売れない作家 高村裕樹の部屋

まだ駆け出しの作家ですが、作品の情報や、内容に関連する写真(作品の舞台)など、掲載していきたいと思います

ハードディスク増設

2014-03-29 02:05:35 | 日記
 もう春の陽気です
 昨日、パソコンのパーツを買いに名古屋の大須まで行きました。
 大須の街を歩いていたら、けっこう汗ばみました
 最近直したパソコン、電源ユニットがやや古いので、シリアルATAの電源コネクタが2つしかありません。
 DVDドライブと、ハードディスクを1台接続したら、もうシリアルATAの電源コネクタの空きがなくなり、ハードディスクの増設ができなくなりました
 それで大須のグッドウィルでシリアルATAの電源変換ケーブルを買ってきました。
 ハードディスクの増設は無事完了しました

  

 パソコンの上に乗っている人形は、恋愛シミュレーションゲーム『エーベルージュ』に登場するノイシュです。

『幻影2 荒原の墓標』第11回

2014-03-28 12:58:16 | 小説
 最近はめっきり春めいてきました
 日中は汗ばむ陽気です
 花粉も飛び交い、外出すると目がかゆくなります。私の場合は、目のかゆみと、若干の鼻水が出ますが、花粉症の症状としては軽いほうかもしれません。

 今回は『幻影2 荒原の墓標』第11回目を掲載します。


            

「僕の新作ができたから、ミクさんに差し上げます」
 作家北村弘樹は新作『荒原の墓標』をミクに渡した。
「え、これ、いただいていいんですか?」
「はい、どうぞ。ただ、書店に並ぶのは、月末ですが」
「ありがとうございます。さっそく読ませていただきます。とても楽しみです」
 客からの金品の贈り物は固辞しているミクだが、この本の贈呈はありがたく受けておいた。コンパニオンの中には、かなり客から貢がせている人もいる。
 昨日は葵の結婚式で、ミクは日曜日を公休日にした。それで月曜日を出勤にしていた。北村は久しぶりにミクを指名した。前もって予約しておかなければ、なかなかミクを指名できなかった。
「この前の『鳳凰殺人事件』は、偶然とはいえ、よく似た殺人事件が実際に起こってしまいましたが、今度はそんなことないでしょうね。まあ、そのことが話題になり、また売り上げが伸びましたが。テレビのワイドショーなんかでも、取り上げられましたからね。でも今度の作品は、三件の殺人事件があるから、その通り起こってしまったら大変ですよ」
 北村は冗談のつもりで、笑いながら言った。しかしその笑いはこわばっていた。
「ええ。この前の事件の犯人は、すぐ捕まりましたし、もう大丈夫だと思います。ただ、この前の犯人は、突然人を殺したい気分になったとかいうのが、ちょっと気味が悪いです。犯人は粗暴な人で、よく動物を捕まえては虐待していて、いつかは人を殺してみたかったなんてひどいことを言っていたそうですが」
「ミクさんもなかなか熱心に事件を追っているのですね」
「はい。私も今、ミステリーを書いているので、自然と事件なんかに興味を持っちゃうんです。最近はほんの些細なことで凶悪な事件が起こるから、怖いです。本当に、人の心が荒廃しているのだなと思うと、これからの社会が心配になります」
「ほう。ミクさんもミステリーを書いているんですか? どんなものか、一度読ませてもらいたいですね」
「いえ、先生の作品に比べたら、子供の作文みたいなものです。とても見せられるものじゃあ、ありません。それにまだちょっと書き出したばかりで、あまり進んでいませんから」
「そうですか。もし書けたら、一度見せてもらえませんか? いい作品なら、出版社にも紹介してあげますから」
 美奈の作品『幻影』は、もう四〇〇字詰め原稿用紙換算で、二〇〇枚近く書かれていた。予定では、その三倍ぐらいの分量になりそうだった。葵や恵、さくらはおもしろいと高く評価してくれるものの、プロの作家である北村に見せるのは、ちょっとためらわれた。それにまだ途中だし、ある程度プロットは立ててあるとはいえ、これからどう展開させるか、自分でもわからない。実際に起きた千尋や繁藤の事件を土台にしてはいるが、創作の部分も多かった。ひょっとしたら、最初の案とは別の方向に進めてしまうかもしれない。
「はい。もし完成して、先生に見ていただいても恥ずかしくないような作品になれば、読んでいただきたいです」
「楽しみにしていますよ。それからここでは先生ではなく、高村でお願いしますね」
「あ、すみません。また言っちゃいました」
 北村と話をしながらも、ミクは心づくしのサービスを続けた。北村との五〇分はあっという間だった。ミクは北村と話しながら仕事をするのが、非常に楽しかった。かつてミクが心惹かれた客に安藤がいた。安藤はミクにプロポーズし、ミクもかなり心が傾いた。しかし安藤はミクから金を詐取するのが目的だった。結局安藤――本名は繁藤――は殺され、ミクは心ないマスコミに、ゴシップのタネにされてしまった。ミクにとっては、心が痛む事件だった。北村は、そんな安藤とは違い、恋愛感情はいっさい抜きで、接待していると、心が和むのだった。
「では、また次もミクさんを指名しますね」
「本当にいつもありがとうございます。これ、新しい名刺です。日程表が新しいものになっていますので」
 ミクは名刺にその場で、 「新しい本がミリオンセラーになることを祈っています」 とメッセージをペン書きして、入泉料の割引券と一緒に北村に手渡した。北村は美奈の心のこもった接待に満足して帰っていった。

 美奈は北村からもらった本を、そっと自分のロッカーに入れた。まだ発売されていない本なので、他のコンパニオンに見つかってはまずいと思った。客として、作家北村弘樹が来ていることは、仲間のコンパニオンにも隠しておいたほうがいい。特に有名人だけに、プライバシーの管理には注意しなければならない。

 仕事が終わってから、美奈は恵といつものファミレスに行った。二人だけでは寂しいので、アイリ、リサも誘った。最近ときどき二人を誘う。さくらに蓮のタトゥーを入れてもらってから、アイリともよく話をするようになった。アイリは小回りがきく原付なので、美奈の車より先にファミレスに着いていた。なじみになったウエイトレスが、 「しばらくお見えにならなかったので、心配してましたが、最近、新しいお仲間がお見えになりますね」 と笑顔で声をかけた。以前は四人娘が深夜によく来たので、ファミレスでも目立っていた。
 四人は軽食とドリンクを注文した。ドリンクは飲み放題だ。
 アイリは元同僚だった葵の結婚式の様子を聞きたがった。美奈はデジカメで写した写真を見せた。
「えー、これ、ミドリさんなの? すっごくきれい。見違えちゃった。ウエディングドレス姿のミドリさん、とってもすてき。これ、欲しいから、プリントしておいて」
 アイリもリサも、まだ葵のことを、源氏名でミドリさんと呼んでいる。入店以来ずっとミドリさんと呼んでいたので、なかなかその癖は直らなかった。
「あたしもウエディングドレスからはみ出すところには、タトゥーを入れないようにしよう」
 アイリはもう少しタトゥーを増やすつもりでいるが、恵や美奈から話を聞いて、目立つ場所には入れないようにしようと思った。アイリが腰に蓮のタトゥーを入れて、嫌がられた常連客もいたが、好意的に受け止めてくれた客も多い。タトゥーを入れたことにより、指名が減った、ということはなかった。アイリ自身は、腰につけた新しいアクセサリーをとても気に入っていた。
 リサはリストカットの傷を隠すため、左手首から肘にかけて、大きく入れてしまったので、長袖の服を着ても、リストバンドでもしなければ、タトゥーを隠すことができない。しかし忌まわしい思い出がある傷痕が見えるよりは、きれいだからずっといいと、タトゥーを入れたことを後悔していない。
 おとなしいリサが、大きなタトゥーを入れたので、なじみ客は驚いた。オアシスにはタトゥーを入れたコンパニオンが増え、タトゥーも店の特色になっている。特に美奈が殺人事件に巻き込まれ、週刊誌などに書き立てられてから、そのイメージが定着した。
 リサは無口な性格のために、指名客が少なく、成績では中位から下位に甘んじていた。それが、タトゥーを入れたことによって、リストカットの傷痕の呪縛から解放されたのか、少しずつ明るい積極的な性格に変わっていった。振りの客を接待し、そのまま常連になってくれることも増えてきた。以前は暗い性格が災いして、リサを再度指名してくれる客はあまりいなかったのだが。
 恵と美奈は、葵の結婚式のことを話題にした。夕方、葵から 「今日は函館を見物して、市内のホテルに泊まる。明日は小樽までのドライブの予定」 というメールが届いていた。ホテルや車、ハートなどの絵文字が使われていた。車はちょっと贅沢をして、セルシオを借りたそうだ。そのメールの内容もアイリとリサに伝えた。
「いいなあ、レンタカーで北海道の旅なんて。あたしもハネムーンは外国じゃなくて、北海道にしようかな。北海道はでっかいどう」
 アイリは古いだじゃれを口にした。
「でも、その前に相手を見つけなくちゃあ」
「あーん、ケイさんったら、あたしが一番気にしてることを」
 四人はしばらくファミレスで楽しく歓談をした。葵、さくらがいなくなり、二人だけでは味気ないから、とあまりファミレスに行かなくなったが、最近アイリとリサが加わり、仕事後、楽しいひとときを持てるようになった。新しい四人娘の誕生だ。アイリはさくらに負けないほど賑やかだった。リサはかつての美奈のように、物静かな女性だ。美奈は以前と比べて、ぐっと明るくなった。葵に代わり、今は恵がリーダーシップをとっている。
 一時間近く話をしてから、四人は別れた。恵とリサは美奈が車で送っていく。原付のアイリに、 「気をつけて帰ってね」 と恵は声をかけた。アイリのアパートは、中村区の西にある稲葉地公園の近くで、原付でファミレスから数分の距離だ。今夜は梅雨の中休みで、バイクも気持ちいいが、雨の日はやはりバイクは辛い。アイリは雨の日には、レインスーツを羽織り、慎重に運転をする。アイリは両眼で視力が〇・五を切っており、原付を運転するときはメガネかコンタクトレンズが必要になる。ふだんはコンタクトレンズを使っているが、ときどきおしゃれなメガネも使用する。夜遅い時間に原付で走るので、外見から女性とはわからないよう、男っぽい格好をしていた。
 リサは地下鉄本陣駅の近くにアパートを借りている。オアシスへは歩いて通勤できる。
 美奈は新しい車にはもうすっかり慣れた。パッソは小回りがきき、運転しやすい。燃費も以前の軽とほとんど変わらない。インターネットの書き込みで、コンパクトカーとしては燃費が悪い、とよく書かれているが、パワーが低いので、つい必要以上にエンジンをふかしてしまうからだと思う。発進のとき、アクセルを踏みすぎないなど、エコ運転を心がければ、美奈が通勤で走る国道一九号線や三〇二号線などで、ガソリン一リットルで一五、六キロは走る。渋滞が多い名古屋市内の道路では、もう少し落ちるだろう。エコ運転といっても、美奈は車の流れを妨げない程度のスピードを出している。高速道路では、さらに燃費が伸びそうだ。気がかりだったコラムシフトのチェンジレバーや、足踏み式のパーキングブレーキも、慣れてみると、操作性は悪くなかった。助手席も後ろの席も、車体が小さい割には、思ったより広くていいね、と恵が感心した。チェンジレバーがコラムシフトのため、美奈の車の前席はベンチシートになっており、広々としている。
 千尋に加え、もう一人、多恵子が守護霊として車の安全を護ってくれることになり、美奈はありがたい思いでいっぱいだった。けれども、いくら守護霊が護ってくれるとはいえ、乱暴な運転をしては事故を起こすので、美奈は安全運転を心がけている。


梅 桜

2014-03-25 22:15:25 | 日記
 今日は午前中、眼科に行きました。
 私は緑内障などを患っているので、定期的に検診を受けなければなりません。
 眼圧の上昇を抑える点眼薬を、毎日忘れないように点眼しているためか、眼圧は非常にいい数値を示しているといわれました

 午後、久しぶりに弥勒山に登りました。
 昨日、名古屋で桜の開花宣言があったそうですが、近所の桜は、まだつぼみが固い状態でした。
 ただ、気が早い? 桜が、わずかに花を咲かせていました。

  

 弥勒山への登山道で、ショウジョウバカマを見かけました。

  
 
 
 日陰で咲いていたので、デジカメのホワイトバランスをオートにしていたら、白っぽく写ってしまったので、日陰のモードに変更したら、ピンク色がきれいに写りました。

  

 弥勒山です。頂上は曇っており、眺望はあまりよくありませんでした

 帰りに植物園の梅園に寄りました。大谷山から梅園に直接下山するルートをとりました。梅園に到着する前に、竹林があります。

 

 植物園は、桜はまだですが、梅は満開でした。

  
   

 これはよく似ていますが、植物園で見かけたアンズの花です。
 

 今日は出発したときはよく晴れていて暑かったのですが、だんだん雲が多くなり、帰りは少し寒くなりました。

『幻影2 荒原の墓標』第10回

2014-03-21 13:27:09 | 小説
 昨日は地下鉄サリン事件から19年でした。
 警視庁が選んだ100大事件の筆頭が、地下鉄サリン事件です。
 前にも書きましたが、私はこの事件の2ヶ月前に、オウムの経営と知らず、マハーポーシャのパソコンを買ってしまいました。
 あのときの代金35万円は、ひょっとしたらサリン製造の資金に……?と思うと、忸怩たるものがあります
 今回は『幻影2 荒原の墓標』の第10回目です。
 今たまたま読んでいる森村誠一先生の『炎の条件』は、邪教と戦う男の姿が描かれています。
 私もいつかは『幻影』シリーズで、美奈たちと邪教を対決させてみようと思っています。


            

 六月一一日、葵の結婚式。六月は大安に当たる土日がなかったため、結婚式には、大安に次ぐ吉日とされている友引の日を選んだのだった。式は静岡駅の近くのRホテルで行われた。午後二時開催だ。葵と秀樹は特定の宗教を信仰しているわけではないので、人前式スタイルを選択した。キリスト教式や神前式のような、決まった形がなく、二人でどのような式にするかをよく相談し合った。秀樹の友人にも、人前式の経験者がいるので、その友人にもいろいろとアドバイスを受けた。
卑美子、トヨ、恵、さくら、美奈の五人は、恵が運転するシルバーメタリックのセレナで、朝八時に名古屋を出発した。恵は卑美子ボディアートスタジオから名古屋長久手線を東に走り、名古屋インターチェンジから東名高速道路に入った。東名高速道路を利用すれば、三時間ほどで静岡まで行けるのだが、渋滞があるといけないので、余裕を持って、早めに卑美子のスタジオを出発した。三日前に梅雨入り宣言があったものの、その日は梅雨の中休みで、天気はまずまずだった。
 手首までびっしりタトゥーが入っている卑美子とトヨは、タトゥーが見えないように、服装には特に気を配った。恵、さくら、美奈もかなりタトゥーが入っており、露出が多い服は着られなかった。背中や胸が開(あ)いている服は絶対に着られない。礼服を選ぶのに、苦労した。やはり式場、披露宴ではタトゥーは隠しておきたかった。
 東名高速道路は豊田から岡崎、音羽辺りで少し渋滞していたものの、それ以外はスムーズに流れていた。
浜名湖サービスエリアで少しトイレ休憩をした。陸地深く入り組んだ浜名湖の眺めがとてもきれいだった。美奈は小学生のころ、サービスエリアの対岸にある舘山寺温泉のホテルに、家族で泊まった記憶がある。
さくらはサービスエリアの売店で買ったうなぎドッグを、おいしそうに頬張った。
「さくらって、何か食べてるとき、すごく幸せそうね」
 恵がさくらの満足そうな顔に感心した。
「うん。私、おいしいもの食べてるときが、一番生きていると実感するんだ。もし飢饉になって、食べ物なくなったら、私、真っ先に飢え死にするかもしれない」
 トヨと恵もさくらにつられて、うなぎドッグを買った。
正午過ぎに会場のホテルに着いた。晴れてはいても、空は靄がかかっているのか、遠くの山がかすんでいて、よく見えなかった。楽しみにしていた富士山の秀麗な姿はお預けだった。
 前年四月に政令指定都市に移行した静岡市は、美奈が想像した以上に大きな都会だった。名古屋駅周辺のような超高層ビルはないものの、一〇〇メートルを超えるビルもあり、静岡市の都心は、名古屋にも遜色ないほどのビル街になっている。ただ、市街地の大きさは、やはり名古屋のほうがずっと大きかった。
 静岡市は二〇〇五年二月に、高山市が周囲の町村を合併し、東京都に匹敵するほどの面積となるまでは、日本で最も広い市だった。駿河湾から南アルプスまでの広大な市域を有している。南アルプスの三〇〇〇メートル峰一三座のうち、間ノ岳(あいのだけ)、西農鳥岳(にしのうとりだけ)、農鳥岳、塩見岳、荒川前岳、荒川中岳、悪沢岳(わるさわだけ)、小赤石岳(こあかいしだけ)、赤石岳、聖岳(ひじりだけ)の一〇座が、政令指定都市である静岡市内、または山梨県、長野県との県境上にある。膨大な南アルプスの多くが、行政区でいえば、静岡市葵区なのだ。山好きの美奈にとっては、憧れの街だ。
 式までまだ二時間近くあるので、五人はホテルのレストランで軽く食事をすることにした。
「葵さんに会うの、二ヶ月ぶりだから、とても楽しみです」
美奈は毎日のように葵とメールや電話のやりとりをしているが、実際に葵に会えるのが、嬉しかった。
「葵さん、美奈のお姉さんみたいな存在だったからね」 と恵が言った。
「葵さんとさくらの最後の出勤の日、勤務が終わって、花束渡すとき、美奈ったら、わんわん泣き出しちゃったもんね」
「いやだ。メグさん、もうその話、しないでください」
 美奈は照れくさそうに言った。
「でも、あのとき、私もすごく涙が流れちゃった。葵さんも目に涙を浮かべていたし。メグさんはニコニコしてましたね」
 送られる側だったさくらも、そのときの状況を懐かしく思い出した。
「そんなことないよ。みんなと別れて、一人になったとき、私も家で泣いちゃった」
それから三人は高山への送別旅行のことなどを話題にした。宿泊したホテルは、 「入れ墨、タトゥーがある方のご入浴はご遠慮ください」 とあったので、夜中にこっそり大浴場に行ったら、背中に大きく弁財天を彫った先客が入っており、タトゥー談義に花が咲いたことも、一つの思い出だった。さくらが全国的に有名な卑美子ボディアートスタジオで修行していると聞き、彼女は驚いていた。
浴場から出たあと、その女性は美奈たちの部屋に寄って、しばらく歓談した。彼女は四〇歳近い年齢で、東京でエステティックサロンを経営しているそうだ。そこではボディーアートとして、ワンポイント程度のタトゥーも行っている。エステ等で行っているアートメイクは、基本的にはタトゥーと同じ原理だ。東京に来たら、ぜひ寄ってくださいと、エステサロンの連絡先が入った名刺をくれた。

いよいよ式の時間となった。美奈たち五人も、式場となっている部屋に行った。特に宗教色がない人前式スタイルとはいえ、式場はチャペルとなっており、正面には十字架が掛かっていた。
 新郎新婦の入場。美奈は純白のウエディングドレスをまとった、葵の美しい花嫁姿に目を奪われた。オアシスでも上位の人気を保つコンパニオンだっただけあって、その美しさは際立っていた。肉付きがよかった身体も、シェイプアップされていた。エステ通いの成果よ、と葵は美奈たちにメールしていた。
 司会者による開会宣言。司会者は新郎である秀樹の友人に依頼した。職場では宴会屋という異名がある人で、結婚式などの司会もそつなくこなすそうだ。立会人代表は葵と秀樹が高校時代に所属していた、演劇部の顧問の先生だ。葵と秀樹は、高校時代、演劇部での先輩後輩の間柄だった。秀樹が一年先輩だ。葵が名古屋に来てから、一時帰郷したときに再会し、親密になった。
 最初に司会者より、人前式とはどういうものかということが説明された。普通の結婚式は、神や仏に結婚の報告をして、永遠の愛を誓い合うものだ。神様、仏様が愛の証人(?)となる。しかし人前式の場合は、式に参加した人たち、家族・親戚や会社の上司、同僚、部下、そして友人、知人など、全員が愛の誓いの証人となる。
 いよいよ結婚の誓約だ。司会が永遠の愛の誓いを求め、それに応える形で、二人は誓いの言葉を読み上げる。
「私(わたくし)中村秀樹は、日野葵さんを生涯の妻とし、幸せも喜びも、そして苦しみや悲しみもすべて二人で分かち合い、永遠に愛することを誓います。たまにはけんかをすることもあるかもしれません。しかし、けんかをしても、雨降って地固まるで、さらに堅固なる愛情を築きます。今までは仕事第一でやってきましたが、これからは家庭を第一、仕事は第二とし、葵さんに尽くします」
「私(わたくし)日野葵は、中村秀樹さんを生涯の夫とし、どんなことがあろうとも、秀樹さんと二人で協力し合い、永遠の愛を誓います。私はどちらかといえば、家事や料理が苦手ですが、秀樹さんのために、一生懸命勉強します。そして、愛にあふれた、温かい家庭を築きます」
 二人が愛の宣誓をすると、会場から、割れんばかりの拍手があった。口笛や、ちょっとしたヤジも飛んだ。
 参加者が見守る中で、新郎新婦が婚姻届けに署名した。立会人代表がその婚姻届を頭上に掲げ、参加者に披露した。全員がそれを拍手で確認した。そして指輪の交換。参加者は立会人として、全員が愛の誓いの証人となるのだ。二人の誓いの口づけのときには、美奈は感動のあまり泣き出してしまった。美奈はメガネを外し、ハンカチで目頭を拭った。今からこんなことでは、披露宴で、三人で歌を歌うとき、泣かずに歌えるかしらと心配になった。
 新郎新婦の乾杯が終わると、司会と立会人代表が、 「これで中村秀樹さんと日野葵さんの結婚が成立しました。どうぞ、列席の皆様も、拍手でもって、二人の結婚成立を、ご確認ください」 と承認宣言をした。
 会場は 「ウオー」 という歓声を伴った、大きな拍手で埋め尽くされた。中には、クラッカーを鳴らす人もいた。拍手と歓声は何分も続いた。
 感動のうちに式は終了し、閉会が宣言された。人前式には初めて参加する人が多かったが、参加者たちは、神でも仏でもない、自分たちが二人の結婚を見届け、承認したのだということに感動していた。

新郎新婦の退場後、短い休憩時間があった。新婦はその間に化粧直しをする。披露宴まで少し時間があるので、美奈たち五人はホテルの喫茶店に行った。
「美奈、やっぱり泣いちゃったわね。本当に涙もろいんだから」
 恵がシュガーとミルクを入れたコーヒーカップをかき回しながら言った。
「だって、葵さんの純白のウエディングドレス見たら、つい感動しちゃって。式が進行していくうちに、もう我慢できなくなって、涙が流れちゃいました」
「私は人前式というのは初めてだったんで、すごく新鮮に感じましたね」 と卑美子が感想を述べた。
「先生はどんな式だったんですか?」 とトヨが訊いた。
「私は神前式でしたね。打掛けだったけど、背中が少しあ開くので、タトゥーを隠すのに苦労しましたよ。ウエディングドレスなんて、とても着られなかったから、披露宴のときは、なるべく露出が少ないドレスを着ていましたよ。まあ、私の式の場合は、彫波一門の人も来て、けっこう彫り物が目立ってしまいましたけどね。披露宴には、鳥居さんも来てくれましたが、一門の彫り師より迫力があって、彫波師匠なんか、鳥居さんのこと、どこの組の親分さんかね、なんて言っていましたよ。三〇代だった当時から貫禄があったから、親分と間違われたのね。私たち夫婦の恩人です、と答えておきましたが。本当は鳥居さん夫婦に仲人をお願いしたかったんですけど、彫り師も何人か参加する式で、刑事さんに仲人を頼むのは、ためらわれました。奥さんもびっくりするでしょうしね」
 卑美子は結婚式のときのほろ苦い体験を語った。鳥居が彫り師たちから、やくざの親分と勘違いされたことを、皆は笑った。
「鳥居さんの奥さんってどんな方ですか?」 とトヨがまた尋ねた。
「あの鳥居さんからは想像がつかないほどきれいな女性(ひと)でしたよ。最近うちのかーちゃんは太ってきてまったがや、とぼやいていましたけど。娘さんも美人ですよ。鳥居さんご自慢の娘です。お母さんに似て、よかったですよ」
卑美子が笑いながら答えた。
「でも、葵さんのウエディングドレス姿、とてもきれいだった。私たち、タトゥーがあるから、絶対あんなウエディングドレス、着られないもんね」 とさくらが言った。さくらも自分で練習として彫ったり、トヨに入れてもらったりしたので、ずいぶんタトゥーが増えていた。最近はトヨに、腕に龍を彫ってもらっている。
「そうね。私も肩に入れたから、見えちゃうわ。入れたとき、さすがにウエディングドレスのことまで、考えていなかったな。結婚式のとき、どうするといいか、みんなで知恵を出し合わないといけないわね。まあ、その前に相手を探さないといけないけど」 と恵もさくらに同調した。
 美奈は、私と三浦さんでは、結婚式を挙げるなんて、とても無理かな、と思った。現職の刑事、それも敏腕の若手刑事として、県警でも嘱望されている三浦と、自分のような全身いれずみのソープレディーが、恋人同士として付き合っているということすら、公にはできないことだ。二人の交際を知っているのは、美奈の仲間以外では、篠木署の鳥居だけだった。
間もなく披露宴となり、五人は会場の部屋に向かった。

 新郎新婦は、メンデルスゾーンの結婚行進曲に乗って入場した。葵は純白のウエディングドレス、秀樹は黒のモーニングコートだった。パンツはグレー地に黒の縦縞が入っている。媒酌人に先導され、メインテーブルに着いた。
 司会が開会の辞を読み上げた。そして、簡単に新郎新婦の紹介をした。司会は秀樹の高校時代からの親友でもあり、暴露的なエピソードも短く紹介し、会場の笑いを誘った。
 媒酌人は、式では立会人代表を務めており、「先ほど執り行われました結婚式では、ご参列の皆様方のご承認により、新郎新婦は夫婦として結ばれました」 と報告をした。
 両家の家族など主賓の挨拶が終わり、乾杯が行われた。そして、クライマックスのひとつである、ウエディングケーキ入刀。映画『アルマゲドン』のテーマ曲に乗り、新郎新婦が睦まじく寄り添い、二人でケーキにナイフを入れた。式次第は順調に進んでいった。
「あー、やっと食べられるわ。お昼、軽く食べただけなんで、おなか減っちゃった」
 会食がスタートになり、さくらが目の前のご馳走を物色した。
「さくら、はしたないですよ」 と卑美子が笑いながら注意した。今や、卑美子はさくらの保護者のような存在だった。
 新郎新婦はお色直しで、一時退場した。戻ってきた葵は、薄いピンクの地に花柄をあしらった、きらびやかなカラードレスを身にまとっていた。白いウエディングドレスもよかったが、カラードレスの葵もすてきだった。秀樹はディレクターズスーツに着替えている。
 新郎新婦が戻ってから、キャンドルサービスとなった。新郎新婦が参加者のテーブルを一つひとつ回る。美奈たちの円卓に来たとき、葵は 「今日は遠いところから、ありがとうございます」 とお礼を言った。以前、脇腹に牡丹を彫ったとき、五人に会っている秀樹も、美奈たちに挨拶をした。
「今日の葵さん、すてき。すごく輝いてるよ。私も早く葵さんに追いつかなくちゃあ」
 恵が最初に葵に応えた。さくらも美奈も、間近で見た葵の花嫁姿に、目を奪われた。葵は 「披露宴の間は、なかなか話ができないから、終わってから、このホテルのラウンジで待ってて。私も都合つけて駆けつけるから」 と伝言した。
 そのあと、来賓の祝辞、そして余興が始まった。間もなく私たちの番だと思うと、美奈は胸がドキドキした。恵、さくら、美奈の三人は、安室奈美恵の『CAN YOU CELEBRATE?』を歌うことにしている。曲は長渕剛の『乾杯』、チェリッシュの『てんとう虫のサンバ』、SMAPの『世界に一つだけの花』など、いろいろ検討したが、 「私たちのように、タトゥーをしているアムロちゃんにしよう」 という恵の一声で、『CAN YOU CELEBRATE?』に決まった。三人はこの日のために、かなり練習を重ねた。
 いよいよ美奈たちに順番が回ってきた。最初に恵が代表でスピーチをした。
「今日はこのおめでたい席に招いてくださり、ありがとうございました。私は名古屋で葵さんと知り合って、五年になります。ここに一緒のさくら、美奈とで、仲良し四人娘といわれ、これまで私たちは、本当の姉妹のように仲良くやってきました。葵さんのご結婚で、四人娘は解消になりましたが、でも、私たちの友情の絆は、一生壊れることはありません。葵さんは静岡、私たちは名古屋で、直線距離にして、約一五〇キロ離れていますが、私たちの友情の前では、そんな距離なんて、何でもありません。秀樹さんと葵さんの愛が永遠なら、私たちの友情も不変です。今日は秀樹さんと葵さんに聴いていただくため、私たちは一生懸命安室奈美恵の『CAN YOU CELEBRATE?』を練習しました。下手ではありますが、心をこめて歌います」
そして音楽に合わせ、三人は歌い始めた。事前に『CAN YOU CELEBRATE?』を歌うことを知らせてあったので、カラオケが用意されていた。
 最初のうちは順調に滑り出したのだが、歌っていくうちに、美奈の感情が高ぶり、涙があふれてきて、とても歌い続けることができなくなった。そんな美奈を、恵とさくらがカバーして、最後まで歌いきった。
 歌い終えたあと、恵からマイクを向けられた美奈が、 「秀樹さん、葵さん、途中で涙で歌えなくなってしまって、ごめんなさい。でも、私は一生懸命心をこめて歌いました。葵さんは私にとって、お姉さんのような存在でした。そんな葵さんと距離的に遠くなるのは、とても悲しいけど、でも、私たちの心はひとつ、友情は、永遠です。どうか、お幸せに。ときどき静岡にも遊びに来ます」 と涙に詰まりながら語った。
 葵も三人の歌と美奈のスピーチに涙を流しながら、 「ありがとう。本当にありがとう。私たち、いつまでも親友だよ」 とお礼を言った。
 その後、祝電披露、花束贈呈、両親への手紙、閉会の辞と、滞りなく進んだ。両親への手紙のとき、葵も秀樹も泣き崩れてしまった。美奈たちも大きな感銘を受け、もらい泣きした。祝電は個人名で、オアシス店長の田川、アドバイザーの玲奈、フロントの沢村、そしてアイリ、リサなど何人かのコンパニオンたちから来ていた。

 式が終わり、ホテルのラウンジで美奈たちが話をしていると、葵が秀樹を伴ってやってきた。普通のスーツ姿だった。
「ごめんなさい、遅くなっちゃって。せっかく来てくれたのに、ゆっくり話もできなくて」
「そんなこと、気にしなくていいですよ。何せ、今日の主役で、忙しいでしょうし。私たちのために、こうして時間を作ってくれたことこそ、感謝しなくちゃと思います。今日は心に残る、本当に素晴らしい結婚式でした」 と、最年長の卑美子が言った。
 秀樹が脇腹に牡丹の花を彫ってもらったことで、卑美子にお礼を言った。
「何せ、葵が皆さんと離ればなれになるのが寂しいから、みんなと同じように、友情のマーガレットを入れたい、なんて何度も言いましてね。僕も特にタトゥーへの偏見がないから、それじゃあやりなさい、と許したんですが、タトゥーってすごく痛いといいますでしょう。葵だけそんな痛い目にあわせるのは気の毒だと思って、僕も一緒に入れることにしたんですよ。葵が友情のマーガレットなら、僕たちは夫婦の絆としてのタトゥーを同じところに刻もう、と話をして」
「すてきな話ですね。本当に、理想の夫婦だと思います。ぜひ、葵さんとお二人、幸せになってください。早く新しい家族も作ってくださいね。今日は友引だから、私たちもお二人に引かれて、いい人に巡り会いたいと思っています」
 恵がちょっと気を利かした対応をした。
「トヨさんに彫ってもらったマーガレット、みんなとの友情の証として、一生大事にしますね。将来、子供ができて、このお花、何? と訊かれたら、隠すことをせず、皆さんとの友情の証、お父さんとの愛の証だと、堂々と教えてあげますよ。このマーガレット、毎日見ていて、私には秀樹はもちろんだけど、ほかにも素晴らしい仲間がたくさんいるんだ、って実感してるんです」
「ありがとうございます。そう言ってくださると、私もアーティストとして、本当に彫った甲斐があったと、嬉しいです」
 トヨが葵の言葉に目を細めた。
「ところで、ハネムーンは北海道なんですか?」 とさくらが尋ねた。
「ええ。北海道は梅雨の影響が少なくて、爽やかだから。イタリア、フランスとか、オーストラリア、韓国とか、いろいろ話し合ったけど、国内の方が安気(あんき)かな、と思って、北海道にしたのよ。北海道の雄大な自然なら、外国にだって負けないわ。今夜ひかりで東京に行って、明日の朝、羽田から函館に飛ぶのよ。憧れだった知床にも行くわ。北海道では、レンタカー借りて、二人で交替で運転するの」
「わぁ、すてきですね。私も北海道、行ってみたいです」
「美奈だったら、大雪山(だいせつざん)、羅臼岳(らうすだけ)、利尻山(りしりざん)かな。彼氏も山男なんでしょう? 名探偵浅見光彦みたいな、すてきな刑事さん」
 恵が横やりを入れたので、美奈は赤くなった。
「美奈、一度は諦めた恋だったけど、うまくいくといいね。刑事とソープレディーじゃ難しいかもしれないけど、でも私たちも応援してるから」 とさくらも言った。秀樹は葵がソープランドでコンパニオンをしていたことを承知しているから、美奈たちは秀樹に職業を隠していなかった。
「へえ、美奈さんの彼氏って、刑事さんなのですか?」 と秀樹が興味深げに美奈に尋ねた。
「はい。まだ恋人と言っていいかどうかわかりませんが。それに、やっぱり刑事さんには迷惑かけられないから、あまり堂々とは会えませんし」
 美奈は頬を赤く染め、はにかみながら答えた。
 葵と話をしていると、あっという間に時間が経ってしまった。間もなく、秀樹、葵の高校時代の同級生や演劇部の仲間たちが、二次会を開いてくれるという。
「落ち着いたら、必ずみんなで遊びに行くからね。そのときは、静岡、いろいろ案内してね。たまには名古屋にも来てね」
「ええ、名古屋にも行きたいわ。静岡は見るところ、いっぱいあるからね。ぜひ来てちょうだい」
 葵と恵は約束を交わした。
「それじゃあ、葵さん、ハネムーン、しっかり楽しんできてください。お土産、期待しています」
 さくらが葵に手を振った。美奈も 「お気をつけて行ってきてください。お幸せに」 と声をかけた。


確定申告

2014-03-17 22:50:54 | 日記
 今日、確定申告に行きました。校正やイラスト描きが終わったら行こうと思っていましたが、結局最終日になってしまいました。
 申告するべき印税はわずかなので、来年はもっと多額の印税や原稿料を申告できるよう、頑張ろうと思います
 今は確定申告はパソコンを使います。私は以前学校で事務をしているとき、全職員の年末調整のデータをパソコンで打ち込んでいました。間違いなく数値を打ち込めば、県の電算システムがすべてを計算してくれました。
 これとは別に、私個人でも、Excelを使って年末調整のソフトを作成しました。
 以前はけっこうExcelを使用していましたが、最近ほとんどExcelを使わないので、今は関数など、忘れてしまいました
 確定申告の会場に、車で行こうかと思いましたが、天気がよかったので、歩いて行きました。片道約1時間半。ポカポカ陽気で、歩いていると汗ばみました