海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

玉津会長の「改革」の実態

2011-10-21 18:13:13 | 教育・教科書

 8月23日に開かれた八重山採択地区協議会の「会議録」を読むと、玉津会長は最初のあいさつで、八重山地区ではこれまで調査員によって教科書の1種絞り込みが行われ、「調査員があたかも採択している」として、沖縄県の義務教育課長が出した「通知文」を紹介しながら、自らが進めてきた「教科書採択の改革」について長々と述べている。
 ところが、慶田盛副会長が「17年度は1種絞り込みではない」と指摘し、別の委員が「私も1種絞り込みということは、会長の勘違いだと思います」と発言すると、途端にしどろもどろとなり「別のところで議論を深めていきたい」と逃げている。
 順位付けを廃止したことについても、委員や慶田盛副会長から疑問が出され、県の「通知文」の解釈をめぐる議論になると、玉津会長は「順位付けについてはノーコメントにします」と逃げている。その後、他の委員が色々と発言しているが、玉津会長によって「エンドレスの議論になるので、これで終わりにして」と打ち切られている。
 自ら持ち出した議論でありながら玉津会長が逃げてしまうのは、県の「通知文」を読むかぎり、玉津会長が県の指示とは違う恣意的な解釈をしているのが明らかだからだ。
 玉津会長が協議会で紹介した、平成17年3月4日付けで県の義務教育課長から出されたという教科書採択の「通知文」(わざわざ部長と二人で倉庫の中から出してきたという)では、以下のように記されている。

1 地区採択協議会における調査会等で、いわゆる「1種絞り込み」を是正すること。
 (全発行社の教科書について報告書を作成し、その中で数社を順位付けする。)

 県の「通知文」では「1種絞り込み」を是正するように書かれているが、順位付けをやめるようには書かれていない。全発行社の教科書について報告書を作成し、その中から数社を順位付けするようにと括弧書きで補足説明されている。つまり、順位付けした上で1位の1社だけを推薦するのは1種絞り込みになるのでそれはやめて、1位以下の社も含めて複数の教科書を推薦するようにということだ。
 例を挙げるなら、A~Eの5社の教科書がある時、調査員がそれぞれの教科書について検討し、議論した結果、最も良いのがA社と判断され、以下B、C、D、E社の順となった。その時、A社だけを推薦するのは1種絞り込みになるので、1位A社、2位B社、3位C社というように順位を付けて、複数の社を推薦する。あわせてA~E社すべの教科書の報告書も提出する。その中から1位のA社を選ぶか、2位、3位の社から教科書を選ぶかは、採択地区協議会の仕事になる。それが「通知文」の素直な解釈であろう。
 調査員からすれば、各社の教科書に順位を付けないと、上位を絞り込んで推薦することはできない。玉津会長が県の「通知文」に従って1種絞り込みを是正するというなら、順位付けで1位の教科書だけを推薦するのではなく、2位以下も含めて複数の教科書を推薦しなさい、と調査員に指示すればいいだけのことだ。
 玉津会長が順位付けまで廃止したのは、県の「通知文」にむしろ反することだ。それだから協議会の場で順位付けをめぐる質問や意見にまともに答えられず、国の「指導」を持ち出して逃げているのである。

 なぜ玉津会長は県の「通知文」に反してまで順位付けを廃止したのか。調査員に複数の社の教科書を推薦させたとしても、自らが選びたい教科書が順位付けで上位になり、推薦されてくるとは限らない。推薦外の教科書は調査員によって下位に位置づけられており、それを選ぶには不自然さが生じる。
 そこであらかじめ順位付けを廃止して、教科書の特徴・特色を基準に選ぶとしておけば、推薦外の教科書を選ぶ不自然さが(解消はされなくても)曖昧になる。玉津会長は自分が選びたい教科書が調査員から推薦されないことを想定した上で、順位付けを廃止して調査員の推薦を形骸化させたのである。
 教科書採択にあたって教員による絞り込みや序列化(順位付け)を廃止することは、実は自民党本部が各都道府県連合にとりくむよう要請していたものだ。沖縄タイムス電子判には、8月25日付の次の記事がある。

http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-08-25_22556/

 玉津会長のいう「教科書採択の改革」が自民党本部の要請に沿ったものであり、自らの意図する教科書を選ぶためになされた恣意的かつ政治的なものであることは、この問題が起こった当初から多くの人が指摘している。「会議録」を読むと、別の角度からそのことが裏付けられる。
 本ブログの10月18日に載せた文章で、音楽、美術、技術の3教科で、調査員が1社しか推薦していないことに触れた。音楽の説明で玉津会長はこう述べている。

 「調査員の推薦したい教科書は、複数でお願いしてありますが、教育芸術社ということであります。
 評価のほうは二つ同じでありますが・・・・」

 「複数でお願いしてありますが」という一言が示すように玉津会長は、音楽の推薦の仕方が1種絞り込みの是正に反していることに気づいている。しかし、それ以上なにも追及しないし、他の委員も問題にしていない。その対応は美術や技術も同じである。
 会議の最初のところで玉津会長は、わざわざ倉庫から出してきた県の「通知文」を示して自らの「改革」について説明し、1種絞り込みや順位付けをめぐって、他の委員もまじえて長々と議論を展開していた。1種絞り込みの是正にそれだけこだわっていたのなら、どうしてこのようなあっさりとした対応になるのか。
 「会議録」を通して読むと、冒頭から社会科までの議論と、それ以後との大きな落差が目につく。はたして玉津会長は、社会科で調査員が1社だけを推薦していたら、音楽や美術、技術と同じ対応をしていただろうか。そのような疑問を禁じ得ない。社会科公民で育鵬社の教科書を選ぶという目的を達したあとは、玉津会長にとって「改革」はどうでもよくなっていたのだろう。
 1種絞り込みの是正や順位付けの廃止も、玉津会長にとってはしょせん、社会科で自らが意図する教科書を選ぶための手段でしかなかった。そのことが一見、何事もなくこともなく過ぎた「会議録」の後半で露呈しているのである。


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