19世紀ロンドン。フリート街で理髪店を営むベンジャミン・バーカー(ジョニー・デップ)は
美しい妻と生まれたばかりの娘に囲まれ、幸せに暮らしていた。
しかし、その幸せはある日無残に砕かれる。
ベンジャミンの美しい妻に魅せられた悪徳判事ターピン(アラン・リックマン)の手によって、
ベンジャミンは無実の罪を着せられ監獄に送られてしまう。
後に残された妻と娘の消息も知る術もなく15年の歳月が流れ、
長い苦悩は美しかったベンジャミン・バーカーの容貌を変えた。
スウィニー・トッドと名を変えたベンジャミン・バーカーは、復讐を胸に誓いフリート街へと帰ってきた。
スウィニー・トッドと名を変えて現れたベンジャミンを、大家のラベット夫人(ヘレナ・ボナム=カーター)は温かく迎える。
夫を亡くした後、ひとりで「ロンドン一まずいパイ屋」を切り盛りしてきた夫人の心には、スウィニーへの恋心が募っていった。
そんなラベット夫人の想いは、復讐に燃えるスウィニーには届くはずもないのだった。
しかし、ある出来事がきっかけで、二人の間には深い絆が出来る。
スウィニーの過去に気づいて、脅しをかけてきたイタリア人理髪師のピレリ(サシャ・バロン・コーエン)を
殺してしまったスウィニーは、死体の処理に困ってラベット夫人の力を借りることにする。
そうして、二人の間には「共犯者」という、奇妙で密接な関係が出来上がる。
それは恐ろしい計画だった。
スウィニーが自慢の剃刀で喉を掻き切って殺した客は、そのまま階下のパイ工場に落とされ
料理され、熱々のミートパイになって、何も知らないロンドン市民の胃袋へと消えていくのだ。
復讐の炎を燃やしながら
憎い男が訪れるのを待つ日々。
やがて訪れたチャンスを逃がした時、スウィニーの中で何かが壊れた。
薄暗いロンドンの街の片隅に、ひっそりと開いている理髪店。
何かに引き寄せられるように、ひっそりと訪れる客は
本当に闇の中に吸い込まれて、2度と店から出てくることはない。
夜毎に血しぶきが飛び、飛んだ血しぶきはスウィニーの手を赤く染めるのだが
彼の胸が痛むことはない。
彼の胸を痛める唯一のものは、15年前に失ってしまった妻と娘のことだけなのだ。
スウィニーの暗い復讐の炎は、周囲のものを全て巻き込んでいく。
幸せというものは、たぶん失ってはじめて、その大きさに気がつくのかもしれない。
失う、ということが誰にでも訪れる「死」だったり、「別れ」だったりするときは、時間が悲しみを癒すのかもしれない。
しかし、悪意をもって引き裂かれたものだとしたら、人は「復讐」という狂気に走るしかないのだろうか。
悲しみを癒すはずの時間は、復讐を加速させ
真実を見つけるはずの目を曇らせていく。
物語に登場する人物は
悪役のターピン判事に至るまで、私にはどこか全てを憎みきれないものを持っている。
人の妻を奪い、その娘をまた奪おうとする男。
彼も、方法は歪んではいるけど、求めているのは「愛」なのだ。
彼は権力は持っているけど、きっと自分が持ってる権力以上に大きなコンプレックスを持っているのかもしれない。
コンプレックスを権力で補い、愛情まで権力で得られると思ったのが彼の愚かさ。
男への愛情を、「共犯」という罪で示そうとした女の愚かさ。
復讐で目が曇ってしまった男の哀しさ。
全て、発端は「愛」なのに
なにもかもがかみ合わずにちぐはぐに動いて、悲劇が生まれる。
悲劇の幕が閉じた後
劇場の椅子に深く沈んだまま、すぐには立ち上がる気力のない私がいた。
物語は冒頭から心を深くつかんで最後まで離すことはなかった。
歌声は、セリフからの繋がりのように自然に流れ
感情の高ぶりにつれて、時にほとばしるようにあふれ出る。
派手な動きはほとんどない。
静かなたたずまいの中に、哀しみと怒りと、そして時におかしさや
驚くほど多彩な表情をつめこんだジョニー・デップの演技。
強くたくましく、そして恋を語るときは愛らしいヘレナ・ボナム=カーター。
出演者の誰もが、文句なしにぴったりとはまっている感じなのだ。
薄暗く、ほとんど色彩のないロンドンの街並み。
一転して、幸せな日々を思うとき、映像は美しい色彩であふれる。
闇の中に飛ぶ血しぶきさえ、どこか妖しい美しさを感じるアブナさ。
殺人鬼の物語、ではなかった。
悪魔でもない。
そこにいたのは、ひとりの哀しい男だった。
哀しい男の物語、である。
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を持っているという・・この物語の巧妙さ。
ラスト近くでは、ベンジャミン家族が一つの部屋に
3人揃っているという皮肉。
悪人とはいえ、育ての親ターピンと、
生みの親スウィーニーがジョアンナへの愛の賛歌を
デュエットで交わす名シーン。
トビーとミスターTと自分との擬似家族を夢見る
ミセス・ラヴェットの一途な姿。
皆が哀しくて、皆が報われない愛情を抱えている。
そんな残酷なまでにやるせない世界観が
ホントに見事に映し出されていましたね。
久々に『傑作』に出会ったときの興奮で
胸が打ち震えております・・・。
私も、無事初日に観てきました。
ジョニーが、「僕はスウィーニーを悪魔だとは思っていない」と
言っていたのが、なにもかも納得できました。
公開前に、散々「愛と哀しみのスウィーニー」などと書きましたが、
ここまでだとは思いませんでした。
そして、この作品は、
全てのキャスト、スタッフで作り上げた
極上の芸術作品だと思いました。
愛も、哀しみも、残酷さも、美しさも、重さも。
すっぽりと、私にはまりました!
予想以上に素晴しい映画でした。
ティムとジョニーのコンビは、数々の名作を作り上げてきたけど、これが1番なのじゃないかと思ってます。
ターピン判事とスウィニー。
敵対するはずの男二人が
ひとりの女を想い、声を合わせて愛の歌を歌う。
あのシーンは、なんとも不思議な感覚でした。
>全ての心がすれ違いながら、全ての心がどこかで接点を持っている。
。。そういうことなんですね。
きっと、何度か足を運ぶことになりそうです。
私も初日、行ってきました。
いや。。もう、言葉も出ないです。
なにをなんと言ったら、この気持ちが言い表せるのか
もどかしいです。
私も、すっぽりと捉えられました。
残酷で冷たい仮面の下にある哀しさと美しさを観てしまったら
しばらくは、あの世界から出て来れそうもありません。
今さら、ですが、この映画でGG賞を受賞したことが心の底から嬉しいです。
もう感動というか、衝撃というか・・・。
素晴らしい作品ですね!
観ている間、現実世界を忘れて
魅入っていたような気がします。。。
やっぱり、パイレーツよりも
この作品で賞を取れたことがとってもうれしいです。
何度も観に行くことになりそうです!!
ジョニーの歌唱力、いったいどうなんだ。。という
あかはかな心配も見事に裏切ってくれましたね。
素晴しい声でした。
「歌」にかまえることなく
あふれ出る想いが言葉になって、たまたまメロディーにのってしまった。。ような雰囲気でしたね。
思い出すたびに
背中がゾワゾワしてきます。
救いようのない悲劇だけど
いったいなにがこんなに私達を惹きつけるのか。
確かめるためには
何度か観にいくことになりそうですね。
この作品でノミネートされなかったら、どれでノミネートするんだ!って思うくらい、ジョニーの演技はすごかったですよね~。
もう、腰が抜けそうだったもん(笑)。
あ~、今年っていい年だぁ~
やったですね♪
ノミネートも当然のことだけど
やっぱ、名前がバーンとでると嬉しいよねっっ♪
でもでも。。ティムの名前がないじゃん(怒)
作品賞に。。ないじゃん(怒)
欲を言えば、全ての賞をかっさらって欲しい(笑)
いや、それほど衝撃的で魅力的な映画でした。
私も。。椅子にめり込みそうだったですもん。
こんな激しい新年の幕開けで
なんだかもう疲れ果ててしまってますわ。
雪の中、頑張っていってきました(笑)
ジョニーの歌、とても自然でよかったです。
残酷なシーンもあったけど、その根底にあるのは
‘愛’。
最後は少し泣けてしまいました。
もう一度、スクリーンで観たい映画です。
観てきましたか。
雪の中♪素敵じゃないですか。
とてもいいシチュエーションです。
私も初日に行ったんですけど
えへ♪聖地ヒルズにわざわざ。
映画館から昼間の明るい街に出るのがイヤだったので夕方から観ました。
悲劇だったけど
今、少し時間がたって思うと
ああいう幕の閉じ方しか出来なかったですよね。
考えようによってはハッピーエンドですね。
あれで。。永遠に一緒になれたってことですね。