むかしのプリンターは、用紙を挿入しておかないとデータの受付けもしてくれない意地悪なものだった。
いまのものは、紙がなければ印刷されないのはあたりまえだが、動き出さないだけで、バッファーが働いてデータの受け入れだけはしてくれる。
データが届くのは別に衝撃的なことでもないのに、なぜバッファーと呼ぶのだろうか。
印刷できないのに、あるいは印刷処理が間に合わないのに、データがどんどんやってくる、それが衝撃的なのか。
ファックスがうまく使えないという人に会った。
自分のところで受け損なうことがあるから、送信したときは、電話で着いたかどうか確かめるのだと言う。電話で「メール着きましたか」と聞くのと同じではないか。
受け損ないとはどういうことかと聞くと、紙を入れても印刷されないのだと言う。
ファクシミリ機にはふたとおりあって、巻いた紙を入れておくのと、普通の紙を重ねて入れておくのとあるが、どちらだと聞くと、巻いたのではない、1枚1枚入れるのだと言う。
その紙をいつ入れるのかと聞くと、受信の信号が鳴ると入れるのだが、紙を入れても印刷されないのだと言う。
久しぶりに腹を抑えて笑った。おかげで変調をきたしていた胃袋も調子がよくなった。
そんなにおかしいか、と言ったその人のまじめ顔を後から思い出して考え直した。
用紙がなくても待っていてくれて、紙を入れれば動き出す、そういうプリンターと同じに、ファクシミリ機も着信したら待ち構えていて、紙を入れれば動き出す、それが普通なのではないか。