『小川町セレナーデ』
ゲイのショーダンサー・エンジェル(安田顕)の子どもを身籠った真奈美(須藤理彩)は、性転換して女性として生きようとするエンジェルと離れ、ひとりで娘を育てていこうと決意しスナックを開店。固定客もついて順調に見えた店だったが、娘・小夜子(藤本泉)が成人するころになって借金がかさみ閉店を余儀なくされる。隣町でオカマバーがはやっていることを知った小夜子は、スナックをニセのオカマバーに改装することを提案するのだが・・・。
今作が劇場用長編映画デビューとなる原桂之介監督作品。
うん。いい映画でした。
やさしくて、清々しくて、あったかい。
トランスジェンダーの父と娘の邂逅物語といえば『メゾン・ド・ヒミコ』だけど、もうあれも10年近く前の映画なんだね。あー光陰矢の如し。
『メゾン~』もファンタジーだったけど、『小川町~』もファンタジーです。魔法も奇跡もないけど、小さな町の小さなスナックを舞台にした、ささやかでほのぼのした夢物語だ。子どものころに絵本で読んだような、「それからみんなで楽しく幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」というフレーズで終わるお話。設定は似ていても、その点では『メゾン~』とは方向性がまったく逆である。
だからわかりやすいリアリティとか生々しさなんかはいっさいない。気持ちいいくらいそういう要素がごっそり省略されてるから、おそらくは意図して排除したのだろうと思う。
たとえばエンジェルが女性になったあと、どんな人生を送り実際にどういう生活をしているかは描かれていない。画面には登場しているのに、仕事は何をしているのか、どんなコミュニティに生きているのかはまるっきり説明がないのだ。まあだいたい映画が始まってから話の本筋にはいるまでに20年以上の時間経過があるんだから、ディテール語ってるヒマがないんだよね。物理的に。
けどそれで話が薄くなるわけではない。貧しくても常に明るく、水商売ながらまるで朝ドラのように清廉で前向きなヒロインも、同じくシングルマザーのホステス・りょう子(小林きな子)も、店の常連客たちも台詞の上では誰も大した話はしないのだが、雰囲気はあるが決して繁盛しているとはいえないスナックのほのかな灯りの下で見せる笑顔の向こうに、なぜかままならない人生の悲哀をしっかりと感じさせる。
おそらくこの映画の主人公はどのキャラクターでもなく、このスナックなんだと思う(爆)。どのシーンよりもスナックのシーンに強く説得力を感じるから。プロダクションデザインの勝利ですな。ブラボー。
ボロいけどレトロで情緒たっぷりなスナック小夜子はさておき(笑)、どのキャラクターもものすごくかわいく描かれている。全員なんか似てるんだよね。直情径行的で損得勘定でものを考えることができないのだが、真面目で正直で純粋で、愛すべき人ばかり。違いは年齢や性別や生活背景の設定ぐらい。
ぐり的にはりょう子がすごく好きでした。ぷくぷくしたまるい体型がキュートでお料理上手、息子が語る「ママ(=真奈美)に雇ってもらえて、お風呂のある家に引っ越せて、いつもとってもママに感謝してる」なんて素直さが愛おしい。彼女もハッピーエンドだったけど、あの橋の上のシーンはとにかく感動したなあ。感動して、笑えて、なかなかの名シーンになってるので、これからご覧になる方にはそこに注目していただきたい。
けどいちばんの名シーンはやっぱラーメン屋だね。しびれたわー。
公開そのものは10月からで、今回は原監督が今作で新藤兼人賞2014銀賞を受賞した記念上映だった。
個人的な話で恐縮だが、原くんが助監督だった数年前、何度か仕事でお世話になったことがある。まだ20代だったけど、若さに似合わず冷静沈着で頭の回転が素晴らしく速くそしてタフで、とても頼りになる助監督さんだった。原くんがいてくれてほんとうによかったと、現場で何度救われたことか。行定勳や三池崇史やSABUなど、錚々たる売れっ子監督に引っ張りだこだったのも頷ける。
厳しい現場で長い時間をともに過ごしたこともあったし、いろいろな話もした。苦労してない映画人なんかいないけど、原くんにもさまざまな苦労があったはずだと思う。その原くんがとうとう映画監督としてデビューし、こんなに素敵な作品を撮って、そしてちゃんと評価されたことが嬉しくて、映画館の座席でスクリーンを観ながら、胸がいっぱいになってしまった。
原くん、おめでとう。よかったね。次回作も期待してます。頑張れ。
ゲイのショーダンサー・エンジェル(安田顕)の子どもを身籠った真奈美(須藤理彩)は、性転換して女性として生きようとするエンジェルと離れ、ひとりで娘を育てていこうと決意しスナックを開店。固定客もついて順調に見えた店だったが、娘・小夜子(藤本泉)が成人するころになって借金がかさみ閉店を余儀なくされる。隣町でオカマバーがはやっていることを知った小夜子は、スナックをニセのオカマバーに改装することを提案するのだが・・・。
今作が劇場用長編映画デビューとなる原桂之介監督作品。
うん。いい映画でした。
やさしくて、清々しくて、あったかい。
トランスジェンダーの父と娘の邂逅物語といえば『メゾン・ド・ヒミコ』だけど、もうあれも10年近く前の映画なんだね。あー光陰矢の如し。
『メゾン~』もファンタジーだったけど、『小川町~』もファンタジーです。魔法も奇跡もないけど、小さな町の小さなスナックを舞台にした、ささやかでほのぼのした夢物語だ。子どものころに絵本で読んだような、「それからみんなで楽しく幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」というフレーズで終わるお話。設定は似ていても、その点では『メゾン~』とは方向性がまったく逆である。
だからわかりやすいリアリティとか生々しさなんかはいっさいない。気持ちいいくらいそういう要素がごっそり省略されてるから、おそらくは意図して排除したのだろうと思う。
たとえばエンジェルが女性になったあと、どんな人生を送り実際にどういう生活をしているかは描かれていない。画面には登場しているのに、仕事は何をしているのか、どんなコミュニティに生きているのかはまるっきり説明がないのだ。まあだいたい映画が始まってから話の本筋にはいるまでに20年以上の時間経過があるんだから、ディテール語ってるヒマがないんだよね。物理的に。
けどそれで話が薄くなるわけではない。貧しくても常に明るく、水商売ながらまるで朝ドラのように清廉で前向きなヒロインも、同じくシングルマザーのホステス・りょう子(小林きな子)も、店の常連客たちも台詞の上では誰も大した話はしないのだが、雰囲気はあるが決して繁盛しているとはいえないスナックのほのかな灯りの下で見せる笑顔の向こうに、なぜかままならない人生の悲哀をしっかりと感じさせる。
おそらくこの映画の主人公はどのキャラクターでもなく、このスナックなんだと思う(爆)。どのシーンよりもスナックのシーンに強く説得力を感じるから。プロダクションデザインの勝利ですな。ブラボー。
ボロいけどレトロで情緒たっぷりなスナック小夜子はさておき(笑)、どのキャラクターもものすごくかわいく描かれている。全員なんか似てるんだよね。直情径行的で損得勘定でものを考えることができないのだが、真面目で正直で純粋で、愛すべき人ばかり。違いは年齢や性別や生活背景の設定ぐらい。
ぐり的にはりょう子がすごく好きでした。ぷくぷくしたまるい体型がキュートでお料理上手、息子が語る「ママ(=真奈美)に雇ってもらえて、お風呂のある家に引っ越せて、いつもとってもママに感謝してる」なんて素直さが愛おしい。彼女もハッピーエンドだったけど、あの橋の上のシーンはとにかく感動したなあ。感動して、笑えて、なかなかの名シーンになってるので、これからご覧になる方にはそこに注目していただきたい。
けどいちばんの名シーンはやっぱラーメン屋だね。しびれたわー。
公開そのものは10月からで、今回は原監督が今作で新藤兼人賞2014銀賞を受賞した記念上映だった。
個人的な話で恐縮だが、原くんが助監督だった数年前、何度か仕事でお世話になったことがある。まだ20代だったけど、若さに似合わず冷静沈着で頭の回転が素晴らしく速くそしてタフで、とても頼りになる助監督さんだった。原くんがいてくれてほんとうによかったと、現場で何度救われたことか。行定勳や三池崇史やSABUなど、錚々たる売れっ子監督に引っ張りだこだったのも頷ける。
厳しい現場で長い時間をともに過ごしたこともあったし、いろいろな話もした。苦労してない映画人なんかいないけど、原くんにもさまざまな苦労があったはずだと思う。その原くんがとうとう映画監督としてデビューし、こんなに素敵な作品を撮って、そしてちゃんと評価されたことが嬉しくて、映画館の座席でスクリーンを観ながら、胸がいっぱいになってしまった。
原くん、おめでとう。よかったね。次回作も期待してます。頑張れ。