11月30日に神奈川大学みなとみらいキャンパスで講演をする機会があった。その時に使ったレジュメを以下に載せたい。
1辺野古新基地建設が抱える問題
➀軟弱地盤の改良工事 →海面から90メートル下まで広がる泥状の地盤
・長期化する工事によって増大する予算
防衛省が示す総事業費(全体経費)は約9300億円。埋め立てに使用する経費は7225億円と試算
→2023年度までに総事業費の約57%に当たる5219億円を支出している。
防衛省が当初の資金計画書で示していた全体の予算は2400億円。
2014年度時点では総事業費を3500億円以上と見積もり。
2013年度時点では埋め立て工事費を2310億円と見積もり
→その後、軟弱地盤の存在が明らかとなり、7225億円へと増額。内訳は(仮設工事/約2000億円、護岸工事/約1500億円、埋め立て工事/約3600億円、付帯工事/約125億円)→埋め立て済みの土砂はまだ約15%。
沖縄県は2兆5500億円に膨らむと試算(2018年11月)。
政府・防衛省は12年で完成するというが、実際は完成する見通しすら立たず、予算がどれだけ膨らむかも分からない。
☆それでも米軍は何も困らない。工事をしている間、普天間基地を使い続けることができる。予算が増大すればするほどゼネコンやそれとつながる政治家は儲かり、巨大な防衛利権を生みだす。
☆莫大な予算を浪費せず、教育関連(授業料や給食費などの無償化、奨学金の充実、研究開発費の増額など)に使い、新しい産業の創出によって経済復興を目指すのが、日本にとって火急の課題ではないか。
2、辺野古新基地は普天間基地の「代替施設」にはなり得ない。
・滑走路が短い→普天間基地(滑走路延長2740メートル)
辺野古新基地(滑走路延長1200メートル、オーバーラン両側300メートル)
・施設面積が小さい→普天間基地(約476ヘクタール)
辺野古新基地(約150ヘクタール)
→辺野古新基地は滑走路が短いので固定翼の輸送機が使用できない。
→施設面積が狭いので、物資を保管する倉庫や駐機場などの施設が限られる。
☆敵の攻撃で嘉手納基地が使用不能となった時、普天間基地は兵員・物資の輸送のため大きな役割をはたす。兵站能力が低下すれば戦闘を継続できない。
☆琉球弧全体の兵站能力の維持・向上なくして、中国と軍事的に対抗できない。
・普天間基地の返還条件→2013年の日米合意「沖縄における米軍施設・区域に関する統合計画
〈普天間飛行場代替施設では確保されない長い滑走路を用いた活動のための緊急時における民間施設の使用の改善〉
・2017年4月5日公表の米国監査院「アジア太平洋地域における在沖米海兵隊の再編に関する報告書」
辺野古の「代替施設」では滑走路が縮小されるため、固定翼機の緊急対応や国連の災害対応ができないので、沖縄県内の別の滑走路の使用を提案すること。
・2017年6月15日の参議院外交防衛委員会での稲田朋美防衛大臣(当時)の発言
稲田朋美大臣〈普天間基地返還の前提条件が整わなければ、返還とはならない〉
翁長雄志知事(当時)の猛反発→7月5日の県議会で〈(米軍には)絶対に那覇空港を使わせない〉
→以後、日本政府は沖縄の反発を避けるため、この問題を曖昧にしている。
・那覇空港の米軍使用に向けての動き→2023年8月25日「総合的な防衛体制の強化に資する研究開発及び公共インフラ整備に関する関係閣僚会議」
特定重要拠点空港・港湾の設置→自衛隊・海保による軍民共用化
全国9道県32カ所のうち沖縄県は最多の7空港(那覇空港・久米島空港・宮古空港・下地島空港・新石垣空港・波照間空港・与那国空港)、5港湾施設(那覇港、中城湾港、平良港、石垣港、与那国新港)が対象となる。→現時点で那覇空港と石垣港は指定済み。
日本政府は日米地位協定第5条に基づき、民間の空港や港湾施設の米軍使用を認めている。
那覇空港を特定重要拠点空港とすることにより、米軍の使用に道を開く。
米軍使用を認めないと普天間基地は返還されない、という条件による脅し。
那覇空港はすでに自衛隊と海保が使用する軍民共用空港であり、自衛隊のスクランブル発進の全国の半分以上が行われている→2024年10月21日に陸上自衛隊のオスプレイが、日米共同統合演習「キーン・ソード」で那覇空港を初使用。
このうえ米軍が使用するようになれば、事故の危険性はさらに増す。
3.「台湾有事」を煽って進められる琉球弧の軍事要塞化。
・中国による台湾への軍事侵攻の困難さ。
ロシアによるウクライナ侵略が示すこと→首都を陥落させ、傀儡政権をでっちあげて占領・支配することの難しさ。
長期化する戦闘によって経済危機、国際的信用の失墜、内政の混乱など共産党支配が揺らぐ危険を冒すか。
海峡を越えた軍事侵攻の難しさ→78年前に米軍はなぜ台湾ではなく沖縄に上陸したのか。
台湾の海岸線(西側は遠浅で泥地、東側は崖が多く、上陸に適した長い砂浜が限られている)。
面積が広く山岳地帯でゲリラ戦が戦える。
中国軍の海上輸送能力、揚力能力の限界→3対1の法則(攻める側は守る側の3倍の兵力が必要)
→100万人規模の部隊を輸送し、揚陸する能力と戦争を継続するための兵站能力があるか。
軍事攻撃により台湾の半導体産業が壊滅的打撃を受ければ元も子もない(半導体安保)。
台湾の市民の大半は現状維持を望んでおり、独立志向は少数。
中国の人口動態の問題→生まれる女子100人に対し男子118人(エマニュエル・トッド)。
→一人っ子政策の中で、出生前判断で男子を選び、いびつな人口構成となっている。
人民解放軍の男性兵士は、自分の両親と連れ合いの両親の老後を見ないといけない。
戦死した兵士への補償の増大→1979年の中越戦争以来、人民解放軍は本格的な戦闘を行っていない。大量の戦死者が出た場合、中国の市民はどう反応するのか。
台湾はエネルギーと食料自給率が低いので、上陸しないで周辺を中国海軍で封鎖し、兵糧攻めにした方が効果的(田岡俊二)。
→台湾が独立に向け強硬な動きを示さない限り、中国への経済的依存度を高め、長期的に包摂していく方が賢明という判断。
☆注意すべきは米国の軍事挑発→戦争ビジネス=東アジアで紛争を起こし、軍需産業の利益を生み出す。米軍の主力部隊は中国のミサイル射程外に移動し、自衛隊を前面に出して戦わせることで、米国は犠牲を少なくし利益の増大化を追求する。
→戦場となる沖縄は多大な犠牲を強いられる。
4.沖縄・日本はどう対応していくのか。
・「台湾有事」を煽って利益を得るものは誰か→軍産複合体の思惑に踊らされないこと。
・自衛隊は戦争を戦えるのか?自衛隊の現状は?
防衛省・自衛隊のホームページによれば、2024年3月31日時点の自衛官の定員と現員、充足率は以下の通りである。
陸上自衛隊 定員150,245人 現員134,011人
充足率89・2%
海上自衛隊 定員 45,414人 現員 42,375人
充足率93・3%
航空自衛隊 定員 46,976人 現員 43,025人
充足率91・6%
統合幕僚監部等 定員4,519人 現員 4,100人
充足率90・7%
合計 定員247,154人 現員223,511人
充足率90・4%
☆現在、自衛隊は10%近くの定員割れを起こしている。さらに問題なのは、充足率の階級ごとの内訳である。
幹部(将官・佐官・尉官)92・6%
准尉 96・7%
曹(曹長・1~3曹) 98・2%
士(士長・1~2士) 67・8%
自衛隊の士とは、旧陸軍でいえば兵(兵長・上等兵・1~2等兵)にあたる。実際に戦場に出て戦う者たちであり、その充足率は67・8%にすぎない。作戦を立て、戦闘を指揮する幹部はいても、現場で実際に戦う士(兵)の数は定員の7割にも満たない。これが現在の自衛隊の実態である。
☆少子化が進むなかで隊員確保ができない問題。
2023年度の自衛官の採用数。
【一般曹候補生】
陸上自衛隊 計画数4,200人 採用人数2、532(361)人
対計画比60%
海上自衛隊 計画数1,630人 採用人数1,042(205)人
対計画比64%
航空自衛隊 計画数1,400人 採用人数1,395(369)人
対計画比100%
小計 計画数7,230人 採用人数4,969(935)人
対計画比69%
【自衛官候補生】
陸上自衛隊 計画数7,030人 採用人数1,897(270)人
対計画比27%
海上自衛隊 計画数1,398人 採用人数 444(61)人
対計画比32%
航空自衛隊 計画数2,200人 採用人数 880(209)人
対計画比40%
小計 計画数10,628人 採用人数3,221(540)人
対計画比30%
その他 計画数1,740人 採用人数1,769人
対計画比102%
合計 計画数19,598人 採用人数 9,959人
対計画比51%
→計画数(募集)に対し実際の採用数が51%というのは過去最低。2022年度は66%であり、15%も低下。士(兵)となる自衛官候補生では、陸自は募集の3割も採用できていない。
→2024年の日本の出生数は初めて60万人台となる。少子化が急速に進むなか、人手不足が深刻化し、自衛隊は隊員確保が難しくなっている。
→今の自衛隊員は東日本大震災など、災害に対応する自衛隊の姿を見て入隊した者も多い。人を殺し、殺される戦場に出る覚悟を決めきれる隊員はどれだけいるか。
→日本の政治状況や市民の意識を見れば、徴兵制をしいて士(兵)を強制的に補充するのは困難を極める。
→「南西シフト」の強化を進めても、今の沖縄人は79年前のように軍隊に協力しないし、できない。日本の市民は79年前のように挙国一致体制で戦時下を耐えられるか。
☆沖縄のような大国の狭間に生きざるを得ない地域(小国)の知恵→非武装化による脅威の除去。中立・多元外交。教育と産業育成。人が生きやすく、幸福度の高い社会とは。
日本(ヤマトゥ)による犠牲と負担の強要を許さないこと。
【参考資料】
普天間基地の返還条件→2013年の日米合意「沖縄における米軍施設・区域に関する統合計画」
①返還区域 ・ 返還区域は、約481ヘクタール(全面返還)。
②返還条件
・海兵隊飛行場関連施設等のキャンプ・シュワブへの移設。
・海兵隊の航空部隊・司令部機能及び関連施設のキャンプ・シュワブへの移設。
・普天間飛行場の能力の代替に関連する、航空自衛隊新田原基地及び築城基地の緊急時の使用のための施設整備は、必要に応じ実施。
・普天間飛行場代替施設では確保されない長い滑走路を用いた活動のための緊急時における民間施設の使用の改善。
・地元住民の生活の質を損じかねない交通渋滞及び関連する諸問題の発生の回避。
・隣接する水域の必要な調整の実施。
・施設の完全な運用上の能力の取得。
・KC-130飛行隊による岩国飛行場の本拠地化。
③返還時期
・返還条件が満たされ、返還のための必要な手続の完了後、2022年度(日本国の平成34会計年度)又はその後に返還可能。