売れない作家 高村裕樹の部屋

まだ駆け出しの作家ですが、作品の情報や、内容に関連する写真(作品の舞台)など、掲載していきたいと思います

『地球最後の男――永遠の命』 第13回

2015-09-07 10:15:34 | 小説
 9月になり、最近はかなり涼しくなりました。夜は掛け布団を掛けないと寒いぐらいです。
 ツクツクボウシが力なく鳴いている一方、秋の虫の合唱が始まりました。
 秋雨前線が活発で、ときどき強い雨が降ります
 昨日は三重県桑名市まで行きましたが、車を運転していて、急にひどい雨が降り出し、前方の視界が一気にわるくなったので、スピードを落として、慎重に運転しました。
 最近、『幻影3』の執筆が進んでいます。おぼろげな輪郭しか描いていないので、この先どう発展するか、作者自身もわかりませんが、ストーリーを練りながら楽しんで書いています。産みの苦しみともいえますが。

 今回は『地球最後の男――永遠の命』第13回です。
 物語もいよいよクライマックスです。この物語に登場する“聖天帝”は、聖帝サウザー、天帝ルイをフュージョンさせて命名しました(笑)。


 何年もの平和で幸福な生活のあと、とうとう計画が実行されるときが来た。皇帝大高祖の身辺警護に空きのポストができた。大高祖を警護するために、早急に後任を採用する必要があった。しかし皇帝の生命を守るための重要な任務なので、よほどの力量と信用が必要だった。
 皇帝の重臣に、レジスタンスの一人が潜り込んでいた。その重臣は、長い期間をかけ、皇帝の信任を得ていた。彼は自分がレジスタンスとは無関係であることを示すため、捕らえられたレジスタンスの仲間をあえて処刑したりもした。処刑された仲間は、革命の成功を確信しながら、嬉々として死んでいった。
 その重臣が警護の候補として、〝田雄貴〟を推薦した。重臣の推薦ということがあり、田上は選考に合格した。そして、最後の技量審査に入った。皇帝の警護には超人的な強さが必要になる。万一の場合、素手で皇帝の命を狙う暗殺者と戦わなければならない。その選考のための武術大会が行われた。
 大会には最終選考に選ばれた五人の強者が出場した。拳法、柔術、ボクシングなどの達人が揃っていた。しかし他の出場者は田上の敵ではなかった。総当たり戦で、田上は圧倒的な強さで勝ち抜いた。
 田上は大高祖の警護として、忠誠を尽くすこととなった。その謁見の儀が行われた。田雄貴は大高祖の前でぬかずいた。
 「田雄貴といったな。そちの強さ、存分に見せてもらった。これからは朕(ちん)のために、そちの命、なげうて」
 「はは、身に余る光栄でございます。陛下のためになら、この田雄貴、いつでも命を捨てる覚悟でございます」
 田上は恭(うやうや)しく跪(ひざまず)いた。次の瞬間、田上は皇帝に飛びかかった。そして手刀で皇帝の胸を貫いた。一瞬のことで、誰もその田上の行為を阻止することができなかった。
少し間を置いて、ようやく我に返った警護の軍隊が一斉に田上を銃撃した。田上はその場に倒れた。しかしすぐに立ち上がった。逃走ルートは事前に綿密に検討されており、田上は皇帝暗殺の混乱に乗じて、何とかその場から逃げ切ったのだった。

 帝国の各地では、皇帝の死と共に、一斉に反帝国軍の蜂起が始まった。皇帝が死に、混乱している今こそが叛旗を翻すときだった。
一時は革命軍はかなりの勢いを得た。しかしそれは長くは続かなかった。田上が大高祖を倒したとはいえ、すでに次の皇帝が実権を握っており、革命軍の制圧にかかった。高齢の大高祖は、いつ自分が死んでも帝国が盤石であるよう、すでに秘密裏に準備を進めていたのだ。帝国人民解放軍は新しい皇帝の下に結集し、革命軍を圧倒した。

 レジスタンス組織や革命軍は壊滅状態だった。田上と紅蘭が属する部隊も敗走を続け、帝国内陸部の森林地帯に潜んでいた。今では残っているのはわずか八人で、二台のSUVで移動していた。帝国製の自動車は、過酷な使用状況下では、ドイツ車や以前の日本車に比べ故障が多く、信頼度が低かった。
 軍に納入される車両は非常に堅牢、高性能に製造されている。しかし帝国の市場は、国内メーカーがほぼ独占しているため、競争原理が働かず、品質向上への努力を怠っているという面があった。それで富裕層は国産車を避け、高価な欧州車を購入した。
 逃走中、故障した車両が逃げ遅れ、解放軍に大破された。そしてその車に乗っていた全員が射殺された。
大高祖暗殺は成功したものの、これほど早く帝国が体勢を立て直すことができたのは、大きな誤算だった。しかし帝国側は革命軍をほぼ鎮圧したとして、油断をしている今こそ、絶好の機会なのではないか。生き残ったレジスタンス組織の八名は、森の中の急ごしらえの陣営で、第二代皇帝・聖天帝(せいてんてい)を倒す策を練っていた。革命軍が壊滅的な状況となっている今は、田上の不死身の身体に頼る以外、方法はなかった。聖天帝に接近できる機会さえあれば、必ず仕留めてみせる。田上は同志に力強く宣言した。
 そのとき、上空でバラバラという音が聞こえた。
 「大変だ、帝国解放軍のヘリコプターがこちらに向かってきている」
 見張り役が討論中の組織員のところに、血相を変えて駆け込んできた。ヘリコプターのエンジン音やローターの回転音が急速に近づいてくる。
 直後、陣営のすぐ近くにロケット弾が炸裂した。ヘリコプターから攻撃を受けたのだった。解放軍のヘリコプターは二機だった。
「いかん、この場所が見つかったのだ。すぐに逃げなければ」
 リーダーである紅蘭の父、秀英が叫んだ。皆は車を隠してある場所に走った。ヘリコプターから機関銃の銃弾が降り注ぎ、三人が銃弾に倒れた。車のところにたどり着くと、田上と紅蘭が乗った車はすぐに発進した。しかし、秀英始め残った三名が乗り込んだSUVはなかなかエンジンがかからなかった。
 「くそ、このポンコツめ。やはり車は日本車のほうがよかった」
 秀英はののしった。ようやくエンジンがかかり、のろのろ走り始めたところに、ヘリコプターが発射したロケット弾が命中した。
 「きゃあ、お父さん!」
 運転していた紅蘭が後ろを振り向いて、叫んだ。
 「紅蘭、今は悲しみに浸っている場合ではない。お父さんのことを思うのなら、この場を何とか逃げ切り、聖天帝を倒すのだ」
 田上は非情だと思いながらも、紅蘭を叱咤した。
 「わかったわ。聖天帝を倒すことが、一番のお父さんの供養になるのね」
 紅蘭も鍛えられた革命軍の戦士であり、すぐに気持ちを切り替えた。田上は助手席から乗り出し、小型のロケットランチャーでヘリコプターを狙った。ヘリコプターからは、機関銃の銃弾が雨あられのごとく降り注いだ。田上はよく狙い、発射した。外れた場合、次の弾頭を装填するまで、時間がかかる。この一発で仕留めなければならない。
 ロケットは見事に命中し、ヘリコプターは墜落した。田上はすぐ次の弾頭の装填にかかった。敵のヘリはまだ一機残っている。
 田上がヘリコプターに狙いを定めているとき、ヘリコプターが発射した銃弾が、SUVの屋根を貫いた。そして運転していた紅蘭が、がくりとハンドルの上に倒れかかった。田上は車を停め、紅蘭を車の外に運び出した。田上は紅蘭を抱きかかえて、力いっぱい走り、森の中に逃げ込んだ。そこにヘリコプターの機関銃が二人を襲撃した。田上は自分の背中を楯にして紅蘭を守った。深い樹林の中に身を隠して、しばらく息を潜めていた。田上たちを見失ったヘリコプターは、近くに着陸し、銃を携えた兵士たちが降りてきた。田上はしめたと思った。銃を持った兵士が何人いようと、地上では田上の敵ではない。
 「すぐにすむ。しばらくここで待っていてくれ」
田上は傷ついた紅蘭を安全なところに寝かせて、敵に向かっていった。
 「おい、こっちだ」
田上は敵兵を紅蘭から引き離すために、遠くに走っていった。敵兵は田上を追い、銃を発射した。
 「よし。ここまで引き離せば大丈夫だ」
 そう判断した田上は、徒手空拳で解放軍の兵士たちに立ち向かった。田上は数分で、七人の解放軍兵士すべてを倒した。超人的な強さを身につけた田上にとって、銃を持った兵士など敵ではなかった。敵を倒した田上は紅蘭のところに急いだ。
 「紅蘭!!」
田上は紅蘭の上半身を抱きかかえ、声をかけた。紅蘭は頭を撃たれていた。
 「雄一……」
 紅蘭は弱々しく呟いた。
 「雄一、私、もうだめ。平和になったら、二人で幸せな家庭を築こうと約束したのに、約束、守れなくて……、ごめんね……」
 紅蘭はぼろぼろと涙を流しながら、田上に謝った。
 「紅蘭、死ぬな! 俺をひとりにしないでくれ!!」
 田上も泣き叫んだ。
 「あなたは、生きて……」
 紅蘭は口元に微笑みを浮かべた。そしてそっと目を閉じた。


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