田舎の倉庫

Plala Broach から移植しました。

熊谷達也著「調律師」

2013年07月26日 | 読書三昧

「相剋の森」や「氷結の森」などのマタギ3部作で知られる直木賞作家の東日本大震災をはさんで書かれた連作短編集。10~12年「オール読物」に掲載された7編を収める。



物語~前途を嘱望されるピアニストだった鳴瀬は、音が色彩を帯びる「共感覚」の持ち主であった。しかし、自分が運転する車で妻を死なせた後調律師になったが、音に匂いを感じるようになる。そして、仙台のコンサートホールで作業中、大震災に直面する・・・

東日本大震災後、作家は一様に、仕事に自信を失くしたという。
自らが紡み出す言葉や文章にどれほどの意味があるのか、特に、被災した人々の前では無力に等しいと感じたようだ。

熊谷氏も同様の思いに見舞われたが、しかし、やはり書かなければと体験者ならではの壮絶でリアルな描写を通して、人間の生きる意味を問いつつ美しい物語に仕上げた。ご一読をお勧めします。