ビター☆チョコ

店じまい後も変わらずご訪問ありがとう。
新居をかまえましたので
お近くにお越しの際はお寄りくださいませ。

サン・ジャックへの道

2007-12-30 | 洋画【さ】行

仲の悪い三兄妹がいる。

長男のピエール(アルチュス・ド・バンゲルン)は経済的には成功してるが、妻がアル中で自分も薬が手放せない虚弱体質。傲慢にも見える性格。

長女のクララ(ミュリエル・ロバン)は高校の国語教師をしている。差別と宗教を憎み、毒舌はかなりのものだけど、当たってることが多いので痛快に感じる。強面、腕力強し。失業中の夫と子供あり。

次男のクロード(ジャン=ピエール・ダルッサン)は、長いこと失業していてアルコール依存症。別れた妻と暮らす娘にも酒代を無心するほどだが、どことなく憎めない男。

こんな3人が、亡くなった母親の遺産を相続するために1500キロもの巡礼の旅に出ることになる。

フランスのルピュィを出発して、目指すのはキリスト教の聖地、スペインのサンティアゴ(サン・ジャック)

その距離は1500キロにも及び、その長い距離をなんの乗り物も使わずに、約3ヶ月間、ひたすら歩き続けるのだ。

長い巡礼の旅にはガイドがついて、巡礼の道々には、そんな旅人をほとんど無料で泊める安宿が点在しているらしい。
敬虔なキリスト教徒は、きっとその長い道のりを祈りと感謝を胸に旅をするのかもしれない。

しかし、このツアーに集まったのは、敬虔なキリスト教徒とは言えない者ばかり。
遺産目当ての3兄妹は無神論者で、ことあるごとにののしりあい、つかみ合いの喧嘩まで始める始末だし
キリスト教巡礼の旅なのに、なぜかアラブ系のイスラム教徒の若者2人まで混じっている。
総勢9人のツアーだが、誰も純粋に巡礼をしようという雰囲気ではないのだ。

旅が進むにつれて、それぞれの事情があきらかになってくる。

携帯電話すらほとんどつながらない田舎道。
旅を快適にするために背負ったきたはずの重い荷物が
この長い旅では、ほとんど必要のないものばかりだったことに気がついていく。

シャンプー、ドライヤー、日焼け止め、薬。
手当たり次第捨てた荷物から解放されて
やっと美しい風景に目をやる余裕が出てくる。
ばらばらに距離を取りながら歩いていた一行が
足並みをそろえて
話をしながら歩いていくようになる。

旅に必要なのは、最新の装備でも重い荷物でもなかったのだ。
しっかりと大地を踏みしめて歩くこと。
疲れたら疲れたと言って休んで
雨が降ったら雨宿りをして
時には誰かの肩を借りたり、貸してあげたり。
そんな単純なことだったのだ。

目的地に、いかに早く着くか、そのことに目が向きがちなこの時代に
まだ「巡礼」という旅が存在するのは
きっと、自分の足で「歩く」というシンプルな行動がとても大切なことだからかもしれない。

歩き初めのころは、いろんなことを考える。
なんで、こんなことしてるんだろう。
こんなはずじゃなかった。とか、後悔やなにかを責める気持ちが湧いてくる。
だんだん体が慣れて落ち着いてくると、自分のことや家族のことを考える。
歩いているうちに、どんどん心が浄化されていくみたいだ。

世間から隔絶されたような田舎の道を歩いている間に
世間ではいろんなことが起こっている。
家族のために家族と離れて一生懸命働いてるのに
皮肉なことに不在がちな父をないがしろにして、新しい生活を始めようとする家庭もある。
妻が入院したり
最愛の人との別れもある。
すべては旅の途中で起きことで、遠く離れた身では、なすすべもないのだが
なすすべもないことが起こるのだということを知って
人はそれを受け入れて、新たな道を探ろうとする。

長い人生の中では、ほんの短い3ヶ月だけど
偶然の出会いがその後の人生を変えることもある。
旅に出会いは付き物だけど
その出会いは必ずしも素敵なものばかりじゃない。

権力を笠に着て、我慢のならないことを言う輩には
啖呵のひとつも切っていいし
明るくて元気でとってもいい人たちなんだけど
どうしても一緒に旅をしようという気にならない人もいる。
出会って、
けんかしたり
怒ったり、許したり許されたり
泣いたり、愛想笑いしたり
そんなことを繰り返しながら旅は続いて
人は自分を知っていく。
自分を知ることで人にも寛容になっていくんだね。

たぶん、今年最後に観る映画(DVD)が
こんなにも力を与えてくれる映画で良かった。。と思う。
今年の初映画が「リトル・ミス・サンシャイン」
これもロードムービーで、明るい光が差してくるような映画だったのを思い出す。

旅という非日常の生活が
今までの自分の殻を破ってくれるという展開は
いつだって私達に憧れを抱かせるけど
長い目で見れば、この普通の暮らしも
生きていくうえでの旅の途中なんだよね。
そう思えば、日常がもっと大切なものに思えてくるから不思議だね。

長くて辛い旅は、目的があると苦痛じゃなくなる。
そして、がんばれるのは、この旅に必ず終わりがあることを知っているからなんだよね。
旅の途中で出会う人や景色を見逃さないように
ちゃんとしっかり歩いていかなきゃね。

どこまでも続く青い空と広大な大地。
軽快なテンポで繰り広げられる会話に、時々胸がつまったり、クスリ、と笑えたり
ハートウォーミング、とひと言で片付けられないような
素敵なロードムービーだった♪




 


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
良い映画でした♪ (tomozo)
2007-12-30 21:48:30
私の2007年の「良い映画」3本のウチの1本です~。
先日TBSの世界遺産でサンティアゴ・デ・コンポステーラが取り上げられていて、なんだか行きたくなってしまいました。
あの大きな香炉が揺れる様子も撮影されていて、巡礼の旅の後に見るあのイベント(?)は最高だろうなぁ~。
うんうん、この映画で締めくくるのは素敵だわ♪

来年もよろしくね~。
良いお正月を!
返信する
知らないことばかり(笑) (チョコ)
2007-12-31 11:45:01
tomozoさん

うんうん、これはいい映画でした♪

一見、強面のクララの深い愛情と1本筋の通ったところが、とっても素敵でしたね。

サンティアゴって世界遺産なんですねー(ああ。。無知。。)
キリスト教の聖地だというのも
この映画で知りましたん(恥)

知らないこと、知らない場所を映画で教えてもらうことがたくさんあります。

来年もよろしくお願いします♪
穏やかなお正月を♪
返信する