半導体、過剰供給と供給不足が混在 :230413情報
「半導体供給過剰」という報道を聞いて首を傾げた人も多いのではないでしょうか。かくいう私もその一人です。つい先日まで、「半導体不足」が取りざたされていたと思うのですが・・・。
ただ、関係者の間では、昨年の時点で、半導体商社に勤務する人が「メーカー側は半導体の在庫を積み増しており、1-2年先はもしかしたら追加の注文は少ないかもしれない」と話していたようで、実際、多くの半導体メーカーが過剰在庫を受けて減産していました。各国では、新規の半導体工場の立ち上げが進んでいる中で、半導体市場に何が起きているのでしょうか。
この業界に詳しい事情通は以下のように解説しています。
2021年初頭に顕在化した「半導体不足」の問題は2022年に大きな転機を迎えた。あらゆる用途の半導体が一様に不足している状況が解消された一方で、過剰供給品種と供給不足品種が混在する状況へと移行した。半導体不足の「一歩先」を占うのは、米中対立による両国経済の乖離、いわゆる「デカップリング」の行方だ。
パソコンやデータセンター用サーバーなどIT機器向け半導体チップは、コロナ禍による行動制限で需要が急増し供給不足に陥った。しかし2022年にその状況は完全に解消した。
2022年半ばから、データの一時保存用のDRAMやフラッシュメモリーなどの供給が需要を上回り始め、2023年2月にはメモリーメーカーである韓国サムスン電子や韓国SKハイニクスの業績が急降下する事態に陥るまでになった。
2022年10月~12月だけでDRAMとNAND型フラッシュメモリーの価格は約3割も下落したという。これに伴って、一時期値上がりしていたIT機器が値下げに転じる例も出ている。
その一方で、自動車業界や産業機器業界などでは「半導体不足は今も継続している。いつ解消するのか」といった声が上がり続けている。特に自動車業界では、2022年初頭の生産計画を達成できているメーカーが見当たらないような状況である。
IT向けは供給過多、自動車・産業機器向けは不足
2022年の半導体市場の統計と2023年の見通しによれば、IT向けにおいては供給過多、自動車や産業機器向けにおいては供給不足という明暗がはっきりと分かれている。
主要半導体メーカーが加盟する世界半導体市場統計(WSTS)は「2022年秋季半導体市場予測」の中で、「2022年の世界の半導体市場の規模は前年比4.4%増となるが、2023年は同4.1%減と4年ぶりにマイナス成長になる」という見通しを示した。
特に、パソコンやサーバーなどで多く消費されるメモリーは需要減の傾向が顕著であり、2022年の市場規模の推定値は前年比12.6%減で、2023年には17.0%減と減少率が拡大すると予想している。
一方、自動車や産業機器などで多く利用されるアナログICでは、2022年の推定値は20.8%増と需要が急拡大し、2023年の予測値は1.6%増となっている。2023年については供給が追い付かず市場が伸びきれない状況とみられている。WSTSでは、IT向けCPUやGPUと自動車など向けマイコンを同じ「マイクロ」という統計区分で整理しているが、マイクロ区分については2022年は1.8%減と縮小し、2023年も4.5%減と縮小率が拡大すると予測している。
半導体の品種別に、需要の動きの方向は大きく異なる
IT向け半導体の需要が減っている背景について多くのアナリストが指摘するのが、コロナ禍発生直後の特需による需要の先食いの影響が顕在化したことに加え、世界的な景気悪化とインフレによって消費者の購買活動が沈静化したことだ。実際、ここ数年間絶好調だった米国IT企業がこぞって人員整理に走るほどの業績悪化に転じており、IT産業での半導体需要の減退は推して知るべしと言えるだろう。
さらに、IT産業向け半導体はCPU(中央演算処理装置)やGPU(画像処理半導体)、さらにはメモリーが中心であり、これらはいずれも最先端の半導体技術で製造する半導体チップである。こうした高付加価値品に特需が起きたことで、米インテル、サムスン電子、台湾TSMCなど、巨大半導体メーカーが設備投資を積み増して迅速に増産体制を整えた。このため、増産体制が整った後に起こった需要減によって、供給過多の状態となったのはある意味当然かもしれない。
これに対し、自動車向けや産業機器向けの半導体市場では全く状況が異なる。
自動車・産業機器向けの領域では、数世代前の製造技術で作るマイコン、アナログIC、個別半導体などが多く使われている。その一方で、データ通信などに用いるロジックやメモリーの利用比率は低い。つまり、コロナ禍によるIT産業の特需の影響を受けた品種は、この用途にはあまり使われていない。
それでも、2021年初頭から特に自動車向けで半導体不足が顕在化した理由は、需要予測が外れて調達量を絞り込んだところに、供給をはるかに上回る需要が生まれたこと、それを補う半導体の製造能力がIT用など他用途に向けた半導体の製造に振り向けられて、追加調達ができなかったことなどが原因だった。
しかも、そもそも2020年前半までは、車載用マイコンなどを製造する半導体メーカー各社は、積極的な設備投資による生産能力の増強は行わず、半導体不足が顕在化してもその傾向は同じだった。理由は2つある。1つは、半導体不足は需要の読み違いが原因であり、実際に需要が急増したわけではなかったこと。もう1つは、自動車業界は「CASE(Connected, Autonomous, Sharing & Service, Electric)トレンド」に沿ったクルマの再発明と
言える大変革をしている最中であり、足下の需要に合わせて時代遅れの工場に投資しても、すぐに工場が陳腐化してしまう可能性があったからである。
そんな増産体制が整っていない状況下で、2022年に入って感染症との共存、いわゆる「ウィズコロナ」の生活習慣が定着。社会活動も正常化に向かい自動車の需要が高まった。しかも、不足している半導体を調達できるタイミングで将来分も含めて確保すべく、実際に必要な量より多めに発注する一種のモラルハザードが発生した。このため、現時点でも半導体不足の状況が解消されないまま続いている。
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