浦に問い質していた。
そのとき三浦が話したことは、三浦には今家族といえる人はいないとのことだった。
父親は交番勤務の巡査だったが、三浦が中学生のころ、大勢のチンピラに絡まれていた人を助けようとして、殉職した。相手は殺意まではなかったとはいえ、殴られて転倒したとき、後頭部を地面に強打した。それが死につながった。父親のそんな生き様を見て、三浦は自分も父に負けない、立派な警察官になろうと決意したという。
母親は三浦が高校卒業後、他の男と再婚して東京に行き、あまり会うことはない。父親が悲惨な最期を迎えたため、母親は一人息子が警察官になることには、猛反対だった。弁護士が巧妙で、あれは不幸な事故だったという主張が通ってしまった。そのとき襲われた被害者や目撃者が怖くなって逃げてしまい、加害者が暴力を揮っていたという証人がいなくなってしまったのだ。相手には殺人罪ではなく、過失致死罪が適用され、執行猶予までついた。相手が軽い処分ですんだため、母親の無念が大きく、なおさら反対が強かった。三浦はそれを無理やり押し切って、警察官となったので、母子の仲はこじれてしまった。だから今は三浦が誰と結婚しようが、母親が文句を言うこともない。
「そうなの? 三浦さんは本当に美奈でいいと言ってくれるの?」
「はい。タトゥーをしていても、全然卑下することはない、と言ってくれます。三浦さんは籍を入れようと言うけど、私はしばらくは籍を入れないで、内縁関係でいようと思うの。やっぱり、正式な結婚だと、三浦さん、警察で肩身が狭い思いをするといけないから」
「そう。三浦さんがそこまで言ってくれるのなら、私も嬉しいわ。美奈、世間様がどう言おうと、絶対負けないでがんばってね。私との約束だからね」
真美はそう言って、涙を流した。美奈も目頭を熱くした。それを見ていた愛が、 「お母たん、泣かないで」 とべそをかいた。