赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

パンドラの箱をあけたロシアの大誤算 コラム(422)

2022-05-18 11:09:51 | 政治見解



コラム(422): 
パンドラの箱をあけたロシアの大誤算


世界中を震撼させたロシアのウクライナ侵略、まもなく3か月が経過しようとしています。一週間程度でウクライナを制圧できると思っていたロシアにとってはまさかの展開になっています。


ロシアが失ったもの

ロシアは、なぜウクライナ侵略戦争を始めたのか。KGB出身のプーチン氏にとって旧ソ連時代の版図の回復が大前提にあり、「NATOの東方拡大を阻止」との名目でロシアから離れようとしたウクライナに制裁を加えたと見て間違いはないと思います。したがって、国際社会から見れば侵略戦争にもかかわらず、ロシアにとっては祖国防衛戦争の位置づけになる理由もここにあります。

しかし、実のところ、ロシアはウクライナの予想外の反撃で、ウクライナの一部を掠め取っただけでさしたる戦果もあげていません。しかも、ロシアは地上戦力の三分の一を喪失した上、NATO諸国の団結を促進させたばかりか、中立国であったノルウェー、スウェーデン両国のNATO加盟を促進してしまいました。

もう、この段階でプーチン氏の思惑は大誤算となったわけで、大義名分を失うどころか、国家としての存在基盤を根底から揺るがす大失敗の侵略戦争になったと言えます。

実際、ロシア側が失ったものは実に大きいものがあります。

第一に国際的信用は地に落ちました。ロシアは国際社会からは嘘つき国家、約束を守らない国家に認定されてしまいました。海外の企業が続々と引き上げているのはその証拠です。

ただ、ユニクロのような目先の利益しか考えない企業は撤退の遅れが目立ち、輸出も、代金受け取りもできないダメージを受けただけでなく企業イメージを著しく低下させてしまったところもあります。

また、ロシアの侵略は、日本国内の「紛争は話し合いで解決する」と主張するあっち系の人びとを周章狼狽させました。しかも、日本国憲法の「諸国民の公正と信義に信頼する」という平和主義の幻想を破綻させたため、ロシアの暴挙に一番憤っているのは日本共産党などの護憲論者という不思議な現象までも生みました。

さて、第二に、莫大な戦費(一日あたり約3兆円?)は、経済制裁を受ける以前に、国家財政が危険な状態に陥らせていると言えます。その分、ロシアはエネルギー資源の輸出で補える算段をしていたようですが、当ブログロシア報道の限界』でお伝えしたように、石油資本の撤退により採掘が不可能になる事態が予測され、ロシアにとっての唯一の資金源が断たれると思われます。その上に、半導体やメンテナンスの部品等も禁輸されているため、あらゆる企業の生産活動も厳しくなりそうです。

第三に、ロシア軍は、見かけは重厚でも意外と中身は脆弱であったことです。その上、戦略面でも遅れていることが軍事の専門家から指摘されています。ウクライナ軍の必死の抵抗はあったとはいえ、装備に勝ると見えたロシア軍が首都キーウをなかなか落とせなかったことと、先日の黒海艦隊旗艦「モスクワ」の沈没が、ロシア軍の脆弱性を物語る出来事だったと思います。

そのせいで、旧ソ連―ロシアの武器体系を受け入れている国々は衝撃を受けています。ミサイル一発で大型艦も沈められるとわかったいま、中国などは台湾侵攻に二の足を踏まざるをえなくなりました。

余談になりますが、NATOがウクライナに無制限の軍事支援を約束したとされています。その資金に、実は経済制裁で凍結したロシアの外貨準備3千億ドル(約35兆4千億円)を使うと噂されています。そうなると、ロシアはロシアのお金で報復されるという皮肉な結果が生じます。

また、地上戦では相手の兵力の3倍を用意して戦うと言われるロシア軍において、ウクライナ侵略ではすでに三分の一の兵力を失ったと言われています。普通に考えればロシア軍は撤退せざるを得ないはずですが、プーチン氏は面子にかけて侵略を断念するはずもなく、プーチン氏の身の上に大きな変化が起きない限りこの戦争は長引くと思います。そうなるとロシア国民はますます疲弊し、国家の行く末が全く見えなくなってきます。


ロシアに漂う暗雲

最も懸念されるのは、ロシア発の世界的な飢餓問題です。ロシアは軍事国家であると同時に農業国家でもあり、穀物類の輸出はロシアの収入源の一角を占めています。ところが、ロシアはウクライナ侵略開始から18日後に小麦と砂糖の輸出を制限、同時にロシア主導のユーラシア経済連合(ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスで構成)への小麦、ライ麦、大麦、トウモロコシなどの穀物の禁輸を決定しています。

いずれも「食糧安全保障の確保のため」と説明していますが、ロシアには自分の味方となる国にさえ禁輸しなければならない状態になっています。

このあおりをうけて、ロシア産の農産物を輸入していた国は飢餓に直面することになります。「ほかの生産国に頼ればいい」という意見があったとしても、それは無理です。なぜなら、豪州産、米国産の農産物は貧困国には高すぎて手を出せないのです。それゆえ、食料をめぐっての争奪戦が世界中で巻き起こる可能性があります。

一方、甘いものなら何でも食べると言われるロシア人にとっても、砂糖不足が深刻になると予測されています。原料となるサトウ大根(ビート)の種子はほとんどが輸入だからです。今日、野菜の多くはF1の一代限りなので穀物メジャーが支配している現状があります。かりに穀物メジャーが経済制裁に応じるとなるとロシアはたちまち砂糖不足が起きます。甘いものに飢えた民衆が暴動を起こさないとも限りません。フランス革命にせよ、中国の王朝交代にせよ、食の問題が暴動と革命を引き起こしている事実は直視しなければなりません。

ところで、ロシアという国が崩壊した場合、物理的、軍事的空白地帯が広がりますから、広大な大地に他民族が一斉ん流れ込むと思われます。おそらく中国人が最も多いはずです。すでに20世紀の終わりごろから中国人の越境が問題視されていましたので、ロシアという国が弱体化しただけでも中国人の流入は避けられないと思います。なにせ、5000キロメートル以上もある長い国境線です。この人口流入を妨げる方法はありません。


侵略戦争というパンドラの箱を開けて世界中に害悪をまき散らしたロシア自身も、強気のプーチン氏とは裏腹に、悲しみ、裏切り、不安、恨み、争い、嫉妬、貧困が渦巻いています。このままでは国家崩壊への道を突き進むのは必至です。その時期は、経済制裁の影響がより顕著に表れる頃か、プーチン氏自身が病で倒れる頃か、先はわかりませんが、残念ながらそれまではウクライナの悲劇は続きそうです。

この事態を早く収束させたいなら、人類一人ひとりが、パンドラの箱に残された「希望」を取り出し、あらゆるマイナス想念を消し去る以外に方法はないと思います。



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