アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

矢野顕子さんと、ベヒシュタイン

2018-02-04 | その他

ちょっと時間がたってしまった話題ですが、昨年11月に私が敬愛するミュージシャン、矢野顕子さんの新しいCD「Soft Landing」が発売されました。以前の記事にも書いたように、私が最初に矢野さんの音楽にしびれたのが「SUPER FOLK SONG」というピアノと歌だけの弾き語りアルバム。それ以来、いくつもの名作が生まれ、今作が7年ぶり5作目の弾き語りアルバムとなります。 

 Soft Landing (通常盤)

この作品には、SUPER FOLK SONG」という名曲に歌われている恋愛ストーリーの後日談となる「SUPER FOLK SONG RETURNED」が収録されているのも注目だったんですが、私がすごく気になったのが、矢野さんがこのアルバムを「ベヒシュタイン」というピアノで録音したということ。これまで矢野さんが愛用してきたのはスタインウェイ、そのブリリアントな音が矢野さんの声や演奏にピッタリだったのですが、それを変えたんですと?!

ベヒシュタインと聞いて思い出したのが、この本。なんと15年以上も前に購入したので、久し振りに手に取ってみるとページが茶色くなってました。(まだ売られているようでよかった!)

パリ左岸の裏通りにあるピアノ工房を舞台に、ピアノの魅惑的で深遠な世界にはまったアメリカ人の著者慈愛に満ちた眼差しで、ピアノという楽器とそれを巡るパリの人々について描いており、読んでいてとても幸せな気持ちになれる一冊です。 

  パリ左岸のピアノ工房 (新潮クレスト・ブックス)

そこには、いろいろなピアノが登場するのですが、有名なスタインウェイやベーゼンドルファーの他、エラール、プレイエル、ガヴォー、シュティングル、ファツィオーリ、そしてベヒシュタイン!複雑かつ精巧な音の出る仕組みは同じでも、それぞれメーカーごとに独自の工夫が施され、実に個性的な音色が生み出されるというのです。

ドイツのベヒシュタインはピアノの世界三大メーカーのひとつで、伝統の技術に支えられた透明感のある音が特徴です。今回このピアノを使うことを勧めたのが、矢野さんの長年の盟友であるエンジニアの吉野金次さん。矢野さんが奏でるベヒシュタインの音は、私には少し湿り気を帯びたような、愁いと優しさと暖かさが交じり合った味わい深い響きに聞こえる。この新しいパートナーと対話を深めながら、ベヒシュタインならではのアレンジになっだんだなあと感じます。

12月のコンサートでも、このベヒシュタインを携えて演奏してくださいました。取り上げる曲も多彩なら、アレンジも自由自在、そして新しい楽器に出会うことで、演奏にも新しい可能性が広がった、ホントに素晴らしいミュージシャンの演奏を堪能できて幸せでした。

ますます新境地を開く矢野顕子さんに、今後もワクワク、期待が高まります!

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谷川俊太郎展@東京オペラシティ

2018-01-28 | 展覧会

詩人、谷川俊太郎さん。私にとって、詩人とは小説家より遠い存在で、その著書を手に取ることも実は多くないのですが、谷川さんは別。とっても身近に感じる詩人です。といっても作品をよく知っているわけでもなく、今回、「マザーグースのうた」が谷川さんの翻訳だったと初めて知りました。私の谷川さんの作品との初めて出会いは、中学時代に知ったそれだったかも。

詩人の谷川さんを見せる展覧会、やはり膨大な作品を紹介する手法として、書籍の展示とかがメインかな…?って想像してたら、全然ちがった!

リアルに今を生きている、そして言葉に向き合い創作を続けてきた65年の積み重ねを経た「谷川俊太郎」という人物を、まるごと見せてやるって意欲にあふれた展示で、とってもおもしろかった。今までの膨大なご自身の著書は、その、ほんの一角の本棚に並べられていただけ。谷川さんが、ホントに特定にフィールドにこだわらず、言葉の可能性を広げるべく、いろんな分野に挑戦してきたことの証だな~と改めて思いました。

展覧会の冒頭のコーナーでは、壁の四方に映像のモニターがいくつも並べられ、文字と映像と色と音楽による詩のコラボを見ることができます。詩を朗読する言葉に音楽が寄り添う。そこに、まさに「うた」が生まれる!

コトバ ウタ オト リズム キゴウ モジ ・・・ 詩ってなんだろう?

そうは言っても、アートギャラリーのショップでは、ご著書がたくさん並べられていました。美しい造本のものがいっぱいあって目移りしましたが、この本に一目惚れ。

  せんはうたう

望月通陽さんのシンプルな線描の絵と谷川さんの詩との、美しいコラボレーション。望月さんの心おもむくままに描かれた絵に、谷川さんが詩をつけられたそう。絵には、人物のほかに動物や鳥やピアノが描き込まれていて、谷川さんの言葉とともに、すごく豊かな世界が広がっている気がします。

 おんがくも おと   なきごえも おと   ちきゅうは おとのほし

 

この素敵な展覧会は、3月25日(日)まで。

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「福岡道雄 つくらない彫刻家」@国立国際美術館

2018-01-14 | 展覧会

会期終了も迫ったクリスマスに見に行った、この展覧会。福岡道雄さんのことは、2014年のヨコトリ他、このブログで何度か取り上げた。繰り返しにはなるが、最初に見た作品が「風景彫刻」であったため、材質は特徴的だが、とてものどかな作品を作る作家だと思い込んでいた。何だか違うゾ?と思い始めてから、俄然興味がわき、もっと深く知りたいと思っていたので、この展覧会はとても楽しみにしていたのだ。

福岡さんは1936年大阪生まれ、80才を超えて今だご健在ではあるが、2005年に「つくらない彫刻家」となることを宣言した。それから10年以上。展覧会は、彫刻家として出発してから、常に「つくること」の意味を問い続け、美術界や美術のあり方、そして自身の作品にも抗い格闘し続けた、その60年以上の作品の変遷を辿っている。6つのゾーンに分けられた展示会場のタイトルが誠に興味深い。

「第1章:彫刻らしきそれを創ろうと思えば思う程、真実らしい仮面をかぶった偽作が出来る」地中で生まれた砂まみれの彫刻<SAND>、地べたを這う<奇蹟の庭>といった初期の作品は、なるほど、いきなり彫刻らしくない。とがってるな~って感じ。

そして「第2章:空中で、もうだめになって、地上へ舞いもどることもできないし、だからといって、もっともっと高く舞いあがることもできないでいる毎日の僕達なのだ」

このゾーンだけ写真撮影OK。一見ピンクでファンシーに見えるこの作品、ヨコトリでも見たが、よくよく見ると表面は臓器を思わせ、軽々しくもないのに空中に浮いている、なんとも落ち着かない浮遊感なのだ。タイトルのような思いが込められてるとすると、なおさら重々しく感じてくる…バルーンなのに!でも、この展示は好きだった。

次のコーナーの巨大な黒い蛾は、ちょっと不気味で引いた。だって畳ぐらいでの大きさで黒光りしているのだもの…。ここで、以前ギャラリーほそかわで見た3つの顔の作品にも再会した。

その次のお部屋は、対照的。壁も床も真っ白なスペースに、おなじみの「風景彫刻」が配されている。FRP(繊維強化プラスチック)で出来た黒い立方体。その上面に琵琶湖の凪ている湖面や、唐津の立っている波が表現されていたり、水辺で小さな人が釣りをしたり、石を投げたりしている。高さはだいたい50~60センチなので、よく見ようとすると、しゃがんだりかがんで覗き込んだり、けっこう体を使う。この展示会場の静謐な空気感が、すごく作品にマッチしていて心地良かった。

一番、印象深かったのは「第5章:中心の無い彫刻、あるいは無数に中心のある彫刻」。2000年前後から制作し始めた、FRPの黒い画面一面に、文字を刻んだ作品。確かにこれは「オールオーバー」だ。刻まれている言葉は、「何もすることがない」とか「何をしても仕様がない」とか「何もしたくない」とか「何をしていいのか分からない」とか…。こんな言葉が無数にひたすら刻み込まれているのを見ていると、念仏を思わせるようで重苦しく、あまりに切々として胸が詰まるというか…。ここまで追い詰められていたのか、となんだか辛くなってしまった…。

ところが!一度見て、再度まわっていたら、少し離れて見ると、この文字の並びがまるで織柄のように美しく見えることがわかった。これは、ただ思いを刻みつけたのたものではなく、やはり出来栄えを意識した作品なんだなあ、と。また、同じ言葉がひたすら並んでいる中に、いくつか小さな絵が描かれていて、よく見るとそのまわりには、絵にまつわるエピソードが忍ばせてあったりして、クスリと笑えたり。なんだか、やっぱりタダモノではないお方だわ~。

最後は「第6章:なに一つ作らないで作家でいられること、何も表現しないで作家として存在できること」。<飛ぶミミズ>や<腐ったきんたま>という作品を最後に、「つくらない作家」を宣言した福岡さんが、2012年に"はからずも"生み出してしまった<つぶ>。まさに豆粒のようなその作品は、つくることに抗い続けた作家の手が、無意識に生み出した彫刻の結晶のように思えて、神々しかった。

展覧会の会期中には、2回も作家ご本人のアーティストトークがあったのに、行くことが出来なくて、本当に残念だった。どんな声でどんなしゃべり方なんだろう?福岡道雄さんの口から自身の作品のことをぜひ聞きたかった。また機会があるといいなあ。作家に対してますます興味の掻き立てられる、本当にインパクトある展覧会だった。

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直島への旅(4)アート待つ島

2018-01-09 | 旅×アート

今回の旅で特に楽しみにしていたのは、ベネッセハウスに宿泊すること。ベネッセホールディングスの福武總一郎氏が、直島を「現代美術によって世界中から人が集まる国際的な文化の島にしたい」という熱いで想いで安藤忠雄氏に依頼したプロジェクト、その最初の建物がこのベネッセハウスミュージアムです。島の南側、瀬戸内海に面したゆるやかな岬の斜面に建てられており、高台から空と海を臨む景色が抜群に素晴らしい!

ここは宿泊施設でもあり美術館でもある、館内にはたくさんの作品が展示されています。杉本博司さんの「海景」の写真作品がレストランの窓から見える屋外に展示されていたり、バスキアやサイ・トゥオンブリーの作品が、日光が差し込んで屋外に出られる扉がついている部屋に展示されてたりして、「い、いいのか…?」と思ってしまうぐらいの贅沢空間。何といっても、夕食も終わって就寝までのひと時を、ゆっくり美術作品を見て回ることのできる心豊かな時間よ!(宿泊者は22時まで鑑賞OK!)あ~、幸せでした。

再訪となった直島、3度の「瀬戸内国際芸術祭」を経て、すっかりアートの島として定着し、今や多くの美術ファンを集めています。今回の旅でも、特に外国人の方々が多いな~と感じました。思ったより若い人は少なくて(時期的なものもあるか)、熟年の女性グループが多いのはちょっと意外でした。

そして前回と大きく変わったのが、そのようなアートを提供する施設のスタッフに、明らかに島外から来たであろう若い人がたくさんいたこと。みんな、アートを愛していて携わりたくて来たのだろうなあ。なぜなら、どの施設でも、作品や作家について質問してみると、すごく詳しくいろいろなことを教えてくださったから。きっと、しっかり勉強もしているのでしょう、おかげで作品への視点が深まって、本当に良い体験となりました。

直島への旅、最終日は本村の「家プロジェクト」へ。ここは前回来たときも巡っています。当時は写真を撮っている杉本博司さんが護王神社をつくった意味がわかっていなかったけど、今ならすごくよく理解できる。そしてジェームズ・タレルの南寺は、安定の(?)興奮体験。宮島達男さんの角屋では、きょうも水底で光るデジタル数字が時を刻んでいました。

新しく増えていた作品としては、須田悦弘さんの「碁会所」。かつて島民が碁を楽しんだ場所を再現し、本物そっくりの椿の花の彫刻を畳の上に散らしている。吹きっさらしのその部屋で、椿の花はコロコロところがるそうだ。その部屋の前の庭に、本物の椿の木が。ほころび始めた花を見て咲きそろったときを想像し、その対比の美しさに感動!ここでは、島民のおじさんが説明してくれました。とても作品を愛していたし、誇らしげだったな~。

それから大竹伸朗さんの「はいしゃ」も初見。前日に入湯した銭湯「I❤湯」もですが、これまで外から眺めていた大竹さんの作品の中に入れたとあって、コーフン体験。銭湯は特にトイレがよかったですね~。思わず「ギャー」と叫んで鏡のまわりのコラージュをすりすりしてしまいました。銭湯でも地元のおじさん、おばさんが親切だったなあ。

思うに、芸術祭の喧騒を経ていくごとに、ますますこの島のアートが堅牢になっていくような気がします。しっかり地元に溶け込み、そこに住む人たち、移り住んできた人たちの手によって支えられている。祭りが終わっても消え去ることなく、島に根をおろす作品たち、そして訪ねていけば、いつでも待っていてくれる、また会えることの安心感。このような魅力ある場所は、本当に唯一無二であり、福武さん、安藤さんの功績はものすごく大きいなと感心しました。

2泊3日アート三昧、夢のような時間を過ごした直島への旅。いつまでも心を暖めてくれる思いを胸に、また会いに行ける日を楽しみにしていよう!

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2018謹賀新年 ~昨年の展覧会を振り返る

2018-01-06 | 展覧会

大変遅くなりましたが、明けましておめでとうございます! 昨年も時々アップの記事をお読みくださり、誠にありがとうございました。

今年のお正月、1、2日は暖かくのどかでしたね~。3年ぶりに新春健康マラソン(3キロ)に出場し、爽快でしたが盛大な筋肉痛となりました…。

さて、恒例の昨年の展覧会の振り返りですが、鑑賞したのは20本程度、春から夏にかけて仕事の都合でブランクがありましたので、例年よりさらに少なめとなりました。年末に、Twitterの「#2017年の展覧会トップ3」というタグにのっかって、以下の展覧会をあげさせていただきました。

オルセーのナビ派展

ナビ派の作品がたくさん見られるとあって、楽しみに出かけました。中でもお目当てのヴュイヤールの絵画に感動!初めて見たヴァロットンもスゲーと思いました。

奈良美智 for better or worse

ペインティングを中心に、奈良さんの初期から現在までの作品を概観できる貴重な機会でした。改めて画力に感嘆し、奈良さんの世界観にすっぽりはまり込んだ満足の時間でした。

北斎 ー富士を超えてー

特筆すべきは、肉筆画でした。北斎の晩年の自由な境地もよかったけど、何といっても娘、葛飾応為の「吉原格子先之図」には震えました!激混みではあったけど、あれは見ることができて、本当に良かった。

その他にも、ヴェルフリやクラーナハ、バベルの塔、有元利夫など、人の手が生み出す、一筆一筆がこんなにも素晴らしい絵をつくりあげるんだ!という画力に魅せられた展覧会が多かった気がしています。

とはいえ、実はインパクトが非常に大きかったのは、ブログには書けていない次のふたつの(絵画ではない)展覧会。

年末に見た「福岡道雄展」。福岡さんは、美術家としてのあり方が、ロックすぎる!後日、ブログで記事をアップいたします。

そして、「末法/APOCALYPSE -失われた夢石庵コレクションを求めて」@細見美術館。

この展覧会、行列を成す大盛況の「国宝展」の陰に隠れるようにひっそりと開催されながら、実はかなり話題になっていました。チラシとかHPを見ただけではイマイチ触手が動かなかったのですが、SNSでの「裏国宝展」という評判が気になり見に行ってみたところ…!

展覧会が終わるまでは、内密に…とされていたのですが、夢石庵という架空のコレクターが、自身の美意識で自分が堪能するためだけに蒐集した美術品たちを愛でる…という設定。会場に入ると他には誰もおらず、強烈なライティングで劇的に照らされた平安時代の仏像が、私とだけの世界をつくる。そこに流れる濃密な空気。作品たちは、「国宝展」のようによそよそしくなく、何かしら魅せられる点があって、とても親密に語りかけてくるよう。平安時代に広まった末法思想、その到来に備え、経典を地中に埋めた「経塚」。金峯山の出土した遺物を再現した、神像、鏡などの金工品を積み上げた展示は、すごいナマナマしい現実感があってビックリしました。

「種あかし」を知ってからの方が、いっそうこの展覧会をおもしろく感じましたので、もっとたくさんの人に見てもらいたかった気もしますが、ひっそりと鑑賞することも重要なポイントなのでね~。うまく自分のアンテナに引っかかってくれて、見に行くことができ、大変満足でした。

今年は、どんな素晴らしい展覧会、アート作品に出会えるでしょうか?昨年も、見に行った展覧会より、行きたくて見逃した展覧会の方がずっと多かった(涙)。

ミュシャ、運慶、不染鉄、テオヤンセン、ジャコメッティ、長沢芦雪…、それから淺井裕介さんの土の絵画も見に行けなかったなあ。

一方、もくろんでいた直島への旅を実現できたのはヨカッタ!シリーズ最終回も近日アップいたしますので、お楽しみに!

というわけで、今年もボチボチになりますが、何卒よろしくお願いいたします! 

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直島への旅(3)豊島美術館

2017-12-28 | 旅×アート

今回の直島への旅を2泊3日にしたのは、豊島と犬島のふたつの島も訪ねてみたかったから!特に2010年の芸術祭で行けなかった豊島美術館には焦がれてました。映画『あえかなる部屋 内藤礼と、光たち』で堪能した静謐な空間を、ぜひとも体験したくって。

旅の2日目の朝、まずは宮浦港から豊島へ、船で約20分間です。お昼には豊島から犬島に向けて船が出ますので、時間の節約のために、家浦港から美術館まで電動自転車を借りることにしました。約30分の道中はけっこうアップダウンが激しく、電動とはいえ、なかなか大変でした…。そして、ついに眼の前に白い繭のようなドームが。お~、これぞ母型、感激だ!

豊島美術館は、このドームの中だけではなく、まわりの環境も含めて鑑賞です。良いお天気で、空気の冷たさも気持ちの良い中、ゆっくりと小道を歩いて、ついに美術館の入口にたどり着きました。そこで室内履きに履き替え、いよいよ中へ…!床も壁も一面白い内部は、本当に繭の中に入り込んだよう。なだらかな曲面を描く材質はコンクリートとのことだが、表面は漆喰のような暖かみがあります。

天井にはふたつの大きな開口部があり、暖かな冬の光が差し込んでいる。そこからは風にそよぐ木々が見える。吊るされているヒモがふわりと揺れて風の存在を感じさせる。そして、床にはそこここに小さな穴があり、水が少しずつ湧き出して、ついに美しい水の玉となって、床をツーところがっていく。水は寄り集まって水たまりになる。観客は誰も大きな声を発することなく、静寂を楽しんでいる。差し込む光の中に座り込んで水の動きをじっと眺める。プクン、ツー、コロコロ、コロコロ。その動きがあまりにおもしろく美しく、ずっと見ていても飽きない。

スタッフの方にひそひそ声で尋ねてみると、この水の出方は、アーティストがすごく緻密に計算し、設計されているとのこと、それでもその時々の光や風によって、日々違う姿を見せてくれるそうです。まさに自然とともにある、得難い体験としてのアート。あ~、とっても良かったです。今思い出しても、心が暖まるような。

 

豊島美術館でゆっくりと時間を過ごし、急いで港に引き返して次に訪れたのは犬島。ここの最大の見どころは、明治時代の終わり頃につくられた銅製錬所が廃墟として残る跡地を利用した「犬島製錬所美術館」。三分一博志の建築は、風の流れや太陽光など自然のエネルギーを活かした設計。銅製錬の過程で生まれるスラグという素材を使ったカラミ煉瓦の保温効果の話はすごいな~と思いました。子供の頃はその上を裸足で走り回ってたと、地元のガイドのおばあさんが話してくれました。

美術館の中で展開されているのは、解体された三島由紀夫のお屋敷の家具や建具を生かした柳幸典さんのスケールの大きな作品。廃墟として残る近代化産業遺産に重なる三島のイメージ…。屋内の半円の大きな壁のまわりからは光が漏れ、さらにそれが床に敷かれた水に映って日輪のように円を描いているさまは、ものすごく美しかったです。

美術館を出て、跡地をぐるりと巡ることができます。当時の煙突が数本残っており、うち何本かは今にも崩れ落ちそうで、廃墟感たっぷりです。ひえ~。 

製錬所美術館のほかにも、島には集落の古い家屋(跡)に作品が展示されている「家プロジェクト」が展開されています。そこで、なんと!発見!「石職人の家跡」で、淺井裕介さんの作品を、初めて直接見ることができました! 

敷地いっぱいを埋め尽くす淺井さんの絵。細部のひとつひとつがかわいいし、引いて眺めると、そこに壮大な物語が繰り広げられているようで。ほんとに魅力的な作品でした。今年はかなわなかったけど、来年こそは土で描かれた絵を見てみたい!!

一日でふたつの島を巡り、少々忙しかったけれども充実した時間を過ごすことができました。これから、また船で直島へ戻り、お目当てのお風呂❤へ入ります!つづく。

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直島への旅(2)ジェームズ・タレル

2017-12-21 | 旅×アート

光と空間を題材に、興奮の視覚体験をもたらしてくれるアーティスト、ジェームズ・タレル。ググってみたら、世界中に美しい作品があるようですね~。彼の名前を知ったのは、前回、直島へ出かけた際に、「南寺」の作品で。全然内容を知らずに参加したものだから、最初はわけがわからなくて、そして興奮の体験が!…と、これはぜひ現地で体感していただきたいので、多くは語りませぬ。

そして、金沢21世紀美術館の「タレルの部屋」、四角く切り取られた天井から、空を眺める「Blue Planet Sky」という作品。そのアイデアの斬新さが面白く、じっと空を見上げました。広い空を見ている分には気付かない、雲の流れによる画面の移り変わりは、見ていて飽きません。

今回、直島の地中美術館の「オープン・スカイ」も同様の作品なのだけど、違っているのは、お部屋の壁にLEDが仕込まれていること、そして、ナイトプログラムがあること!

ナイトプログラムは、毎週金・土曜日のみ、しかも完全予約制で定員も限られているので、今回、参加することができて、ラッキーでした。「日没に合わせての45分間の特別プログラム」ってことですが、あまりよくわかってなくて、日が沈んでいく光の変化をみる…だけなのかナ?と思っていましたが、まさにその通りでした!ところが、それが、すっごくおもしろかった!

スタートは日没後。なので季節によって開始時間が変わります。冬至も近づく12月ですから、集合は4時半です。参加者は、けっこう外国の方が多かったです。空がパッカと開いたスペースですから、皆、しっかり防寒しています。5時前に、スタッフに引率されて、もう真っ暗になったコンクリートのトンネルを抜け、「オープン・スカイ」のお部屋へ。そしてぐるりとベンチに腰掛けます。

「お静かに」と言われ、観客は息をひそめて空を見上げます。日が沈んだとはいえ、空はまだ水色。薄い雲が流れるのが見えます。じっと眺めていると、だんだん夜の暗さが覆っていく様子が見えます。そこで視覚を攪乱するのが、壁に仕込まれたLED電灯。ピンクとか、グリーンとか、壁全体の色味が変わることによって、空の色がどんどんと変化して見えます。実際に空の色が変化していくのと、壁の色の変化で見え方が変わる視覚マジックに、すごく不思議な空間に身を置いているような気がして、みんな、あんぐり(口は開けてない)空を見上げて、45分間の色彩のステージを堪能したのでした。そんな不思議空間なのに、風が吹くと、ザワザワと音がして、自然の中にいる、という感覚が呼び戻される。もうすっかり闇となった空に、小さく星が見えた気がしました。壁の色合いが変わっていくとき、一瞬空の色と一体化して、空間の真綿にくるまれているような感覚を味わいました。めっちゃ、おもしろかったです。おすすめです。

さあて、2日目は、豊島・犬島へ渡ります。つづく…!

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直島への旅(1)地中美術館

2017-12-17 | 旅×アート

2010年に瀬戸内国際芸術祭を訪ねて以来、またゆっくり瀬戸内のアートの島を巡りたいとずっと思っていました。芸術祭の合間のしかも冬の閑散期が狙い目じゃないか?ってことで、訪ねて来ました。実は、2004年に直島を訪ねています。地中美術館が建設されオープンする直前…。今回、2泊3日の旅で訪ねるのは、直島、犬島、そしてリベンジの豊島です!

直島の旅のガイドを助けてくれたのは、このパンフレット(ボロボロ~)。直島へ船で渡る宇野港で入手できます。アートマップはじめ飲食店のラインナップからバス・船の時刻表が載っていて、めちゃくちゃ重宝しました。重いガイドブックとかなくても、全然大丈夫でした!

初日は、直島の新しい美術館、「地中美術館」と「李禹煥美術館」を訪ねます。どちらも安藤忠雄建築の、空間自体を芸術体験にするような美術館。無機質なグレーのコンクリートの壁が、この直島にあっては、すごく暖かみがあって自然と共生していることを改めて認識しました。

地中美術館は、文字通り地中に埋められたロケーション。コンクリートのトンネルを抜け、コンクリートの壁に切り取られた空間に植物を見て空を見上げる。日常とは違う空間に足を踏み入れるワクワク感に充ちてくる。ここでは、3名のアーティストの作品が空間を贅沢に使って展示されています。

B1Fには、クロード・モネ「睡蓮」のお部屋。部屋の入口に立つと、「あっ」と思わず声が出てしまう。自然の柔らかい光に満ちた部屋の正面に幅3mの作品が。展示されている5点の睡蓮のために設計された部屋。作品はどれも晩年描かれたもので、色の乱舞がけっこう激しいのだけど、やはりそこはモネ、少し距離を置くと揺れる水面や柳が見えてくるから不思議。ずっと見ていたくなる心地良さ、それでいて神々しい空間。

B3Fは、ウォルター・デ・マリアのお部屋。この作家の球体の作品は、島の海岸にも設置されています。ピカピカに磨き上げられた直径2.2mの花崗岩の球。階段状にしつられられた展示スペースは、まるで神殿か教会のよう。まわりを飾っている金色の柱状の彫刻も荘厳さを醸し出している。この部屋にも天上からは自然光が差し込んでいて、どの角度から眺めても、長方形に切り取られた空がこの磨き上げられた球体に映り込む。この安藤建築に、本当にマッチしている、と思いました。

そしてB2Fには、ジェームズ・タレルの作品が。光と空間をテーマにした彼の作品は、その場所に行って体感してこそ。ここで体験することのできる「オープン・スカイ」という作品は、金沢21世紀美術館でも見られた、天井を四角く切り取った作品。ベンチに腰掛けて雲の流れる空を見上げます。そしてここで、ナイトプログラムが開催されるとのことで、日没後に再び出かけることにしました。(要予約です)

次に訪れたのは、李禹煥美術館李禹煥さんは、以前記事にも書いたように、とてもなじみのある作家。安藤建築による美術館は、李さんのシンプルで強さのある思索的な作品の特徴を際立たせていました。マイミュージアムの滋賀県立近代美術館の所蔵品と同様の「点より」、そして筆跡の美しい「線より」も良かったです。めちゃくちゃ巨大な筆跡の絵の具の生々しさ!物質なんだけど、込められているいろいろなものを想像させるのは、筆だからこそ?近年の「もの派」たる石や鉄板の作品も、美術館の中では瞑想的な空間を生み出していましたが、青空と風のもとでは、素顔を見せているような自然な佇まいが素敵だと思いました。

そして、夕方になり、いよいよジェームズ・タレル「ナイトプログラム」へ!…長くなったので次回につづく!

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有元利夫展 — 物語をつむぐ

2017-11-26 | 展覧会

有元利夫さんの、関西では10年ぶりとなる展覧会を見に、紅葉の美しく染まった山間の美術館「アサヒビール大山崎山荘美術館」を訪ねました。

1985年に38才の若さで亡くなった有元さん、私が彼の作品を知ったのは亡くなられた直後だったのですが、それからもう30年以上が経ってしまったのですね。以前にも展覧会を拝見していて、お気に入りの作品たち「花降る日」や「室内楽」「厳格なカノン」などなどに、また会えたことを嬉しく思いました。そして、作品がそれ以上増えないことが、とても切ないです。

そんな中でも、今回アトリエにたくさん残されていたという未完成作品が2点展示されていたのは、興味深かったです。もし30年という歳月を重ねていたならば、どんな作品が生み出され、どんな作風の変化が見られたのでしょうか…。

改めて作品の前に立つと、「詩情」という言葉が本当にぴったりで、また有元さんがバロック音楽を好まれたということもあってか、なんだか絵画の世界が天上の音楽に包まれているように感じるのです。今回、有元さんが愛用していたというリコーダーも展示されており、そして、なんとミュージアムショップでは、有元さんが作曲されたという「ROND」という曲のCDも販売されていましたので、思わず購入し、その美しい音楽を聴きながらこのブログを書いています。

フレスコ画を思わせる画面の肌合、有元さんは大学在学中に訪ねたイタリアで、ピエロ・デラ・フランチェスカの影響を受けたそうですが、私がピエロ・デラ・フランチェスカの作品が好きなのは、逆に有元さんの作品が好きだったから。絵画作品でも滋味のあるけぶったような色彩が好きなのも、有元さんの作品の影響かも。若い頃に出会ったこの作品たちは、私の感性に深くインパクトを与えたのかもしれないな、と改めて思いました。

洋館づくりの古い別荘である美術館で、ひっそりと有元さんの作品と対話できると思っていましたが、思いの外、お客様が多くてびっくりしました。ますます評価を高めているのは、とても素晴らしいことです!紅葉もちょうど見頃で、バルコニーからの景観は素晴らしかったです。

また、通常は非公開の茶室「彩月庵」で、年に1回開催されているお茶席が行われており、美味しいお抹茶とお菓子をいただきました。素敵な美術作品とともに、とても豊かな時間を過ごすことができました。あー、楽しかった!

展覧会は、12月10日(日)まで。

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北斎 -富士を超えて- @あべのハルカス美術館

2017-11-09 | 展覧会

先日の「国宝展」につづき、この「北斎展」も、大盛況!会場は大混雑であります。また、浮世絵の展覧会は作品が小さいものだから、混んでいると作品がよく見えない(泣)。そこで、平日閉館前を狙って見に行ってまいりました。

今年は北斎の当たり年。東京でも北斎とジャポニスムにスポットを当てた展覧会が行われていますが、本展はロンドン・大英博物館で開催された展覧会の里帰り、北斎の長きにわたる画業の特に晩年30年に焦点を当て、肉筆画を多く集めているのが特徴です。11月1日から後期展示が始まり、いくつかの作品が入れ替わりましたが、私の最大のお目当ては、北斎ではなく娘の応為が描いた「吉原格子先之図」。これは、楽しみ~。

浮世絵(錦絵)を目にすると、いつもながら絵師・彫師・摺師の高度なコラボに驚嘆してしまいます。今回、出品されていた下絵は、作品の原型を見ることができた点で、かなり興味深かった!やっぱり下絵がおもしろいからこそ、彫師・摺師の腕を奮わせ、絵を最大限に活かし表現する錦絵が生み出されたのでしょう。

それにしても北斎の画力は素晴らしく達者です。本当に、自在に何でもどんな技法ででも描けた人だったんだろうなあ。90才まで衰えを知らぬ画力を見ると、北斎にとって描くこと=生きることだったんだな、と感じます。展示のキャプションの隅に描いたときの年齢が記されているのは良かった。常に「北斎」という人物を、意識しながら見ることができたように思います。

北斎の作品で、一番心に残ったのは、最後の作品、90才で描いた「雪中虎図」。何だか毛皮をパッチワークしたような虎の姿は、ふんわり宙に浮かんで、楽しそうに手足を掻いています。楽天的な表情とは対照的に鋭くとがった爪が、雪をかぶった木の葉の鋭さと呼応していて印象的でした。全体的な空気感は、神々しい!

そして、お目当ての葛飾応為「吉原格子先之図」は…思ったより小さな作品で、軸装されていました。ものすごい人だかりで、全然ゆっくり見れなかったのですが、北斎とは全く違ったすさまじい魅力のある作品です。何といっても、光と影の対比が素晴らしい。格子の向こうの光輝く世界、外から眺める人物たちの暗さ。でも格子の向こうの遊女たちの境遇を思うと…。とてもドラマチックで、この小さな絵に表現されているものの深さに、いつまでもいつまでも眺めていたくなる、そんな作品でした。実物を見ることができて、本当に良かった!

応為の作品は3点ほど見れたのですが、北斎と共作とされている「菊図」は、速水御舟を思わせるような、細密緻密な描き込みに圧倒されました。色彩が美しく、絵にとても重厚感があるように感じます。北斎が60~70才の頃に描いた、ライデンからやって来たちょっと西洋絵画を思わせる画風の作品も、もしかして応為の手になるものか?と思ったり。(この前のTVドラマではそうなってましたね)

里帰り展だけあって、大部分が大英博物館の所蔵、その他にも国内外のコレクションから珠玉の作品が集められた素晴らしい展覧会だと思いました。今回、時間も限られていて、実は版画作品をじっくり見ることができなかったのですが、「富嶽三十六景」を始めとする画面の斬新なデザイン感覚も素晴らしい。やはり、北斎は世界中が認める、優れたアーティストであることを再認識いたしました。

展覧会は11月19日(日)まで。これからますます混雑しそうですが、貴重な機会なのでぜひ! 

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