まち・ひと・くらし-けんちくの風景-

建築設計を通してまち・ひと・くらしを考えます。また目に映るまち・人・くらしの風景から建築のあるべき姿を考えています。

熊野卒業旅行拾遺

2020-03-22 15:26:22 | 建築まち巡礼大学院 Research Tour

今年で東北公益文科大学大学院でのお役目は終了。最終講義のことは前回のブログにも書きました。

従って、今年の修了生の皆さんとの卒業旅行は最後のものになります。

いつもは、受託研究の調査も兼ねているのですが、今年は受託研究もなく、純粋の卒業旅行となりました。修了生の方々がアレンジしてくれたコースは熊野三社巡り。私たちの研究室では出羽三山羽黒修験の里手向集落のまち並み修景にこの10年ほど携わってきたので、本当にありがたい企画でした。

この写真は中辺路を経由して最初に到達した熊野本宮。

熊野は出羽三山と並ぶ修験の聖地。修験の開祖役行者が開いた山といわれています。やはり修験の聖地には独特の空気感が漂っています。

とはいえ、根っからの世俗人間である私は、最後に訪れた新宮市、速玉神社の境内にあった佐藤春夫記念館に目を奪われます。1927築で東京から移設された、この記念館を設計したのは大石七分、西村伊作の実の弟です。アールヌーボとアールデコの混ざり合ったような、昭和初期の雰囲気、手触りして楽しい小作品です。

 

 

西村伊作が和歌山の山林地主であることは『大正夢の設計家』という本で知っていましたが、新宮が故郷だとはその時まで思い至りませんでした。新宮は中上健次の小説に出てくるのでその面影をたどりたいという気持ちはありましたが、この時点で私の頭の中から中上健次は消え去りました。

私は、最近の最終講義の中でも過去を振り返る中で、東北公益文科大学大学院で声をかけてくださるまで多くの大学の建築科で教えていたという話をしました。実はその時に触れませんでしたが、一番最初に教えたのは、文化学院でした。そうです、西村伊作の創設した学校です。

西村伊作の叔父の大石誠之助を主人公とした小説が『許されざる者』です。

活劇風の要素もあるエンターテインメント性あふれる大変面白い小説ですが、西村伊作さんも当然登場します。作者は文化学院の出身?である辻原登さん。辻原登さんも和歌山のご出身とは知りませんでした。以前たまたま鶴岡のまちなかキネマをご案内する機会がありましたが、「建築家」には非常に興味を持っていますとおっしゃっていたことが思い出されます。

さて、卒業旅行の最後の立ち寄り地は、本州最南端の潮岬。辻原登さんの小説の中で主人公の槇(大石誠之助)は「ここはいいね。おそらく潮岬の台地は世界でいちばん人間が満ち足りた気分になれる場所だ」といいます。甥の勉(西村伊作)は「だれもが安らかな気持ちで死んでいける土地かも・・・・」と応じます。

私は、こういう水平線を見ると三島由紀夫の『午後の曳航』や『豊饒の海』の何巻目かに描かれていた、水平線から船が現れるのをじっと観測するウォッチャーの記述を思い出します。潮岬灯台も観れるとさらにうれしかったのですが、またの機会に訪れたいものです。

こんな機会を下さった修了生の皆さん有難うございました。

 

 

 


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