(前回からの続き)
前述したように、本邦企業にとって、外国のインフラ事業は、円換算した債権額の回収が困難化するリスクが高いため、よほどの優良プロジェクト(って、極めて少ないと思われる)か、円借款でファイナンスされる事業、つまり少なくともこれに参加する企業は支払いを受けられなくなる危険が少ない案件等に限定されるべきかと思われます。
このあたり後者(円借款事業)で個人的に思い出されるのが、ジャカルタ地下鉄です。ネット情報によればこのプロジェクト、正式にはインドネシアの首都ジャカルタの大量高速鉄道(MRT)のことで、同市の慢性的な交通渋滞を緩和することなどを目的とするもの。これ、設計、工事、車両、運行システムなどなど、ほぼすべてを日本企業が手掛けるという、オールジャパン体制のもとで整備されています。その第1期分は2019年4月から開業しており、評判等は上々のもよう(?)。現在は第2期工事が進んでいて、2024年に完成見込みとのことです。
で、このプロジェクトの必要資金のほとんどは円借款になっているわけです。わが国からインドネシアには上記第1期分として総額1250億円あまり、第2期分として700億円ほど、合計約2000億円が供与されました。これらのおカネは、インドネシア当局を通じ、MRT事業に参画する本邦企業に還流するから、まあこれら各社はいいとして(?)、問題は円貨を貸した日本政府(つまりわたしたち納税者)のほうです。はたしてインドネシアは、MRTにつぎ込まれたわたしたちの血税2000億円を返すことができるのか。ちなみに同国の通貨ルピアのレートですが、たとえば、いまから4年前の1月には1ルピア0.0085円だったのが今月は同0.0074円と、円高ルピア安が進んでいます。ということは、インドネシアにすれば、円借款の円建て債務の返済負担感は、それだけ増していることになります・・・
上記は、インドネシアばかりか、ほぼすべての円借款受け入れ国にとっても同様でしょう。つまり、これら諸国すなわち新興国の通貨は、中長期的に見れば、円に対してほぼ確実に減価していくだろうから、各国はその円債務の返済に相当苦しむことになりそうだということです。たしかに円借款の貸付金利は、政府のローンということで、民間金融機関のそれよりも低いし、その他の条件もユルくはなっています。けれど、かの国々からみた(自国通貨ベースからみた)実質の返済負担は、上記のように、まず例外なく、時間の経過に比例して大きくなっていくため、それらのなかから支払いに窮してしまう国とかプロジェクトが出てくるのは避けがたいように思えます。そうなったときに損をするのは、当然、日本国民ということで・・・
というように、わが国の海外インフラ事業は、民間が自己責任で行うものも、円借款のような公的枠組で行うものも、いずれもなかなか難しそうです・・・