1.当時の情勢
ここで言う「湾岸戦争」とは1991年に行われたイラク対多国籍軍による戦闘を指す。
まず、概略を記してみよう。
1990年8月2日 イラクが隣国クウェートに侵攻。同日中に同国を占拠。
1991年1月17日 国際連合の決議により、多国籍軍がイラクに攻撃開始。
同年 3月3日 イラクが敗北を認め、停戦協定締結。戦争終了。
戦闘そのものは1ヶ月半、発端からでも7ヶ月。
人類有史から見れば、小規模の戦闘と片づけてしまっても良い。
だがこの戦争は、世界史上から見ても、日本史、あるいはミニマムな視点で見れば短歌史から見ても、極めて重要なターニングポイントの上に置かれていた。
戦争そのものが、ではなく、後になって「ここがポイントだった」と気づいたときに、偶然(あるいは必然か)この戦争が起こっていた、と言うべきだろう。
流れを分かりやすくするため、年表風に記してみる。
1989年
ベルリンの壁崩壊。天安門事件。
昭和天皇崩御。平成始まる。
『夢見る頃を過ぎても』藤原龍一郎、『びあんか』水原紫苑
1990年
韓国・北朝鮮分裂後初の両国首相会談。ドイツ再統一。
第二次海部内閣発足。バブル景気崩壊。
「現代短歌のニューウェーブ」荻原裕幸(朝日新聞)
『シンジケート』穂村弘、『甘藍派宣言』荻原裕幸
1991年
韓国・北朝鮮国連に同時加盟。ソビエト連邦消滅、
海上自衛隊ペルシャ湾掃海派遣部隊が出発(自衛隊初の海外派遣)。宮沢内閣発足
『マイ・ロマンサー』加藤治郎、『最後から二番目のキッス』林あまり
1992年
ボスニア紛争。クリントン米大統領に。
佐川急便事件。天皇初めての中国訪問。
『あるまじろん』荻原裕幸、『ドライ ドライ アイス』穂村弘
『短歌ヴァーサス 十一号』「現代短歌クロニクル」(佐藤りえ作成)から抜粋、多少加筆した。
バブル景気崩壊の時期については諸説あるが、クロニクルに書かれた時期が一番妥当だろうと筆者も判断し、そのままとした。
世界史的に見れば、冷戦の終結、それによる新たな紛争の多発。
その紛争の代表的、サンプル的な一つとして、湾岸戦争は勃発した。
日本史的には、元号の変更、第二次大戦後から続いた好景気の終結。
それまでの歪みが一気に噴出する、その手始めとして、日本はこの戦争に関わった。
そして、有史の中では取るに足らないことではあるが。
短歌の歴史の中でも、この一時期は、重要なターニングポイントとして存在した。そしてその表現のあり方について、湾岸戦争は、深い問いを投げかけたのである。
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