落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

みんなに愛されてるサイコーにイケてる私

2023年08月15日 | movie

『バービー』

バービーランドで完璧なガールズライフを謳歌するバービー(マーゴット・ロビー)。ある日、自分が“劣化”していることに気づき、変わり者のバービー(ケイト・マッキノン)の助言で、自分を使って遊んでいた持ち主に会うために人間の世界への旅に出かける。そこはバービーが知っていたバービーランドとは何もかもがまるであべこべで…。

子どものころ、いつだったかバービーが大ブームで、周りの女の子は誰もが1体や2体は持っているのが当たり前だった気がする。私は大して気に入ってはいなかったのだが(もともと人形が好きではない)、その後、子どもたちが遊ばなくなったバービーたちを、人形が好きな母が大事に保管していて、いまは甥っ子と姪っ子がそれを使っておままごとをしている。
そう、いまどきの男児には、女児と人形遊びをするというスキルがすごく大事なのだ。

映画は、乳幼児を模した抱き人形で遊んでいた幼女たちが、バービーの出現に触発されて、手に手に抱き人形を振り上げ、地面に叩きつけて破壊するという、『2001年宇宙の旅』のオマージュで始まる。
個人的にはこのシーンの再現度というか完成度だけでお腹いっぱい爆笑してしまったのだが、観客の中には『2001年〜』を知らなくてこのシーンの暴力性にドン引きしてしまった人もいるという。それは気の毒だなと思うと同時に、若い世代の中にはバービー人形で遊んだ経験のない人もいる昨今、この映画のターゲットは意外に限られるのでは?という気もする。

バービーランドに住むバービーたちは皆、大統領やら裁判官やらノーベル賞受賞者やらジャーナリストやら、いわゆる「夢のある社会的地位」を設定された女の子ばかりである。主人公は「Typical」版らしくとくに肩書きはないものの、何もかもが女性優位で社会を動かすのはすべて女性(バービー)で、ボーイフレンドのケン(ライアン・ゴズリング)はあくまでも「ボーイフレンドという名のアクセサリー」扱いという世界観に満足し、幸せを感じている。
だから、人間の世界では家父長制と男尊女卑が横行していて、どこに行っても男性ばかりが威張っていることに混乱してしまう。

という風に説明するとまるでフェミニズムの話みたいだけど、実はこの映画のいちばん重要なところはそこではない。
そもそもバービーは「女の子は子どもを産んでお母さんになるだけでなく、何にでも好きなものになれる」という夢を少女たちに与える革新的なおもちゃとして登場したが、結果的には過剰なルッキズムや拝金主義を助長してしまったことを、主人公バービーの持ち主の少女(アリアナ・グリーンブラット)に批判されるシーンがある。
要は、バービーはアメリカの「みんなに愛されてるサイコーにイケてる私」至上主義の象徴というわけです。

それを、ポップな音楽と衣装とファンタジー・コメディというパッケージで裏返しにして見せている。
性別や容貌や社会的ステータスや人種や言語や宗教や文化や性自認や性的指向や、そういうものの枠に自分をはめこんで生きていくのは楽しいですか。ラクですか。むしろちょっとしんどくないですか。うんざりしてませんか。めんどくさくありませんか。じゃあやめちゃいませんか。あなたはありのままのあなたで、そのままのあなたでよくないですか。

言葉にしてしまえばなんだか大したことじゃないんだけど、それを説教くさく言葉で語るのではなく、あくまで純粋な笑い話として表現してるところが、さすがハリウッドだよなと思いました。
この映画、バービーの発売元であるマテル社も製作に入っている。バービーのメーカーが、製品のブランドを否定するような映画を堂々とつくっちゃうのも、やっぱアメリカは違うぜ?なことない?

この映画、SNSをみてると刺さる人と刺さんない人の両極端に分かれるみたいですね。まあむべなるかなというところです。
実はあんまり興味なかったんだけど、映画評論家の町山智浩さんのXの投稿をみて、興味を持ちました(観て意味がわからなかった方は彼のアカウントを参照してみてください)。観たいといって誘ってくれた友だちにも感謝です。
面白かったです。

しかし上映中、劇場で誰も笑ってなかったのがちょっと不気味でした。なんでみんな笑わないんだろう…。



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