落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

樽の中からさようなら

2013年08月13日 | movie
『天使の分け前』
<iframe src="http://rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?t=htsmknm-22&o=9&p=8&l=as1&asins=B00E3O9KSM&ref=qf_sp_asin_til&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>

暴力事件で有罪判決を受け、社会奉仕活動を課せられたロビー(ポール・ブラニガン)。
じきに生まれてくる子のために今度こそ更正しようと努める彼だったが、周囲の環境がなかなかそれを許さない。あるとき、民生委員のハリー(ジョン・ヘンショウ)にウィスキー蒸留所の見学に連れて行ってもらったのを機にテイスティングの才能に目覚め・・・。
イギリスの国民的映画監督ケン・ローチによるハートフル・コメディー。

教育の機会もなく生育環境にも恵まれず、大人になっても仕事もない不況の街で苦しむ若者たちの物語、というとどうしても重くて暗い話を想像してしまうのですが。
この映画は違います。あくまでファンタジー。あくまでフィクション。
「天使の分け前=the angels' share」とは樽から蒸発して失われる毎年2%のウィスキーのことをさす言葉なんだけど、そもそも犯罪を犯した若者が、人生リセットするために盗みをするなんて設定自体が既に突っ込みどころ満載です。
でもたぶん、これはやたらに加熱するヴィンテージ・ウィスキー信仰への皮肉もこめられてるんだろうね。未来を担う若者には仕事もなくじゅうぶんな行政支援もないのに、たかが酒に日本円でウン千万が飛び交うなんて、やっぱなんかちょっとおかしい。現に類いまれな才能を得たロビーは、ウィスキーの質は完全に理解できても、自分ではそれをおいしいとも思わず、価値も感じていない。彼にとってそれは単なるカネでしかない。カネさえありゃなんでも解決するってもんでもないんですけど。決して。

逆説的には、社会の底辺から逃れてやりなおすことの難しさ、その非現実性を表現するには非常にうまいアプローチでもあると思う。
人は彼らに、まじめに働けばいいことがある、昔の仲間とは関わるな、自立すれば必ずやりなおせるなどと簡単にいうけれど、それは決して事実ではない。どんなにまじめに働いていても不測の事態は起こるし、故郷に留まっている限りは地域内の確執からは逃れようがない。自立なんか誰にだってできることじゃない。人間は誰もがどこかで支えあっている。家庭にも頼れず、ろくな友人もいない、病気や事故などのアクシデントのときに気兼ねなく助けてくれる受け皿もない、孤独な若い人にとって、それはまじめに努力さえすればなんとかなるなどという生易しいものではない。
いやなるよ、オレはどうにかしてきたよ、という人はたくさんいるだろう。でもそれは、どこかで支えてくれた人がいたのを気づかなかったか、いまはその存在を忘れているだけなのだ。どうにか自立できた人は、それだけの環境に恵まれた幸運なだけの人だ。
ひとりでなんだってやって成功できるほど、人間は完璧じゃない。そういう思い上がりを傲慢とか独りよがりというのではないだろうか。

ロビーは最後には幸運をつかむけれど、彼と、彼の新しい家族の幸せを心から願う。
子どもの誕生で自らの罪の重さを知ったロビー。そのときの気持ちを、一生忘れないでいてもらいたいと思う。
それ以上に、社会から見捨てられ、置き去りにされている多くの人に、もっとたくさんの人の目が向けられることを願う。

それにしてもウィスキーにン千万ってやっぱヘンだよね・・・ぐりはウィスキーほとんど飲まないので、マジ意味不明でした・・・ごめん。

いいな。いいな。いいな。

2013年08月13日 | movie
『舟を編む』
<iframe src="http://rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?t=htsmknm-22&o=9&p=8&l=as1&asins=B00E8F42HK&ref=qf_sp_asin_til&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>

玄武書房で「大渡海」という辞書をつくることになり、新しく編集部員に抜擢された馬締(松田龍平)。
大学院で言語学を学んだものの、他人とのコミュニケーションが苦手で、無口で無表情で変わり者の彼だったが、10年以上の歳月をかけて辞書をつくりあげていく仕事に使命を見いだし、そんな彼に触発されるように営業の西岡(オダギリジョー)も辞書づくりにのめりこんでいく。
2012年本屋大賞に選ばれた三浦しをんの同名小説の映画化。

すばらしい。本好きにとって究極の癒し映画。
小さいころ、いったん本を読み始めたらそれこそ寝食も何もかも忘れて没頭してしまうくらいの活字中毒だったぐり。ふだんは愛想のない無口な子どもなのに、本のこととなるといくらでも話せる一方で、テレビも見ず、ゲームもなかったせいで周りの子どもたちとは共通の話題がなくて、どこにいっても変わり者扱いだったぐり。大きくなったら出版社で働いて、ゆくゆくは物書きになって、言葉を道具に仕事をするのが夢だったぐり。
主人公の馬締くんは見るからにオタクでぶっちゃけちょっとキモイけど、正直、ぐりから見ると完全に同類だし、何年もかけて言葉を集めて磨いていくという天職にめぐりあった彼が、鉄仮面なのになぜか心底幸せそうで、ものすごく羨ましかった。観てる間中、心の中でずっと「いいなあ」「いいなあ」連呼しまくってました。
仕事だけじゃない。彼の住んでる下宿もいい。すっごいレトロな、昭和っぽい日本家屋で、本がやたらめったらいっぱいあって、お月様が見える物干し台があって、猫がいる下宿。大家さん(渡辺美佐子)に孫のように可愛がられてるだけじゃなく、綺麗なリアル孫娘(宮崎あおい)までいる。しかも彼女の職業が板前ときた。完璧である。

しかし何が幸せってやっぱり職場の人全員が、辞書をつくるという仕事を愛し、静かに情熱をあたためあい、長い年月をかけて丁寧にしっかりとプロセスを積み上げていくことだけに必死に努力する、その団結がいちばん幸せにもみえる。
もちろん辞書づくりにも障害はある。時間ばっかりかかって儲からないなんて批判にもさらされる。それでも、いっしょに困難を乗り越えようという仲間がいて、互いに信頼しあい支えあえるというのはやはり幸せだと思う。
そういう幸せな物語を、これだけの豪華キャストと一流のスタッフで、美術にも音響設計にもどのディテールにもまったくの妥協もなく、ワンカットワンカット隅から隅まで緻密に繊細に、まさしくどこまでも日本映画らしく仕上げてある。ここまでくれば職人芸、最高級の伝統工芸品のような映画でもある。
そりゃ観てて幸せにもなります。公開時に観れなかったけど、今回やっと観れてほんとうによかった。

キャストは本当にどの役もハマり役で、どの人がとくに際立ってもいない。そんなところにまで完全な調和がとれてる映画ってなかなかない。
強いて惜しいところを挙げれば、ヒロインは宮崎あおいじゃなくてもよかった気がする。設定では美人だということになってたけど、彼女はいわゆる美人ではないし、一番のチャームポイントである笑顔がないのが非常にもったいなかった。それなら笑顔でなくてもきりっと美人な、黒木メイサとか香椎由宇なんかの方がしっくりくる。
映画を観ていてふと気づいたのだが、ぐりの記憶が正しければ、主役の松田龍平と宮崎あおいは確か2000年のカンヌ国際映画祭に別々の作品で参加していたはずだと思う。龍平くんはデビュー作の『御法度』で、あおいちゃんは国際批評家連名賞を受賞した『EUREKA』に出ていた。あのころはまだ十代で存在感と透明感だけが取り柄で、芝居も技術もへったくれもなかったふたりがもうカップル役で、ここまで完成度の高い作品で共演してると思うとなんだか感慨深いを通り越してムチャクチャなキモチになってくる。

観ていてとにかく幸せで、ずっと観ていたくて、終わってほしくないなんて思う映画はなかなかない。
またどこかで、馬締くんたちに会いたい。できたら、辞書編集部にまぜてほしい。ああいうちまちました地道な作業、大好きだから。
次回の改訂版がでるときはスタッフに応募しちゃいたいくらい。
いいな。いいな。いいな。

<iframe src="http://rcm-fe.amazon-adsystem.com/e/cm?t=htsmknm-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4334927769&ref=qf_sp_asin_til&fc1=000000&IS2=1&lt1=_blank&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=000000&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe>