◎「成果主義」の虚妄が明らかになった2004年
ジェームス・C・アベグレン著、山岡洋一訳の『新・日本の経営』(日本経済新聞社)が刊行されたのは、二〇〇四年一二月一〇日のことであった。
この年、いわゆる「日本的経営」の問題をめぐって、ふたつの重要な本が出ていた。
そのひとつは、一月に刊行された高橋伸夫氏の『虚妄の成果主義』(日経BP社)である。その「オビ」には、次のようにある。
気鋭の東大教授(経営組織論)による初の本格的批判/揺れる企業トップ、悩める人事、落ち込む一般社員におくる、「成果主義」の愚かしくも、無残な正体!
もう一冊は、七月に刊行された、城繁幸〈ジョウ・シゲユキ〉氏の『内側から見た富士通 「成果主義」の崩壊』である(光文社)。この本は、かつて富士通人事部に在籍していた同氏が、同社において生じた成果主義の弊害を詳細に、かつ赤裸々に報告した本であった。
この二冊は、当時、大きな話題を呼んだ。やはり日本では、成果主義はうまくいかないのかと納得し、いわゆる「日本的経営」を再評価した経営者や従業員は多かったはずである。
アベグレンの『新・日本の経営』は、これら二冊が出た年の暮に出ている。これはとても偶然とは思えない。当時のアベグレンは、すでに日本国籍を取得し、東京に住んでいたという。「成果主義」が日本の企業を混乱に陥れて事態を目の当たりにし、このあたりで、いわゆる「日本的経営」を再評価しておく必要を感じたのではないだろうか。すなわち彼は、この時期、高橋伸夫氏や城繁幸氏と、ほぼ同様の問題意識に立っていたと考えられるのである。
ただ、アベグレンが高橋伸夫氏の『虚妄の成果主義』の刊行を知って、そのあと急遽、『新・日本の経営』の執筆にとりかかったという可能性も否定はできない。なぜなら、高橋氏の同著は、アベグレンの旧著『日本の経営』の紹介に、かなりのページ数を割いているからである。【この話、さらに続く】