◎東京なんか、てんで問題にならない(前芝確三)
前芝確三・奈良本辰也著『体験的昭和史』(雄渾社、1968)の紹介を続けたい。
本日と明日は、「モスクワ攻防戦」の章を紹介してみたい。
モスクワ攻防戦
――「各ビルを要塞に、各窓を銃眼に」――
前芝 戦争〔独ソ戦〕の経過については今さらいうまでもないが、とにかく〔1941〕七月二十日頃から、ドイツ軍の飛行機が毎晩まるで定期便みたいにモスクワおそいかかってきた。だいたい延べ六百機くらいが約四十分おきに波状攻撃を加えてくるんです。しかしそれはハインケルだったか、ユンカーだったか、双発の爆撃機で、アメリカがのちにつくり出しB17や29にくらぺれば、その威力は大したことはない。こうした空襲に対してモスクワの地下鉄が、市民の退避壕として、非常に大きな役割をはたした。多くの市民が警報が鳴ると毛布をかかえ、ウオトカや食い物をいれたカゴをさげて、ぶらぶらやってくる。地下鉄の停留所に倉庫みたいなところがあって、そこをあけると、サンを打った細長い板が積んである。それを一枚ずつ持って線路の上に降りていく、どうするのかと思ってみていると、それをポンと線路の上におくんだな、ちょうど、一人分の寝台になるわけですよ。そこへ毛布を敷いてゴロッと横になる。いつの間にこんな準備をしていたのかと感心したものです。それからもう一つ感心したのは、防空体制が実に行き届いていたことだ。私は防空司令部へも行ってみたが、敵機襲来という報道がはいるでしょう、すると点滅灯で、侵入経路が大きなボールドに描き出される、時機を見はからって、司令が電話機をとって命令を出す、そうすると、モスクワ周辺に小さな飛行場がたくさんあって、そこに戦闘機が待機しているんだが、命令一下、各飛行場から一斉に飛びたって迎撃するわけです。迎撃をすりぬけてきたやつは、市の周辺に無数の咀塞〈ソサイ〉気球が上がっていて、それに引っかける。さらにそれを越えてきたやつに対して、こんどは高射砲で弾幕をはるんです。低空にきたやつは各ビルの上に高射機関砲があって、それでダダダダッと狙撃する。
奈良本 東京なんかより。
前芝 てんで問題にならない。したがって案外被害は少なかった。初めは市の上空に侵入してくるドイツ機も相当多かったが、回を重ねるにしたがって、攻撃してくる飛行機のせいぜい一割か二割くらいしか、モスクワの上空まではいれなくなった、それは、大したものでしたよ。
はじめは全市きびしい燈火管制をしていた。それは実に乱暴で、光が漏れていると外からスピーカーでどなる、それでも消さないとバーンとその窓にむかって威嚇射撃をやる(笑) 、民警がね。はじめはそれほど厳重にやっていたのが、何日目かから、定期便みたいにドイツ機はやってくるけれど、ブラックアウトしなくなった、電灯をつけっぱなしです。どうしてブラックアウトをやめたのかと聞いてみると、ドイツ機はそうたくさんはいってこないんだから、モスクワの所在がわかってる以上、灯をつけておいた方が消火とか防衛活動に便利だというわけです(笑)、実にずぶとい神経だと思ったな。〈241~243ページ〉【以下、次回】
前芝確三・奈良本辰也著『体験的昭和史』(雄渾社、1968)の紹介を続けたい。
本日と明日は、「モスクワ攻防戦」の章を紹介してみたい。
モスクワ攻防戦
――「各ビルを要塞に、各窓を銃眼に」――
前芝 戦争〔独ソ戦〕の経過については今さらいうまでもないが、とにかく〔1941〕七月二十日頃から、ドイツ軍の飛行機が毎晩まるで定期便みたいにモスクワおそいかかってきた。だいたい延べ六百機くらいが約四十分おきに波状攻撃を加えてくるんです。しかしそれはハインケルだったか、ユンカーだったか、双発の爆撃機で、アメリカがのちにつくり出しB17や29にくらぺれば、その威力は大したことはない。こうした空襲に対してモスクワの地下鉄が、市民の退避壕として、非常に大きな役割をはたした。多くの市民が警報が鳴ると毛布をかかえ、ウオトカや食い物をいれたカゴをさげて、ぶらぶらやってくる。地下鉄の停留所に倉庫みたいなところがあって、そこをあけると、サンを打った細長い板が積んである。それを一枚ずつ持って線路の上に降りていく、どうするのかと思ってみていると、それをポンと線路の上におくんだな、ちょうど、一人分の寝台になるわけですよ。そこへ毛布を敷いてゴロッと横になる。いつの間にこんな準備をしていたのかと感心したものです。それからもう一つ感心したのは、防空体制が実に行き届いていたことだ。私は防空司令部へも行ってみたが、敵機襲来という報道がはいるでしょう、すると点滅灯で、侵入経路が大きなボールドに描き出される、時機を見はからって、司令が電話機をとって命令を出す、そうすると、モスクワ周辺に小さな飛行場がたくさんあって、そこに戦闘機が待機しているんだが、命令一下、各飛行場から一斉に飛びたって迎撃するわけです。迎撃をすりぬけてきたやつは、市の周辺に無数の咀塞〈ソサイ〉気球が上がっていて、それに引っかける。さらにそれを越えてきたやつに対して、こんどは高射砲で弾幕をはるんです。低空にきたやつは各ビルの上に高射機関砲があって、それでダダダダッと狙撃する。
奈良本 東京なんかより。
前芝 てんで問題にならない。したがって案外被害は少なかった。初めは市の上空に侵入してくるドイツ機も相当多かったが、回を重ねるにしたがって、攻撃してくる飛行機のせいぜい一割か二割くらいしか、モスクワの上空まではいれなくなった、それは、大したものでしたよ。
はじめは全市きびしい燈火管制をしていた。それは実に乱暴で、光が漏れていると外からスピーカーでどなる、それでも消さないとバーンとその窓にむかって威嚇射撃をやる(笑) 、民警がね。はじめはそれほど厳重にやっていたのが、何日目かから、定期便みたいにドイツ機はやってくるけれど、ブラックアウトしなくなった、電灯をつけっぱなしです。どうしてブラックアウトをやめたのかと聞いてみると、ドイツ機はそうたくさんはいってこないんだから、モスクワの所在がわかってる以上、灯をつけておいた方が消火とか防衛活動に便利だというわけです(笑)、実にずぶとい神経だと思ったな。〈241~243ページ〉【以下、次回】
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