鶴岡商工会議所会館が竣工しました。
Tsuruoka Chamber of Commerce and Industry Building
1.まちのランドマークとなる敷地
商工会議所会館はRC造地上4階、面積は2000㎡、鶴岡市商工会議所と市立観光情報プラザ、土産物ショップ、カフェレストラン、貸事務室からなる複合施設です。
敷地は、中心部を南北に流れ鶴岡城の外堀でもある内川と、東西方向の幹線道路である羽黒街道が交差するまちかどに位置します。このまちかどは、旧城址公園、アートフォーラム(小沢明氏設計)や文化会館(妹島氏の設計で建て替え中)などから構成される緑豊かな都心シンボルゾーンへの玄関口であり、江戸時代には木戸口、明治以降は西田川郡役所や議会が置かれ、いわば鶴岡市の顔、ランドマークとなる建物が建ってきた場所です。しかし、西田川郡役所などが博物館に移築された後、この数十年は、消防署と屋外訓練場として利用されていました。
このような歴史的まちかどに商工会議所会館を設計するにあたり、直截なモニュメンタリティを求めることなく、以下に述べるようにこの場所の持っている条件に粛々と答える解を積み重ねることで、ごく自然に現代という時代性や鶴岡という場所性を反映したランドマークができるのではないかと考えました。
2.庇と下屋でまちかどの表情をつくる
商工会議所会館は直交する羽黒街道と内川に沿ってまち並をつくるようにL字型の平面をしています。4階建のボリュームの前面には3層の高さの下屋が付加され、周辺の低層建物群との調和が図られています。
下屋は階段室やテラス、観光情報プラザ、土産物ショップ、カフェレストランなどからなり、ガラスの開口部を通して中の人々の動きをそのまま外部に表出しています。さらに、下屋は金属板でシャープに仕上げられた庇や壁の小口により縁どられ、連続する縁は上下、斜めに移動しながらコーナーを回り込んでいきます。これもまちかどに動きのある表情を与えようとするものです。
かつて西田川郡役所などが、シンメトリーの威厳ある構えで鶴岡の「玄関口」を表現していたのに対し、商工会議所会館は「まちかどに動きを与える」ことで、軽やかで現代的なランドマークの在り方を提示しました。
3.内川を望む階段
元禄期に芭蕉は内川を舟で下りました。両岸に料亭や芝居小屋が並んだ時期もあります。藤沢周平の歴史小説の舞台ともなり、桜の名所でもある内川は今後のまちなか観光の舞台として期待されています。
そこでエレベータホールは内川にむけて配置しました。また2階に上る階段室は多くの人が身近に川を感じ、眺める場になることを意図しました。エントランスから上ると、踊り場で一気に内川に向かって視界が開けます。外部の内川から見ると、階段中央で大庇を支える壁柱と木の枝のような鉄骨柱が視線に奥行き感と高さへの方向性を与えてくれます。
4.羽黒街道に沿った
羽黒街道は鶴岡人の心のふるさと羽黒山(東)と、日本海(西)を結ぶ市街の中心軸です。大庇と下屋はこの軸性を強調するように西に延びていきます。その先には、タブの木広場。従来は観光名所のタブの木より西のシンボルゾーン内で完結した観光客の動きが、この軸に沿って東に延びていき、商工会議所会館、内川を経て、川東ゾーンにつながることを期待しています。
5.年縞のまちづくり
西村幸夫東大教授は鶴岡を「年縞のようなまち」と呼びました。波のない静かな湖の湖底堆積物のつくる縞模様のように、まちの中に層をなしている各時代の建物が、歴史・文化を語り掛けてくるという意味です。
鶴岡では、古い建物を大事にするとともに、まちのつぼともいえる場所を狙って丹念に注意深くその時代で必要とされる公共的な建築物を置いてきました。藤沢周平記念館は大手筋の要の位置に置かれ 今ではずっとそこにあったかのような雰囲気を作り出しています。商工会議所会館の作る現代のまちかどが多くの人々の記憶に共有され、鶴岡の年縞の一つとなる日が来ることを願うものです。
Tsuruoka Chamber of Commerce and Industry Building
Tokihiko Takatani
Architect/Professor
Takatani Tokihiko and Associates, Architecture/Urban Design, Tokyo
Graduate School of Tohoku Koeki university ,Tsuruoka city, Yamagata
設計計画高谷時彦事務所
東北公益文科大学大学院
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