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落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

She sifted seven thick-stalked thistles through a strong thick sieve.

2011年03月09日 | movie
『英国王のスピーチ』

第一次世界大戦後のイギリス。
ヨーク公アルバート王子(コリン・ファース)は幼い頃から吃音に悩んでいたが、父ジョージ5世(マイケル・ガンボン)が崩御して即位した兄エドワード8世(ガイ・ピアース)が、離婚歴のあるアメリカ人女性シンプソン夫人(イヴ・ベスト)との結婚のためわずか1年で退位してしまう。
迫りくる戦争の影のもと、アルバートが王位を継承。ジョージ6世を名乗ることになり・・・。
2010年度アカデミー賞で最多7部門を受賞した。

観ている間じゅう、気になって気になってしょうがないことがあった。
ぐりの周辺には、吃音症の人はほとんどいない。でも絶対にその話し方には聞き覚えがある。誰だっけ?全然思い出せないなあ・・・超気になるやんけ・・・とかなんとか、ずーっと考えていた。
なぜか。
劇中、ヨーク公は吃音症にひどく悩み、ひたすら孤独に苦しむが、他人にとっては本人が思うほど重大なことじゃないってことが実にうまく描かれてるんだよね。ぶっちゃけ誰も大して気にはしていない。気にしてるのは本人だけで、家族も、気にしてる本人がかわいそうだから気にしてる。
つまり、ぐりにとっても、思い出そうとしても思い出せないくらい、ほんとはどうでもいいことなんだけど、本人は超しんどい。とにかくしんどい。だから孤独なのだ。

観終わってしばらく経って、吃音症の人をひとり思い出した。
学生時代のバイト先の雇い主が、重度の吃音症だったのだ。雇われているのはぐりひとりだったので、ふだんは毎日オフィスにふたりっきりである。外回りもランチもふたりっきり。わりとおしゃべりな人だったが、なにしろめちゃくちゃ吃っているので何を話すのもひどく時間がかかる。ぐりはそれを聞き取るのに精一杯で、口を挟む余裕はほとんどない。映画のヨーク公なんかよりずっと深刻な吃音だったのだ。
仕事は海外とのやり取りも多かったので、彼はちょくちょく英語で電話をかけていたが、不思議なことに英語は驚異的に流暢だった。ネイティブ並みとまではいかないにしても、まったく吃ってはいなかった。映画の中で、ヨーク公が歌えば吃らないというのとなんとなく共通している。
そーいや英語でビジネスレターとか書かされてたなアタシ。今思うとめっちゃヘンな汗出て来そうですけど。
オフィスが例の新宿公園の目の前で、いっつも近所をなんかおもしろそーな人がいっぱいウロウロしてたのをよく覚えている。

昔話はさておきまして。
映画はびっくりするくらい淡々としている。基本は完全にタイムクロノジカルに進行する。たとえばヨーク公の吃音は幼児期の体験に起因しているらしきことが彼自身の口から語られるのだが、回想シーンはいっさい出てこない。
言語療法士のローグ(ジェフリー・ラッシュ)は患者の過去に同情はするが、その悲劇性を映画ではあえて強調するまいとしているようにも思える。
一方で、チャーチル(ティモシー・スポール)やシンプソン夫人、大主教(デレク・ジャコビ)のキャラクターが必要以上にカリカチュアライズされてたりするのがなんだかおかしい。
登場人物はとにかく多いけど、本筋はヨーク公とローグの吃音治療なので、彼らはあくまでもその背景の書き割りに過ぎない。そのわりにはやたら主張が激しいのはなにゆえか。味?

全編ほとんどが室内のシーンなのだが、美術装飾が凝っていてどのシーンも非常に美しい。
暗くじめっとしたライティングもリアルだし、カタストロフが微妙に盛り上がらないところもなんだかイギリスっぽい。
とりあえずものすごく真面目な映画なんだよね。真面目過ぎてちょっと融通が利かないというか。
ところで、冒頭では30歳の設定で最後は43歳のヨーク公のビジュアルがまったく変わらないのはなんでですか。彼だけじゃなくて王妃(ヘレナ・ボナム・カーター)やローグも変わんないんだよね。そこはちょっと不自然だったかな。


顔はぶたないで!私女優なんだから!

2011年03月07日 | movie
『Wの悲劇』
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劇団研究生の静香(薬師丸ひろ子)は舞台『Wの悲劇』の準主役オーディションを受けるが、同期のかおり(高木美保)が役を射止め、彼女は女中役を担当することに。
大阪公演の夜、看板女優の羽鳥翔(三田佳子)の部屋でパトロン(仲谷昇)が急死。たまたま廊下を通りかかった静香は、近日に迫った東京公演の準主役と引換えに、翔のスキャンダルの身代わりになるという取引をする。
夏樹静子の同名小説を劇中劇に用いた異色の映画化作品。1984年公開。

実は角川映画ってあんまり観たことない。
『セーラー服と機関銃』とか『時をかける少女』とか今までまったく観たことないです(原作は読んだ)。
薬師丸ひろ子の主演作で映画館で観たのってたぶん『里見八犬伝』と『野蛮人のように』『ダウンタウン・ヒーローズ』『きらきらひかる』ぐらいじゃないかなあ。

こういう映画を観ると、いくら観てもじゅうぶんに観たといえないのが映画の深さなのかもなあ、って妙に感心してしまう。
だってやっぱり今の映画と全然違うからさ。
なんかね、完全に幻想の世界の話なんだよね。リアリティとかどうでもいいわけよ。そんなもの誰も求めてない。
でもかといって単純にふわふわと甘いだけでもない。ちゃんと説得力もあるししっかりした世界観もある。
けどあくまでも完全に娯楽映画であって、芸術でも文学でもない。
かつテレビドラマとはまたまったく違っていて、映画でしかできないパースペクティブもある。
なんだろう。なんか不思議な感じ。

ひとつはこの主演の薬師丸ひろ子の魅力もあると思う。
たぶん彼女は日本でも指折りの「映画女優」だと思うんだけど。映画でデビューして映画で育って、映画のスクリーンが一番似合ってる。
演技派かというとそんなこともないし、アイドルかといえばそうでもない。歌は上手だけどヘンな踊りを踊ったりはしない。セクシュアルなシーンを演じても必要以上に色気は振りまかない。
なのに、そこにあり得べき現実感はしっかり再現してくれる。無駄がない。
だから観ていてものすごく安心する。安定してる。
はっとするような美人というわけでもないしプロポーションがいいわけでもないのに、厳然たる唯一無二の存在っていうのがすごい。

とはいえ、この映画の中の彼女は「普通の女の子」(世良公則の台詞)という設定で、ちゃんと間違いなくそう見える。
冒頭で処女を喪う静香は地方出身の平凡な少女で、とくに利口でもなくどちらかといえばおバカさんだし、とりたてて個性や才能があるわけでもない。だがふとしたチャンスを得て野心に燃え始める。いったん火のついた魂は若さゆえに激しく燃え上がる。
そんな劇的な変化が、決してくどくなく、ただ静かに穏やかに描かれている。シンプルな映画だ。
それでいて観客の心を画面にとらえて離さない。
ほんとうに不思議だ。

このころの映画を今またつくっても、おそらく誰も観ようとはしないだろう。
ただ見返すだけでも、あの時代だからこそできた映画の愛おしさは堪能することができる。
いい映画かどうかなんか問題じゃない。薬師丸ひろ子を鑑賞できるだけで楽しい。
そういう映画もあったっていいし、楽しければそれでじゅうぶんなのかもしれない。

Chaos reigns.

2011年03月02日 | movie
『アンチクライスト』

愛し合っている最中に事故で幼い息子を喪った夫婦(シャルロット・ゲンズブール/ウィレム・デフォー)。
セラピストの夫は精神的なショックから立ち直れない妻を連れて山荘に出かけるが、大自然に囲まれ、外界から完全に遮断されたふたりきりの家で、妻の真の妄執が徐々に暴かれ・・・。
シャルロット・ゲンズブールは今作で2009年カンヌ国際映画祭で主演女優賞を獲得している。

あ~~~~イタかったあ。
イタいとは聞いてましたけどこれほどとわ~~~~ぬかったわぁ。
めっちゃイタかったです。この悪趣味なわたくしをして直視できないシーンもちょいちょいアリ。これから鑑賞される方はご注意あれ。
けどそういうイタいシーンも含め、映像はとにかく綺麗。つーか全体になんかもっそい観たことあるな?デジャヴュ?な画面構成なんだよね。
と思ったら、最後に「タルコフスキーに捧ぐ」みたいなクレジットが出て来てー。あーなるほどと。
確かに『鏡』とかそっくりだよね。映像も、ロケーションも。
イッちゃってる奥さんに振り回されるダンナとゆー設定は『惑星ソラリス』か。ある意味萌えるシチュエーションのテンプレみたいなもんなんかしら?

流血シーンは置いとくとしても、登場人物がふたりしかいなくて(アンド亡くなったひとり息子の回想。乳飲み子)、会話もめちゃ限定されてるから、それだけでもしんどい映画ではあるんだよね。
観てる方にかなり忍耐を求められるとゆーか。
でもそれだけにハンパなく感情移入できる。この女はちゃんと治るんやろか?とか、このダンナのセラピーにはホントに効果あんのやろか?とか、観ててすごい疑心暗鬼になるわけ。
で、実際、この夫婦自身もすごい疑心暗鬼なんだよね。すっごい不安なんだけど、お互いしか信じられなくて、心底頼りきっていて、なのにだんだんお互いのことも信じられなくなって、それでも離れられなくて、結局どうしたいのかもわかんなくなっていって、漠然とした恐怖感に支配されていく。自分でも何を怖がっているのかもわからないのに、ただただ怖い。
こーゆーのマジ怖いっす。どー考えてもふたりとも自滅まっしぐらコースなのに、どーやってコースアウトしていいのかもわかってないとゆー。こーわーすーぎーるー。

今日鑑賞した劇場は平日昼間にも関わらずほぼ満席だったんだけど、これってやっぱR指定だからかなあ(爆)。
確かにベッドシーンは多かったさ。いや、ベッドでやってるシーンは少なかったな(どうでもいい)。しかしさっぱりエロくはなかったっす。シャルロット・ゲンズブールががりがりに痩せこけてる(役のせいでもあろー)のもあるんだけど、雰囲気としてエロティックではまったくないんだよね。
ただそのものズバリがばっちり写ってるシーンが多過ぎて、やたらに修正が入ってるのが超邪魔くさかったわぁ。めっちゃ興醒めでしたん。アレもういいでしょー?いらんって絶対。つうかあそこまで体当たりで演じてる出演者に対して失礼でしょ。
興醒めといえば、今日観た劇場、満席だったせいもあるんだけど画面が観づらくて観づらくてすっげえ疲れた。上映前に3回座席を移動してみたけど、全部ハズレ(爆)。しかもぐりの周りの席の人もみんな超観づらそうだった。どんだけ。