練習オタクの日々

3日ぼうずにはしたくありません!この日記とピアノのお稽古。練習記録とその他読書などの記録をつけておきます。

『八日目の蝉』 角田光代

2007-11-08 | 読書
かなりすごみの効いた話だった。
ショッキングな内容でもある。

前半は、不倫相手の子ども(赤ん坊)をさらった女がその子どもの親のフリをして何年間か暮らし、やがて逮捕されて子どもと引き離されるまでが描かれる。
後半は、その子どもがその後実の両親のもとで成長しつつ、自分が巻き込まれていた事件に未だに強い思いを残している、彼女の内面が描かれる。

ラストがなんとなく明るい前向きな雰囲気で終わっているので、
いろいろあったけれども結局はいい話、という印象もあるが、
個人的に私が思ったのは「妊娠って怖い」ということだ。

他の作家の話になってしまうが、
以前読んだ伊坂幸太郎の小説で、非常に綺麗、という設定の女性が、
あなたなら男なんてよりどりみどりでいっぱい遊べそうなのにどうしてそうしないの?と聞かれ、
「私は女だからそんなことをしたら妊娠が怖い」と答えるシーンがあり、
私はそのセリフにものすごく共感を覚えたのだ。
この『八日目の蝉』を読んで、その時の気持ちがとても強くよみがえってきた。

今、「できちゃった婚」とか言って、期せずして妊娠したけど、これがきっかけで結婚に踏ん切りがついた、みたいな話が少なくとも芸能界ではしょっちゅうあるが、
芸能界であれだけ頻繁に起きている事象ならば、一般人の間では数え切れないほどの「できちゃった」という事実が生まれているのだろう。

予定外の妊娠、それによって女性は人生が全く変わってしまうことだってありうるし、それをきっかけに人間関係に破綻をきたしたり、親子の縁が切れたり、この話の主人公のように犯罪者になってしまうことだってある。

マイナスのことばかり書いてしまったが、新しい命を授かることはもちろん嬉しいことでもあるだろう。
妊娠することによって人生が好転する女性だって数え切れないほどいる。

でも、この話を読んだ私個人の印象は、人間ひとりの命を急に背負わなくてはいけなくなった女性が感じるとてつもない重み、血の気がひくような恐怖、という感覚だった。
しかも妊娠という現象はそれだけで終わるものではなくて、その後も延々続いてゆくのだ。
堕胎するにしても、出産して子どもを育てるにしても・・・。

そんな気の遠くなるような重大な事態を一人で(配偶者がいたとしても)背負わなくてはいけない、女性というジェンダーの理不尽さを強く感じさせられるような話だった。