落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

白い正義

2017年02月12日 | movie
『スノーデン』

2013年、アメリカ国家安全保障局(NSA)が世界中の一般市民を含めた通話記録やメール、SNSなどのインターネット記録を不法に監視・情報収集していたことが内部告発によって暴露された。
告発者はエドワード・スノーデン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)、弱冠29歳のNSA局員だったことが世界中を驚かせたが・・・。

正義ってなんだろう。
何がゆるせて何がゆるせないのか、人によってそのボーダーは違う。
じゃあそのボーダーは、人が生まれて人格を形成されていく過程の、どのあたりで何によって築かれるのだろうか。
それは倫理観や価値観と何が違うのだろうか。
スノーデンは沿岸警備隊隊員の父と裁判所職員の母をもつオタク少年だった。高校を中退し米軍に志願しイラクに派兵される訓練まで受けた。とくに確たるポリシーがあったわけではない、「とりあえずアメリカ万歳」的な愛国者の若者のひとりだったに過ぎない。
だが訓練中の大怪我と、彼の卓越したコンピューター技能が運命を変えた。そこまでは、彼は何が正義かなんてろくに考えたことなんかなかったはずだと思う。

NSA局員としてまたCIA職員として、インターネットを通じてあらゆる情報収集プログラムを使った安全保障管理を手がける“スパイ”になったスノーデンだが、その動機すら「機密情報を扱えるなんてクールだから」などという他愛のないものだった。
仕事なんだからだいたいその程度の認識で生きてる方が人間はラクだ。政府が正義だという、会社が正しいという、他人が決めたルールを受けいれていわれた通りやって自分の頭でめんどうなことは考えない。そうすればどこかでもっと偉い誰かが責任をとってくれる。
世の中のおおかたの人間はそうしてなんとかどうにかこうにか生きている。
でもひとり残らず全員がもしそうなったら。どうなるかはもう歴史が証明している。アイヒマンが無駄に大量生産されるだけである。そしてこの地上から自由と民主主義は絶滅するのだ。

この映画の怖いところは、スノーデンが政府の仕事に幻滅して退職しても、再就職先からまたNSAやらCIAに派遣させて「回転扉」式にがっちりつかまえて離さないというアメリカ政府のやり方である。まあそうだよね。辞めたい人間を辞めさせないのは違法なんだから、辞めさせないわけにはいかない。けど国家安全保障上は辞めさせられないから、いったん辞めさせておいて民間からの派遣という形で改めて政府機関内に引っ張り込む。相手はたかが20代の男の子なんだからそんな風にコロコロ転がすのはわけもない。
逆にいえば、そこまでやらなきゃいけないのが諜報戦なんだけど、やってる本人たちに諜報戦=戦争=大量殺人をやってる認識がまったくゼロという場面が何度か出てくるのがいちいち無茶苦茶何気ないんだよね。
だってしょうがないでしょ、政府がこうだっつんだから、仕事なんだから。証拠?しらない。わかならい。関係ない。以上終わり。怖すぎる。
けどそれが戦争なのだ。狂ってる。

自分のやってる仕事の不正義がじわじわとゆるせなくなっていくスノーデンだが、映画では、自分や恋人も監視対象になっていることに気づいたことが、内部告発の動機として描かれている。
あまりにもわかりやす過ぎてちょっと拍子抜けしてしまったし、これがどこまでほんとうなのかはちょっとわからないけど、人間て意外にそれくらい傲慢なものなのかもしれないとふと思う。
自分がつくったプログラムが遠隔爆撃作戦に使われていても、撃たれているのが自分と無関係な遠くの国の人である限り「しょうがない」でかたづけられてしまう。自分が構えた諸刃の刃がほんとうはどこに向かっているのか気づくのは、言葉でいうほど簡単ではないのかもしれない。

ジョセフ・ゴードン=レヴィットのなりきりぶりにも驚いたけど、最後の最後にご本人が登場したのにはホントに驚きました。
この事件そのものについてはかなり忘れてる部分があって、台詞が多いのに字幕が無茶苦茶読みづらくてまったく意味不明な部分も多かったので、こんどちゃんと本でも読もうと思います。



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