アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

『藤田』に魅かれる!

2015-10-22 | 

この秋、美術の気になるキーワードとして、ひとつは『琳派』、そして私にとってのもうひとつは『藤田』です。

藤田嗣治については、「日本を代表する画家」のひとりとして名前は知っていたものの、その人物と芸術について知り興味を持ち始めたのは、2009年に上野の森美術館で行われた「レオナール・フジタ展」を見てから。このブログでもその後、書籍展覧会の感想を取り上げました。

11月には小栗康平監督、オダギリジョー主演による映画「FOUJITA」が公開されることもあり、この機会に改めて藤田の生涯を追った著書を読んでみました。

   藤田嗣治「異邦人」の生涯 (講談社文庫)

著者の近藤史人さんは、NHKのディレクターとして藤田のドキュメンタリー番組などを制作しました。藤田の日本における不当な評価に憤りを持つ、最後の奥様である君代夫人との粘り強い交渉とインタビュー、関係者の証言、未公開資料の調査など、取材を通じて明らかになった藤田の「本当の姿」を書籍にまとめました。

2002年に単行本として出版された本書は、2006年の文庫化に際し、新たな情報による加筆訂正がなされたとのことですが、それからさらに10年、藤田を覆っていたベールは一枚また一枚とはがれ、これまで知られていなかった藤田嗣治という特異な存在である芸術家の姿が、どんどん明らかになりつつあるように感じます。

エコール・ド・パリを代表する画家として一躍時代の寵児となった藤田を、日本の画壇は全く評価しませんでした。長らく異国にあっても日本人であることにこだわっていた藤田は、第二次世界大戦中には帰国し、軍の指令により戦争画の大作を描いて、初めて日本で名声を得ます。ところが戦争終結後は、その作品の影響力故に「戦犯」扱いされ、ついに日本を離れる決心をするのです。フランスに渡った藤田は、日本国籍を捨ててフランス国籍を取得、生涯日本の地を踏むことはありませんでした。

冒頭に書いた「日本を代表する画家」というのも、実は背景が複雑すぎて全くそう言えないのです。藤田は日本人なのか?日本を代表するとは、どういう意味なのか?そして彼の胸中は…?

彼の生涯や作品を理解するにあたって、やはり「戦争画の時代」ははずせないと思うのです。撮り貯めていた番組の録画などを見て、藤田が戦争画に取り組んだ複雑な思いを垣間見ることができました。長くヨーロッパに身を置いていた彼ですから、ダヴィッドやドラクロワのような名立たる画家たちが、大画面で歴史的な戦闘の場面を描いた傑作を残していることは、もちろん強く意識していたでしょう。

藤田の戦争画の作品については、映像や写真で見ても、どうも画面全体の色が薄暗くてよくわからないな~というのが感想です。現在、東京国立近代美術館の所蔵作品展では、藤田の戦争画全14点を公開中とのこと(12/13まで)。きっと実物の作品を対峙すると感じるものがあるだろうな…。う~む、行っちゃう?

 

さて、藤田のエッセイを集めた下記の本も、近藤史人さんが編纂されています。藤田は生涯3冊の随筆集を出版しているとのことですが、うちパリ時代のエピソードを中心にまとめた2冊から主に抜粋されています。

実際に藤田の言葉で描かれた文章を読むと、臨場感が伝わってきます。第一次世界大戦中のパリの空襲の様子や、華やかでもの哀しいモデルのこと、ピカソやパスキン、モディリアーニなど20世紀の巨匠たちとの交流…。私の中の藤田のイメージがイキイキと立ち上がってくる感じ。

 腕一本・巴里の横顔 (講談社文芸文庫)

 

これに加えて、昨年、3冊目の随筆集である「地を泳ぐ」が文庫化されています。近藤さんが追った藤田の生涯にも、ここで記述されていることがかなり参照されていました。この本は昨日買ってきたところ。楽しみに読みたいと思います。

 随筆集 地を泳ぐ (平凡社ライブラリー)

 

映画、書籍、展覧会…。ますます立体的になってきた藤田嗣治。この秋は少し深く追いかけてみようと思います。

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