色紙に書くことを求められる職に就く人は、デジタル時代でも筆書きのお稽古をしておいたほうがよさそうである。
筆書きはもちろん毛筆が本流だが、毛筆が用意されず、細書き用のサインペンで「何か書いてください」と、もの知らずのお願いに行き合うと、これがまた厄介なことになる。
毛筆の場合には、筆勢も手伝って悪筆に味が出ることもあるからまだよいが、細めあるいは先の四角なサインペンでは、字の形が整っていないと見られたものではなくなってしまう。
「アナログスタイルのイラスト」という広告文句が目についた。
「drawing素材集」(アレフ・ゼロ著)という本である。
これには、手書き様、鉛筆のかすれ、インクのにじみや溜まりも、そのように表現されたイラストが載っているという。
手元感覚の怪しくなった人間にはうれしい贈り物である。
そのうちに電子色紙などというものができるかもしれない。
ペン入力のタブレットに書くと、下手な字でも何とか見られるように修正されて色紙になって出てくるという仕掛けである。
しかし、技術の見かけ上の進歩は人間の能力を劣化させるから、こういうことを続けていると、21世紀以降は表現能力退化の時代として歴史に残ることになる。安心も感心も気の緩みのもとになるのだ。