(前回からの続き)
前述のように、「Brexit」(英国のEU離脱)にともなう英国とEUとの新通商協定の合意において英国は、移民・難民の受け入れに関するEU基準を排除したうえで事実上の「関税ゼロ」(自由貿易協定:FTA)維持等を勝ち取りました。そして英国は、これにより、「連合王国」解体の危機(スコットランド等の分離独立)から脱したものと思われます(?)。他方、EUは、自身の大切な理念である「ヒトの移動の自由」を拒否してEUを離脱した国に対して「モノの移動の自由」(FTA)を提供することにしたわけです。これ「いいとこ取り」を認める決定であり、となると・・・英国に続いてEUを離れようとする国が続出してしまうかも・・・
・・・っても、現実的には離脱の連鎖は起こりにくいだろう、という読みがEUにはあったのでしょう。実際、ユーロ圏に限っても、真にEUから独立できる実力がある国々は、こちらの記事等で指摘した「フランス以上」の国々つまり独蘭仏などの国々に限定されるし、本気の離脱は英国以上にたいへんなはず。というのも、それには通貨ユーロから独自通貨への転換をともなうからです。これによる金融システム等の大混乱を想像すれば、EU内の強国はそのストレスをあえてかけてまでユーロ圏外に出ていくという選択はできないでしょう(「フランス未満(以下)」の国々はなおさらです)。と考えれば、EUとしては大きなダメージはない―――英国に上記のように譲歩しても、現時点の体制が大きく揺らぐことはないし、貿易等についても、従前のとおり、メイド・イン・EUに大きく依存する英国に対して引き続き優位を保つ―――から、ここは英国に情けをかけてあげるか、関税復活が原因となって国家分裂に至ってしまったらかわいそうだし(?)、となったのではないか・・・?
ということで、英国は一見、対EU交渉で勝利を得た・・・ように思えても、だからといって、上述から、EUに対して、より強い国になるわけではなさそう。せいぜいこれまでと同様でしょうし、むしろ対EUで、そしてその他の多くの国々に対して、今後も貿易&経常赤字をいっそう積み重ね続けて弱体化していく方向でしょう。その結果として、ポンドのさらなる価値下落つまりインフレの悪化は避けようがないように思えます。
他方のEUは、まあ貿易では英国に対して大幅な出超であり、EU全体としても経常収支はプラス(2019年は1688億ユーロの黒字)を保っているので、通貨ユーロは、本来なら、ポンドはもちろん、米ドル等に対しても強めに推移していきそう・・・に思えます。しかし、上述したユーロ圏特有の事情―――通貨金融統合・財政不統合とか欧州中央銀行の金融政策におけるキャピタル・キーのしばり―――から、せっかくの経常黒字にもかかわらず、ユーロもポンド等と同じく過剰に増発され続けるしかありません(?)。