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宗教の世界史 【7】気づかない日本の宗教性

2019-07-22 03:00:00 | 宗教の世界史

【7】気づかない日本の宗教性

 最後に日本の無宗教性について再び触れると、日本の宗教というのは非常に複雑な宗教体系の統合であるといえます。 よく日本人は宗教が恐いといいますが、それはオウム真理教などの教祖のある宗教が恐いという意味であって、そこにはザビエルに向かって16世紀の日本人がご先祖はどうなるのかと聞いたときのような恐さと共通するものがあるように思います。

 教祖のある宗教への恐怖心を日本人が抱くというのはある意味で正常な反応なのであって、それは自分たちの宗教的立地点と異なるという直感のようなものです。 ですから日本人の無宗教性は宗教全般の否定ではなく、むしろ自然宗教の信奉を意味しているのだと思われます。

 ただこれが今子どもたちの間で崩れているのではないか、これが崩れるともう歯止めが効かないのではないか、そういう危機感を私は同時に持っています。

 若いころは誰でもよく欲望を抑えきれずに苦しむものですが、それをどうにか抑えられるのは日本ではそれが唯一絶対なる神様によってではなく、尊い無数の他者の存在によって可能だったのではないでしょうか。

 敬語の発達もその一つであって、命の尊さが自己の命の尊さだけになれば、いつまでたっても自分の欲望に押し流されるだけになってしまいます。敬語は、自分の命の尊さだけでなく、他者の命の尊さに気づくことによってはじめて発達します。 しかし今の子どもの現状は自分の欲望に押し流されるか、他人の欲望によって「いじめ」られるか、どちらか一つになっているのです

 命の尊さというのは実は論理的に証明できないところが厄介なところであって、そこに宗教の役割があるように思えます。 宗教とは一言でいえば過去・現在・未来と命がつながることの大切さを見いだすことです。

 また土井健郎のいう「甘え」の心理は、心理学の用語として最近は定着していますが、その「甘え」の中にはその中にとらえきれない神との一体感のようなものが含まれているようです。 それは中国の天、インドのブラフマン、そういう超越神の中に見いだすような一体感と似たものがあるようです。 日本人の場合はそれを超越神とはとらえずに、それを自分の身の周りの近くの人に対して抱こうとする傾向がみられます。 そのような、身近な他者との梵我一如の状態を「甘え」として感じているようです。 ただその中で自分よりも、他人を大切にする境地に近づこうとする心性が、日本文化の高みに存在しているのであって、それが自分を「」にする境地とつながっているように思われます。 しかしその「無」の境地は決して虚無的なものではなく、自分よりも価値あるものの存在に気づいた「無」の境地だと思います。

伝統の問題は死者の生命の問題である
 「執着するものがあるから死にきれないということは、執着するものがあるから死ねるということである
 「私に真に愛するものがあるなら、そのことが私の永生を約束する
(人生論ノート 三木清 注1)





 

(注1) 三木清は戦前の哲学者。京都帝国大学卒業後、京都学派の中心となる。思想が自由主義的であるとして戦時中に投獄され、終戦の年の1945年に48歳の若さで獄死。混乱する戦後日本の思想界で彼の思想が十分継承されなかったことは残念である。

miki kiyosi



参考文献

風土  和辻哲郎 岩波文庫 
モーセと一神教  フロイト ちくま学芸文庫 
ユダヤ人と経済生活  ヴェルナー・ゾンバルト 荒地出版社 
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神  マックス・ヴェーバー 岩波文庫 
一神教VS多神教  岸田秀 新書館 
多神教と一神教  本村俊二 岩波新書 
一神教の誕生  加藤隆 講談社現代新書 
ローマ人の物語1  ローマは一日にして成らず  塩野七生 新潮文庫 
ローマ帝国の神々  小川英雄 中公新書 
サガとエッダの世界  山室静 教養文庫 
世界神話事典  角川書店  
世界の歴史4  オリエント世界の発展  小川英雄・山本由美子 中央公論社 
世界の歴史5  ギリシアとローマ  桜井万里子・本村凌二 中央公論社 
世界の歴史4  ギリシア  村田数之亮・衣笠茂 河出書房新社 
世界の歴史5  ローマ帝国とキリスト教  弓削達 河出書房新社 
世界の歴史10 西ヨーロッパ世界の形成  佐藤彰一・池上俊一 中央公論社 
世界の歴史9  ヨーロッパ中世  鯖田豊之 河出書房新社 
世界の歴史12 ルネサンス  会田雄次・中村賢二郎 河出書房新社 
キリスト教の歴史  小田垣雅也 講談社学術文庫 
古代エジプト  笈川博一 中公新書 
古代ユダヤ教  マックス・ヴェーバー 岩波文庫 
日本人とユダヤ人  イザヤ・ベンダサン(山本七平) 角川文庫 
比較文明社会論  シュー 培風館 
世界の歴史3  古代インドの文明と社会  山崎元一 中央公論社 
世界の歴史6  古代インド  佐藤慶四郎 河出書房新社 
カイエ・ソバージュ 2 熊から王へ  中沢新一 講談社選書メチエ 
カイエ・ソバージュ 4 神の発明  中沢新一 講談社選書メチエ 
沈黙の宗教 儒教  加地伸行 ちくまライブラリー 
「論語」を読む  加地伸行 講談社現代新書 
世界の歴史2  中華文明の誕生  尾形勇・平勢隆郎 中央公論社 
世界の歴史3  中国のあけぼの  貝塚茂樹 河出書房新社 
日本仏教史  末木文美士 新潮文庫 
日本仏教の思想  立川武蔵 講談社現代新書 
空の思想  立川武蔵 講談社学術文庫 
日本文化の歴史  尾藤正英 岩波新書 
村のなりたち  宮本常一 未来社 
開拓の歴史  宮本常一 未来社 
日本人の神はどこにいるか  島田裕己著 ちくま新書 
日本人はなぜ無宗教なのか  阿満利麿 ちくま新書 
日本民族文化体系 3 稲と鉄 さまざまな王権の基盤  小学館 
日本史からみた日本人・古代編  渡部昇一 祥伝社 
日本中世史像の再検討  勝俣鎮夫 山川出版社 
甘えの構造  土居健郎 弘文堂 
聖書と甘え   土居健郎 PHP新書 
発達障害の豊かな世界  杉山登志郎 日本評論社 
誇大自己症候群  岡田尊司 ちくま新書 
人生論ノート  三木清 新潮文庫




2 コメント

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Unknown (ワタン)
2019-07-26 21:25:45
ひょう吉さん、随分と勉強されたんですね。
ただ初期仏教に関する文献がすくないやうな気がしますが。
佐々木閑、梶山雄一や田上太秀など、論理的で、それに津田左右吉など、わたしには為になりました。
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Unknown (ひょう吉)
2019-07-27 09:20:03
ありがとうございます。
佐々木閑、梶山雄一や田上太秀など・・・・・・私の知らない人ばかりで。
いつか巡り会えたらいいなと思います。
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