電通捜査、異例のスピード 「政治案件」で急展開か
2016年12月29日05時01分
新入社員の過労自殺をきっかけに、広告大手の電通が書類送検された。新入社員の労災認定からわずか3カ月。「働き方改革」を目玉政策に位置づける安倍政権のもとで進んだ異例のスピード捜査が、石井直(ただし)社長を引責辞任に追い込んだ。
「前途ある社員が亡くなるという悲しい事態が発生した。心よりおわび申し上げます」
電通の石井直社長は28日、都内で開いた記者会見の冒頭で陳謝し、深々と頭を下げた。
石井氏は会見で、高橋まつりさんの命日の25日に遺族を弔問して直接謝罪したことを明かした。「この数日間」で辞任を意識し、「謝罪ができたこと、きょう送検があったことで決意した」と述べた。
会見に同席した中本祥一副社長は、過労自殺に追い込まれた新入社員の高橋さんについて、昨年10~12月に業務時間が急激に増えたことなどを説明。深夜や未明にメールで繰り返し業務を指示するなど、「パワハラとの指摘も否定できない、行きすぎた指導を確認した」と明らかにした。
こうした実態について、石井氏は「120%の結果を求め、仕事を断らない矜持(きょうじ)があったと思う。すべてが過剰だった」とし、「歯止めをかけられなかったことに責任がある」と認めざるを得なかった。
石井氏は2011年4月に社長に就任。労働基準法違反で本支社が相次いで是正勧告を受け、15年4月から違法な長時間労働をゼロにする目標を掲げた。しかし、業務量を減らす対策が遅れ、実際には様々な部署で労働時間の過少申告が相次いでいた。電通では1991年にも若手社員が過労自殺。責任を認めて再発防止を誓ったが、石井氏の社長就任後も労働環境の改善は果たせなかった。
■捜査急展開「政権の影響」
石井氏を引責辞任に追い込んだのは、異例のスピード捜査だった。「正直言って、年内に送検があるとは全く思っていなかった」。厚生労働省の幹部はこの日、捜査の進展の速さに驚きの声を漏らした。
東京労働局などが電通の本支社に一斉に立ち入り調査に入ったのは、高橋さんが労災認定された2週間後。その約3週間後には厚労省が強制捜査に着手した。厚労省の関係者は「当初は高橋さんの命日の12月25日をめどに、複数の役員を送検したいという思いがあった」と明かす。
しかし、労働局が手がける捜査としては空前の規模。押収した膨大な資料の分析に想定以上の時間がかかることが分かってきた。それでも厚労省側は「来年2月末までの送検を目指していた」(捜査関係者)。
一方、検察側は前のめりな厚労省に対して、慎重な姿勢を見せたという。かつてない大規模捜査であるうえに、役員の立件を目指すとなれば慎重な裏付けが必要とされるからだ。捜査関係者の間では「来春までの立件も難しい」との見方が広がっていたという。
同様の事件では、立ち入り調査から書類送検まで1年以上かかることも珍しくない。だが、東京労働局は23日からの3連休の間に石井氏を含む役員から任意で事情聴取をしたうえで、2カ月余りで書類送検に踏み切った。厚労省幹部は「28日にやると聞いたのは2~3日前だった」と明かす。
この日記者会見した東京労働局の樋口雄一・監督課長は、全容解明に向けた捜査の途中で、一部の容疑に絞って先行して書類送検したことについて「異例」と認め、「事件の注目度、重大性にかんがみた」との説明を繰りかえした。「東京労働局としての判断だ」とも強調した。
だが、捜査現場にはそう受け止めない声もある。捜査方針が極めて短期間で変わることはめったにないからだ。厚労省の関係者は、安倍政権が「働き方改革」を目玉政策に掲げていることを念頭に「政権の影響があると考えるのが自然だ」と話す。長時間労働の是正に向けた議論が年明けから本格化する予定で、その目前での送検にもなった。ある捜査関係者は「典型的な政治案件だ」と漏らした。
■全容解明、なお時間
「労働局には高橋さんの自殺を風化させたくないという思いがあるのだろう。立件できるものを一つ一つ積み上げて全体像を明らかにする捜査をする」。検察幹部は28日、こう話した。
労働局が強制捜査に入ったのは東京の本社のほか、大阪、名古屋、京都の各市にある支社。検察は今月に入り、この4カ所の各地検の担当検事が協議を始めていた。今後順次、各地の労働局から書類送検を受け、事情聴取を繰り返したうえで起訴などの刑事処分を検討することになるが、「時間は相当かかる」と話す。
これまでは法人は略式起訴で罰金刑を科し、個人は起訴猶予処分など不起訴とした例が多い。今年10月に略式起訴された「ドン・キホーテ」は労働基準法違反(長時間労働)の罪で罰金50万円の略式命令を受けたが、書類送検された執行役員ら8人は不起訴に。靴の販売店「ABCマート」は今年1月、同法違反罪で略式起訴され罰金50万円の略式命令が出たが、同社取締役ら3人は不起訴となった。
こうした判断について検察幹部は「違法労働をさせた個人を特定しないと事件は成り立たないが、会社全体が関わっていれば個人の刑事責任を問う意味はあまりなくなる」と説明する。
ただ、複数の違法行為があれば法人への罰金が加算され、100万円を超えれば起訴されて法廷で裁かれることになる。電通で何件の違法行為が確認されるかが捜査の焦点になる。
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【私のコメント】
女性社員の過労死問題で、戦後はじめて電通がマスコミに叩かれた。
電通は、日本のマスコミ界の総元締め。今までこれを叩いたマスコミはない。電通を叩くなど、マスコミ各社には恐れ多くてできなかったのだ。
それがこうも一斉になぜマスコミ各社が電通を叩くのか。
いや、叩けるのか。そのことがよほど気になる。
安倍政権がマスコミ統制を行ってから久しい。
いや、この傾向は十数年前の小泉政権からすでに著しかった。
それが安倍政権になってさらに露骨になった。
NHK会長の籾井など安倍政権の手先である。
安倍政権にはマスコミ担当として世耕弘成がいる(現経済産業大臣)。ここあたりが何かしているのではないか。
安倍政権と電通の間に何か対立があったのではないか。
だから安倍晋三は、電通の頭越しに、マスコミ各社に電通批判の記事を書かせたのではないか。
当然司法にも圧力がかかっている。
腐れ切った日本のマスコミだが、このことが日本のマスコミにとって良いことなのか、それともますます腐れ切っていくだけなのか。