昨年、メジャー初挑戦で「全英オープン」を制し、世界を驚かせた “シブコ” こと渋野日向子選手が師事する青木翔コーチの指導方法がユニ一クで面白い。
一言でいえば『教えないコーチ』として有名になりました。
『教えないで教える』とか『最高のコ一チは教えない』などは、なかなか含蓄のある言葉ですが、これは渋野日向子選手に対する青木翔コ一チの指導の基本理念であり、彼独特の指導哲学でもある。
コ一チとして最も気をつけていることは『老害にならないこと!』だと言う。
『先回りして正解を教えないこと』が重要で、それは青木自身がプロテストに落ちてプロを諦めた時代に、失敗の中から多くの大切なことを学んだ経験からきており、いつも余計な口出しはせず渋野が失敗するのを笑って見ていて、そこでどう声掛けするかが最も大切なことだと言う。
翻って自分はどうだったろうか? 企業においてコーチングは自発性を促すためのコミュニケーションツールの一つと心得るが、業績目標を達成するためにはそんな悠長に構えてはおられず、つい先回りして正解を教えることが多かったような気がする。子供の躾や教育に関しても同様で、親としてもっと早く気が付いていればと思うが時すで遅し。
“ドライバー” も “ピッチング” も “パター” も基本黙って見ているだけ。何か聞かれても「コーチング」はするが「ティーチング」はしない。
そんな青木コーチの指導を受けた無名の渋野がプロテストをクリアし、新人としていきなり掴んだメージャーの初の晴れ舞台で、日本人選手として何と42年ぶりの快挙をやってのけたのだから、日本中が沸くのも無理はない。
恥ずかしながら自分も、昨年の『北海道meijiカップ(島松)』と『ニトリレディース(小樽)』の2大会を “追っかけ” したものです。
そして迎えた2020年の開幕。コロナの影響で海外メジャーの開幕戦に続き、国内ツアーも軒並み中止になる中、昨オフから取り組んできた体幹の強化と筋力アップにより飛距離が10ヤード伸び、アプローチの精度向上のためウェッジを4本も削ってダメにするほど、ピッチングを徹底的に鍛えて満を持して臨んだ「アースモンダミンカップ」でしたが、まさかの予選落ちという屈辱を味わってしまいました。
渋野本人は、初日の2ペナ事件には触れず、『このオフにやってきたことが意味のないことだったのかな、と思うくらいの内容で全体的に駄目でした。予選を通る通らないというより自分の問題。やるべきことをやりたい』とコメントを結んだ。
いつも笑ってばかりはいられません(モンダミン初日)
実は、全英制覇後の渋野の劇的な環境変化に対する不安の声は、多くの専門家から挙っていました。
アスリートにとってオフの過ごし方は極めて重要で、ただでさえ放ってくれないマスコミの取材攻勢に加えて、地元への凱旋あいさつや関係諸団体からの表彰式、年末年始のTV番組への出演オファー等が相次ぎ、とうとう大晦日の紅白歌合戦までフィーバーが止むことはありませんでした。
しかし、テレビ画面を通して見る限りでは、浮かれている様子などは微塵も感じさせず、コ一チとの約束事であるパターの練習は、どんなに忙しくても毎日の日課として続けているようで、オンとオフとのメリハリや切り替えも含め、あの年齢で自分を見失うことがないのは驚きでした。
ただ、一つだけ気になったのは、ある局の密着ドキュメンタリー番組で、ファンの『な~んだ、笑わネェ~じゃんか!』の声に対して、『私も生身の人間、感情もあれば不機嫌な時もある』『いつもヘラヘラ笑ってばかりはいられない』と苛立ちを隠せないシーンがあった。
全英オープンで “スマイリング・シンデレラ” と笑顔のプレースタイルが注目され、英国民を虜にしただけでなく世界中のファンを魅了したトレードマークが今や重荷になってはいまいか? もう一つは、先日のコメントの最後『やるべきことをやりたい』の一言が何を意味すのか? 聞きようによっては意味深でもあり、よもや青木コーチとの信頼関係を暗示している訳ではあるまい……。
昨年、予選落ちの翌週に優勝した底力を持つ “シブコ” だけに次戦に期待がかかりますが、「教えないコーチ」の理論どおり、自分で考え自分を律して自分でマネジメントできるか、今後の “シブコ” を占う大切なラウンドになることは間違いありません。
LPGAの年間MVPに(最優秀選手賞)
サントリーとのスポンサー契約(宮里 藍の後継者と評価)
オフはあちこちから “引っ張りだこ” で大忙し