では本章の主題に移ろう。ニザム州のナンデッドに製粉機の請負契約や仲介をしているラタンジ・シャプルジというパルシー教徒が住んでいた。彼には多額の蓄財があり、田畑や土地も所有していた。彼は牛や馬などの乗り物を持っていて大変に裕福だった。外から見れば彼はとても幸福で満足そうに見えたが、内面はそうではなかった。完全に幸福な者などこの世には存在しないというのが神の摂理で、裕福なラタンジも例外ではなかった。彼は寛大で慈善心があり、貧しい人々に食べ物や衣服を与えて様々なやり方で皆を助けていた。
人々は彼を善良で幸福な男と見ていたが、ラタンジ自身は長い間子宝に恵まれず惨めな思いでいた。愛や信仰心のないキルタン(主の栄光を歌うもの)やリズムのない歌のように、聖糸のないブラーミンのように、常識のない芸術家のように、過去の罪への後悔のない巡礼の旅のように、ネックレスのない装飾品のように、子のない家長など虚しく役に立たないものであった。
ラタンジはこの問題を四六時中考えており、心の中で、「神は私に息子を授けて下さるのだろうか?」と呟いていた。彼は不機嫌になり、食事もおいしく食べられなかった。昼も夜も彼は自分が息子に恵まれるだろうかと、その心配で頭がいっぱいだった。彼はダース・ガヌ・マハラジを大変尊敬していた。
彼はマハラジに会いに行って彼の前で心の内を打ち明けた。ダース・ガヌは彼にシルディに行ってババのダルシャンを受け、彼の足元にひれ伏して祝福を乞い、子を授かるように祈るといいと助言した。ラタンジはこのアイデアを気に入って、シルディに行くことにした。数日後、彼はシルディに行ってババのダルシャンを受けて、その足元にひれ伏した。そしてバスケットを開けて美しい花輪を取り出しババの首にかけると、果物の入ったバスケットを彼に捧げた。敬意を持って彼はババの近くに座りこう言った。
「悩みを抱えた大勢の人々があなたの元へ来ると、あなたは彼らを即座に苦痛から解放するといいます。これを聞いて、私はあなたの御足を切望して参りました。どうか私をがっかりさせないで下さい」するとサイババは彼にダクシナとして5ルピーを要求し、ラタンジはこれに応じようとしたが、ババは付け加えて彼からは既に3ルピー14アナを受け取っているから、その差額だけでよいと言った。これを聞いたラタンジはやや困惑した。彼はババが何のことを言っているのか理解できなかった。
彼がシルディに来たのはこれが初めてであり、ババが前に3ルピー14アナ受け取っているというのはどういうことなのか?彼にはこの謎が解けなかった。だが彼はババの足元に座ったまま言われた差額のダクシナを差し出し、ババに自分がババの助けを求めて来たわけを全て説明し、息子を授けてほしいとババに祈った。ババは心を動かされ、辛い日々は終わったから、もう心配しないよう彼に告げた。ババは彼にウディを与え、彼の頭に手を置いて祝福しながら、アラーは彼の心の望みを叶えるだろうと言った。
そしてババにいとまごいをして、ラタンジがナンデッドに戻ると、シルディで起きたことの全てをダース・ガヌに話した。彼は全てがうまく運んで、ババのダルシャンもプラサドの祝福も受けることができたと言ったが、一つだけどうしても分からないことがあると言った。
ババは彼に3ルピー14アナは以前に受け取っていると言ったのだ。彼はダース・ガヌに、ババが何のことを言っていたのか説明して欲しいと頼んだ。「私は以前にシルディに行ったことなどないのに、どうしてババの言った金額を払ったなどということがありえるでしょうか?」ダース・ガヌにとってもこれは難問で、長いことそれについて頭を悩ませていた。その後しばらしくて、数日前にラタンジがモウリサヘブという名のイスラム教の聖者の訪問を受けて、彼を歓迎するためにいくらかのお金を使ったということがふと心に浮かんだ。このモウリサヘブはナンデッドではよく知られた聖者で、門主として働いていた。
ラタンジがシルディに行くことを決意したとき、このモウリサヘブはラタンジの家に現れたのだ。ラタンジは彼を知っていて、彼のことが大好きだった。そこで彼は敬意を表して小さなパーティーを開いた。ダース・ガヌはラタンジから、このときの接待費の記載を見せてもらうと、皆が驚いたことに、ぴったり3ルピー14アナであった。それ以上でも以下でもなかった。彼らはババは遍在していて、シルディに住んでいても、遠く離れた場所で起きたことも知っているのだ、と理解するに至った。実際彼は過去も現在も未来も知っていたし、誰のことも自分自身と同一視していた。ここに挙げた例では、彼はどのようにしてモウリサヘブへの接待が行われて、そこで使われた金額を知ることができたのか?それはババがモウリサヘブと自分を同一視でき、彼と一つであったからに他ならないのではないのか?
ラタンジはこの説明に満足し、ババへの信頼は強まり高まった。しばらくして彼は息子に恵まれ、彼の喜びはたとえようもなかった。彼は1ダースほどの子宝に恵まれたが、そのうち生き残ったのは4人だけだったと言われている。
補足として次の点を述べておく。ババはラオ・バハドゥル・ハリ・ヴィナヤク・サテに対して彼の最初の妻の死後、再婚すれば息子を授かるだろうと言ったとされている。R.B.サテは二度目の結婚をした。最初に生まれた二人の子供は女の子だったので、彼はとてもがっかりした。だが3人目は息子だった。ババの言葉は現実となり、彼は満足だった。