まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

多摩ニュータウンの航空写真展

2024-05-07 13:07:28 | 建築まち巡礼関東 Kanto

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多摩センター駅に降りるのは何年ぶりでしょうか。

曽根幸一先生が設計されたパルテノン多摩は近年改装されたと聞きましたが、外観の堂々としたたたずまいは全く竣工当時のままです。

その1階ギャラリーで、「多摩ニュータウンの航空写真展」がありました。

 

下写真のように、開発の歴史を航空写真で振り返っています。実に面白い展示でした。

多摩ニュータウンは私たちが住む調布側から多摩川越に見ると、「多摩の横山」と呼ばれ一つの丘陵のように見えます。しかしより近づいてみると下写真のように南北方向の尾根と谷が交互に並ぶ複雑な地形をしています。この地形を生かしながら造成、開発されたのが多摩ニュータウンです。下写真(開発前模型)は永山のあたり(を撮ったつもり)ですが、造成後の写真(下の2つ目の模型写真)と、尾根筋谷筋が一致するのが分かると思います。亡き福沢健次さんが設計された聖ヶ丘団地が右手の丘になると思います。

造成後の模型写真です。

この地形の上に、どのようなまちをつくるのか・・・当時の建築家、土木技術者たちは理想に燃えて取り組んだことでしょう。その結果はどこかで総括されていることだと思います。ぜひ読んでみたいですね。

ところで・・この地域に住む蝶の標本も展示されていました。蝶の羽は見れば見るほど複雑な美を感じます・・・余談でした。

 

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design 

設計計画高谷時彦事務所

 


多摩市図書館は柔らかな光に包まれていました

2024-05-07 12:21:30 | 建築まち巡礼関東 Kanto

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多摩センター駅前のパルテノン多摩で多摩ニュータウン航空写真展を見た後、湖畔を歩いて図書館へ向かいます。

ベンチがいいですね。テーブルがついているのが新鮮です。

 

2層で周辺の公園環境に溶け込んでいます。

湖畔側から、2階に入りました。

明るい一室空間です。

 

相対する2つの外壁側からせり出してくる、柱と梁のL字型の構造で屋根・天井面がつくられ、2つの屋根・天井面のずれたスリット部がハイサイドライトになっています。下写真はL字型構造材の柱です。台形状にフランジが開いたビルトHです。構造システムと空間造形がうまく一致している印象です。

(下写真)軽やかな屋根・天井面、そして白い壁の2階にあって、その軽やかさとは対照的な重いレンガ状の壁が見えます。

1階の階の雰囲気が一部上に出てきて、誘っているようです。うまいですね。

 

誘われるままに下の階に降りてみます。

2階は一室で大きな明るい天井に覆われていますが、1階は落ち着いた雰囲気で、窓際のキャレルもあります。

再び2階です。公園に面した入り口付近にはカフェもありました。こうなっていると、気軽に入ってこれるということでしょう。心理的なバリアーをなくするというのは、本(だけ)が主役ではない、人が滞在する場所としての図書館をつくるうえでの基本的作法のようです。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

設計計画高谷時彦事務所

 

 

 

 

 

 


多摩ニュータウンで、大谷先生、槇先生の集合住宅を見学

2024-05-07 10:57:16 | 建築まち巡礼関東 Kanto

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多摩センターパルテノン多摩で多摩ニュータウンの航空写真展をみました。パルテノン多摩は曽根幸一先生の設計です。丹下先生の一門です。ということで、丹下研究室を支えた大谷先生、槙先生の作品を続いてみてみようと思い立ちました。多摩センター駅から京王線で南大沢駅に足を延ばしました。

公団のベルコリーヌです。南フランスの山岳都市(だったと思います)をイメージして、内井昭蔵さんがデザイン監修をされました。大谷先生の塔が目を引きます。大谷先生の手の中でこねられた油土の力強い造形です。団地には見ない風景です。ただ、それ以外の住棟は普通の片廊下型の中層住棟のように見えます。また広場の作り方も、山岳都市のイメージとは関係ないようです。山岳都市を連想させる塔とほかの要素が断絶した感じがするのですが、あえて「調整」しないのは内井さんの意図かもしれません。

 

やはり塔の存在感は大きいものがあります。ランドマークとして視線を調整しているのだと思います。確かに山岳都市ですね。

緑道側を歩くと、みちに沿った部分にプラスアルファ住戸が顔を出します。これは山岳都市の斜面の住宅をイメージしているのでしょう。こういう「住棟からみち空間への飛び出し」は面白い試みです。住戸内のアクティビティが緑道に表出することを狙ったのでしょうが、どうでしょうか。ここに、小さなカフェでもあると面白いでしょう。

 

ほかにも、こういう飛び出しもありましたが、こちらはデザイン的には親住棟との関係性をうまくデザイン的に解けなかったようです。また緑道側からのアクセスもないので、勝手に増築されてしまったかのような、不思議な存在感を放っています。

 

南大沢の駅に戻ると、アウトレットモールがあります。ここも、南フランス風?。

大谷先生に引き続き槇先生の南大沢団地へ。多くの団地では、緑地(空地)の中に、住棟を(太陽の恵みをそれぞれが十分受けられるように)均等でまばらに配置しています。しかしこの団地の配置を見るとそういう発想ではなく、全体を構造づけるみちと住棟配置が一体に考えられていることが分かります。団地といえども、緑の中に散在する別荘地のようなものであってはならず、みち空間を介して、ある種まちらしい雰囲気を用意しようとしたことが分かります。

両側に中層住棟、正面の高層がみち空間を受けとめ、きゅっとしめています。

欅並木の足元が開放されていればさらに、構成が分かり易くなっていたでしょうが。

 

ほかの団地にはない風景です。

集会所も、静かにこの団地全体の焦点としての存在感を放っています。担当していた故Hさんが製図版に向かっていた姿を思い出します。

以上で本日の見学終了。

大谷先生のベルコリーヌにしても槇先生の南大沢団地にしても、できてから数十年経過しています。しかし、外壁は大規模補修を施すからでしょうが、吹付の複層仕上げは新しい印象です。それがいいという人もいるかもしれませんが、私は、時の蓄積、時間の表層において表現されないことを、残念に思います。といって、いわゆる吹付タイルやリシンをそのままにしておくと、みすぼらしくなってしまいます。どうしたらいいんでしょうか。

 

帰りは、南大沢駅に、歩行者専用道路を使って歩きます。多摩ニュータウンは丘陵の尾根部分に住宅や学校などをつくり、歩行者専用道でつなぎ、谷あいをバスや自家用車の道路としてネットワークを組んでいます。下写真のようにずっと、歩行者専用道を歩くと楽に駅まで行けます。

 

 

ただ下写真のように一度バスみちに降りると、尾根筋に到達するのは結構大変です。歩專道を歩くと安全ですが、駅やセンターまでは結構遠いので、コミュニティバスなどを利用すると、アップダウンに遭遇するというわけです。高齢化社会に対応した何かうまい方法がないものでしょうか・・・。

 

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

設計計画高谷時彦事務所

 

 


矢吹には建築とまちづくりを融合する伝統がある

2024-05-05 21:19:19 | 建築まち巡礼東北北海道 Tohoku, Hokkaido

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須賀川に続いて、東北本線矢吹駅で下車。

柴田さん設計ですね。建築とまちづくりの境界をなくそうとした提案です。迫力あります。これについてはまた後日・・・。

今日は、建築家太田さんたちが取り組む、街道に沿ったまちづくりの成果を見学に来ました。

街道というみち空間を、震災復興からのコミュニティづくりの中心に据えようという提案です。まちなか居住、木材利用、小さな公共空間を道に沿って作っていく・・というのが骨子のようです。

まずは小さな公園とあずまや兼トイレ。

さりげない雰囲気‥と思ったら中は刺激的、面白い。いいですね。

復興公営住宅を目指します。丘の斜面に自然な感じで配置しています。ちょっと駐車場が目立ちますが。

こちらのように、入り口廻り、階段室を通して自然な交流が生まれることを目指しているのだと思います。

 

メゾネットタイプとフラットの組み合わせのようです。

 

町の集会所。みち空間と、奥の中庭との関係を体験してみたい・・・と思っていたのですが、今日はお休み。残念です。正直なところ一番見たかった建築ですがしようがありません。

小屋組みも見たかったところです。

でも、細やかなスケール感を持つ空間と外部空間をうまく組み合わせて、変化に富む活動の場ができているのではないか‥と想像しました。

みちの反対側には、もう一つの災害公営住宅がありました。

階段室の扱いが巧みですね。

駅の方に戻るとさらにいろんな試みがあるのが分かります。西洋式の歴史的建築もいくつかありました。

また、町家や、その奥の蔵?を使っていそうな建物もあります。

途に沿って図書館もありました。

私が訪れた日は、先ほどの集会所だけでなく図書館も休みで、あまり人通りがありませんでした。でもこの道に沿って集まる共有の場所の数々はまちの暮らしを少しずつ豊かなものにしていくものだろうと思います。

小さな公共的な場所が積み重なって何が生まれるのか、今後とも注目です。

また、駅自体が、建築とまちづくりの融合を目指した先駆的なものだったんですね。実をいうとここに来るまで駅のことを忘れていました。

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

architecture/urban design

設計計画高谷時彦事務所

 

 


須賀川市図書館tetteは屋根のある知の広場

2024-05-05 20:04:38 | 建築まち巡礼東北北海道 Tohoku, Hokkaido

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東北本線須賀川駅で初めて下車。図書館へ向かいます。

中心部の商店街?にあるんですね。1万3000㎡ある大型施設ですが、町のスケールに溶け込んでいます。

この建物を紹介するのには、この模型が一番分かり易そうです。

ちょっと分厚いスラブが少しずつずれながら重なり、5層の内部空間と、外部テラスをつくっています。これの構成が全体を形作っています。

スラブがずれているので、上部にスラブがないところは吹き抜けになります。

その吹き抜けの中に浮かんでいるスラブ同士を、ランプや階段がつなぎます。

こんな感じで。

 

 

いろんなところで、上部と下部の吹き抜けが現れます。楽しいですね。

外部もいろんなところから顔を出します。すき間だらけの建築なのです。

図書館だけでなくイベントホール等市民活動施設も組み込まれています。

まとまったテラスもあります。

 

スラブが自由?にずれていろいろな面白い上下関係や、内外の関係をつくり出しています。その結果、従来の図書館にはない、自由な雰囲気が生まれます。また吹き抜けに十分な光が入ることで、ちょうど屋根のある広場のような雰囲気が生まれています。「広場」という感覚は、いろんなところでいろんな活動をしている様子が見えるからかもしれません。

うまくいろいろなものを複合させ、かつ窮屈ではない、気楽に滞在できる雰囲気をうまくつくっていると感心します。もちろん本の盗難防止装置BDSは目立たない位置に置いています。図書館の入り口に、BDSや係員のいるカウンターが並んでいると図書館利用になれていない人にとって、心理的なバリアー、あるいは「関所」になる可能性があります。カウンターは人の出入りをチェックするのではなく、利用者が相談したいときに訪れる場所と考えるのがよさそうです。また事務室も少し奥まった位置に置かれ、同時に開放的であるといううまい作り方をしています。決して、来館者を監視するような雰囲気にならないように配慮しているのです。

いろいろ恵まれている条件もあったのだと思います。まず床面積にゆとりがあります。本の置き場所もいろいろな場所に設定されていますが、図書館側の理解もあったのでしょう。またこれだけ吹き抜けが大きいと空調換気設備や区画関係の防火設備など、初期投資および維持管理費も大きいでしょうが、そのあたりも理解があるのだと思います。建築設計の条件、プログラムを設定した方々がきちんとしたポリシーを持っていたのでしょう。

 いずれにせよ、町の中に、非常に愉しい市民の居場所ができたように思います。屋根のある広場タイプの図書館として、きちんと記憶しておきたいものです。図書館コンサルタントであり、新しいタイプの図書館づくりに携わるアントネッラ・アンニョリが言うように「図書館が本のためというよりも人のために構想された場所に姿を変えた」※一例ではないでしょうか。

※「新しい社会の鏡としての図書館」、小篠隆生・小松尚2018『「地区の家」と「屋根のある広場」』鹿島出版会pp206-209

 

高谷時彦

建築・都市デザイン

Tokihiko TAKATANI

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